召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

~特殊隊の寮~

 ドクロシーフを片付けた日から3日後――。

 ニクスがバーレーンにしっかりと思いを告げ、正式にまた俺達と行動を共にする事となり、あの後寮に戻った俺達はダッジ隊長と国王にも詳細を報告し、無事一件落着となったのだ。

「――そういえばドクロシーフの奴らどうなったんだろ? クレーグ知ってる?」
「あー、アイツらかい? ドクロシーフの奴らは元から評判が最悪だったからねぇ、ルカが拠点を潰した後にさ、いざ蓋を開けて調査してみたら……これがとんでもない悪事ばかりが出るわ出るわだったらしくて、皆はらわたが煮え繰り返ったみたいだよ。
一切の余地なく重罪人扱い。即死刑でも良かったぐらいだけど、今頃死んだ方がいいと思える様な収容所で血反吐はいて労働してるよ」

 クレーグは明後日の方を見ながら俺にそう言った。

「収容所か……。そこってそんなにキツイの?」
「そうだね。聞いただけでもかなりヤバいかな。僕だったら迷わず自害するね。まぁそれすらさせてくれないからより地獄だよ。
あそこは1番キツイのが採掘場の労働と言われているみたいだけど、それ以上に恐ろしいのが、実質死刑になった連中が飛ばされる人体実験施設。

ドクロシーフの奴らは確実に採掘場かその人体実験施設のどちらかに放り込まれるってダッジ隊長が言っていたよ」

 うわぁ~、本当に聞いただけでヤバそう……。人体実験って何やらされるんだろ。まぁアイツらは自業自得だよな。非人道的な事していたんだから当然だ。

「そうなんですね……」
「まぁ関係ないけどね、僕らには。それよりフェニックスの件も無事済んだみたいで良かったね」

 そう。どちらかと言えばこっちの方が凄い事になっていた――。

 あの日、俺達がダッジ隊長と国王に報告を伝えた後で、国王は早くもバーレーンと会って話をした様だ。しかも超極秘の会談だったらしい。だが、何故そんな超極秘の会談があったと俺が知っているかと言うと、余りに“起きた事が大きい”からだ……。

 正確に言うと、この極秘会談は俺とダッジ隊長などごく一部の人しかまだ知らないと思う。だがその起きた事自体は国民全員が知っている。何故かって? そりゃそうだろ。だってあのイディアナ王国がドラシエル王国に“引き渡された”たんだから――。

 あれからまだ3日しか経っていないんだぞ……? 何故それで国民どころか世界が揺らぐ大騒動になったんだ。誰もがそう思う。勿論驚いた俺も理由を聞いた。そしてこの理由がまた驚きなんだけど……。

 イディアナ王国は何年か前に国王が変わったらしく、イディアナ王国の現国王であったソイツがかなりヤバい奴だったらしい。簡単に言うとドクロシーフの奴らとも繋がっていて、裏で相当悪事を働かせて利益を生み出していたとか何とか。

 以前からそのイディアナ王国の異変に気付いていたバーレーンが何とか状況を変えようとしたのだが、バーレーンは昔結んだ制約のせいで攻撃が出来なかった。でもそこへ今回の出来事。

 俺らの国王がバーレーンと手を組み、悪事を働かせていたイディアナ王国の国王を襲撃。まぁ襲撃と言ってもフェニックスと国王の絶対的な脅しらしいけど……。ってな感じでイディアナ王国の国王は自らその座を降り、かなり貧困が進んでいた情勢を立て直すべく、イディアナ王国はドラシエル王国に正式に引き渡される事となったんだ。

 そしてこれでも十分驚きだがまだある――。

 なんでも、イディアナ王国の立て直しに選ばれた最高責任者はなんとマスターだ。俺らのゼインマスターね。だからギルドの次のマスターはフリードさんがなった。

 色々驚く事ばかりだったが、人選に間違いないと俺は思う。俺なんかが偉そうに言う事じゃないけど……。


「――おーい、ルカ!」

 そんな事をボーっと考えていたらエレナに声を掛けられた。任務に行っていたから2日ぶりに顔を見た。

「お帰り。任務ご苦労様」
「ありがとう。なんか隊長が呼んでるよ」
「そうなんだ。すぐ行くよ」

 エレナにそう言われ、俺はダッジ隊長の部屋に向かった。


~ダッジ隊長の部屋~

「――以上が次の任務内容だ。頼んだぞ」
「はい!」

 しっかり返事をして、俺は部屋を後にした。
 
 ダッジ隊長から言い渡された次の任務……。内容はモンスターの討伐。もう慣れたものだ。と言うかほぼそれしかしていない。まぁそれが俺の目的でもあるからいいんだけどさ。

 こうして、新たな任務の為俺とレベッカとニクスの3人は、王国の最南端にある雪の街……スノウランド街に向けて出発した――。

♢♦♢

~スノウランド街~


「――よく来てくれたね!ルージュドラゴンの時は本当に助かったよ。改めてお礼を言わせてくれ」
「いえいえ、あれは皆で協力した結果なので、お礼なんてされる立場じゃないですよ」

 俺達を出迎えてくれたのはここのマスターだ。スノウランド街には南の冒険者ギルドがある。
 
 東西南北全ての街に冒険者ギルドが存在するが、どこのマスターとも以前のルージュドラゴンの件で顔はもう知っている。あんまり話す時間はなかったけど皆一緒に戦った仲間だ。

「寒ーい!」
「それは全くだ。マジで寒い!」
「ハハハハ。慣れていないとかなりキツイだろここは。取り敢えず中に入りなよ。暖かい飲み物でも用意するからさ」

 そう言ってマスターはギルドの中へ案内してくれた。

 流石雪国の人だなマスターも……。俺達より薄着なのに全然寒そうじゃない。それにニクスもこの寒さが大丈夫みたいだ。いいな~、羨ましい。フェニックス暖かそうだもんな。

 そんな事を思いながら、俺達は今回の討伐の件について話し合った。

「どうだ?少しは温まったか?」
「かなり良いです。ありがとうございます。それでマスター、今回は“ホワイトゴーレム”の討伐って事でいいですよね?」
「ああ。此処からもう少し南に行ったところに大きな雪山があってね。そこでホワイトゴーレムの姿が確認されているんだけど、何せその雪山はここより寒い上に吹雪が凄くて歩くだけでも大変なんだ。
雪や寒さに慣れている私でも1人だと厳しくてね。実力ある人にサポートしてもらわないと厳しくて」

 雪国で暮らすマスターでも大変な環境って……これ人選ミスじゃないか? 街の寒さで既に俺とレベッカは凍死しそうだぞ。

「俺達に出来る事なら勿論協力したいですけど、この寒さどうにかなりませんよね……?」
「ルカさんそんなに寒いの?レベッカさんも?」
「「寒い」」
「じゃあ私の聖霊魔法で暖かくしてあげますよ」

 えー!そんな事出来るの?是非お願いしますニクス様!

 ニクスは早速俺達に聖霊魔法を掛けてくれた。するとあら不思議。本当にポカポカと暖かくなってきた。

「もう大丈夫ですよ」
「本当だ。なんか暖かい感じする!」
「いや確かに暖かい感じするけど、本当に大丈夫?」

 決してニクスを疑っている訳ではないが、まさか本当にコレで寒さが和らいだのかと疑問に思いながら俺は確かめるためにまたギルドの外へ出た。すると……。

「うわ凄ぇ!本当に寒くない!」
「だから言ってるじゃないですか!信じてないんですか私の事」
「私は何も疑ってないからねニクス」
「ズ、ズルいぞレベッカ!俺だって別に疑ってた訳じゃないからなニクス……!」

 苦し紛れにそう言うも、ニクスは疑う様な目で俺を見ていた。

 そんなこんなで話を戻し、俺達はマスターと一緒に目的のホワイトゴーレムの討伐に向かった――。


~雪山~

 ホワイトゴーレムはSランク指定のモンスター。普通のゴーレムよりも更に防御力が高い。半端な攻撃では倒しきれないちょっと厄介な相手だ。しかも生息場所がこんな険しい雪山とくれば、普通のSランクより討伐が難しい。

「――あそこだよ」

 マスターがそう指差した方向に、確かにホワイトゴーレムの姿を確認した。

<奴はただの木偶の坊。強めに一撃放てば終わりだな>
「それよりも、凄い吹雪だな……!」
「前がほぼ見えないよ」
「何処かに降りますか?」

 マスターの言った通り雪山は吹雪がとても凄いな。普段から全く見慣れていない俺達にとってはより現実離れして見えてるだろう。

「いや、これは慣れない俺達にとって危ない環境だ。俺がこのまま1発で仕留める」
「頼もしいな~」

 マスターに少し茶化されながらも、俺はホワイトゴーレムを一撃で倒し、サクッと素材も回収して街に戻った。そしてマスターとも別れを済ませ、俺達は寮に帰った――。

~特殊隊の寮~

「――何時も通り迅速な対応だな。ご苦労。立て続けで悪いが次の任務だ」

 ホワイトゴーレム討伐の報告をした後、俺達は再びダッジ隊長から新たな任務を言い渡された。次の討伐対象は“デザートサーベル”。砂漠に生息するタイガーの様なモンスターだ。

 その日はもう寮で休み、俺達は翌日任務に向け出発した――。

♢♦♢

~デザバレー街~

「――おう、よく来てくれたな! お前達とはルージュドラゴンの時以来か。ガハハハ!」
「ご無沙汰してます。ここは凄い暑いですねマスター」

 俺達を出迎えてくれたのはデザバレー街のマスター。此処には西の冒険者ギルドがある。
 
「今度は暑いね……」
「ああ。昨日と両極端過ぎる。暑い……」
「ガハハハ。昨日は雪山に応援していたらしいな。此処は逆に炎天下で暑いだろ!取り敢えず中に入れ、ガンガンに冷やしてあるからな。腹壊すなよ」

 そう言ってマスターはギルドの中へ案内してくれた。

 ここはマジで暑すぎる。しかもマスターも豪快でちょっと暑苦し……おっと、それは失礼だ。マスターやSランクの人達は皆良い人ばかりなのに。暑さで頭がボーっとしているなこれは。

 それにしても、またもやニクスは大丈夫そうだな。寒さに強いのは分かるけど、暑さにも強いとは。まぁ一応炎だもんな。バーレーンなんか滅茶苦茶燃えてたし……。

 そんな事を思いながら、俺達は案内されたギルドの中で今回の討伐の件について話し合った。

「冷たい物でも飲んで行け!」
「ありがとうございます。それでマスター、今回はデザートタイガーの討伐って事ですよね?」
「ああ、そうだ。街から更に西に行くとバラサバラ砂漠があるだろう?そこを50㎞ぐらい行った場所でデザートタイガーの姿が確認されているんだ。
奴自体はSランクだがら討伐に問題はないんだがな、何せこっちは人手不足でよ。俺ともう1人のSランク冒険者も砂漠の反対側に討伐しに行かなくちゃいけねぇ。デザートタイガーが段々街に近付いてきているからそっちも早めに討伐しないと危ない。だから応援を頼んだ。宜しくな!
!」

 デザートタイガーなら確かに余裕だろう。昨日みたいな視界もまともじゃない状況に比べれば全然動きやすい。だが如何せん暑すぎる……。これはこれで意識が持っていかれそうだ。

「分かりました、任せて下さい! それと……関係ないですが、この暑さどうにかなりませんよね……?」
「ルカさん今度は暑いんですか?レベッカさんも?」
「「暑い……」」
「じゃあ私の聖霊魔法で涼しくしてあげますよ」

 えー!そっちも出来るの?是非お願いしますニクス様!貴方だけが頼りです。

 ニクスは早速俺達に聖霊魔法を掛けてくれた。するとあら不思議。本当にひんやりと涼しくなってきたではありませんか。

「もう大丈夫ですよ」
「凄い!涼しくなってる!」
「確かにな。確かに涼しい感じするけど……本当に大丈夫?」

 昨日と一緒の流れ。
 何度も言うが決してニクスを疑っている訳ではない。だがまさか本当にコレで暑さが無くなっているのかと疑問に思ってしまった俺は、確かめるためにまたギルドの外へ出た。すると……。

「うお、熱くない!こりゃ快適だ!」
「だから言ってるじゃないですか!やっぱり信じてないんですね私の事!」
「私は何も疑ってないからねニクス」
「だ、だからズルいぞレベッカ!俺だって別に疑ってた訳じゃないからなニクス……!」

 苦し紛れにそう言うも、ニクスは再び疑う様な目で俺を見ていた。

 そんなこんなで話を戻し、俺達はマスターと一旦別れて目的のデザートタイガーの討伐に向かった――。


~バラサバラ砂漠~

 デザートタイガーはSランク指定のモンスター。足場の悪い砂漠でも俊敏に動き回る奴だ。鋭い牙には毒があるから、それだけ気を付ければ特に危険はない。それよりも、砂漠と言うのは一面砂で目印がほぼない。俺達は飛んで移動してるからいいけど、ここを歩くのはかなり大変だ。

「――お、いたぞ」

 砂漠の真ん中にポツンと存在するオアシスで水を飲んでいるデザートタイガーを見つけた。

<アレは犬と変わらん。寮で他の者達と訓練していた方がマシだ>
「じゃあ今日は私が倒していい?」
「勿論どうぞ」

 レベッカが申し出てくれたので今回はレベッカに任せよう。飛んでいた俺達は下に降り、早速レベッカが魔法を放った。

「よーし、“エアロウイング”!」

 次の瞬間、強烈な風が吹き荒れ、大きな風の刃が複数同時にデザートタイガーを襲った。

 ――ビシュン!ビシュン!ビシュン!ビシュン!
 四方から撃たれた風の刃によってデザートタイガーは一撃でその場に倒れた。レベッカも結構強くなってるな。
 
「やった。いい感じに決まった」
「凄いですレベッカさん!」
「大分コントロール上手くなってるな」
「そうでしょ? クレーグに改造してもらった武器も凄いしっくりくるんだよね」
「良かったな。それじゃあ取れる素材を回収して、ギルドに戻るか」

 デザートタイガーを討伐した俺達は何時もの如く、慣れた手つきで使える素材を回収しギルド戻った。だがその途中、Aランクモンスターである“スナスネーク”の群れを見つけた俺達。

 別に討伐の目的ではなかったが、レベッカが何やら試したい魔法あるとか言い出し為、再び下に降りた。

「何する気だ?」
「フフフ。だから言ったでしょ、ちょっと試したい技があるの」
 
 特殊隊の影響だろうか……。あそこは毎日の様に誰かが訓練しているから、その影響が少なからずレベッカにも出ているのかもしれない。勿論悪い事ではないし、俺の気のせいならいいのだが、以前に比べて少し好戦的になっている気がしなくもない――。

「上手く出来るかな……。“エアロ”! そして“フレイム”!」

 レベッカは風魔法と炎魔法を同時に発動させた。目の前の風と炎が互いにどんどん交わりながら勢いを増し、みるみるうちに巨大な玉が出来上がった。

 へぇ、これはなかなか。しかも……。

「……そして“バフ”!」

 風と炎の同時発動に加え、レベッカは出来上がった巨大な玉に更に付与魔法を加え火力を上げた。

<ほお。3魔法同時とは、やるではないかレベッカ>
「ジークちゃんに褒められるなんて嬉しい!」

 滅多に認めないジークからの誉め言葉に、レベッカは本当に嬉しそうだ。そしてその喜びのままレベッカはスナスネークの群れに巨大な玉を撃ち込んだ。

「よし、それじゃあ今度こそギルドに戻ろう」

 こうして、俺達はギルドに戻りマスターとも合流した。報告と別れを済ませ、最後は特殊隊に帰りダッジ隊長にも報告。これが何時もの流れだ。




 だがしかし――。

 それからというもの、俺達は任務の報告をする度に直ぐ次の任務を言い渡され翌日には出発すると言う鬼スケジュールがかれこれ3ヶ月は続いたのだった――。



「――ダッジ隊長!流石に限界です!休みを下さい!」

 俺はこの日、遂にダッジ隊長に盾突いた。

「何ですかこの激務は! ほぼ毎日Sランクモンスターの討伐ですよ!1週間に1日休みがあるかどうかです!レベッカもニクスも疲れ切ってもう限界ですよ!だから休みを下さい!」

 俺は隊長の目の前のデスクをバンバン叩いて抗議した。だってここ3ヶ月は本当に扱いが酷い!

「大声で言わなくても聞こえている。今は“別件”で他の隊員が動いているからな。たまたまお前達に任務が集中しただけだ」
「でもだからって過労で倒れますよこっちは!」
「じゃ休んでいいぞ」
「え……?」
「嫌なのか? じゃあ次のッ……「欲しいです!欲しいに決まってますよ!何言ってるんですか!」

 こうして抗議の甲斐あってか、俺達は1週間のリフレッシュ休暇を貰う事になり、俺達は久々の休みを堪能した――。
♢♦♢

~特殊隊の寮~

 あれから1週間――。 
 久々の休みを満喫した俺達は久々に訓練場で体を動かしていた。

「――戻ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「五月蠅い。静かにして。耳障り」

 突如、寮全体に響くような声が聞こえてきた。

 赤髪の男と黒髪の女の2人。どちらも全く見覚えがない。俺とレベッカとニクスがキョトンとしていたが、他の皆は違った。

「帰ってきたみたいだね、ヴァン。リリィも久しぶり」
「あ、リリィお帰りー!」
「……お疲れ様、2人共……」

 皆この2人を知っている様子だ。あ、そう言えばまだ他の任務に行ってる人がいるって初日に聞いた気が……。この人達の事か。

「久しぶりだなお前らも!元気してたか」
「テンション高過ぎよ。静かにして」
「お前が落ち着き過ぎなんだよリリィ。ほら! この子みたいにもっと可愛げを出したほうがいいぞ!」

 ヴァンと呼ばれた赤髪の男がレベッカを見ながらそう言った。そして馴れ馴れしくもレベッカの肩を掴み自分の方へグイっと引き寄せたのだ。

「え……?」

 突然の事にレベッカも恥ずかしそうに戸惑っている。

「君凄い可愛いじゃん! あ、俺はヴァン! もし良かったら俺と付きあッ……「――手離せよ」
「「……⁉」」

 気が付くと、俺はゼロフリードの切っ先を奴の首元に突き付けていた。

「おいおい、何をマジになってんだよ」

 ヴァンはレベッカから手を離し、俺に笑顔を向けて来た。
 何だコイツは……。

「お前が噂のジークリート召喚少年か。って事は初めましての彼女がレベッカちゃん? それでそっちの彼女がニクスちゃんか!フェニックスってマジ? 後で見せてよ」

 何かチャラいと言うか軽い。行動も口調も。コレがこの人の普通なのか……。皆特に反応を示してないって事はそうだよなきっと。

「やめなさいよヴァン。明らかに迷惑そうよ」
「え、そうなの?」
「あー!ヴァンだ。帰って来たんだね、お帰り!」
「おおピノ!ただいま」
「相変わらずで安心したよ。ルカ達は初めてだよね?」

 話しをまとめようとクレーグさんが1歩前に出て彼らを紹介してくれた。

「こっちがヴァン、そしてこっちがリリィ。ずっと任務に出ていてね、2人共特殊隊の仲間だよ。君達にも前に報告だけしてあると思うけど、この子達が新人ね」
「ルカとレベッカとニクスね。初めまして、私はリリィ。宜しくね」
「俺はヴァンだ! 会いたかったぜお前らにもよ」

 ヴァンとリリィはそう自己紹介をし、俺達も宜しくと言葉を交わした。

「――じゃあ挨拶も済んだし、早速“やろうぜ”ルカ!」
「え?」

 凄い嫌な予感。そしてコレは恐らく的中してしまうだろうな。

「ずっとあのジークリートの力がどんなもんか気になっていたんだ。久々に本気でやらせてもらうぜ!」
「元気だねぇヴァン。いきなりルカと遊ぶのか」

 やっぱり。こんな事だろうと思ったぜ。本当に変わった人の集まりだここは。

「じゃあ私達も行きましょうか」
「私もその後を聞きたいな!」
「え、もしかして……!」

 リリィとエレナに連れられたレベッカは、何時ぞやと同じ様に何処かへ連行されていった。行き先は風呂場だろう……。そして俺はここでヴァンと戦わなければいけないのか……。


~訓練場~

「――うし。 それじゃあ始めるか! 俺は炎魔法使うから宜しくな」
「え、先に言ってよかったの……?」
「勝負はフェアじゃないと面白くないだろ。こっちはジークリートいるって知ってるんだから、俺の教えとかないとな」

 これは意外だった。
 勿論決めつけは良くないけど、さっきの行動や態度からいまいち信用ならない人だと思ったけど、どうやら悪い人ではないみたいだな。

「なんか、ありがとうございます」
「ハハハ!何だそりゃ。もういくぞ……“ファイア”!」

 ヴァンは勢いよく炎魔法を繰り出した。しかしそれは誰もが扱える初歩な下級魔法。ただ小さな炎を出すだけの基本魔法でもある筈なのだが、ヴァンが出した炎は直径4~5mはあろうかと言う超巨大な火炎球だった。しかも複数。

「何だこれ……でか。しかも熱い。ただの下級魔法じゃないのか……?」
「そうだ、言い忘れた!俺は炎魔法の使い手だけど、特殊適性である“煉獄の極み”の効果で、炎魔法の威力が30倍になってるからな!」

 また初めて聞く力だな……。威力30倍って反則じゃないかそれ……?
ただの下級魔法がすでに上級魔法並みの火力じゃないか。

<これはまた面白い>

 ジークがやる気という事はやっぱ強いのかこの人も。

「これで本当にフェアだな。じゃあ遠慮なく……食らえ!」

 ヴァンは何の躊躇もなくデカ火炎球を全て放ってきた。

 ――ズドォン!ズドォン!ズドォン!
 かなり広い筈の訓練場が狭く感じる程の火炎球のデカさ。当然威力も強いし。

<やるな。だがこれは魔力の消費が多い筈。しかも火の玉の大きさで死角だらけだ。やれルカ>

 やる事は分かっているだろと言わんばかりのジークの発言。だがそれは俺も思っていた事。俺はヴァンが連続で放ってくるデカ火炎球の死角を狙って一気にヴァンへ距離を詰めた。

 そして、近づいた最後の1発のデカ火炎球をゼロフリードで一刀両断し、僅かに困惑していた一瞬の隙をついてヴァンの背後を取り終了。

「うっはー、マジかよ!ハハハハ!こりゃ確かに凄いぜ!お前の勝ちだルカ。面白かったよ」
「ありがとうございます」

 こうして、また挨拶がてらの遊びが終わった。


♢♦♢

~お風呂場~

「――それで? レベッカとルカは恋人同士なのですよね」
「え⁉こ、恋人……⁉」
「アハハ、リリィはストレートに言うからね。正直に話しなレベッカ」

 一方のレベッカはというと、案の定お風呂場で根掘り葉掘り事情聴取を受けているのであった。

「そんな……わ、私達、別に恋人じゃないの……!」
「そうなの? でもさっきのルカのあの行動は、明らかに自分の女に手を出された事に対する怒りの現れ。レベッカに触れたヴァンに殺意まで放っていたわよね。それで恋人同士ではないと?」
「う、うん……。ルカがどう思ってるか私も分からないけど、恋人ではない……」

 俯きながら言うレベッカは恥ずかしくもあり、何処か寂しげな感じでもあった。

「成程。もし2人が恋人同士ならば、ヴァンに邪魔するなと釘を刺しておこうと思ったけど、違うのね。
なら、ヴァンが貴方に好意を寄せてもいいし、私がルカに好意を寄せても問題ないわね」
「え⁉ な、なんでそうなるの……⁉」
「アハハハ! ヤバいねレベッカ。アンタも可愛いけど、美人のリリィにルカ取られちゃうよ」

 エレナは冗談で茶化していたが、レベッカは心中穏やかではない。見るからに焦っている様子だ。

「そんなぁ……! だ、だてリリィはルカが好きなの……⁉」
「いや、今は好きじゃないわ。あくまで可能性の話だから。でも今後そうなる事も否定出来ないわね。確率はかなり低いでしょうけど」
「そ、そうなんだね……」
 
 リリィの言葉にホッとした表情を浮かべたレベッカを、エレナは見逃さなかった。

「へぇー、リリィにその気がないなら、私がルカの恋人になろうかな! 今どっちもフリーだし」
「ダメ! それは絶対にダメ!」
「アハハハ! 何でそんなに焦ってんの? 別に恋人同士なら関係ないじゃん。ずっと一緒にいてその気もないみたいだし、私がルカと付き合ってもいいと思うけどなぁ~」

 未だにハッキリしないレベッカに対し、もう全て分かっているエレナが悪戯っぽくレベッカをイジる。そして、レベッカは半ばやけくそで遂に本心を言った――。

「も~ズルいよ……エレナも分かってるくせに! そうよ……!私はルカが好きなの! だから皆手を出さないでッ!」

 こうして、リナの心の叫びが風呂場に響き渡ったが、当然リリィとエレナ以外には聞こえる筈もなかった――。

♢♦♢

 ヴァンとリリィが長期の任務から戻って来たという事で、今日は皆で少しだけ豪華な食事をとる事になった。皆で集まって食べる食事はとても楽しくて賑やかだった。

「――ふぅ~、腹いっぱいだもう」
「そう言えば任務はどんな感じだったの?」

 食事も終え、皆がそれぞれが和気あいあいと話してた。
 ピノが何気なくヴァンと話し始めると、そこにクレーグさんも加わり、不意に俺の耳にも届いてきた。

「そうだね。結局“奴”はいたのかい?」
「ああ。直接見た訳じゃないけど、やっぱドラシエル王国の何処かにいるみたいだな。3年前王国を襲ったモンスター軍も“そいつの仕業”だろう――」

 ヴァンの言葉に、俺は思わず耳を疑った――。
 3年前のモンスター軍……? それって、母さんを殺したあのモンスター軍の襲撃の事か……?

「ヴァ、ヴァン……! その話、俺にも詳しく聞かせてくれないか!」

 反射的にもう声を掛けていた。でもコレだけは聞き逃せない。あのモンスター軍襲撃が自然災害ではなく“故意的”なものだと言ってる様なら尚更だ。

「どうしたんだよ急に」
「ルカは王都に住んでたから」
「何?まさか3年前の被害者か?もしかしてあの時のドラゴンって……」

 ヴァンを始め、いつの間にか皆が話を聞いていた。

「そうです。俺は3年前のモンスター軍によって、唯一の家族だった母さんを殺された……。そして俺もモンスターに襲われ、死にかけた時にジークと出会ったんだ」
「成程な……。勿論お前も話を聞くのは構わない。だが、本当大丈夫だろうな?」
「ああ。俺にも真実を教えてほしい――」

 ヴァンなりの気遣いだろう。俺に改めて確認をすると、ヴァンは口を開き話し始めた。

 その話によると……ヴァンとリリィはそもそも、以前からモンスター軍の襲撃の原因をずっと調べていたらしい。勿論それだけではなく、他にも俺達と同じ様に別の任務もこなしていたが、以前のルージュドラゴンの件がきっかけで、またモンスター軍の調査をし始めたとの事だ。

 理由はルージュドラゴンが出現したきっかけである魔石。本来であればそこにある筈の無い魔石が存在していた事に、ヴァンやリリィやダッジ隊長などが気になった事が始まりだ。

 そして調査で分かったのは、過去にこの魔石の発見された場所が2ヵ所存在していたという事。1ヵ所は別の大陸の王国。そしてもう1ヵ所が辺境の島にある採掘場であった――。

 ヴァンとリリィはその情報を元に辺境の島の収容所で調査を続けると、そこで忽然と姿を消したグレイ達の事と“白銀の人”を見掛けたという情報を掴んだらしい。

「このグレイって奴らがお前の元パーティなんだってなルカ」
「あ、まぁ……。思い出したくもないけど。それって何か関係が?」
「どうだろうな。まだ決定打には欠けるが、そもそもあの収容所からグレイ達が脱獄するの不可能だ。聞いた限りだとそんな実力もないだろ?それにあそこから逃げた奴なんて聞いた事ない」
「そうね。あそこは重罪人が飛ばされる危険な場所。ある意味王国で1番厳重な警備と管理をしているからね」

 ヴァンとリリィがそこまで言うのなら、やはり収容所とから脱獄するのは不可能なのだろう。でもだったら何であのグレイ達が……。
 
「そういう事だ。それに気になるのはもう1つのほう――。
グレイ達が消えた日の真夜中、収容所の周囲を見回りしていた警備の者がすぐ側の森林の一角で、何やら白く光る様なものを一瞬見掛けたらしい。

当然収容所からは距離もあったし、辺りは暗闇同然。見えたのも一瞬だからその時は気にしていなかったらしいが、それから約3時間後……。もうすぐ夜が明けると言う時に、森の奥から叫び声の様な音が聞こえたと警備の者が言っていた。
しかもこれは1人じゃなく他にも数人が同じ声を聞いている。

そして更に気になるのはここから……。
警備の者達が声を聞いたと言う時間から僅か数分後の時刻に、収容所から姿を消した筈のグレイとよく似た人物が“ペトラ遺跡”で目撃されているんだ――」

 ペトラ遺跡で……? いや、待て……。そもそも収容所からペトラ遺跡って……。

「“普通”なら有り得ないね」

 俺が思った事をクレーグが一足早く口にした。

 そう。
 今いった通り、もしグレイならば有り得ない話だ……。収容所のある辺境の島からペトラ遺跡までなんて普通に移動したら丸5日は掛かる距離。俺やニクスみたいに飛べるか、バロさんの様な特殊な魔法でも使えれば話は別だが、グレイは当然そんな魔法持っていない。

「それって、本当にグレイなの?」
「俺とリリィもそう思ったよ。だから収容所での話もあったし、国王に報告して極秘で森林を調べたんだ。
そうしたらグレイ達がしていた魔力封じの鎖が森の奥で発見された。4つ壊された状態でね」

 マジかよ……。本当にアイツらなのか……。

「しかも、そこから3つの足跡が山道を続いていてね、暫く進んだところでその3つの足跡がバラバラの方向に進んだ後、これまた突然足跡が途絶えたんだ……。
それに、足跡が途絶えた周辺には血も発見された。確認してみると、収容所からグレイと共にいなくなったラミア、ブラハム、ゴウキンという者達の血である事が確認された――」
「何それ……」
「どういう事だ……」

 俺は勿論、話を聞いている他の皆もいまいち理解出来ていない状況。

 無理もない。聞けば聞くほど奇妙な疑問ばかりが残る……。もうアイツらには同情する余地もないが、一体何があったんだ……?

「ヴァン。グレイはどうなったんだ?」

 一気に情報が溢れて頭が追い付かないが、取り敢えずラミア達の事は分かった。ならばグレイはどうなった?足跡が続いていたのが3つなら、グレイは何をして何処に行った……?

「ああ。そこもまた不可思議な部分だが、グレイと思われる足跡だけが、鎖が落ちていた場所から何も動いていなかったんだ……。
それどころか、そこにはグレイ達4人以外の“別の足跡”が1つだけ見つかってる。本当に不思議でしょうがないだろ?

しかもこれは国王団に所属する調査のエキスパート部隊が調べた結果らしいんだが、その別の人物の足跡が見つかった場所から、何か得体の知れない魔力の残り香を見つけたと言っていた。勿論正体は分からず終いだ。

そして肝心のグレイが目撃されたペトラ遺跡……。そこで調査をしていたら、目撃情報があった場所でグレイの足跡が確認された。森で見つかったものと同じだから間違いないと確証が出ている」

 もう何が起こってるのかさっぱりだ――。

 皆がこの不可思議な物語を聞いて頭を悩ませている。各自自分なりに整理しようとしているのか数秒の沈黙が生まれていた。

 そして、この沈黙を破ったのは他の誰でもないジークであった。


<――全ては“オロチ”であろう>


 その言葉に再び僅かな沈黙が生まれたが、クレーグが1人だけ驚いた表情を浮かべながら小さく「まさか……」と呟いた。

「オロチって……誰の事だよジーク。知ってるのかお前」
<知っているもなにも、我をハメて封印したのが奴だからな>
「「――⁉」」

 俺は勿論、他の皆もジークの言葉に驚いていた。そしてそれに加えてヴァンとリリィが更にこう言った。

「オロチって、ジークリートと同じドラゴンの事かひょっとして?」
<最早同じ種族と思いたくはないがな>
「サラッと凄い名前出たね……。オロチも有名な名前だし。本当にいるんだ」
<奴の仕業だと思えば合点がいく。裏でコソコソ動くのが得意だからな>
「成程な。今のを聞けば確かに不可思議な事も全て繋がるな。ルージュドラゴンもソイツの仕業か」
<だろうな。採掘場とかやらから盗んだんだろう。奴なら誰にも見つからずグレイ達を出す事も可能だ。白銀というのも見た目と一致する>
「ハハハハ!一旦戻ってきて正解だったなリリィ。思わぬ収穫だ」
「そうね。しかも3年前のモンスター軍の襲撃でも、そのオロチとか言う白銀の者の目撃情報がある。それも繋がるわね」

 様々な憶測や不可思議な点が一気に繋がっていく……。

 突如出てきたオロチという名と共に――。



 今の話が全部の真相だとするならば、俺の母さんを殺した元凶がソイツだ。

 オロチ……。
 どんな奴なのか全く分からないが、絶対にお前を始末してやるからな。

<あのオロチが動き出しているとなると、かなり面倒だ。もう既に奴に先手を打たれているも同然。何が最終的な目的か知らんが、これからは気を引き締めろルカ>
「ああ。お前をハメて母さんを殺した奴なんて絶対見過ごせねぇ。絶対倒すぞジーク!
ヴァン、グレイとオロチって繋がっているのかな? だとしたら奴らはまだペトラ遺跡に?」

 直ぐにでも行って奴を倒したい――。

「どうかな……。何が目的かは分からないが、オロチとグレイが一緒にいる可能性はかなり高い。それに一応ペトラ遺跡ではグレイと思われる人物も見つけたからずっと他の隊が監視している。
特に新しい情報が入ってこないから、恐らく奴らはまだペトラ遺跡にいるだろうな」
「だとしたら尚更行こう。場所が分かってるならチャンスじゃないか」

 俺が行きかけた瞬間、ヴァンとクレーグに止められた。

「ちょっと待てルカ。その独断はマズイ」
「そうだね。流石に相手があのオロチとなれば、国王に1度報告しないと。ジークリートがハメられたとなると相当ヤバいやつだろう」
「確かにそうだけど……」
「焦るなルカ。奴はちゃんと他の隊が監視してる。やり合うならやり合うで、こちらも総力戦で挑むぐらいの覚悟じゃなきゃ危ない。国民もな」

 確かに……。ヴァンとクレーグの言う通りだ。俺だけの独断で関係ない人達にまで危害が及んだら元も子もない。2度と母さんの様な被害を出しちゃいけないんだ――。

「分かりました……」
「大丈夫。僕から直ぐに隊長に報告して、国王にも伝えてもらうから」
「ありがとうございます」

♢♦♢

~特殊隊の寮~

 昨日のオロチの話しから一夜明け、今日という日の日が沈んだ頃、徐にクレーグさんが俺のところに来た。

「――ルカごめん。なんかダメみたい。オロチの討伐」

 クレーグさんの言葉は余りに意外で俺のやる気を根こそぎ狩った。

「え、どうして⁉」

 正直ダメなんて全然思わなかった。寧ろ直ぐに行ってもいいぐらいの勢いだと思ってずっと待っていたのに。何で……⁉

「僕も出来る限りの事は言ったんだけどね、最終的に国王の判断で却下になったみたい」
「そんな……全然納得出来ない」
「まだオロチの実力が不明確な上に、もし仮にオロチを倒しに行くとしても、今行っている任務や他の任務も一時的に中断して戦力を整えないといけない。

確実な勝算が無い限り、そんな危険な方向に舵を取る事は現状出来ないとの事だよ。中でも僕ら特殊隊は国民の為にモンスターを討伐する事が主。みすみす国民を危険に遭わせる可能性があるならば許可出来ないらしい」

 なんだそれ……。確かに意見はごもっともだけどさ……。

 どうしよう。やっぱ全然納得出来ない。こうなったら……。

「なら俺が国王に直接頼みに行く。図々しく行けば何か変わるかも」
「ハハハ。凄い力技だけど一理あるね。寧ろ最初からその方が君も納得したかもね」
「先ずは隊長に相談します!」

 そう言って俺は直ぐにダッジ隊長の部屋に向かった。


~隊長の部屋~

「――今すぐになど無理だ」
「お願いします! ダメならもうこのまま直接行きます!」

 無茶苦茶な事を言ってるのは百も承知。でも、目と鼻の先に全ての元凶がいると知った今、とてもじゃないけど気持ちを抑えきれない。

「強情な奴だな……。分かった。ならば2日後だ。俺は国王に報告しなければいけない事があるから、その時にお前も同行しろ」
「分かりました!ありがとうございます!」

 本当は今すぐに行きたかったが仕方ない。これ以上は幾ら何でも自己中過ぎるか。急に国王に会える事になっただけ良しとしないとな──。

 そして2日後。
 俺はダッジ隊長について行き、直接国王と会った。

♢♦︎♢

〜城〜

「──久しぶりであるなルカ。わざわざ志願して隊長について来たそうだがどうした?」

 国王は何時もと変わらぬ気品さと真剣な面持ちで俺にそう聞いてきた。

「国王様、急にお時間を取らせてしまい申し訳ございません。本日こうして直談判に来たのは他でもない……オロチの件についてです――」

 俺の言葉に国王は特に驚く様子もなかった。恐らく大方の察しは付いていたのだろう。

「成程。その件については先日結論が出た。しかしそれでは不服という事だな?」
「はい……。自分が誠に失礼で勝手な事を言っているのは承知しています。ですが、やはり全ての元凶とも言えるオロチが目の前にいると知ってしまった以上、どうしても奴を倒す事以外考えられません」

 国王は俺の申し出に対し、少し悩む様な表情を浮かべた。
 無理もない……。全国民や冒険者の命を第一に優先させなければいけない国王と、何の責任もない自己中な俺。国王がそう簡単に判断を下せる訳がない。俺とは違うんだから。

 でも国王は最大限俺の意見を尊重してくれようとしている。だから俺もこうしてわざわざ国王に話しをしに来ているんだ。返しきれない程の恩がある国王だからこそ。

「ルカの気持ちは良く分かった。そして私だって奴を倒したいと言う気持ちは当然ある。相手が他でもないあのオロチだからな。ジークリートが君の中にいる以上、最早奴が全モンスターのトップと言っていい存在だろう――。

でもだからこそ、計り知れぬ奴と対抗する為にはこちらも相応の準備が必要となる。まぁ正直君とジークリートが誰かに負けるという事が想像出来ぬが、そのジークリートを奴が封印したのもまた事実だ……。

ルカよ。本音を言うと私は迷っている。
確かに全ての元凶と言っても過言ではないオロチを討ち取れるならば、それい以上の成果はない。だがそれと同時に、奴を倒すからと言ってそこに戦力を注ぎ込む事を直ぐには出来ぬ。王国と国民の安全が掛かっているからな。

よって、もう好きに決めてくれ君が――」

ん……? え、どういう結論なのこれ……。

「なんだ? オロチの討伐許可が欲しくてわざわざ私の所に直談判しに来たのだろう? だから奴の討伐を許可する!
ただし、対オロチ用に特別な命令は勿論出せぬ。動く事は許可するが、奴を討伐しに行く戦力は自身で集めるのだ!」

 国王は俺に堂々とそう言い放った。

「戦力を自分で……。それって、俺の身勝手に付き合ってくれる物好きを勝手に誘えって事ですよね? 」
「ああそうだ。君の思う様に動いてオロチ討伐に向かって構わん。だが王国の安全が手薄になったり、他の任務に差し支えが出そうな人選ならば私が止める。それ以外なら後は好きに動いてくれ」

 何だそれは。そんなの好きに動ていいと言っておきながら結局は人選も限られてるんじゃ……。

「あの……因みにそれって、俺1人で行ってもいいんですか……?」
「“私は”構わぬ。たった今好きに動いて良いと許可を出したからな」
「私は……?」

 何だろう、この含みのある言い方は……っと思った次の瞬間、聞こえたきたのはダッジ隊長の声だった。

「――ルカ。オロチの討伐に行くと言うのならば、勿論隊長である私の許可がなくてはダメだ」

 おっと、まさかのパターン。

「え、あの……隊長、俺オロチの討伐行っていいんですよッ……「ダメだ」
「え! 何ででッ……「俺と勝負して勝ったら許可を出そう」

 おいおい。何だこの流れは……。取り敢えずオロチの討伐は行っていいのか? そして俺はダッジ隊長と戦わなければいけないって事か?

 俺が今の状況を飲み込めずあたふたしていると、国王は何が面白いのか分からないが少し笑っている様に見えるし、ダッジ隊長に限っては本当にやる気満々だ――。

「そうか。ルカとダッジ隊長が戦うか……。これは私個人的にも凄く興味がある。
良かろう! ならば明日、オロチ討伐許可を懸け正式に両者が決闘する事を認めるぞ!」

 何故そうなる!
 俺の心の叫びも虚しく、話は一気に進んでしまった。

「場所は特殊隊の訓練場にて行う! SSSランク“同士”の戦いだからな、特別に観覧も許可するとしよう。盛り上がりそうだ」
「決まりだなルカ。俺に勝てたら正式に討伐許可を出す。好きに動いていい。それに特殊隊は出来る限りお前のサポートに付いてやる」

 こうして、ツッコミどころ満載なまま、俺はダッジ隊長との決闘が正式に決まった――。








……何で??
~特殊隊の訓練場~

 訳が分からない流れのまま一夜が明け、何時も俺達が使っている訓練場には結構な人数が集まり活気が生まれていた。

 これが俺とダッジ隊長の決闘というのが未だに実感がない。
 もう始まりそうなのに――。

「隊長とルカが戦うなんてどうなるんだろう!」
「……ルカも確かに強いけど、やっぱ隊長も強い……」
「お前も物好きだな本当に」
「いやいや、ゼインさん程ではないですよ。それにたまには息抜きがないとやってられません!」
「国王様……。その様な発言は余り大きな声でしないで下さい」

 訓練場の周りでは本当に多くの人が観戦しに来ている。
 特殊隊の仲間は勿論、国王やモレー大団長。それにどうやってこんなに早く情報を知ったか分からない他のギルドのSランク冒険者やその他国王団の人達まで来ている……。

 しかもマスターまでいるじゃないか。久しぶりに見たが元気そうで何よりだ。だが、この状況を見た俺が今思っている事をはっきり言おう――。

「あの、なんか盛り上がっているところに水を差して悪いんですけど……決闘している時間があったらオロチの討伐行けませんかね? ここのいる面子で。最強だと思いますけど……」
「――ダメだ。隊長である以上部下の勝手な行動は許さん。それにお前の実力を、俺はまだしっかりと把握していない。オロチを倒したいのならば、それ相応の強さを示せ」

 ダッジ隊長はそう言い、凄まじい魔力を瞬時に練り上げながら戦闘態勢に入った。

 成程。腐ってもこの特殊隊の隊長だと言う事を忘れていた。思い返せばここに来た初日、いきなり“遊び”という名の攻撃を仕掛けてきた変わり者が集う場。それがこの特殊隊……。

 毎日毎日誰かが必ず訓練場で戦っている。俺も当然幾度となく皆と戦っていたが、ダッジ隊長とだけは確かに1度も戦った事がない。

 変わり者をまとめている隊長だからどこか人格者なのだろうと昨日まで勝手に思い込んでいたが……どうやら見当違い。結局はダッジ隊長もここに集まる変態達と同じだった――。

「隊長の戦いなんて見た事ないよ!」
「隊長はSSSランクだから当たり前に強い。しかもドラシエル王国のSSSランクの中でも最強らしいからね。ルカとどんな勝負になるか楽しみしかないよ」

 不意にクレーグのそんな言葉が聞こえた。

「なんと、まさかSSSランクの中でも最強とは……。それはマスターよりも強いという事か? 何とも恐ろしい」

 思わず自分の心の声が駄々洩れた。そしてジークがそれに反応している。

<フハハハハ! これは今までで1番の実力者。楽しみだなルカよ>

 ジークもダッジ隊長の実力を認めた様だ。あのジークが今までで1番だと言ったんだから間違いないだろう……。これは本当に嫌だ。

 だがここだけは譲れない。隊長を倒して俺は絶対にオロチをぶっ飛ばしに行くからな。しかも隊長は俺が勝てば特殊隊でサポートするとまで言った。それは正直滅茶苦茶有り難い。オロチの実力が分からない以上、皆が付いて来てくれるならかなり心強いからな。

「――そろそろ始めようか」
「はい……お願いします!」

 こうして、ダッジ隊長の決闘が始まった。

「行くぞジーク!」
<ああ>

 俺とジークは最初から全開。相手が王国最強と言われているならば当然だ。抜いたゼロフリードに魔力を注ぎ込みながらダッジ隊長に魔法を放った。

「“プロメテウス”!」
「“シールドロック”」

 高火力の炎を放った俺に対し、ダッジ隊長は土魔法で大きな岩を繰り出し炎を打ち消した。だが俺は続けざまに雷魔法を連続で撃ち込む。

「“ロックメテオ”……!」

 ダッジ隊長は俺の雷魔法も全て防ぎきると同時に、出していた岩に炎を纏わせ弾丸の如く放ってきた。

 ――ズガン!ズガン!ズガン!
「凄い威力だ……」

 飛んでくる炎の岩を避けながら、俺は避け切れない分を剣で打ち落とした。そして最後の1発を剣で防ぎダッジ隊長に攻撃を仕掛けようとした刹那、既に隊長が俺の背後で剣を振りかざしていた。

 ――ガキィィンッ!
「ほぉ……」
 
 間一髪反応した俺は何とかダッジ隊長の剣を受け止めた。

「お前も珍しい剣を持っているな」
「……!」

  ダッジ隊長と鍔迫り合っていると、ダッジ隊長の持つ深紅の剣がどんどん俺の魔力を吸い込んでいた。

<コイツの吸い込みは次元が違う。距離を取れ>
「分かった……“トール・サンダー”!」

 俺は大きな雷を放ち、僅かに意識が逸れた瞬間ダッジ隊長と距離を取った。しかし、一瞬たりとも休む間を与えてくれないのか、ダッジ隊長は自身が扱えるという全種類の魔法を一斉に放ってきた。

「“アイスドラゴン”、“ロックスネーク”、“フレイムジャッカル”、“エアロバード”、“ライトニングキメラ”――」
「なッ……⁉」
<面白い!>

 間違いなくこれまでに俺が戦った中で最強の相手……。1発1発の威力がある事は勿論、狙いもタイミングも全て抜群。一瞬でも判断が遅れれば命取りだ。しかも放ってくる属性の種類が多いいから的を絞りにくい。確実なダメージを与えるには一苦労だぞこれは。

「なぁジーク、ダッジ隊長とんでもなく強いぞ。どうする?」
<確かにな。間違いなく今までの中で1番だ。だが……それがイコール負ける理由にはならぬな――>
「ああ。ダッジ隊長倒して、全てを終わらせに行くぞジーク――!」

 怒涛の攻撃を繰り出すダッジ隊長に対し、俺はドラゴン化で全ての攻撃を掻い潜りながらダッジ隊長との距離を少しづつ詰めていった。そして互いの間合いに入った瞬間、俺は再びゼロフリードに渾身の魔力を込めて振り下ろした。

 ――ガキィィン!
「吸い尽くせ……“ダークサキュバス”」

 俺の剣とダッジ隊長の剣がぶつかり合った瞬間、再び魔力がどんどんダッジ隊長の剣に吸われ始めた。



 ここだ――!



「……⁉」



 魔力が吸われ始めた刹那、俺はそのまま手にしていた剣をパッと離し、予め攻撃魔法を放つ準備をしておいたもう一方の腕で、僅かに反応が遅れたダッジ隊長の体に勢いよく撃ち込んだ――。

「“竜神の全撃(ドラファクト)”!」

 俺の放った攻撃はダッジ隊長を捉え、その屈強な肉体を訓練場の端の壁まで瞬く間にぶっ飛ばした。

 ダッジ隊長は壁がめり込む程の勢いで衝突し、僅かに意識を保ちながら体を動かそうとしたが、次の瞬間そのまま地面に静かに崩れていった。

<終わったな。まさかここまでとは>
「本当だよ……。ダッジ隊長以外、今の攻撃を受け切れるSSSランク冒険者はいないだろうな。一瞬立ち上がってこようとしてたし……」

 そんなこんなで、俺とダッジ隊長の決闘は無事終わったのだった。

「――凄い戦い……」
「ルカも化け物だがダッジ隊長も化け物だったぞ」
「ニクス、隊長を頼めるかな?」
「任せて下さい! 私の聖霊魔法で治します」

 そう言ってニクスはダッジ隊長に優しく聖霊魔法を掛け、傷が癒えていくと共にダッジ隊長は意識を取り戻した。それを見て周りにいた皆も集まって来る。

「……どうやらやられたみたいだな……。見事な実力だったぞ、ルカ」
「ありがとうございます隊長」
「とんでもない決闘だったな!」
「まさかダッジ隊長が撒けるとは。いやはや、恐れ入ったよ……」
「お疲れ様、ルカ君。また一段と強くなった様だね」
「あ、あの! これで俺オロチの討伐に行ってもいいんですよねダッジ隊長……!」

 皆は今の俺とダッジ隊長の決闘を称えてくれたが、この戦いの真の目的はオロチの討伐許可。意識が戻って直ぐで申し訳なかったが、俺は焦る気持ちを抑えられずに聞いてしまった。

「そう慌てるなルカ……。勝負はお前の勝ち。約束通り、オロチの討伐に“行く”ぞ。しっかり準備をしておけ」
「え、行くぞってもしかして……」
「当然、特殊隊総員で行くぞ。サポートの約束もしたからな――」
「ダッジ隊長……」

 隊長はそう言い、皆にもその旨を伝えた。こうして俺達は、晴れて3日後に再度集まる事が決まった。

 目的は勿論オロチの討伐――。

 この3日間は各自準備や束の間の休息を取ったのだった――。
~冒険者ギルド~

 束の間……と言うより、下手したら“最後”となるかもしれない3日間の休息を得た俺とレベッカは、久しぶりに自分の家に向かいながら冒険者ギルドにも顔を出した。

「――あれ、ルカじゃねぇか」
「おー、久しぶりだね! 元気にしてた?」
「お久しぶりですルカさん!レベッカさん!」

 俺達に気付くなり、現マスターのフリードさんや受付のマリアちゃんが元気よく声を掛けてくれた。しかもタイミング良くジャックさんもいるじゃないか。皆元気そうで何よりだ。

「ご無沙汰してます」
「お前帰って来るなら連絡しろよな」
「ハハハ、すみません。急に休みが取れたので」
「まぁ丁度良かったぜ。俺これからクエスト依頼で1週間ぐらい街離れるからよ、鍵渡しておくぜ。帰る時は受付の彼女に渡しておいてくれ」
「本当にありがとうございます。分かりました。マリアちゃんにあずけておきますね」
「ああ。じゃあ俺行くからよ。また帰ったらゆっくり話そうぜ」

 そう言ってジャックさんはギルドを後にした。

 良かった……。もしかしたら最後になるかもしれないから、ジャックさんとも入れ違いにならなくて本当に良かった。ジャックさんにはお礼をしてもし切れない程恩があるからな……。

 こんな俺をずっと見守っていてくれて、ありがとうございましたジャックさん――。

♢♦♢

~霊園~

 家に向かう前に、俺は母さんの墓参りに来た。
 レベッカに鍵を渡して先に帰って休んでくれと言ったが、一緒に来てくれると言ってくれたので2人で来た。

 母さんの墓参りに誰かと行くなんて初めてだな――。


―――――――――――――――――――――――――     
 『X.X.X ~エミリオ・リルガーデン永眠~ 』
―――――――――――――――――――――――――   


 俺は買ってきた花を供え、墓の前で手を合わせた。
 レベッカも同じ様に手を合わせてくれている。

 母さん久しぶり……。たまにしか来れなくてごめん。でもさ、やっと全部が終わってゆっくり出来るかもしれないんだ。

 あれから本当に色々あったけど……俺はこうして色んな人に支えてもらって今日まで生きてこられたよ。だから俺は、そんな風に大切に思える皆を守りたい。母さんやジークを苦しめたオロチを倒すからさ。

 俺が絶対に全てを終わらせて、平和な世界にしてやるんだ。

 それに何より、今の俺には失いたくない1番大切な存在がいる。

 見守っててよ母さん――。

「わざわざありがとなレベッカ」
「ううん。私もルカのお母さんにお礼を言いたかったから」

 俺は別にどうなっても構わない。ただレベッカだけは何が何でも無事でいてほしい。

 墓参りを済ませた俺とレベッカは、久しぶりに一緒に街で買い物をしながら家に帰った。

~ルカの家~

「「ただいま」」

 無意識にレベッカと声が重なった。こんな何気ない事がとても大切でかけがえのない瞬間なんだと改めて感じるな。やっぱりレベッカだけは絶対に守りたい。

「なんか懐かしいねルカ」
「そうだな。しかもジャックさんが見てくれてるから部屋も綺麗だ」

 懐かしさに浸りながら、俺とレベッカはご飯の支度をしたりお風呂に入ったりと、以前ここで2人で暮らしていたのがつい昨日の事の様にも感じる。

 オロチを倒して……またレベッカとこんな暮らしが出来るかな……。って言うかしたいなぁ。さっき母さんの墓の前でふと言ったけど、何時からかレベッカは俺の中で1番大切な存在になっている。

 何時からだろう。自分でも明確には分からないけど、多分初めて会った時から俺は……「――ルカ!」

 そんな事をボーっと思っていた次の瞬間、レベッカが俺の名前を呼んだ。ただそれだけの事なのに、レベッカの事を考えていたからドキッとしてしまった。

「ど、どうした?」
「うんちょっとね……。話したいなぁと思って。部屋入ってもいい?」
「ああ、勿論」

 俺が自分の部屋でレベッカの事を考えていると、まさかの本人が来た挙句に俺の横に座ってきた。何故だか勝手に意識して心臓の動きが速い。

「いよいよオロチと戦うんだよね……。なんか実感ないなぁ」
「そうだな。奴を見た事もないし実力も定かじゃない。流石にちょっと不安があるよ」
「え、ルカでも不安になる事あるんだね。そんなに強いのに。今回も全然余裕なのかと思ってた」
「俺を何だと思ってるんだよ。普通に不安も心配もあるよ。
「フフフ。そうなんだね。それは失礼しました。でもさ……今回はちょっと怖いよ。ジークちゃんを封印して王国をモンスター達に襲わせる様な相手だもん……。ちゃんと皆で無事に帰れるよね?」

 レベッカが心配になるのも無理はない。他の皆もそう思っているだろう。なにせ相手はあのオロチだからな。どれ程危ない奴なんだろう……。

「もし怖いなら辞めたっていいんだぞ。強制じゃないんだから」
「違うの! 確かに怖いけど、ルカや特殊隊の皆がいるなら心強くて大丈夫。ただ……もしかしたら、その……“最後”かもしれないって思ったから……」
「レベッカ……。え……ッ⁉」

 次の瞬間、横に座っていたレベッカが俺に抱きついてきた。突然の事に反応出来なかった俺は支えきれず、腰かけていたベッドに倒れ込んだ。

 ある意味押し倒された様な体勢になっている為、横たわる俺の上にレベッカが覆いかぶさっており更に鼓動が速くなったのが分かった。

「ど、ど、どうしたレベッカ……」

 俺の上で俯くレベッカを見ると、彼女はその大きな瞳に薄っすらと涙を浮かべていた。
 
「レベッカ?」
「ルカ……私ルカが好き……。だから……最後かもしれないから……私を、抱いてほしい……」

 思考停止――。

 は? ちょっと待て……。今俺の事“好き”って言ったか……?レベッカが? しかも……だ、抱いてほしいって……聞き間違い……とかじゃないよな……?

 待て待てヤバいぞ。何か自分の中で堪えていた感情が一気に抑えきれなくなった――。

「あ、ち、違うの! ううん……違う事はないんだけど、ご、ごめんねルカ!今の忘れて……ッ! 何か急に口走っちゃってッ……『――ギュッ……』

 気が付けば俺はレベッカを抱きしめていた。


「レベッカ。俺はレベッカの事が大好きだ。今までハッキリ伝えられなくてごめん……。自分の気持ちをどうやって伝えればいいか分からないけど……。


レベッカ、俺と結婚して下さい――」
「……!」

 細かい事や色々な段取が滅茶苦茶な事は分かってる。でもこれが俺の本
当の気持ちだ。

恥ずかし過ぎて顔は勿論見れないし勢いで自分から抱きしめたけど、恥ずかし過ぎて心臓がバクバクだ……。しかもレベッカからするいい香りとこの体勢のせいで理性が飛びそう。

「――フフフ。ルカの心臓の音が凄くよく聞こえる」
「あ、ああまぁな……。人生で1番緊張してるだろうから」

 笑いながらそう言うと、レベッカは顔を上げ超近距離でこう言った。

「ルカ。私で良ければお願いします――」
「……!」

 俺が突然したプロポーズに対して、返ってきたレベッカの言葉がそれだった。少し恥じらいながら言うレベッカの顔が何とも言えない可愛さだと思った刹那、レベッカが「大好き」と軽く俺にキスをした――。


 その瞬間、俺の理性は何処かへぶっ飛んだ――。


「ごめんレベッカ。もう我慢出来ない……。レベッカの全てが欲しい」

 この状況で手を出さない男が世界中のどこかに存在するのだろうか? 仮にいたとしても、俺にはもう無理だ。

「うん……。私もルカが欲しい――」

 こうして、俺とレベッカはそのまま愛し合った。

 珍しくぐっすりと眠れ、俺達が起きたのは昼近く。

 目覚めると直ぐ側に最愛の人がいて、俺はとても幸せな気持ちだった――。

 そして……。

 遂に3日後のオロチ討伐の日を迎えた――。
♢♦♢

 オロチ討伐任務当日――。

 遂に迎えた出発の日の朝、特殊隊にはダッジ隊長、クレーグ副隊長、ヴァン、リリィ、ジルフ、ピノ、エレナ、ジェニー、ニクス、そしてレベッカと俺……。皆が集まっていた。

「――全員で生きて帰るぞ」

 ダッジ隊長の命令はこの一言だけだった。しかしここにいる全員が同じ気持ちだった。

「それじゃあ行こうか皆」
「「はい!」」

 俺達は他の隊からの情報通り、オロチが潜伏しているペトラ遺跡へと向かった。

 オロチを討伐すると正式に決まってから、この限られた時間の中でクレーグとニクスがペトラ遺跡を今一度細かく調査してくれていた。そしてその調査により、オロチのいるペトラ遺跡の最深部へと繋がる道を3つ見つけたとの事。

 全員で同じルートで向かおうと言う意見もあったが、万が一にも全滅は避けようと、力は分散されるが3つの隊を編成して進もうという事になった。確かに1つ1つの力は分散されてしまうが、逆にあらゆる事を想定して臨機応変に動く事も出来る。

 1番隊はダッジ隊長、ヴァン、エレナ、ジェニーの4人。
 2番隊はクレーグ副隊長、リリィ、ジルフ、ピノの4人。
 そして3番隊が俺、レベッカ、ニクスの3人。

 俺達は順調に進んで行き、作戦通り一旦別れる事になった。 

「――気を付けろよ」
「了解!」
「雑魚モンスター1匹として出てこなかったなここまで」

 そう。
 既に俺達はオロチのテリトリーに入っているのだろう。このペトラ遺跡に来てからというもの、1度たりともモンスターと遭遇していない。それにここ来た時から異様な空気感みたいなものがずっと漂っている――。

「じゃあ後でね。常に皆の行動は把握し合おう。何かあったら直ぐに連絡。いいね?」
「ああ」

 ダッジ隊長達1番隊は北ルート。
 クレーグ達2番隊は西ルート。
 俺達3番隊は東ルートから最深部を目指す。

<全員微塵の油断もするな。相手はあのオロチ……。此処が奴のテリトリーである以上、最早我らは奴の掌の上に乗せられたも同然だ。死にたくなければ奴の策略を耐え、少ないチャンスを確実にものにしろ――>

 ジークが皆にそう言った。
 そして、今の言葉の重みを感じ取った全員が今一度全神経を張り巡らせた。

「行くぞ――」
「「はい!!」」

♢♦♢

~ペトラ遺跡・東ルート~

 皆と別れた俺達3番隊は、ペトラ遺跡の東ルートからオロチのいる森の最深部を目指す。

「不気味な空気ですね……。あちこちで変な魔力を感じます。皆さん大丈夫でしょうか……」
「心配するな。皆強いんだから大丈夫さ。それに何があっても絶対俺が皆を守る」
「ルカ、ニクス。必ず皆で一緒に帰るよ!」
「一気に奴の所に行くか――」

 俺はドラゴン化し、レベッカとニクスを何時の如く背に乗せながら一気に突き進んだ。

 正直、皆で色々な作戦を考えたが……俺1人の方がある意味動きやすくもある。それに皆に危険が及ぶぐらいなら最初から1人がいい。だけど今更俺がそんな事を言ったところで誰も聞かないし納得してくれない。だからこそ、俺は皆に悟られない様今回の作戦へと促した。

 本音を言えばレベッカとニクスを遠ざけておきたかったけど、最早誰が何処にいても危険だ。ならいっその事俺の側にいてくれれば必ず守る事が出来る。

 俺の背に乗り皆で一気にオロチの所へ行くという案も勿論出たが、それこそ一網打尽となったら取り返しが付かないと却下になった。だけどそれで良かっただろう。

 辺りに得体の知れない強い魔力が数多く存在しているが、小隊を組んでいる今の状態なら何とか乗り切れる筈だ……。

<――この匂い……。間違いなく“奴”だな……>

 森を進んでいる中、嗅いだことのない匂いが充満していたが、ジークが遠い記憶の中から確かにオロチの匂いを感じ取った。そこから一直線にオロチの匂いを辿った俺達は、遂に森の最深部であるペトラ遺跡に着いた。

 深い森の奥。
 ここの辺り一帯だけが木々ではなく岩が多く転がっている。静かな森の中でも更に無音に近い静けさに包まれる中、何処からか透き通るような声が響いてきた――。








『――久しぶり。ジークリート』








 気が付けば、俺達は声のした方向に視線を移していた。

<オロチ――>

 俺達の視線の先……そこには白銀の髪を靡かせた色白い肌の美しい青年が大きな岩の上に立っていた。

「お前が……オロチ……」

 初めて見た奴の姿。
 想像とはとてもかけ離れたその姿に一瞬戸惑ったが、次の瞬間には俺の全身は怒りと殺意で溢れ返った。

 感じた事の無い憎悪のエネルギー。

 自分の体が可笑しくなりそうな程全身から迸っていたのは、紛れもなくオロチへ向けられたジークの感情であった――。

『フフフフ、まさか本当に人間の中にいるとはね、ジークリート!
面白いねぇ。全モンスターのトップである竜神王ともあろう者が、余りに滑稽で無様な姿じゃあないか! ハッハッハッハッ!』

 今にでも飛び掛かる勢いかと思ったが、ジークは剥き出しの感情とは裏腹に、意外にも冷静だった。

<奴のペースには乗らん。全力で行くぞルカ――!>
「当たり前だ!」

 俺は迸る感情を全て魔力に乗せ、ゼロフリードにありったけの魔力を注ぎ込む。

「私達も行くよニクス!」
「はい! 出し惜しみなくフルスロットルで行くわ……“フェニックス・プロテクション”!」

 ニクスが繰り出した聖霊魔法により俺達に防御壁が張られた。続けてレベッカもオロチ目掛けて先制攻撃を放つ――。

「“アイスド・ロスト”!」

 レベッカの凍てつく氷魔法が瞬時にオロチと足元にあった大きな岩を凍らせた。

 一瞬決まったと思った刹那、凍らされた筈のオロチの眼球がギョロっと動き、奴はレベッカの氷を凄まじい威力の青い炎で消し飛ばした。

 ――ブオォォォン!
『弱いよ』

 青い炎で氷を消したオロチはその場から1歩も動かず余裕の笑みを浮かべた。だが俺はレベッカが攻撃を繰り出したと同時、一気にオロチとの距離を詰め既に奴目掛けてゼロフリードを振り下ろしている――。

『だから弱いし遅いよ』
「……!」

 完全に背後から攻撃したにも関わらず、オロチは全く後ろを振り返ることなく俺の剣を躱した。

「マジかよコイツ」
「想像以上の強さですね……」
『君達の小さな想像の中に私を入れないでくれるかな。何か面白いものが見れるかと思ったけど……やっぱりジークリート以外邪魔だね』
「「……ッ⁉」」

 オロチがそう言った次の瞬間、レベッカとニクスが突如吹っ飛び岩に叩きつけられた。

「キャッ……!!」
「ゔッ……!!」
「レベッカ!ニクス!」

 岩に叩きつけられた2人はそのまま地面に倒れ込んだ。幸い意識はある様だが結構なダメージを受けたらしい。中々立てずにいるが、もしニクスの防御壁がなければ最悪な事態になっていたかもしれない……。

『ジークリート……じゃなくて、人間の君は確かルカ……だったかな?あの2人の命が欲しいなら勝手に動くんじゃない。私はジークリートに用があるんだ』
「テメェ……ッ!」
<落ち着けルカ。レベッカもニクスも大丈夫だ>
「くそッ。ジークと何を話す気か知らねぇが、その前に俺が倒してやる!」

 俺は再びゼロフリードを構え奴に飛び込もうとした瞬間、オロチが大笑いをした。

『フフッ……ハ~ハッハッハッハッ!私を倒すだって? 君が? 笑わせないでくれよ! そこにいるジークリートでさえ私に勝てなかったと言うのに!』

 笑いたいだけ笑ってろ。
 俺とジークは絶対お前を倒してやるからな――。

<ルカ。此処の広さなら全く問題ないだろう。何時もの“抑えた”ドラゴン化ではなく、我と最初に出会った時の我の“完全体”の姿になれ。オロチを倒すぞ――!>

 ジークの言葉に、あの時の出来事が一気にフラッシュバックした。

 初めてジークを召喚したあの日、モンスター軍を払いのけようと俺は“竜神王ジークリート”の姿に変化したんだよな……。

 こんな状況なのに懐かしさに浸りそうだ。

「ああ、分かったよジーク」

 俺は魔力を一気に解放し、あの時以来となる竜神王ジークリートの姿に変化した――。



















<(……エミリオ。我のプライドに懸けて、主との“約束”は守り通す――)>




 ルカ達が東ルートを進み始めた一方で、ダッジ隊長率いる1番隊とクレーグ副隊長率いる2番隊はそれぞれ自分達のルートでとある事が起きていた――。

♢♦♢
 
~ペトラ遺跡・西ルート~

「モンスター1体出ないなんてやっぱ異常だよな」
「そうね。少ないなら未だしも、全く出てこないなんて有り得ないわ」
「既にオロチのテリトリーって事さ。周囲への警戒を怠らないでね。何時でも動ける様に」

 西ルートを行くクレーグ達。

 通常ならモンスターの1匹でも遭遇するのが当たり前であるが、ここまで全く遭遇しない事に皆が奇妙に思っていた。それと同時に、この異様さが嫌でも緊張感を生み出し、常に神経が研ぎ澄まされていた。
 
 クレーグ達2番隊が西ルートを暫く進むと、ジルフが静かに口を開いた――。

「……向こう……。此処から30m先にモンスターの魔力を感知した……」

 自分達の周りの広範囲を魔力感知していたジルフのセンサーに、遂に初めてのモンスターの魔力が感知された。そして次の瞬間、森の奥から物音が聞こえてくる。

「何だろう……」

 バキバキと草木の音が次第に近づいてきているのを感じ、全員が一斉に戦闘態勢に入った。

「来る……」
『グオォォォ!』 

 ジルフがそう言った刹那、クレーグ達の前に見た事もないモンスターが現れた。

「何だコイツ……!」
「ひょっとして“キメラ”か⁉」

 クレーグ達の前に現れたモンスターは獅子の様な頭部が2つあり、四足歩行の体と脚は、まるで様々なモンスターを縫合したかの様な異質なな姿であった。

 熊のような右前脚に鳥のような左前脚。後ろ脚の2つも何のモンスターかは分からないがそれぞれ違うもの。尾は蛇のように動いており、明らかに異質な存在。正確な正体は分からないが、恐らくクレーグの言うキメラに1番見た目は近いだろう。

「こんなキメラいるの……?」
「いや。コレは見た事がない。そもそもキメラかどうかも定かじゃないよね」
「今はそんな事よりコイツに集中しないと!」
「……“バフ”……“シールド”」

 キメラの強い魔力を感じ取ったジルフは皆に付与魔法を掛けた。これで身体強化と魔力増幅が施され、更にジルフは1人1人にダメージ軽減の防御壁を張った。

「強いわねこのモンスター。私が奴の注意を引きつけるから、その隙に仕留めて! 悪いけど何時もより早めにお願いね……!」

 そう言ってリリィは特殊適性である“超磁場”を発動させながらキメラに攻撃を仕掛けた。

 リリィの超磁場は範囲の敵や物を自在に引き寄せたり反発させる能力を持っている。相手を攪乱させるには持ってこいの能力だろう。勿論リリィも実力者であり相当の場数を踏んでいるが、何処か自信がなさそうなリリィを見るのは特殊隊の仲間でも初めてであった。

「“マグネットエリア”」

 リリィが超磁場を利用した魔法によって凄い速さでキメラの周りを動き回ると、それに反応したキメラがリリィを視界に捉えた。攻撃しようと鋭い鉤爪のある前脚を動かそうとしたが、リリィの力によって動きが極端に遅くなっていた。

 攻撃を余裕で躱したリリィはそのままキメラの注意を引きつけ、その生まれた隙を突きクレーグ、ピノ、ジルフの3人が一斉に攻撃を放った。

「“アクアインパクト”!」
「“メタルアーチー”!」
「……“フレイム・ボルト”……!」

 ――ズシャァァァンッ!
『ヴオォォォッ……⁉』


♢♦♢

~北ルート~

「――初めて見るモンスターだなコレは」これははじめてみる魔獣だな」
「何だコイツ!」
「声デカいわよヴァン」
「うわぁ……」

 北ルートから最深部を目指していたダッジ隊長率いる1番隊。
 西ルートでクレーグ達が異質なモンスターと遭遇したとほぼ同時刻。ダッジ隊長達もモンスターを視界に捉えていた。

 それも上空数メートル上で――。

『ギギャァァ!』
「マジで何だよコイツ! 面白い見た目してるなー!」

 ダッジ隊長が見上げる視線の先には、鋭い牙を生やした人間の様な頭部と上半身に鱗の様なものを纏い、下半身は完全に鳥。上半身から生える両腕は大きな翼と化しており、その漆黒の翼をバサバサと羽ばたかせながら飛んでいた。

「あれってハーピィとか言う奴……?」
「本当にいるのそんなモンスターって」
「目撃情報は極めて少ないが、ハーピィ自体は存在する。だが、アレは何か訳が違うだろう――」

 ダッジ隊長の読みは当たっていた。
 この世界に確かにハーピィというよく似たモンスターが存在するが、今ダッジ隊長達の目の前にいるこれは明らかに異質で姿形である。

 ハーピィは本来人間と同じぐらいのサイズであるが、コイツは人間の大きさを遥かに凌ぐサイズ。巨体のダッジ隊長ですら小さく見えるこのハーピィの存在は有り得ない。しかもハーピィはAランク指定のモンスターにも関わらず、ここにいる奴は間違いなくSランク以上の魔力の強さだった。

 思わずヴァン達も空中を舞う異質な巨体ハーピィに視線を奪われ言葉を失っていた。

「此処からでも攻撃は出来るが致命傷は難しいな。エレナ、俺が風で飛ばしてやるから仕留めて来い。もしくはあの翼を使えなくして下に叩き落せ」
「えー!私ですか⁉了解!」

 何故一瞬嫌がる素振りを見せたか分からないが、好戦的なエレナは言わずもがなやる気満々だ。

「頼むぞ」

 エレナの特殊適性である“格闘の極み”は、皆の様に剣や槍など武器こそ使わないがその能力によって既に打撃が武器の威力を凌駕する程――。

 ダッジ隊長の風魔法によって空中へ飛んだエレナは、練り上げた魔力を足へと集中させ、ハーピィ目掛け空中で旋回し鋭い回し蹴りを繰り出した。

「近くで見るとよりデカいわね……“レッグスラッシュ”!」

 ――シュバンッ!
『ギッ……⁉』
「落ちるよ皆ー!」

 繰り出されたエレナの回し蹴りは、まるで剣で一刀両断するかの如くハーピィの両翼を切断したのだった。激しい血飛沫と共に甲高い呻き声を上げながらハーピィは地上へと落下していく。

「もらったぁぁ! 追加で食らいやがれハーピィ!炎魔法、“ファイア”!」

 落下していく空中で、体勢を立て直せないハーピィ目掛けてヴァンが灼熱の炎で攻撃した。

 ――ボオォォォン!
『ギギャャャ……!!』

 両翼を切断され全身火傷状態となったハーピィそのまま勢いよく地面に叩きつけられた。エレナとヴァンの連続攻撃でかなりのダメージを負わせたが、倒しきるまでに至らない。攻撃を食らい怒り狂ったハーピィは魔力を高め暴れ出してしまった。

「うわ、仕留め切れなかったか。滅茶苦茶怒ってるし!」
「ジェニー、ヴァン。2人で攻撃をし続けろ。俺とエレナで止めを刺しにいく」
「OK!」
「次で確実に息の根を止めてやるわ!」

 ダッジ隊長の指示により、ヴァンとジェニーは距離を取った位置からハーピィに攻撃を放ち続ける。そして剣を抜いたダッジ隊長とエレナは2人の攻撃を援護にハーピィを仕留めに掛かった――。

♢♦♢

~ペトラ遺跡・最深部~

 森の奥深く……。
 薄暗いこの場所で、一際神秘的な輝きを放つ1人の美しい青年がいた。

『――フフフフ。どうやら来たみたいだねジークリート……。君を殺しぞびれた2000年前から、私がどれ程この日を待ちわびただろうか。
あの時の私では僅かに君に力が及ばなかった……。
人間を利用してまで君を封印した時は何とも言えぬ高揚感に包まれたが、時が経てば経つ程……君への思いが強くなっていったよジークリート。

私は後悔している。君を封印しただけでは満足出来ない。やはり君を殺したいんだ。私自らね。

さぁ、存分に楽しもうじゃないかぁジークリートよ――』