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 ヴァンとリリィが長期の任務から戻って来たという事で、今日は皆で少しだけ豪華な食事をとる事になった。皆で集まって食べる食事はとても楽しくて賑やかだった。

「――ふぅ~、腹いっぱいだもう」
「そう言えば任務はどんな感じだったの?」

 食事も終え、皆がそれぞれが和気あいあいと話してた。
 ピノが何気なくヴァンと話し始めると、そこにクレーグさんも加わり、不意に俺の耳にも届いてきた。

「そうだね。結局“奴”はいたのかい?」
「ああ。直接見た訳じゃないけど、やっぱドラシエル王国の何処かにいるみたいだな。3年前王国を襲ったモンスター軍も“そいつの仕業”だろう――」

 ヴァンの言葉に、俺は思わず耳を疑った――。
 3年前のモンスター軍……? それって、母さんを殺したあのモンスター軍の襲撃の事か……?

「ヴァ、ヴァン……! その話、俺にも詳しく聞かせてくれないか!」

 反射的にもう声を掛けていた。でもコレだけは聞き逃せない。あのモンスター軍襲撃が自然災害ではなく“故意的”なものだと言ってる様なら尚更だ。

「どうしたんだよ急に」
「ルカは王都に住んでたから」
「何?まさか3年前の被害者か?もしかしてあの時のドラゴンって……」

 ヴァンを始め、いつの間にか皆が話を聞いていた。

「そうです。俺は3年前のモンスター軍によって、唯一の家族だった母さんを殺された……。そして俺もモンスターに襲われ、死にかけた時にジークと出会ったんだ」
「成程な……。勿論お前も話を聞くのは構わない。だが、本当大丈夫だろうな?」
「ああ。俺にも真実を教えてほしい――」

 ヴァンなりの気遣いだろう。俺に改めて確認をすると、ヴァンは口を開き話し始めた。

 その話によると……ヴァンとリリィはそもそも、以前からモンスター軍の襲撃の原因をずっと調べていたらしい。勿論それだけではなく、他にも俺達と同じ様に別の任務もこなしていたが、以前のルージュドラゴンの件がきっかけで、またモンスター軍の調査をし始めたとの事だ。

 理由はルージュドラゴンが出現したきっかけである魔石。本来であればそこにある筈の無い魔石が存在していた事に、ヴァンやリリィやダッジ隊長などが気になった事が始まりだ。

 そして調査で分かったのは、過去にこの魔石の発見された場所が2ヵ所存在していたという事。1ヵ所は別の大陸の王国。そしてもう1ヵ所が辺境の島にある採掘場であった――。

 ヴァンとリリィはその情報を元に辺境の島の収容所で調査を続けると、そこで忽然と姿を消したグレイ達の事と“白銀の人”を見掛けたという情報を掴んだらしい。

「このグレイって奴らがお前の元パーティなんだってなルカ」
「あ、まぁ……。思い出したくもないけど。それって何か関係が?」
「どうだろうな。まだ決定打には欠けるが、そもそもあの収容所からグレイ達が脱獄するの不可能だ。聞いた限りだとそんな実力もないだろ?それにあそこから逃げた奴なんて聞いた事ない」
「そうね。あそこは重罪人が飛ばされる危険な場所。ある意味王国で1番厳重な警備と管理をしているからね」

 ヴァンとリリィがそこまで言うのなら、やはり収容所とから脱獄するのは不可能なのだろう。でもだったら何であのグレイ達が……。
 
「そういう事だ。それに気になるのはもう1つのほう――。
グレイ達が消えた日の真夜中、収容所の周囲を見回りしていた警備の者がすぐ側の森林の一角で、何やら白く光る様なものを一瞬見掛けたらしい。

当然収容所からは距離もあったし、辺りは暗闇同然。見えたのも一瞬だからその時は気にしていなかったらしいが、それから約3時間後……。もうすぐ夜が明けると言う時に、森の奥から叫び声の様な音が聞こえたと警備の者が言っていた。
しかもこれは1人じゃなく他にも数人が同じ声を聞いている。

そして更に気になるのはここから……。
警備の者達が声を聞いたと言う時間から僅か数分後の時刻に、収容所から姿を消した筈のグレイとよく似た人物が“ペトラ遺跡”で目撃されているんだ――」

 ペトラ遺跡で……? いや、待て……。そもそも収容所からペトラ遺跡って……。

「“普通”なら有り得ないね」

 俺が思った事をクレーグが一足早く口にした。

 そう。
 今いった通り、もしグレイならば有り得ない話だ……。収容所のある辺境の島からペトラ遺跡までなんて普通に移動したら丸5日は掛かる距離。俺やニクスみたいに飛べるか、バロさんの様な特殊な魔法でも使えれば話は別だが、グレイは当然そんな魔法持っていない。

「それって、本当にグレイなの?」
「俺とリリィもそう思ったよ。だから収容所での話もあったし、国王に報告して極秘で森林を調べたんだ。
そうしたらグレイ達がしていた魔力封じの鎖が森の奥で発見された。4つ壊された状態でね」

 マジかよ……。本当にアイツらなのか……。

「しかも、そこから3つの足跡が山道を続いていてね、暫く進んだところでその3つの足跡がバラバラの方向に進んだ後、これまた突然足跡が途絶えたんだ……。
それに、足跡が途絶えた周辺には血も発見された。確認してみると、収容所からグレイと共にいなくなったラミア、ブラハム、ゴウキンという者達の血である事が確認された――」
「何それ……」
「どういう事だ……」

 俺は勿論、話を聞いている他の皆もいまいち理解出来ていない状況。

 無理もない。聞けば聞くほど奇妙な疑問ばかりが残る……。もうアイツらには同情する余地もないが、一体何があったんだ……?

「ヴァン。グレイはどうなったんだ?」

 一気に情報が溢れて頭が追い付かないが、取り敢えずラミア達の事は分かった。ならばグレイはどうなった?足跡が続いていたのが3つなら、グレイは何をして何処に行った……?

「ああ。そこもまた不可思議な部分だが、グレイと思われる足跡だけが、鎖が落ちていた場所から何も動いていなかったんだ……。
それどころか、そこにはグレイ達4人以外の“別の足跡”が1つだけ見つかってる。本当に不思議でしょうがないだろ?

しかもこれは国王団に所属する調査のエキスパート部隊が調べた結果らしいんだが、その別の人物の足跡が見つかった場所から、何か得体の知れない魔力の残り香を見つけたと言っていた。勿論正体は分からず終いだ。

そして肝心のグレイが目撃されたペトラ遺跡……。そこで調査をしていたら、目撃情報があった場所でグレイの足跡が確認された。森で見つかったものと同じだから間違いないと確証が出ている」

 もう何が起こってるのかさっぱりだ――。

 皆がこの不可思議な物語を聞いて頭を悩ませている。各自自分なりに整理しようとしているのか数秒の沈黙が生まれていた。

 そして、この沈黙を破ったのは他の誰でもないジークであった。


<――全ては“オロチ”であろう>


 その言葉に再び僅かな沈黙が生まれたが、クレーグが1人だけ驚いた表情を浮かべながら小さく「まさか……」と呟いた。

「オロチって……誰の事だよジーク。知ってるのかお前」
<知っているもなにも、我をハメて封印したのが奴だからな>
「「――⁉」」

 俺は勿論、他の皆もジークの言葉に驚いていた。そしてそれに加えてヴァンとリリィが更にこう言った。

「オロチって、ジークリートと同じドラゴンの事かひょっとして?」
<最早同じ種族と思いたくはないがな>
「サラッと凄い名前出たね……。オロチも有名な名前だし。本当にいるんだ」
<奴の仕業だと思えば合点がいく。裏でコソコソ動くのが得意だからな>
「成程な。今のを聞けば確かに不可思議な事も全て繋がるな。ルージュドラゴンもソイツの仕業か」
<だろうな。採掘場とかやらから盗んだんだろう。奴なら誰にも見つからずグレイ達を出す事も可能だ。白銀というのも見た目と一致する>
「ハハハハ!一旦戻ってきて正解だったなリリィ。思わぬ収穫だ」
「そうね。しかも3年前のモンスター軍の襲撃でも、そのオロチとか言う白銀の者の目撃情報がある。それも繋がるわね」

 様々な憶測や不可思議な点が一気に繋がっていく……。

 突如出てきたオロチという名と共に――。