召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

~グランマル街・冒険者ギルド~

「――ま、待ってッ!置いて行かないで!」
「うわッ、ビックリした……!」

 今しがた、寝ていた不死鳥ことフェニックスが突如大きな寝言を言った。その場にいた俺、レベッカ、キャンディスさんも皆驚いた。そりゃそうだろ。急に大きな声出したし、しかも今“喋った”よな……?

「お、おい……大丈夫か?」
「えッ⁉ こ、ここは……⁉」

 起きたフェニックスは混乱している様子。

 だが俺達も目の前のフェニックスのまさかの行動に混乱しているのは言うまでもない。洞窟で倒れていたこのフェニックスを見つけた俺達は、結界を破り一先ず回復魔法を掛けた。意外と傷だらけだったからそのまま眠らせておいたけど、今急に寝言言いながら起きた。

「お前言葉が話せるのか?」
「え?私ですか……?ええ一応……。正確には言葉というより念波によってそう聞こえてるのですが……。あの~、貴方達は一体……? 私はどうなるんでしょう?」

 フェニックスは何処か不安げな様子だ。

「ここはグランマルって言う街のギルドで、一応俺達は冒険者。任務でギガントオーク倒してたらさ、洞窟で倒れているお前を見つけたんだよ。
大丈夫、安心しろ。そんなに怖がることない。別に取って食ったりしないからさ」
「グ、グランマル……⁉ 私はそんな遠くまで来てしまっていたのか……」
「フェニックスさん、何があったの?」
「良かったら教えてくれないか? 困ってるみたいだし」
「え⁉ こ、こんな優しい方達がいるなんてッ……」

 そう言ったフェニックスは突如泣き始めた。

「ゔゔッ……ゔゔッ……! な、何か助けてもらったみたいで……本当にありがとうございますッ……! 私、私本当に困ってて、大変でッ……! 取り敢えず話しだけでも聞いてくれますか……!」

 余程の事があってここまで来たのだろう……。数秒前までとはまるで違う反応に一瞬戸惑ったが、俺達は勿論話を聞く事にした。

「まぁ落ち着けよ。話しなら聞く。寧ろ聞かせてくれ。俺の名前はルカ、宜しくな」
「ルカさんですね、はい! 私一生忘れません!そして私の名前はニクスです。宜しくお願いします!」

 さぞ嬉しかったのか、ニクスと名乗った目の前のフェニックスは、これまでの経緯を流暢に喋り出した。

「全ての始まりは、私達フェニックスが住むヨーハン遺跡を出てしまった事でした――」

 ニクス曰く、ニクスは不死鳥の聖霊でありながら、飛ぶ事が出来ずに他の仲間達から毎日馬鹿にされていたらしい。

 それでもニクスは懸命に頑張り飛ぶ練習をしていたのだが、今でも飛べるのは精々数メートル程。仲間達は馬鹿にする挙句、友達も出来ずに何時もニクスは1匹だった。

 そこへある日、何時も馬鹿にしてくる1匹のフェニックスがニクスに話し掛けて来た。また馬鹿にされると思ったニクスだが、その相手の言葉は思いがけないものだった。

「――おい、誰も友達いないなら外の世界に遊びに行こうぜ」

 突然の言葉にニクスは驚き戸惑ったが、初めてそんな言葉を掛けられてとても嬉しかったらしい。

 ヨーハン遺跡に住むフェニックス達は、長であるフェニックスから外の世界へ行くのはダメだと強く言われていたらしいが、嬉しかったニクスは誘ってきたもう1匹のフェニックスと一緒に言い付けを破ってしまった。

「でも、私は空飛べないから……」
「大丈夫だよ。歩いて行けるところだから」

 すっかり安心したニクスは遂にヨーハン遺跡を出た。
 初めてみる外の世界はとても素敵で刺激的だった。見るもの全てに目が奪われてしまう程に。

 だがニクスどこか外の世界に不安もあった為、ずっと仲間にくっ付いていたそうだ。そのまま暫く進んだニクス達。すると突如、仲間のフェニックスが見知らぬ土地でニクスを置いて羽ばたいてしまった――。

「え……⁉ ちょ、ちょっと待ってよ! 何処に行くの⁉」
「ハッハッハッ!やっぱ馬鹿だなお前! 本気で友達だとでも思ったのかよ。悔しかったら飛んでみろ!気が向いたらまた迎えに来てやるよ~」

 そう言われ、ニクスは本当にその場に置いて行かれてしまったとの事。

 外の世界は初めてで右も左も分からない。しかも飛べない上に、ニクスはフェニックス達聖霊が当たり前に使える“聖霊魔法”もまともに使えないらしい。

 ニクスは分からないながらも何となく来た方向を戻って山の中を彷徨ったが、そこで数人の男達に捕まってしまった。

「なんか珍しいモンスター捕まえたぞ!」
「何だコレ。見た事ねぇな」
「コイツ使って他のモンスターおびき寄せる餌に出来ねぇか?」
「おお、それは名案だ! だったら逃げ出さない様に首輪でも付けとくか。雷魔法で」
「間違いない。逃げ出したら電気流れる様にしておけ!あ、殺さない程度にな」

 こうしてニクスは男達がモンスターを狩る為の餌にされてしまった。男達の浅はかな思いつきが失敗に終われば良かったのだが、幸か不幸か、ニクスは結構モンスターをおびき寄せてしまったらしい。

 だからそれからはモンスターに食べられない様必死に逃げたとの事だ。

 毎日毎日モンスターの餌にさせられたが、もし全くモンスターをおびき寄せていなかったら直ぐに殺されていただろう。不幸中の幸いと言えば聞こえはいいが、ニクスにとって毎日が地獄であった……。

 そんな地獄が終わったのは1週間程前――。

 何時もの如く餌にさせられていたニクスであったが、この日おびき寄せたのがあのギガントオークとの事だ。しかもいきなり5体も現れた事によって、男達は顔面蒼白で逃げ出していったらしい。

 遂に男達から解放されたニクスであったが、これはこれでまた地獄。何時もならここで男達がモンスターを狩っていたが今回は違う。自分で逃げ切らないと今度はギガントオーク達に食べられると、ニクスはまた必死で逃げた。

 もう自分が何処にいるのかなんて全くわからない。ただただ食べられない様、逃げて逃げて逃げ抜いた……。その途中で首に付けられた首輪から何度も電気が放たれたが、懸命に耐えてひたすら走ったとの事……。

 そうして彷徨いボロボロになりながら見つけたのが、あの洞窟だったのだ。ギガントオークが何処まで追って来ているか分からない。当然男達の行方も。

 最早考えたくもなかったニクスは、最後の力を振り絞り、何十回に1回成功するかどうかの賭けの聖霊魔法で結界を張ったそうだ。そしてそのまま力尽きたのが最後の記憶だと――。



「……と言う感じで今に至ります。すみません、思った以上に長く話してしまって……」

 何も悪い事をしていないニクスは、俺達にまた申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 ――ギュッ……!
「もう大丈夫だからねニクス! 私達が守ってあげる!」

 ニクスの話を聞き終えた瞬間、レベッカがニクスをギュっと抱きしめた。気持ちは俺もキャンディスさんも一緒だ。

「ニクス、これからどうしたい?」

 俺はニクスに聞いた。
 こんな不思議な出会いも何かの縁。それに余りに酷い話だ。ニクスが帰りたいのならヨーハン遺跡とやらに行くつもりだし、望むならその男達に仕返しをしに行ってもいい。

 だがこれは最終的にはニクスが決める事。俺はただ出来る範囲で力を貸してあげたいと思った。

 暫く俯きながら考えていたニクスであったが、意志が固まったのか真っ直ぐ俺を見つめて言ってきた。

「あ、あのー、もし宜しければ……このままルカさん達のところに置いてもらえませんか――? 」
「「……!」」

 俺達はニクスの申し出に一瞬驚いて顔を見合わせたが、何故だろう……。気持ちは既にニクスを受け入れているのが分かった。

「俺のところに……?」
「は、はい! 助けて頂いた上に、突拍子もない事を言ってるのは承知です。ですが、私にはもう帰る場所がないです……!」

 確かに突拍子もない。これは予想外だけど。本当にその気なのか?

「ヨーハン遺跡が住処なんだろ? そこにも帰りたくないのか?」
「今お話した通り、戻ってもどうせ私は皆から馬鹿にされるだけですから」
「そうか……」

 俺が無意識のうちにニクスを受け入れていたのは、きっと以前の俺と重なる部分があったからかな……。何気なくレベッカを見ると、無言のまま静かに頷いてくれた。

「よし分かった!ニクス、俺達のところでいいなら好きなだけいてくれ――!」
「ほ、本当にッ……⁉ ありがとうございます! 本当にありがとうございます! 何も出来ませんが、出来る事は何でもやりますので!」
「何もしなくていいって別に」
「竜神王の次は美女、そして不死鳥まで仲間にするとは……。流石SSSランク」

 キャンディスさんが珍しく小声で呟いていたから、俺は思わず聞き逃した。何て言っていたのだろう……?まぁいいか。

「特殊隊の寮って聖霊いいのかな?」
「別に大丈夫なんじゃない? そこを気にする様な場所じゃないと思うけど……って、ちょっと失礼発言よね」

 まぁ確かに。ある意味聖霊より珍しい人の集まりだからな。

「すみません……。なんか早くも迷惑を掛けてしまっている様で……。私がちゃんと聖霊魔法を使えれば、一応人の姿にも変化出来るんですけど……」
<――ルカ。どうやらコイツ、レベッカと“同じタイプ”らしいぞ>

 急に会話に入ってくるなり意味深な事を言ったジーク。

「どういう事?」 
<ニクスとか言う奴も魔力が多いんだ。だからコントロール出来ていない。レベッカ、ニクスの魔力を吸ってやれ>
「え、うん、分かった」

 戸惑いつつもレベッカはジークに言われた通りニクスの魔力を吸い始めた。すると、明らかにニクスの調子が良くなった。

「あれ……? 何だか体が軽いです。今まで以上にしっかり魔力も感じます」
「へぇ、本当に魔力コントロール出来ていなかっただけなのか」
<ハッハッハッ。こりゃ互いに互いを使えるいい訓練相手だ>

 直ぐそこに行き着く発想が恐ろしいなコイツ。

<今なら主でもコントロール出来る筈だ。魔法出してみろ>
「え、本当ですか⁉ って言うかさっきから聞こえるこの声の方は……?」

 ジークを知らないニクスは辺りをキョロキョロ見渡しているが、当然ジークの姿を見つけられない。ニクスがそんな事をしていると、ジークが<早くやれ>と煽った為、戸惑いつつニクスは魔法を使った。

「“不死の加護(ホーリー)”」

 ニクスが部屋に置かれていた花瓶の花に向けて魔法を出すと、枯れていた数本の花がみるみるうちに色鮮やかに花を咲かせ、他の花もよりピンと茎が伸び綺麗に咲き誇った。

「わッ! 本当に出来た⁉」

 ニクス本人が1番驚いている。
 しかも流石不死鳥の魔法。簡単に出した回復魔法の効果が凄い。

<ニクス、主はまだ若く未熟だ。それ故自身の多い魔力を扱いきれていないのだ>
「成程。そうだったのか……って、さっきから誰でしょうかこの声は?」
「ジークちゃんだよ! 」
「ハハハ、それじゃあ分からないだろ。ニクスは竜神王ジークリートって知ってるか?」
「ええ、それは勿論聞いた事があります……。何でも昔存在した危険なドラゴンだと。だから絶対に近寄ってはいけないと言われました」

 声の主が“その”ジークリートだとまだ察していないニクスはこれでもかと正直に言った。それを聞いた俺もレベッカもキャンディスさんも大笑い。このピュアさがニクスの良い所なんだろう。

<――ほぅ。誰がそんな事を言ったのだニクスよ。“我”の悪口とは聞き捨てならんな>
「我って……。えッ⁉ う、嘘ですよね⁉」

 遂にニクスも状況を理解した様だ。

「本当だよニクス。俺の中に魔力の魂となったジークリートがいるんだ。安心してくれ。態度はデカいけどいい奴だからさ」
「まさか本当に存在したとは……竜神王ジークリート。驚きましたがルカさんの言う事なら信じます!」
「ありがとう。あ、そう言えばさっき人に変化出来るって言ったけど、もしかして今なら出来る?」

 別にどちらでも構わないが、フェニックスなんて珍しいからまた変な奴らに捕まえられるかもしれない。それなら人の方がいいよな多分。

「今なら出来る気がします!」
「ちょっと待って! ニクスって女の子……だよね? 一応私って言ってるし……」

 そうだ。危ない。レベッカが確認してくれなかったらどっちに転んでもパニックになるところだった。

「はい、雌です。人間だと女の子ですね私は」

 気にしてなかったけど女の子かい。レベッカが確認してくれて助かった……。

「だったら私の服貸してあげるね。ルカ、収納してある私の着替え出してくれる?」

 レベッカにそう言われ、俺は空間魔法で入れておいたレベッカの服を取り出した。クエストや今回の任務みたいに何処かへ出掛けた時用に常に最低限の物を入れてあるんだ。

 準備も整い、ニクスは改めて魔法を掛け人の姿へと変化した。俺のドラゴン化と逆パターンだなこりゃ。

 女の子の姿へと変化したニクス。見た感じ俺とレベッカよりもやや年下っぽい。元のフェニックスとしての面影が綺麗な赤い髪へと反映されていた。

「ニクス可愛い~!」
「そ、そうですか? なんか照れますね」
「凄いな聖霊って! こんなの初めて見たよ私」
「これ人型になったって事はさ、ひょっとして冒険者として診断出来るのかな?」

 俺はふとそう思った。人ならば出来るんじゃないかと。しかもこんなの珍しいからちょっと興味もある。どんな測定値になるのか。

「面白そうだからやってみよう!マスターにも報告しないといけないし!」

 キャンディスさんも乗り気だ。まるで報告の方がついでみたいな言い方だし。

 勢いよく部屋を出て行ったキャンディスさんに俺達も続いた。


~マスターの部屋~

 今回の事を報告すべく俺達はマスターの部屋に来た。事情を整理すると案外複雑であった……。

 元々フェニックスは国境を越えた隣の王国で神聖なモンスターとして崇拝されている存在。別に何をした訳でもないが、俺達がフェニックスを手にしている事をどう思うかは全く分からない。

 これが普通のモンスターだったら話は別だが、今回はフェニックスだからややこしいらしい。

「――兎も角、事情は大方分かった。ギガントオークの群れの原因は不明だが、このニクスという彼女がルカ君達と行動を共にしたいと言うのならばそれはいいだろう。
それより別で気になったのが、聖霊である君を餌にしていたという野蛮な者達だ!」

 そう。報告を聞いたマスターもまた熱い人。ニクスの話しに相当怒りを露にしている。まぁキャンディスさん同様とても良い人だという事が伝わってくるけどね。

「ニクス君!そのどこぞの冒険者と思われる男達は、確かに“ドクロのマーク”が付いていたんだね?」
「は、はい! 皆腕や足や首など、場所はバラバラでしたが同じドクロのマークが記されていました」

 マスターへの報告で新たに分かった事。それがニクスを酷い目に遭わせた男達の正体だ。マスター曰く、奴らは俺達と同じ冒険者らしい。だが奴らは普通の冒険者ではなく、いわゆる半グレと言われる達の悪い犯罪者集団。

 なんでも、隣の王国では冒険者達が全員フリーであり、好きにパーティを組んだり組織化をしているとの事。しかもニクスが捉えられていたドクロのマークを付けた奴らは、金さえ払えば何でも請け負うと言う隣の王国でもかなり悪名高い集団らしい。

 聞いただけで不愉快だ。
 流石に隣の王国の事だから俺は何も言える立場じゃないけど、もし同じ王国内だったら間違いなく潰してやるけどな。

「一先ず、ニクス君の件は別の王国も絡む事案だ。本部や国王にも報告しないといけないから俺はもう行かせてもらうとする。ルカ君達もありがとう! 君らも国王団に戻って報告をしてくれ!また会おう!」

 そう言ってマスターは颯爽と部屋を出て行った。
 
 ……かと思いきや、直ぐに戻って来て「ニクス君の診断結果が出たら教えてくれ!」とキャンディスさんに一言だけ伝え再び去って行った。

 勿論報告の為というのもあるだろうけど、やっぱり皆聖霊の診断なんて見た事ないから気になるんだろうな。俺も早く見たいし。

 そんなこんなで、遂にニクスは診断を受けた――。


「……コレに魔力を流せばいいんですよね?」
「ああ」

 初めての事に戸惑いながらも、ニクスは魔石に魔力を流し込んだ。


『ニクス 魔力値:SSSランク

 適性:聖霊 
 
 使用魔法:聖霊魔法

 身体・特殊:魔力感知(S) 超再生(S) 
       超魔法(S) 

 性質:不死の加護 不死の再生 不死の運 』

 流石聖霊……。当たり前にSSSランクだよな。しかも超再生とか如何にも不死鳥っぽいし、不死の運って何だ? まさかそのお陰で今まで運良く生き抜いたとか……?

「あ、あの~。これはどういう結果なのでしょうか? 私、やはりお役に立てませんよね……」
「そんな事ないよニクス! 寧ろ凄すぎて驚いてる。こんな能力初めて見たもん。流石フェニックスだね」
「またルカのパーティが強くなったな!」

 兎も角、これで一応ニクスも冒険者登録出来るよな?俺達とのパーティ登録もしておかないと。

「よし、それじゃあ俺達も寮に帰るとするか。ダッジ隊長にも報告しないといけないし」
「そうだね」
「もう行くのか。じゃあ2人共元気でね!また一緒に戦おうよ!」
 
 こうして、俺達に新たなニクスと言うフェニックが仲間に加わった――。
~特殊隊の寮~

「――以上が今回の報告となります」
「分かった。ご苦労だったな」

 寮へと戻った俺達は、今回の件を全てダッジ隊長に報告した。ニクスの事も俺のパーティならと特別に許可を出してくれた。取り敢えず一安心だな。まぁ駄目だったら特殊隊抜けようと思ってたけど。

「この子がニクス? 可愛い!」
「フェニックスなんて初めて見た」
「……人間になれるのか……」

 ニクスを見た他の皆も珍しそうに見ていたが、何やら直ぐに打ち解けて仲良くなっていた。それからというもの、ニクスは毎日楽しそうに過ごしていた。レベッカとも互いの魔力コントロールの為日々訓練もしている。

 そして、そんな生活が早くも1ヵ月以上が経ったある日、俺はダッジ隊長に呼び出された。

「――え、国王様とですか……? 国王に謁見ですか?」
「ああ。何やら話しがあるとの事でな。だから俺と一緒に今から向かうぞ」
「あ、分かりました!」

 ダッジ隊長に呼び出されたかと思いきやまさかの国王からの呼び出しだ。何かあったのかな……? わざわざ俺なんかに話なんて。

 全く身に覚えがなかったが、俺はダッジ隊長と国王の元へ向かった――。

♢♦♢

~城・玉座の間~

「――国王様。国王団、国王特別特殊任務隊所属、ダッジ・マスタングとルカ・リルガーデンであります」

 城の扉を潜り、玉座に座る国王の前に通された俺とダッジ隊長は、国王の前で膝をつき敬礼をした。

「急に呼び出して申し訳ない。折り入った話が合ってな。もう楽にして構わぬ」

 そう言いながら国王が軽く手を挙げると、玉座の間にいた護衛の人達が一斉に部屋から去って行った。騎士団の大団長だけが残っている。

「すまないね。実は3人だけで話したかったんだ。彼だけは万が一の為残ると言ってな」

 国王は大団長を見ながらそう言った。

 そりゃそうですよ。貴方国王様なんですから……。幾ら話し相手が俺らだけだからって気軽過ぎますよ。

「全く問題ございません。それよりお話と言うのは」
「ああ、そうだな。早速本題に入らせてもらうとしよう――。
先日ダッジ隊長からも、ギガントオーク討伐応援の報告は聞かせてもらったね。話はそれに関わるのだが……ルカよ」

 国王は何やら真剣な表情で俺を見てきた。

「は、はい。何でしょうか……」
「実はな、新たに君の仲間となったフェニックスの少女の事だが……。彼女は紛れもなく聖霊のフェニックス、そしてフェニックスは隣の国であるイディアナ王国で古来より神として崇められている神聖な存在だ。
よって、誠に急で申し上げにくいが……直ちにフェニックスの少女をパーティから外し、住処であるヨーハン遺跡に帰してくれ――」

 国王からの突然の告白に、俺は直ぐには呑み込めなかった。返す言葉も出ない。何かの冗談だとも思いたいが、国王の表情は真剣そのもの。

 有り得ないだろ……。ニクスを帰すだと……?

「……お、お言葉ですが国王様!事の経緯をお伺いしたと言っておられましたが、ニクスがッ……彼女が僕のところに来る前、どのような事情があったかご存じなのでしょうか……?」
「ああ、勿論だ。彼女が仲間から馬鹿にされている事も、イディアナの犯罪冒険者共から酷い目に遭わされたという事もな。
だがこれは最早一言で片付けられぬ。そういう次元の問題ではないのだ。
我がドラシエル王国、そしてイディアナ王国と両国の全国民が関わる国際問題なのだ――。
私は王国の国王として、国民の命と安全性を第一優先に判断する」

 闘技場でも直に体感したこの圧倒的存在感……。これが多くの命を背負う、唯一無二の国王のオーラ。

 だが、例え偉大で恩のある国王様だからといって、こっちも簡単に納得出来る訳がない――。

「僕は確かに国王様程背負うもの多くはないです。ですが……ニクスはもう僕の大事な仲間です。納得出来ない理由もさることながら、俺は彼女を2度と同じ様な目に遭わせたくはありません!」

 うわー、何してるんだよ俺。何で微妙に国王に啖呵切っているんだよ……!

「そうか……。流石私の“よく知る”ルカ・リルガーデンだ。君がこの話を受け入れ無い事は予想通り。
だがこれはさっきも言ったが、王国に関わる国際問題。下手したら戦争だって起こりかねないんだよ――。
だからわざわざ此処に招き、国王である私自らが君に頼んだのだ。これが君への最大の譲歩だと思ってな」

 ――グワァン……!
「……!」

 刹那、国王が王の覇気を俺に放ちながら言った。

「だからこれは頼みではなく、私からの精一杯の気持ちを込めた命令だ。例え相手が君であったとしてもこれは覆らない……。
まだ納得いかないというならば、こちらも“それ相応の対応”を取らざるを得ないぞ――!」

 国王の覇気がこれでもかと俺を襲って来る。正直、ここまで事が深刻になるとは思わなかった……。だが、こっちだって例え国王の言う事であっても、やはり引く事は出来ない。

「特殊隊で国王様の命令をどうしても聞かないと言うならば、僕は今すぐに止めます。勿論ニクスも帰すつもりはないです……!」

 国王の覇気に対し、俺も無意識のうちにジークの覇気を飛ばしていた。

 やべぇぇぇッ……! 国王様なんて俺にとって恩しかない人なのに何してるんだよ俺は。もうなんか引っ込みつかねぇぞコレ……!

 俺が覇気を飛ばしたことにより、近くにいたモレー大団長とダッジ隊長も即座に戦闘態勢に入っていた。勿論俺目掛けてな……。何とも恐ろしい状況だが、悪いけど負ける気もしない。

「ルカよ。己が言っている事を本当に理解しているのか?
ハッキリ言おう……。君のその選択は間違いなく戦争を意味する。それでもやはり変わらぬと――?」
「勿論戦争など望んでいません。自分が今している無礼も百も承知です。ですが……僕はニクスが、彼女自身が帰りたくもない場所に無理矢理連れて行くなんて出来ないんです!
それにニクスはもう僕の大事な仲間……。力で来るならこっちも“力で対応”するだけですよ――!」

 うはぁぁぁッ! な、な、何て事を口走ったんだ俺! どこの国のどこのアホが自分の王国の国王に宣戦布告なんてするんだよこの馬鹿がッ!

 そう思った次の瞬間、覇気を解いた国王は大笑いをした。

「ハッハッハッハッハッ!確かに今しかと聞きかせてもらったルカ!
ならば自分が言った通り、フェニックスに向けられている“脅威を相手に”力で対応してもらおうか!」

 高々と声を上げて笑う国王は、最後にニヤリとした表情を浮かべ俺を見た。



「――え、ハメられた……?」



 勘づいた時に時すでに遅し――。

 そう。
 国王はハナから俺が賛同すると分かっていたんだ……!

「……」
「成程。そう言う事か」

 冷静に状況を察したモレー大団長とダッジ隊長も戦闘態勢を解いていた。

「ハッハッハッ!若者は勢いがあって良い! 自らこんな大きな問題に志願してくれるのだからな!」

 くそくそくそッ……! 完全に乗せられた! まぁ結果ニクスの事だけど、まんまとしてやられた。そしてそれを受け入れる程腹が立つ!

「では国王様、ルカは次の任務が決まったという事で?」
「良い。 詳細はまた追って出す。ご苦労だったな!」

 こうして、訳の分からない国王との話し合いが終わった――。

 結構性格悪いのかもな、国王って……。


♢♦♢

~特殊隊の寮~

 先日の国王との話し合いから1週間。遂に今回の任務の詳細が入ってきた。とは言っても、内容は大方は話した通り。ニクスの存在でちょっと面倒が起きている様だ。

「――分かりました。一先ずニクスをヨーハン遺跡に連れて行けばいいんですね?」

 俺は今、国王直属の諜報員であるバロさんと話している。彼は様々な裏方の任務を任されており、俺や他の人達に任務の伝令もしている。

「はい。国王よりそう伝えられています」
「い、嫌ですッ!ルカさん、私絶対に帰りたくないです!
!ずっとここにいたいです!」

 分かってはいたが、ニクスはずっとこの調子だ。そりゃそうだよな。
「大丈夫だよニクス。国王は何か考えがある筈なんだ。俺もまだ聞いていないけど、ニクスの事は絶対に俺が守る。だから一緒に行こう」
「私もついてるよニクス!」

 ニクスは余程嫌なのか黙り込んでしまった。

「彼女に更に重荷を与える様で申し上げにくいのですが……。
イディアナ王国からの要望では、何としてでもフェニックスをヨーハン遺跡に戻してくれとの事です。

彼女が行方不明となってから、フェニックスの長がイディアナ王国に使いを向かわせたらしく、直ぐにニクスをヨーハン遺跡に戻せと言っ要求されたそうですよ。もし従わなければ王国を焼き払うとまで……。

イディアナ王国からした寝耳に水でしたが、必死に探してやっとの思いでここにいる事を突き止めたと、私と同じ諜報員をしている彼が泣いて知らせてくれたのです」

 思った以上に凄い事になってるな……。そりゃいきなり王国焼くなんて言われたら焦るよな。

「――分かりました……」
「え?」

 聞き間違いじゃなければ、今言葉を発したのはニクス。

「正直……何時かはこの日が来るだろうと思っていました……。自分でもケジメを着けなければいけないと思いながら、このままうやむやに時が過ぎ去ってくれればラッキーだなとも思っていました……」
「ニクス……」
「でも、これ以上ルカさん達に迷惑を掛けたくありません。ただ……自分の事なのに、私だけで行く勇気も覚悟もありません。
迷惑と分かっていながら、情けないと分かっていながら、それでもまだ負担を掛けてしまいますが、私と一緒に来てくれませんかッ……ルカさん、レベッカさん!お願い致します!勿論我が儘を言ってる事は分かってます!でも……どうかお願い致します!」

 声を震わせながらニクスは深々と頭を下げていた。
 小刻みに震える体から、様々な感情がヒシヒシと伝わってくる。

 ニクス……。
 俺達はもう仲間だ。家族同然のな。だから我が儘を言ってもいいし、迷惑を掛けたっていい。そもそもお前は何も悪くないんだから――。

「当たり前でしょニクス! 寧ろ私がその馬鹿にしたフェニックス達をやっつけてやるわ!」
「おいおい……それはそれで大問題になるぞ」

 まぁレベッカと気持ちは同じだけどな。

「ありがとうございます……!レベッカさん」
「それじゃあ取り敢えず行く事で決定だな。バロさん、俺達もニクスと一緒にヨーハン遺跡に向かいますよ」
「分かりました。ありがとうございます。この事はしかと国王に伝えさせて頂きます。では――」

 そう言ってバロさんは瞬く間に消え去ってしまった。

「もう泣くなニクス。何が合っても俺達が着いてる。明日に備えて今日はもう休むぞ」
「は、はい!」

 こうして、明日ヨーハン遺跡に向かう事が決まった――。

♢♦♢

~ヨーハン遺跡~

「――確かに連れてきましたからね」

 念を押す様に言ったのはイディアナ王国の諜報員。

 彼とバロさんは、ニクスがしっかりとヨーハン遺跡に来た事を確認する為の互いにとっての見届け人的役割。

 目の前には長からイディアナ王国への使いに出された1匹のフェニックスもいる。そしてコイツがニクスを置き去りにした全ての始まりの奴。今すぐ丸焼きにでもしてやりたいコイツの名前はザックと言うらしい。どうでもいいがな。

「いいですか? しっかりと貴方達の長に伝えて下さいね!王国を焼き払うなんて2度と言わないで下さい!では私は帰ります!」

 そう言ってイディアナ王国の諜報員の人は帰って行った。

「じゃあ私も国王に報告しに戻りますね。後は任せますねルカ君」
「はい」

 バロさんもそう言って王国に戻って行った。

「お前……本当にニクスか……⁉ 人化出来たのかよ……」
「だから何? 今はもう飛べるし魔法も使えるわよ」
「なッ……⁉」

 ザックとか言う奴は平然とニクスに話し掛けていたが、ニクスは目も合わせずあしらう様に言葉を帰していた。そして不死鳥だからよく感情が分からないが、何処となくこのザックと言う奴は機嫌が悪そうだ。

「おい、早く長のところへ案内しろ下っ端」
「何⁉ ムカつく人間だ…… チッ、こっちに来い」

 自然と俺の態度も悪くなっていたが、コイツがした事を踏まえれば当然だろう。生きてるだけ有難いと思え。

 そう思いながらコイツの後に付いて行くと、広く空けた場所に出た。そしてその奥にニクスの何倍も大きいフェニックスの姿があった――。

「戻って来たようですねニクス」

 これがフェニックスの長である“バーレーン”か……。

 ニクスの赤い毛の翼と違い、バーレーンの翼はユラユラと炎が纏われていた。初めて見たが凄い……しかも何か神秘的だ。ちょっと近づき過ぎると熱いけどな。ここでも熱波が熱い。

「お言葉ですがバーレーン様……私はここに戻ったのではありません!自分なりにケジメをつけに来たのです!」
「……」

 ニクスはバーレーンにハッキリと意思表明をした。こんなに堂々としているニクスの姿に驚いたが、更に驚かされたのはバーレーン。暫し沈黙した後、静かに口を開いてこう言った。

「――そうですか。後ろにいる彼らが貴方の仲間ですかニクス」
「はい!ルカさんとレベッカさんは私の命の恩人であり、私にとってかけがえのない存在です!」
「分かりました。ニクス、貴方がここを旅立つというのなら止めません。ですが、貴方の仲間がそれに値するかどうか……私に証明してみせなさい」

 バーレーンはそう言いながら俺達の方を向いた。

 おっと。何故急に矛先が俺達にきた?

「証明とは……?」
「貴方達がニクスの仲間に相応しいと分かる為に、ある者達を倒してほしいのです」
「ある者達?」
「彼らの名は“ドクロシーフ”。
イディアナ王国の冒険者と呼ばれる者達で、モンスターや人間の非道な討伐や売買を繰り返している愚か者集団。私の可愛いニクスをモンスターの餌にもした、非常に許しがたい者達です――」

 これは話が一気にまとまった。思いがけない偶然が重なり過ぎて何と言っていいか分からないが、一言で言うなら“賛成”です。はい。

「ハハハハ、なぁんだ。何かと思えばそんな事かよ。こりゃ願ってもない展開だ。俺も丁度ソイツらに用があるんだよな」
「では頼みましたよルカ、レベッカ。本来であれば、私自ら制裁を加えたいのですが、イディアナ王国の民に手を出してはならないと言う制約が私には課せられています」

 なんだその制約は……? バーレーンもバーレーンで訳ありって事か?

「そうなんだな……。でもイディアナ王国を焼き払うって……」
「ええ。制約は民ですので、別に“王国”は焼けます」

 ほぉ~。これはまた恐ろしい。物は言いようって訳ね。

「まぁ分かったよ。取り敢えず今から直ぐドクロシーフとかいう奴らを全員潰してッ……「――ルカ君、国王から新たな伝言です」

 うわッ! ビックリして声が出なかった。

 突如姿を現したのはバロさん。バロさんは何時もこうして突如気配もなく現れる。秘密裏に動く事が多いからという理由らしいが、如何せん毎回心臓に悪い。これは何度経験しても慣れないんだよな……。しかもこのタイミングじゃないとダメかな?

「ドクロシーフの拠点が此処との事です。そして、一切の手加減をせずぶっ飛ばせと――」

 俺が驚いている事や目の前いるバーレーンに全く構うことなく、バロさんは俺に拠点の位置が記された紙と物騒なメッセージを残すなりまた消え去った。

 成程……。
 段々繋がってきたぞ……。
 
 余りにタイミングが良すぎる上に全く無駄もない。しかも流れる様に事が進んでいる……。これは恐らく国王が元から計算していた事だな……。

 聞いた感じドクロシーフとやらは結構悪名高いから、何時か潰そうと思っていたところにタイミング良く俺が紛れ込んでしまったのか――。

 くそ……。ここまでが国王の策略の1セットか……。
 
 まぁいいや。どの道ニクスに酷い事した奴らだからな。寧ろ俺が直接仕返し出来るならラッキーだ。まんまと国王にハメられたが結果オーライ。逆に言えば俺が美味しいとこ取りだぜ。 

「よし。そうと分かれば全開で行こうじゃないかレベッカ」
「そうだね! 最近ずっと繊細なコントロールばかりでストレス溜まってたから、今日は全部発散させちゃう!」
<空回りだけは止めろよ……>
「了解ジークちゃん!」

 こうして、俺達は直ぐに紙に記されたドクロシーフの拠点へと向かった――。

~ドクロシーフの拠点~

「――ここだな」
「如何にもって感じだよね」
 
 ドラシエル王国とイディアナ王国の国境付近の森の奥。バロさんから貰った地図の通り、奴らドクロシーフの拠点と思われる、趣味の悪い1つの建物が建っていた。

 外観にデカデカとドクロマークが描かれているし、その建物の周りにいる奴らも出入りしてい奴らも皆ドクロのマークを付けているから確定だ。これ以上無いほど確定。こんな森の奥を拠点にしているのに、あのセンスのない拠点。隠れたいのか目立ちたいのかもう訳分からん。

「クソの集まりか……よし。派手にかましてくれレベッカ」
「え、いいの? よ~し。じゃあいきなり高火力の攻撃魔法出しちゃおうっと!」
<なんだ雑魚ばかりか。我は今回パスだ。寝る>

 レベッカはやる気満々。ジークはサボり。
 ギガントオークからまともにレベッカの戦いも見ていなかったから、またどこまで成長したか少し楽しみだ。

「“アイスド・メテオール”――!」

 次の瞬間、レベッカが杖を振り下ろすや否や、無数の氷塊が流星の如く拠点一帯に降り注いだ。

 ――ズガガガガガガガガガガガッ!
「ぐはッ……!」
「な、何だ⁉」
「うわぁぁぁッ!」

 静かだった辺りは一気に叫び声に包まれた。レベッカの放った氷塊はただ降り注ぐだけでなく、落下した氷塊が更に周囲を凍らせていった。

「凄いなレベッカ」
「フフフフ!」

 クレーグが特注で改造してくれたらしい杖によって、魔法の威力も上がってるみたい。これは氷魔法だけで見ればSSSランク並みの威力だぞ。やるな……。もう半壊はしてるんじゃないか?

「よし。そろそろ中に乗り込もう」
「今ので凄いスッキリ!」

 こんな状況なのに、その可愛い笑顔に一瞬見惚れてしまった。
 ……って、何考えてんだ俺。集中しろ。

「さて……“どこだ”?」

 俺は抜いたゼロフリードに雷を纏わせながら匂いを追っていた。狙うは勿論ニクスを酷い目に遭わせた奴らだ。あの時ニクスと首輪に残っていた僅かな匂いを俺はしっかりと覚えている。何時か出会った時に為にとな――。

 数は全部で4人……。
 建物の中はレベッカの奇襲で大いに混乱中。俺を敵だと認識して攻撃してくる奴も多くいるがそんな連中は一先ず無視。何よりも先ず目的の4人を見つける。

「ここだ――」

 不意に漂ってきた目的の匂い。俺はそれを逃さなかった。

 匂いを辿って行きついたのはとある部屋。そこだけ一部が異様に暗く、扉も頑丈な鉄格子だ。更に奥から幾つもの匂いや魔力を感じた。

「早くズラかるぞ!」
「おい待て、こいつらどうするんだよッ⁉」
「知らねぇよ!それより自分達の命が優先だろうが普通!」
「どこの組織の敵襲だ?早くしないと此処も見つかッ……「――よお、なんか盛り上がってるな」
「「……⁉」」

 鉄格子の扉を開けて中に入ると、そこには幾つもの牢屋があった。逃げようとしていた男達を呼び止め何気なく牢屋を見渡すと、そこには何十体ものモンスターが捕まえられていた。

 ニクスに付いていた首輪と同じものがモンスター達にも付けられているから、やっぱコイツらだな。それにしても……。

 俺は思わず自分の目を疑った。
 何故なら……牢屋に閉じ込められたモンスターの他に、あろう事か“人”まで入れられていたのだ――。

「これが冒険者の……いや、人のする行為か……?」

 刹那、俺の中で何かがキレた――。

「なんだテメェは!」
「驚かせやがって!こんなガキなら俺達で片付けるぞ!」
「ああ、そうしよう!まだ入り口の方が騒がしいから、他の敵が来る前に逃げるぞ!」

 体の奥底から湧き上がってきたドス黒い衝動を、俺はそのまま覇気で飛ばした。

 ――ビクンッ……!
「<動くんじゃねぇ>」

 ジークの覇気で動けなくった男達に、俺は目の前まで近寄った。

「あッ……あが……ッ……!」

 男達は4人共ただただ震えるばかりで何も動けない。

「<お前ら、前にフェニックスを捕まえて餌にしたか? >」
「は、はい……」

 覇気によって本能的に逆らえない男達は、自分の意志に反して出た言葉に対し慌てて口を塞いだ。だがそんなの意味はない。

「<この牢屋にいる人やモンスターは何だ? 何してやがる>」
「こ、これは商品でして……」
「裏オークションで売買するんです……」
「全部“ボス”の命令で……」

 ボス?
 成程、そりゃ組織なんだから頭がいるか。こんな末端じゃ何人倒しても解決にならないもんな。

「<そのボスとやらは何処だ>」
「う、上です……!」
「1番上の階の、奥の部屋です……」
「<そうか。じゃあくたばれ――>」

 ボスの場所を聞き出し、俺はゼロフリードを男達に軽く当てた。

 ――バチバチバチバチッ!
「「ぐあぁぁぁッ……!!」」

 雷を食らった男達は感電し倒れ込む。ニクスにした事をお前らも味わえ。勿論俺の怒りも加わってるから威力は増してるけどな。だが致命的なダメージではないだろう。加減したから暫く感電を味わっていろクソ共が。

「――大丈夫か? 直ぐにここから出してやるからな皆。少しだけ待っててくれ。ボスを倒して安全になったらまた戻ってくるよ」
「分かりました……ありがとうございます……!」

 俺は牢屋に囚われていた人達にそう言い残し、最上階にいるボスの元へと向かった。

 本当に胸糞悪い連中だ……。早くぶっ飛ばして皆を出してあげないと。

「ルカ!」
「お、レベッカか」

 最上階を目指し階段を駆け上っていると、上の階に既にレベッカがいた。周りはそこかしこに倒れている者達がおり、所々凍り漬けにもなっていた。レベッカが攻撃したことは一目瞭然だな。

「全部1人でやったの?」
「勿論! 久々の解放感」
「そうか。俺今から上にいるボスのところに行くけど」
「そうなんだね。やっぱり親玉がいたんだ。じゃあもうここには敵がいないみたいだし、私は下に戻って足止めしておく!」
「分かった、ありがとう。でも無茶はするなよ。何かあったらすぐ呼んでくれ」
「うん!」

 レベッカは元気よく返事をして、階段を下って行った。余程調子がいいらしい。一切困った様子もなかったし傷1つ付いていなかったな。やはり心配しなくて大丈夫みたいだ。俺もさっさと終わらせよう。

 再び階段を駆け上がり、一気に最上階まで登った。すると廊下の1番奥の部屋から、明らかに異質な空気を纏った魔力を感じた。

「いるな……」

 ゆっくりと部屋の扉に近付き、バッと扉を開けた。

「ヒャハハハ!」

 ――ガキィィィン!
 扉を開けて1歩部屋に踏み込んだ瞬間、不気味な笑い声と共に鋭利な刃物が俺を襲ってきたが、手にしていたゼロフリードでその攻撃を受け止め武器ごと奴を弾き返した。

「こりゃ珍しく強いのが現れたなぁ! ヒャハハハ」
「お前がボスか」
「あぁ?それがどうした?」

 ドクロのマークが描かれたマントの様なものを羽織り、男は手に短剣を握っている。見るからにイカれた風貌だが、速さも威力もそこそこあったな。こんな組織とはいえ、腐ってもトップか。

「長居する気分じゃないからな……。直ぐにお前を倒してこんなところ潰してやるよ」
「なんだテメェはよ。ヒャハハハ、頭可笑しいのか?」

 それはお前だろと思いながら、俺は間髪入れず奴に炎魔法を放った。

「“プロメテウス”」

 ――シュゥゥン。
「ん……?」
「ヒャハハハ! 変わった魔力してるなぁお前!」

 俺は今確かに奴目掛けて炎を飛ばした。だがその炎は奴が向けた掌に吸い込まれる様にして消えてしまった。前にクレーグと戦った時ととても似ている。だけど奴は武器じゃなく、確実に手で吸収した……?

「魔法か?」
「もうビビったか! そうさ、これは空間魔法。どんな魔力も攻撃も封じ込めるのさ。ヒャハハハ!」
 成程、空間魔法ってあんな使い方も出来るのか。

<奴の空間魔法は少し違うな>
「お、ジーク。起きたのか」
<ああ、コイツだけ少しは暇つぶしになりそうだ。奴の空間魔法は全てを吸収している。我の様に空間に留めておく事は出来ない。言わば我の劣化版だ>

 そういう事らしい。まぁそれでもそこそこ厄介なのは変わらないぞ。

「お前何でこんな下らない事しているんだ?」
「は? どこが下らねぇんだよ。こんな効率よく稼げるもの他にねぇだろうが!ヒャハハハ! 頭が弱いみたいだなお前も。俺の部下もあんまり頭が良くねぇ。だからこれを思いついた俺が天才で俺がボスなのさ!
“国王お墨付き”なんだから間違いねぇだろうが。ヒャハハハ!お前強いみたいだから仲間にしてやってもいいぞ?」

 国王のお墨付きだと? 一体何の事だ……。まさかな。

「なんかきな臭い香りがプンプンしてきたぜ。これは俺が思っている以上に闇が深いなきっと」
「何をブツブツ言ってやがる! 仲間にならねぇなら邪魔だから死ねや!」
「お前が死んでくれ――」

 俺は再び連続で魔法を放った。だが奴の空間魔法によって全て吸い込まれてしまった。奴は随分と余裕なのかずっとニヤニヤしている。

「無駄無駄無駄ぁぁ! どれだけ攻撃しても俺には全部聞かねぇんだよ!」
「じゃあ斬る」

 ――ガキィィン!
「……!」
「だから無駄だって言ってるだろアホが! こんなの魔力を纏ってなきゃただの鉄の塊さ!甘く見るな、これでも俺はSSSランクだからなぁ。ヒャハハハ!」

 奴の言う通り、剣に纏っていた雷はどんどん吸い込まれてしまっていた。コイツSSSランクなのか。ちょっとだけ納得。

<ルカ、コイツの魔力量は相当だ。クレーグよりかなり多く吸い取るぞ。まぁ逆を言えば……それだけなのだが>
「そうなのか。なら1発で奴の吸い込める量を上回れば終わりだな」

 奴もSSSランクなら結構力を込めて大丈夫だろ。俺は風魔法で手のひらサイスの小さい圧縮した風の弾を生み出した。そしてそこにこれでもかと魔力を込める。

「ハハハ、出来た。魔力を超圧縮した風のボール」
「余所見してんじゃねぇぞ!」

 奴が俺目掛けて剣を振り下ろそうとしてきたので、そっと風のボールを奴に投げてあげた。すると今まで通り何の疑いもなくボールを吸い込んだ。

「なんだこりゃ、失敗か? 悪いがこっちも暇じゃねぇッ……『――ズパァァァン!』

 皆まで言いかけた次の瞬間、超圧縮のボールを吸い込んだ奴は破裂するかの如く思い切り吹き飛び、建物の壁を貫通して外の地面に散っていった。

「……がはッ……⁉」
「おー、ビックリした。思った以上に勢いよく破裂したぜ」

 突如建物から飛んできた自分達のあられもないボスの姿を見て、残りの残党も慌てて逃げだして行った。これにて終了。呆気なかったな。

「ルカー!」

 空いた壁の穴から下を見ていると、相変わらず元気なレベッカが大きく手を振ってきた。

「――お疲れ様ですルカ君!」
「うわぁぁ⁉ バ、バロさんッ!」

 この人の登場も相変わらず心臓に悪い。もっと思いやりのある出方はないのだろうか……。他の皆もこんな感じなんだよな? しかも待ってましたと言わんばかりのタイミング。絶対監視してただろコレ。

「流石、ドクロシーフを仕留めてくれた様ですね」
「え、ええまぁ一応……」
「では再び国王様からの伝言です――。
ドクロシーフの件はこのまま他の者が後処理を行う為、ルカ君にはフェニックスの長であるバーレーンとの面会をお願いしたいそうです」
「面会って……国王がですか?」
「はい」
「あ、そうだ!それより牢屋にいる人達を出してあげていいですか?約束してあるんで」
「勿論構いません。ですが、囚われていた者達は重要な参考人でもありますので、こちらで安全に保護させて頂きます」
「分かりました。お願いします」

 俺は魔法で牢屋の鍵を壊し、皆を解放してあげた。その後騎士団員や国王団の他の隊が直ぐに来た為、俺とレベッカはニクスとバーレーンがいるヨーハン遺跡に戻った――。

♢♦♢

~ヨーハン遺跡~

「なんだあれ……」

 俺達が戻ってくると、何やらヨーハン遺跡の上空で炎が上がっていた。よく見るとその炎は一瞬で消えたり再び現れたりしている。

「何か飛んでる?……って熱いな!」

 その炎を確認しようと少し近付いたら、辺りは凄い熱波に包まれていた。それでも何とか少しづつ近づいていくと、上空を舞うニクスとザックの姿を確認した。

 どうやらニクスとザックが戦っている……? いや、どう見てもニクスが一歩的に攻撃してる様にしか見えない。全く状況が理解不能だった俺達は、一先ず下で静観しているバーレーンに報告をした。

「あの……。シドクロシーフの片付け終わりました」
「ルカ、レベッカ。ありがとうございます。流石の実力ですね。これで一安心です」
「後、国王が貴方と面会をしたいらしいんですけど……」
「国王がですか?」
「はい。俺も伝言を預かっただけで詳細は知りませんが」
「そうですか。分かりました。面会を快諾すると国王にお伝え下さい」
「あ、ありがとうございます。それであの……ずっと気になっているんですけど、ニクス達は何を……?」

 そう。一応バーレーンに報告をしているが、上で勢いよく炎を吐いているニクスが気になってしょうがない。

「あの子達はですね――」

 バーレーンは俺達がドクロシーフの所へ向かった後の事を教えてくれた。

 そもそも、今回ニクス達がこのヨーハン遺跡を抜け出してしまったのは私の落ち度であると言ったバーレーン。当然彼らフェニックスにはフェニックスの決まりや暮らしがあり、俺達は詳しい事情まで知らない。

 だが、色々思う事のあるバーレーンは、一先ず今回の一連の原因であるザックに対し、ニクスにお詫びをしなさいと言ったそうだ。しかしザックは面白くなかったのだろう。何時も馬鹿にしていたニクスが遺跡に戻って来た事や魔法が使える様になっていた事、そしてザックが悪いにも関わらずバーレーンがニクスを庇っている事に。

 素直に謝れなかったザックは会話の流れで俺達の事を悪く言ったそうだ。そしてそれにニクスが怒りを露にしたらしい。

 突如人化を解き、元のフェニックスの姿に戻ったニクスは、自分で少しずつ魔力のコントロールが出来ていた事もあり、ザックに置き去りにされたあの頃から二回り近く大きなフェニックスの姿に成長していた――。

 バーレーンからそう聞いた時は俺とレベッカも驚いたが、それは上を見れば一目瞭然。空を舞っているニクスの大きさはザックを遥かに上回っていた。

 バーレーンも好き好んで同じ仲間のフェニックス同士を争わせたくなかった。しかもニクスとザックフェニックスの中ではまだ幼鳥。一瞬悩んだバーレーンであったが、聖霊やモンスターも弱肉強食の世界。互いのいざこざの為に、そして今後生きていく1つの経験として、ニクスとザックが正面からぶつかるのを見守る事にしたとの事――。

「ニクス……」

 話を聞いている間もニクス達は戦っていた。そして……。

 ――ズガァン……!
 上を見上げた瞬間、ニクスが鋭い脚でザックを捉えそのまま地上にある岩盤へと押し込んだ。

「ぐッ……ま、待ってくれニクス……ッ!」
「私の事はいい……。でも、ルカさん達を侮辱した事は絶対に許さないわよ!謝りなさいッ!」
「わ、分かった……!ご、ごめんよ……」
「声が小さいッ!」
「ご、ごめんなさい!」

 ザックは泣きながらニクスに謝った。
 それを見て落ち着いたのか、ニクスは再び人の姿に戻っていった。

「次言ったらもう許さないからね!」
「ニクス」
「バーレーン様……」
「ザックがした事は決して許されません。ですが、ザックはあの後直ぐにニクスを迎えに行ったそうですよ」
「え、そうだったの……?」

 まだ泣いているザックにニクスはそう尋ねた。

「ああ……。流石に人に見つかったらマズいと思って……。でも戻ったらもうお前がいなかった……。探しても見つからなくて、怖くなって……。本当にごめん……」

 ザックの声はとても小さかったが、しっかりと気持ちが込められていた。

「ふーん。でもだからって、はいそうですかとは許せないわよ。散々私の事馬鹿にして、辛い目にも遭ったんだから!
でも……そのお陰でルカさんやレベッカさんに会えたのも事実だし、取り敢えず見逃してあげる。
けどバーレーン様、やっぱり私はここには戻りません――」

 ニクスはバーレーンを真っ直ぐみながらそう言った。

「貴方の気持ちは良く分かりましたニクス。彼らなら貴方を任せても大丈夫な様です。私の大切な仲間をを宜しくお願いしますね」
「ああ。ニクスは俺が守るから安心して下さい」

 こうして無事事なきを得た俺達は、王国へと戻ったのだった――。
~特殊隊の寮~

 ドクロシーフを片付けた日から3日後――。

 ニクスがバーレーンにしっかりと思いを告げ、正式にまた俺達と行動を共にする事となり、あの後寮に戻った俺達はダッジ隊長と国王にも詳細を報告し、無事一件落着となったのだ。

「――そういえばドクロシーフの奴らどうなったんだろ? クレーグ知ってる?」
「あー、アイツらかい? ドクロシーフの奴らは元から評判が最悪だったからねぇ、ルカが拠点を潰した後にさ、いざ蓋を開けて調査してみたら……これがとんでもない悪事ばかりが出るわ出るわだったらしくて、皆はらわたが煮え繰り返ったみたいだよ。
一切の余地なく重罪人扱い。即死刑でも良かったぐらいだけど、今頃死んだ方がいいと思える様な収容所で血反吐はいて労働してるよ」

 クレーグは明後日の方を見ながら俺にそう言った。

「収容所か……。そこってそんなにキツイの?」
「そうだね。聞いただけでもかなりヤバいかな。僕だったら迷わず自害するね。まぁそれすらさせてくれないからより地獄だよ。
あそこは1番キツイのが採掘場の労働と言われているみたいだけど、それ以上に恐ろしいのが、実質死刑になった連中が飛ばされる人体実験施設。

ドクロシーフの奴らは確実に採掘場かその人体実験施設のどちらかに放り込まれるってダッジ隊長が言っていたよ」

 うわぁ~、本当に聞いただけでヤバそう……。人体実験って何やらされるんだろ。まぁアイツらは自業自得だよな。非人道的な事していたんだから当然だ。

「そうなんですね……」
「まぁ関係ないけどね、僕らには。それよりフェニックスの件も無事済んだみたいで良かったね」

 そう。どちらかと言えばこっちの方が凄い事になっていた――。

 あの日、俺達がダッジ隊長と国王に報告を伝えた後で、国王は早くもバーレーンと会って話をした様だ。しかも超極秘の会談だったらしい。だが、何故そんな超極秘の会談があったと俺が知っているかと言うと、余りに“起きた事が大きい”からだ……。

 正確に言うと、この極秘会談は俺とダッジ隊長などごく一部の人しかまだ知らないと思う。だがその起きた事自体は国民全員が知っている。何故かって? そりゃそうだろ。だってあのイディアナ王国がドラシエル王国に“引き渡された”たんだから――。

 あれからまだ3日しか経っていないんだぞ……? 何故それで国民どころか世界が揺らぐ大騒動になったんだ。誰もがそう思う。勿論驚いた俺も理由を聞いた。そしてこの理由がまた驚きなんだけど……。

 イディアナ王国は何年か前に国王が変わったらしく、イディアナ王国の現国王であったソイツがかなりヤバい奴だったらしい。簡単に言うとドクロシーフの奴らとも繋がっていて、裏で相当悪事を働かせて利益を生み出していたとか何とか。

 以前からそのイディアナ王国の異変に気付いていたバーレーンが何とか状況を変えようとしたのだが、バーレーンは昔結んだ制約のせいで攻撃が出来なかった。でもそこへ今回の出来事。

 俺らの国王がバーレーンと手を組み、悪事を働かせていたイディアナ王国の国王を襲撃。まぁ襲撃と言ってもフェニックスと国王の絶対的な脅しらしいけど……。ってな感じでイディアナ王国の国王は自らその座を降り、かなり貧困が進んでいた情勢を立て直すべく、イディアナ王国はドラシエル王国に正式に引き渡される事となったんだ。

 そしてこれでも十分驚きだがまだある――。

 なんでも、イディアナ王国の立て直しに選ばれた最高責任者はなんとマスターだ。俺らのゼインマスターね。だからギルドの次のマスターはフリードさんがなった。

 色々驚く事ばかりだったが、人選に間違いないと俺は思う。俺なんかが偉そうに言う事じゃないけど……。


「――おーい、ルカ!」

 そんな事をボーっと考えていたらエレナに声を掛けられた。任務に行っていたから2日ぶりに顔を見た。

「お帰り。任務ご苦労様」
「ありがとう。なんか隊長が呼んでるよ」
「そうなんだ。すぐ行くよ」

 エレナにそう言われ、俺はダッジ隊長の部屋に向かった。


~ダッジ隊長の部屋~

「――以上が次の任務内容だ。頼んだぞ」
「はい!」

 しっかり返事をして、俺は部屋を後にした。
 
 ダッジ隊長から言い渡された次の任務……。内容はモンスターの討伐。もう慣れたものだ。と言うかほぼそれしかしていない。まぁそれが俺の目的でもあるからいいんだけどさ。

 こうして、新たな任務の為俺とレベッカとニクスの3人は、王国の最南端にある雪の街……スノウランド街に向けて出発した――。

♢♦♢

~スノウランド街~


「――よく来てくれたね!ルージュドラゴンの時は本当に助かったよ。改めてお礼を言わせてくれ」
「いえいえ、あれは皆で協力した結果なので、お礼なんてされる立場じゃないですよ」

 俺達を出迎えてくれたのはここのマスターだ。スノウランド街には南の冒険者ギルドがある。
 
 東西南北全ての街に冒険者ギルドが存在するが、どこのマスターとも以前のルージュドラゴンの件で顔はもう知っている。あんまり話す時間はなかったけど皆一緒に戦った仲間だ。

「寒ーい!」
「それは全くだ。マジで寒い!」
「ハハハハ。慣れていないとかなりキツイだろここは。取り敢えず中に入りなよ。暖かい飲み物でも用意するからさ」

 そう言ってマスターはギルドの中へ案内してくれた。

 流石雪国の人だなマスターも……。俺達より薄着なのに全然寒そうじゃない。それにニクスもこの寒さが大丈夫みたいだ。いいな~、羨ましい。フェニックス暖かそうだもんな。

 そんな事を思いながら、俺達は今回の討伐の件について話し合った。

「どうだ?少しは温まったか?」
「かなり良いです。ありがとうございます。それでマスター、今回は“ホワイトゴーレム”の討伐って事でいいですよね?」
「ああ。此処からもう少し南に行ったところに大きな雪山があってね。そこでホワイトゴーレムの姿が確認されているんだけど、何せその雪山はここより寒い上に吹雪が凄くて歩くだけでも大変なんだ。
雪や寒さに慣れている私でも1人だと厳しくてね。実力ある人にサポートしてもらわないと厳しくて」

 雪国で暮らすマスターでも大変な環境って……これ人選ミスじゃないか? 街の寒さで既に俺とレベッカは凍死しそうだぞ。

「俺達に出来る事なら勿論協力したいですけど、この寒さどうにかなりませんよね……?」
「ルカさんそんなに寒いの?レベッカさんも?」
「「寒い」」
「じゃあ私の聖霊魔法で暖かくしてあげますよ」

 えー!そんな事出来るの?是非お願いしますニクス様!

 ニクスは早速俺達に聖霊魔法を掛けてくれた。するとあら不思議。本当にポカポカと暖かくなってきた。

「もう大丈夫ですよ」
「本当だ。なんか暖かい感じする!」
「いや確かに暖かい感じするけど、本当に大丈夫?」

 決してニクスを疑っている訳ではないが、まさか本当にコレで寒さが和らいだのかと疑問に思いながら俺は確かめるためにまたギルドの外へ出た。すると……。

「うわ凄ぇ!本当に寒くない!」
「だから言ってるじゃないですか!信じてないんですか私の事」
「私は何も疑ってないからねニクス」
「ズ、ズルいぞレベッカ!俺だって別に疑ってた訳じゃないからなニクス……!」

 苦し紛れにそう言うも、ニクスは疑う様な目で俺を見ていた。

 そんなこんなで話を戻し、俺達はマスターと一緒に目的のホワイトゴーレムの討伐に向かった――。


~雪山~

 ホワイトゴーレムはSランク指定のモンスター。普通のゴーレムよりも更に防御力が高い。半端な攻撃では倒しきれないちょっと厄介な相手だ。しかも生息場所がこんな険しい雪山とくれば、普通のSランクより討伐が難しい。

「――あそこだよ」

 マスターがそう指差した方向に、確かにホワイトゴーレムの姿を確認した。

<奴はただの木偶の坊。強めに一撃放てば終わりだな>
「それよりも、凄い吹雪だな……!」
「前がほぼ見えないよ」
「何処かに降りますか?」

 マスターの言った通り雪山は吹雪がとても凄いな。普段から全く見慣れていない俺達にとってはより現実離れして見えてるだろう。

「いや、これは慣れない俺達にとって危ない環境だ。俺がこのまま1発で仕留める」
「頼もしいな~」

 マスターに少し茶化されながらも、俺はホワイトゴーレムを一撃で倒し、サクッと素材も回収して街に戻った。そしてマスターとも別れを済ませ、俺達は寮に帰った――。

~特殊隊の寮~

「――何時も通り迅速な対応だな。ご苦労。立て続けで悪いが次の任務だ」

 ホワイトゴーレム討伐の報告をした後、俺達は再びダッジ隊長から新たな任務を言い渡された。次の討伐対象は“デザートサーベル”。砂漠に生息するタイガーの様なモンスターだ。

 その日はもう寮で休み、俺達は翌日任務に向け出発した――。

♢♦♢

~デザバレー街~

「――おう、よく来てくれたな! お前達とはルージュドラゴンの時以来か。ガハハハ!」
「ご無沙汰してます。ここは凄い暑いですねマスター」

 俺達を出迎えてくれたのはデザバレー街のマスター。此処には西の冒険者ギルドがある。
 
「今度は暑いね……」
「ああ。昨日と両極端過ぎる。暑い……」
「ガハハハ。昨日は雪山に応援していたらしいな。此処は逆に炎天下で暑いだろ!取り敢えず中に入れ、ガンガンに冷やしてあるからな。腹壊すなよ」

 そう言ってマスターはギルドの中へ案内してくれた。

 ここはマジで暑すぎる。しかもマスターも豪快でちょっと暑苦し……おっと、それは失礼だ。マスターやSランクの人達は皆良い人ばかりなのに。暑さで頭がボーっとしているなこれは。

 それにしても、またもやニクスは大丈夫そうだな。寒さに強いのは分かるけど、暑さにも強いとは。まぁ一応炎だもんな。バーレーンなんか滅茶苦茶燃えてたし……。

 そんな事を思いながら、俺達は案内されたギルドの中で今回の討伐の件について話し合った。

「冷たい物でも飲んで行け!」
「ありがとうございます。それでマスター、今回はデザートタイガーの討伐って事ですよね?」
「ああ、そうだ。街から更に西に行くとバラサバラ砂漠があるだろう?そこを50㎞ぐらい行った場所でデザートタイガーの姿が確認されているんだ。
奴自体はSランクだがら討伐に問題はないんだがな、何せこっちは人手不足でよ。俺ともう1人のSランク冒険者も砂漠の反対側に討伐しに行かなくちゃいけねぇ。デザートタイガーが段々街に近付いてきているからそっちも早めに討伐しないと危ない。だから応援を頼んだ。宜しくな!
!」

 デザートタイガーなら確かに余裕だろう。昨日みたいな視界もまともじゃない状況に比べれば全然動きやすい。だが如何せん暑すぎる……。これはこれで意識が持っていかれそうだ。

「分かりました、任せて下さい! それと……関係ないですが、この暑さどうにかなりませんよね……?」
「ルカさん今度は暑いんですか?レベッカさんも?」
「「暑い……」」
「じゃあ私の聖霊魔法で涼しくしてあげますよ」

 えー!そっちも出来るの?是非お願いしますニクス様!貴方だけが頼りです。

 ニクスは早速俺達に聖霊魔法を掛けてくれた。するとあら不思議。本当にひんやりと涼しくなってきたではありませんか。

「もう大丈夫ですよ」
「凄い!涼しくなってる!」
「確かにな。確かに涼しい感じするけど……本当に大丈夫?」

 昨日と一緒の流れ。
 何度も言うが決してニクスを疑っている訳ではない。だがまさか本当にコレで暑さが無くなっているのかと疑問に思ってしまった俺は、確かめるためにまたギルドの外へ出た。すると……。

「うお、熱くない!こりゃ快適だ!」
「だから言ってるじゃないですか!やっぱり信じてないんですね私の事!」
「私は何も疑ってないからねニクス」
「だ、だからズルいぞレベッカ!俺だって別に疑ってた訳じゃないからなニクス……!」

 苦し紛れにそう言うも、ニクスは再び疑う様な目で俺を見ていた。

 そんなこんなで話を戻し、俺達はマスターと一旦別れて目的のデザートタイガーの討伐に向かった――。


~バラサバラ砂漠~

 デザートタイガーはSランク指定のモンスター。足場の悪い砂漠でも俊敏に動き回る奴だ。鋭い牙には毒があるから、それだけ気を付ければ特に危険はない。それよりも、砂漠と言うのは一面砂で目印がほぼない。俺達は飛んで移動してるからいいけど、ここを歩くのはかなり大変だ。

「――お、いたぞ」

 砂漠の真ん中にポツンと存在するオアシスで水を飲んでいるデザートタイガーを見つけた。

<アレは犬と変わらん。寮で他の者達と訓練していた方がマシだ>
「じゃあ今日は私が倒していい?」
「勿論どうぞ」

 レベッカが申し出てくれたので今回はレベッカに任せよう。飛んでいた俺達は下に降り、早速レベッカが魔法を放った。

「よーし、“エアロウイング”!」

 次の瞬間、強烈な風が吹き荒れ、大きな風の刃が複数同時にデザートタイガーを襲った。

 ――ビシュン!ビシュン!ビシュン!ビシュン!
 四方から撃たれた風の刃によってデザートタイガーは一撃でその場に倒れた。レベッカも結構強くなってるな。
 
「やった。いい感じに決まった」
「凄いですレベッカさん!」
「大分コントロール上手くなってるな」
「そうでしょ? クレーグに改造してもらった武器も凄いしっくりくるんだよね」
「良かったな。それじゃあ取れる素材を回収して、ギルドに戻るか」

 デザートタイガーを討伐した俺達は何時もの如く、慣れた手つきで使える素材を回収しギルド戻った。だがその途中、Aランクモンスターである“スナスネーク”の群れを見つけた俺達。

 別に討伐の目的ではなかったが、レベッカが何やら試したい魔法あるとか言い出し為、再び下に降りた。

「何する気だ?」
「フフフ。だから言ったでしょ、ちょっと試したい技があるの」
 
 特殊隊の影響だろうか……。あそこは毎日の様に誰かが訓練しているから、その影響が少なからずレベッカにも出ているのかもしれない。勿論悪い事ではないし、俺の気のせいならいいのだが、以前に比べて少し好戦的になっている気がしなくもない――。

「上手く出来るかな……。“エアロ”! そして“フレイム”!」

 レベッカは風魔法と炎魔法を同時に発動させた。目の前の風と炎が互いにどんどん交わりながら勢いを増し、みるみるうちに巨大な玉が出来上がった。

 へぇ、これはなかなか。しかも……。

「……そして“バフ”!」

 風と炎の同時発動に加え、レベッカは出来上がった巨大な玉に更に付与魔法を加え火力を上げた。

<ほお。3魔法同時とは、やるではないかレベッカ>
「ジークちゃんに褒められるなんて嬉しい!」

 滅多に認めないジークからの誉め言葉に、レベッカは本当に嬉しそうだ。そしてその喜びのままレベッカはスナスネークの群れに巨大な玉を撃ち込んだ。

「よし、それじゃあ今度こそギルドに戻ろう」

 こうして、俺達はギルドに戻りマスターとも合流した。報告と別れを済ませ、最後は特殊隊に帰りダッジ隊長にも報告。これが何時もの流れだ。




 だがしかし――。

 それからというもの、俺達は任務の報告をする度に直ぐ次の任務を言い渡され翌日には出発すると言う鬼スケジュールがかれこれ3ヶ月は続いたのだった――。



「――ダッジ隊長!流石に限界です!休みを下さい!」

 俺はこの日、遂にダッジ隊長に盾突いた。

「何ですかこの激務は! ほぼ毎日Sランクモンスターの討伐ですよ!1週間に1日休みがあるかどうかです!レベッカもニクスも疲れ切ってもう限界ですよ!だから休みを下さい!」

 俺は隊長の目の前のデスクをバンバン叩いて抗議した。だってここ3ヶ月は本当に扱いが酷い!

「大声で言わなくても聞こえている。今は“別件”で他の隊員が動いているからな。たまたまお前達に任務が集中しただけだ」
「でもだからって過労で倒れますよこっちは!」
「じゃ休んでいいぞ」
「え……?」
「嫌なのか? じゃあ次のッ……「欲しいです!欲しいに決まってますよ!何言ってるんですか!」

 こうして抗議の甲斐あってか、俺達は1週間のリフレッシュ休暇を貰う事になり、俺達は久々の休みを堪能した――。
♢♦♢

~特殊隊の寮~

 あれから1週間――。 
 久々の休みを満喫した俺達は久々に訓練場で体を動かしていた。

「――戻ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「五月蠅い。静かにして。耳障り」

 突如、寮全体に響くような声が聞こえてきた。

 赤髪の男と黒髪の女の2人。どちらも全く見覚えがない。俺とレベッカとニクスがキョトンとしていたが、他の皆は違った。

「帰ってきたみたいだね、ヴァン。リリィも久しぶり」
「あ、リリィお帰りー!」
「……お疲れ様、2人共……」

 皆この2人を知っている様子だ。あ、そう言えばまだ他の任務に行ってる人がいるって初日に聞いた気が……。この人達の事か。

「久しぶりだなお前らも!元気してたか」
「テンション高過ぎよ。静かにして」
「お前が落ち着き過ぎなんだよリリィ。ほら! この子みたいにもっと可愛げを出したほうがいいぞ!」

 ヴァンと呼ばれた赤髪の男がレベッカを見ながらそう言った。そして馴れ馴れしくもレベッカの肩を掴み自分の方へグイっと引き寄せたのだ。

「え……?」

 突然の事にレベッカも恥ずかしそうに戸惑っている。

「君凄い可愛いじゃん! あ、俺はヴァン! もし良かったら俺と付きあッ……「――手離せよ」
「「……⁉」」

 気が付くと、俺はゼロフリードの切っ先を奴の首元に突き付けていた。

「おいおい、何をマジになってんだよ」

 ヴァンはレベッカから手を離し、俺に笑顔を向けて来た。
 何だコイツは……。

「お前が噂のジークリート召喚少年か。って事は初めましての彼女がレベッカちゃん? それでそっちの彼女がニクスちゃんか!フェニックスってマジ? 後で見せてよ」

 何かチャラいと言うか軽い。行動も口調も。コレがこの人の普通なのか……。皆特に反応を示してないって事はそうだよなきっと。

「やめなさいよヴァン。明らかに迷惑そうよ」
「え、そうなの?」
「あー!ヴァンだ。帰って来たんだね、お帰り!」
「おおピノ!ただいま」
「相変わらずで安心したよ。ルカ達は初めてだよね?」

 話しをまとめようとクレーグさんが1歩前に出て彼らを紹介してくれた。

「こっちがヴァン、そしてこっちがリリィ。ずっと任務に出ていてね、2人共特殊隊の仲間だよ。君達にも前に報告だけしてあると思うけど、この子達が新人ね」
「ルカとレベッカとニクスね。初めまして、私はリリィ。宜しくね」
「俺はヴァンだ! 会いたかったぜお前らにもよ」

 ヴァンとリリィはそう自己紹介をし、俺達も宜しくと言葉を交わした。

「――じゃあ挨拶も済んだし、早速“やろうぜ”ルカ!」
「え?」

 凄い嫌な予感。そしてコレは恐らく的中してしまうだろうな。

「ずっとあのジークリートの力がどんなもんか気になっていたんだ。久々に本気でやらせてもらうぜ!」
「元気だねぇヴァン。いきなりルカと遊ぶのか」

 やっぱり。こんな事だろうと思ったぜ。本当に変わった人の集まりだここは。

「じゃあ私達も行きましょうか」
「私もその後を聞きたいな!」
「え、もしかして……!」

 リリィとエレナに連れられたレベッカは、何時ぞやと同じ様に何処かへ連行されていった。行き先は風呂場だろう……。そして俺はここでヴァンと戦わなければいけないのか……。


~訓練場~

「――うし。 それじゃあ始めるか! 俺は炎魔法使うから宜しくな」
「え、先に言ってよかったの……?」
「勝負はフェアじゃないと面白くないだろ。こっちはジークリートいるって知ってるんだから、俺の教えとかないとな」

 これは意外だった。
 勿論決めつけは良くないけど、さっきの行動や態度からいまいち信用ならない人だと思ったけど、どうやら悪い人ではないみたいだな。

「なんか、ありがとうございます」
「ハハハ!何だそりゃ。もういくぞ……“ファイア”!」

 ヴァンは勢いよく炎魔法を繰り出した。しかしそれは誰もが扱える初歩な下級魔法。ただ小さな炎を出すだけの基本魔法でもある筈なのだが、ヴァンが出した炎は直径4~5mはあろうかと言う超巨大な火炎球だった。しかも複数。

「何だこれ……でか。しかも熱い。ただの下級魔法じゃないのか……?」
「そうだ、言い忘れた!俺は炎魔法の使い手だけど、特殊適性である“煉獄の極み”の効果で、炎魔法の威力が30倍になってるからな!」

 また初めて聞く力だな……。威力30倍って反則じゃないかそれ……?
ただの下級魔法がすでに上級魔法並みの火力じゃないか。

<これはまた面白い>

 ジークがやる気という事はやっぱ強いのかこの人も。

「これで本当にフェアだな。じゃあ遠慮なく……食らえ!」

 ヴァンは何の躊躇もなくデカ火炎球を全て放ってきた。

 ――ズドォン!ズドォン!ズドォン!
 かなり広い筈の訓練場が狭く感じる程の火炎球のデカさ。当然威力も強いし。

<やるな。だがこれは魔力の消費が多い筈。しかも火の玉の大きさで死角だらけだ。やれルカ>

 やる事は分かっているだろと言わんばかりのジークの発言。だがそれは俺も思っていた事。俺はヴァンが連続で放ってくるデカ火炎球の死角を狙って一気にヴァンへ距離を詰めた。

 そして、近づいた最後の1発のデカ火炎球をゼロフリードで一刀両断し、僅かに困惑していた一瞬の隙をついてヴァンの背後を取り終了。

「うっはー、マジかよ!ハハハハ!こりゃ確かに凄いぜ!お前の勝ちだルカ。面白かったよ」
「ありがとうございます」

 こうして、また挨拶がてらの遊びが終わった。


♢♦♢

~お風呂場~

「――それで? レベッカとルカは恋人同士なのですよね」
「え⁉こ、恋人……⁉」
「アハハ、リリィはストレートに言うからね。正直に話しなレベッカ」

 一方のレベッカはというと、案の定お風呂場で根掘り葉掘り事情聴取を受けているのであった。

「そんな……わ、私達、別に恋人じゃないの……!」
「そうなの? でもさっきのルカのあの行動は、明らかに自分の女に手を出された事に対する怒りの現れ。レベッカに触れたヴァンに殺意まで放っていたわよね。それで恋人同士ではないと?」
「う、うん……。ルカがどう思ってるか私も分からないけど、恋人ではない……」

 俯きながら言うレベッカは恥ずかしくもあり、何処か寂しげな感じでもあった。

「成程。もし2人が恋人同士ならば、ヴァンに邪魔するなと釘を刺しておこうと思ったけど、違うのね。
なら、ヴァンが貴方に好意を寄せてもいいし、私がルカに好意を寄せても問題ないわね」
「え⁉ な、なんでそうなるの……⁉」
「アハハハ! ヤバいねレベッカ。アンタも可愛いけど、美人のリリィにルカ取られちゃうよ」

 エレナは冗談で茶化していたが、レベッカは心中穏やかではない。見るからに焦っている様子だ。

「そんなぁ……! だ、だてリリィはルカが好きなの……⁉」
「いや、今は好きじゃないわ。あくまで可能性の話だから。でも今後そうなる事も否定出来ないわね。確率はかなり低いでしょうけど」
「そ、そうなんだね……」
 
 リリィの言葉にホッとした表情を浮かべたレベッカを、エレナは見逃さなかった。

「へぇー、リリィにその気がないなら、私がルカの恋人になろうかな! 今どっちもフリーだし」
「ダメ! それは絶対にダメ!」
「アハハハ! 何でそんなに焦ってんの? 別に恋人同士なら関係ないじゃん。ずっと一緒にいてその気もないみたいだし、私がルカと付き合ってもいいと思うけどなぁ~」

 未だにハッキリしないレベッカに対し、もう全て分かっているエレナが悪戯っぽくレベッカをイジる。そして、レベッカは半ばやけくそで遂に本心を言った――。

「も~ズルいよ……エレナも分かってるくせに! そうよ……!私はルカが好きなの! だから皆手を出さないでッ!」

 こうして、リナの心の叫びが風呂場に響き渡ったが、当然リリィとエレナ以外には聞こえる筈もなかった――。