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 オロチ討伐任務当日――。

 遂に迎えた出発の日の朝、特殊隊にはダッジ隊長、クレーグ副隊長、ヴァン、リリィ、ジルフ、ピノ、エレナ、ジェニー、ニクス、そしてレベッカと俺……。皆が集まっていた。

「――全員で生きて帰るぞ」

 ダッジ隊長の命令はこの一言だけだった。しかしここにいる全員が同じ気持ちだった。

「それじゃあ行こうか皆」
「「はい!」」

 俺達は他の隊からの情報通り、オロチが潜伏しているペトラ遺跡へと向かった。

 オロチを討伐すると正式に決まってから、この限られた時間の中でクレーグとニクスがペトラ遺跡を今一度細かく調査してくれていた。そしてその調査により、オロチのいるペトラ遺跡の最深部へと繋がる道を3つ見つけたとの事。

 全員で同じルートで向かおうと言う意見もあったが、万が一にも全滅は避けようと、力は分散されるが3つの隊を編成して進もうという事になった。確かに1つ1つの力は分散されてしまうが、逆にあらゆる事を想定して臨機応変に動く事も出来る。

 1番隊はダッジ隊長、ヴァン、エレナ、ジェニーの4人。
 2番隊はクレーグ副隊長、リリィ、ジルフ、ピノの4人。
 そして3番隊が俺、レベッカ、ニクスの3人。

 俺達は順調に進んで行き、作戦通り一旦別れる事になった。 

「――気を付けろよ」
「了解!」
「雑魚モンスター1匹として出てこなかったなここまで」

 そう。
 既に俺達はオロチのテリトリーに入っているのだろう。このペトラ遺跡に来てからというもの、1度たりともモンスターと遭遇していない。それにここ来た時から異様な空気感みたいなものがずっと漂っている――。

「じゃあ後でね。常に皆の行動は把握し合おう。何かあったら直ぐに連絡。いいね?」
「ああ」

 ダッジ隊長達1番隊は北ルート。
 クレーグ達2番隊は西ルート。
 俺達3番隊は東ルートから最深部を目指す。

<全員微塵の油断もするな。相手はあのオロチ……。此処が奴のテリトリーである以上、最早我らは奴の掌の上に乗せられたも同然だ。死にたくなければ奴の策略を耐え、少ないチャンスを確実にものにしろ――>

 ジークが皆にそう言った。
 そして、今の言葉の重みを感じ取った全員が今一度全神経を張り巡らせた。

「行くぞ――」
「「はい!!」」

♢♦♢

~ペトラ遺跡・東ルート~

 皆と別れた俺達3番隊は、ペトラ遺跡の東ルートからオロチのいる森の最深部を目指す。

「不気味な空気ですね……。あちこちで変な魔力を感じます。皆さん大丈夫でしょうか……」
「心配するな。皆強いんだから大丈夫さ。それに何があっても絶対俺が皆を守る」
「ルカ、ニクス。必ず皆で一緒に帰るよ!」
「一気に奴の所に行くか――」

 俺はドラゴン化し、レベッカとニクスを何時の如く背に乗せながら一気に突き進んだ。

 正直、皆で色々な作戦を考えたが……俺1人の方がある意味動きやすくもある。それに皆に危険が及ぶぐらいなら最初から1人がいい。だけど今更俺がそんな事を言ったところで誰も聞かないし納得してくれない。だからこそ、俺は皆に悟られない様今回の作戦へと促した。

 本音を言えばレベッカとニクスを遠ざけておきたかったけど、最早誰が何処にいても危険だ。ならいっその事俺の側にいてくれれば必ず守る事が出来る。

 俺の背に乗り皆で一気にオロチの所へ行くという案も勿論出たが、それこそ一網打尽となったら取り返しが付かないと却下になった。だけどそれで良かっただろう。

 辺りに得体の知れない強い魔力が数多く存在しているが、小隊を組んでいる今の状態なら何とか乗り切れる筈だ……。

<――この匂い……。間違いなく“奴”だな……>

 森を進んでいる中、嗅いだことのない匂いが充満していたが、ジークが遠い記憶の中から確かにオロチの匂いを感じ取った。そこから一直線にオロチの匂いを辿った俺達は、遂に森の最深部であるペトラ遺跡に着いた。

 深い森の奥。
 ここの辺り一帯だけが木々ではなく岩が多く転がっている。静かな森の中でも更に無音に近い静けさに包まれる中、何処からか透き通るような声が響いてきた――。








『――久しぶり。ジークリート』








 気が付けば、俺達は声のした方向に視線を移していた。

<オロチ――>

 俺達の視線の先……そこには白銀の髪を靡かせた色白い肌の美しい青年が大きな岩の上に立っていた。

「お前が……オロチ……」

 初めて見た奴の姿。
 想像とはとてもかけ離れたその姿に一瞬戸惑ったが、次の瞬間には俺の全身は怒りと殺意で溢れ返った。

 感じた事の無い憎悪のエネルギー。

 自分の体が可笑しくなりそうな程全身から迸っていたのは、紛れもなくオロチへ向けられたジークの感情であった――。

『フフフフ、まさか本当に人間の中にいるとはね、ジークリート!
面白いねぇ。全モンスターのトップである竜神王ともあろう者が、余りに滑稽で無様な姿じゃあないか! ハッハッハッハッ!』

 今にでも飛び掛かる勢いかと思ったが、ジークは剥き出しの感情とは裏腹に、意外にも冷静だった。

<奴のペースには乗らん。全力で行くぞルカ――!>
「当たり前だ!」

 俺は迸る感情を全て魔力に乗せ、ゼロフリードにありったけの魔力を注ぎ込む。

「私達も行くよニクス!」
「はい! 出し惜しみなくフルスロットルで行くわ……“フェニックス・プロテクション”!」

 ニクスが繰り出した聖霊魔法により俺達に防御壁が張られた。続けてレベッカもオロチ目掛けて先制攻撃を放つ――。

「“アイスド・ロスト”!」

 レベッカの凍てつく氷魔法が瞬時にオロチと足元にあった大きな岩を凍らせた。

 一瞬決まったと思った刹那、凍らされた筈のオロチの眼球がギョロっと動き、奴はレベッカの氷を凄まじい威力の青い炎で消し飛ばした。

 ――ブオォォォン!
『弱いよ』

 青い炎で氷を消したオロチはその場から1歩も動かず余裕の笑みを浮かべた。だが俺はレベッカが攻撃を繰り出したと同時、一気にオロチとの距離を詰め既に奴目掛けてゼロフリードを振り下ろしている――。

『だから弱いし遅いよ』
「……!」

 完全に背後から攻撃したにも関わらず、オロチは全く後ろを振り返ることなく俺の剣を躱した。

「マジかよコイツ」
「想像以上の強さですね……」
『君達の小さな想像の中に私を入れないでくれるかな。何か面白いものが見れるかと思ったけど……やっぱりジークリート以外邪魔だね』
「「……ッ⁉」」

 オロチがそう言った次の瞬間、レベッカとニクスが突如吹っ飛び岩に叩きつけられた。

「キャッ……!!」
「ゔッ……!!」
「レベッカ!ニクス!」

 岩に叩きつけられた2人はそのまま地面に倒れ込んだ。幸い意識はある様だが結構なダメージを受けたらしい。中々立てずにいるが、もしニクスの防御壁がなければ最悪な事態になっていたかもしれない……。

『ジークリート……じゃなくて、人間の君は確かルカ……だったかな?あの2人の命が欲しいなら勝手に動くんじゃない。私はジークリートに用があるんだ』
「テメェ……ッ!」
<落ち着けルカ。レベッカもニクスも大丈夫だ>
「くそッ。ジークと何を話す気か知らねぇが、その前に俺が倒してやる!」

 俺は再びゼロフリードを構え奴に飛び込もうとした瞬間、オロチが大笑いをした。

『フフッ……ハ~ハッハッハッハッ!私を倒すだって? 君が? 笑わせないでくれよ! そこにいるジークリートでさえ私に勝てなかったと言うのに!』

 笑いたいだけ笑ってろ。
 俺とジークは絶対お前を倒してやるからな――。

<ルカ。此処の広さなら全く問題ないだろう。何時もの“抑えた”ドラゴン化ではなく、我と最初に出会った時の我の“完全体”の姿になれ。オロチを倒すぞ――!>

 ジークの言葉に、あの時の出来事が一気にフラッシュバックした。

 初めてジークを召喚したあの日、モンスター軍を払いのけようと俺は“竜神王ジークリート”の姿に変化したんだよな……。

 こんな状況なのに懐かしさに浸りそうだ。

「ああ、分かったよジーク」

 俺は魔力を一気に解放し、あの時以来となる竜神王ジークリートの姿に変化した――。



















<(……エミリオ。我のプライドに懸けて、主との“約束”は守り通す――)>