♢♦♢
「――北東の地域ですよね?グランマル街って」
国王団の特殊隊に入った翌日、俺とレベッカは早くも任務の要請とやらで朝からダッジ隊長に呼ばれていた。
「ああ。その国境付近でAランク指定されている“ギガントオーク”が20体出現してるそうだ。北のギルドのSランク冒険者が撃退している様だが如何せん数が多く苦戦を強いられている」
成程。ギガントオークはAランクだがその数はヤバいな。幾らSランクでも同時に相手出来るの精々は3、4体だろう。
「俺達も応援に行くって事ですね?」
「ああ、そうだ」
「でもギガントオークが20体って……。普通じゃないですよね」
「そうだ。だからその原因も調べてきてくれ」
「分かりました!」
ダッジ隊長に任務を告げられ、俺とレベッカは直ぐに向かおうと隊長の部屋から出ようとした時、ダッジ隊長に呼び止められた。
「そういえばルカ。先日お前と決闘をし、辺境の島へ送られたグレイとか言う奴だがな、何やら島の収容所から突然姿を消したと報告が入った。恐らく逃亡の類だと思うが原因は調査中らしい。もう関係ないだろうが一応伝えておくぞ」
「そうですか……。ありがとうございます」
久しぶりに奴の顔を思い出した。
姿を消したって……収容所から脱獄でもしたのかアイツは……? 仮にそうだとしても、収容所の警備は厳重の筈。一体どうやって――。
幾らかの疑問が芽生えたが、俺はもう興味がなかった。考える時間も勿体ないと思った俺は直ぐにレベッカと共に北東のグランマル街に向かった。
♢♦♢
~グランマル街~
「――ルカ~!レベッカ~!」
グランマル街に着くと、ルージュドラゴンを討伐した時にいたSランク冒険者の人が出迎えてくれた。確か名前はキャンディスさん。尻尾を切り落としてやると豪快に攻撃していた斧使いの美女だ。
「キャンディスさん、久しぶりですね。お元気そうで」
「ルカもね。それより貴方特殊隊に入ったんだって? 凄いじゃない!」
キャンディスさんはそう言って背中をドシドシ叩いてきた。相変わらず勢いのある人だな……。
「レベッカも久しぶり!魔力コントロール上手くなった?」
「お久しぶりですキャンディスさん! コントロールはまだまだ未熟ですが、皆さんの協力のお陰で着実に進歩はしてます!」
「それは良かった。そうしたら2人共こっちに来て。マスターが待ってるから」
キャンディスさんが言ったマスターとは勿論ここの北の領地のギルドマスターである。ゼインさんとはまた別だ。当然マスターだから強いし、名前も知ってる有名人。
“風神の双剣士”と呼ばれた疾風の槍神と呼ばれたウイング・ウィングさんだ。
「――おお!よく来てくれたな! お前が噂のSSSランク!」
凄い大きな声。
これが第一印象だ。
キャンディスさんが所属するギルドのマスターだからと言えば納得も出来るが、ここのギルドは皆こういった豪快な人ばかりなのだろうかと少し心配……。
「ルカ・リルガーデンと言います。宜しくお願いします」
「私はレベッカ・ストラウスです。宜しくお願いします」
「ああ、2人共宜しくな!」
「早速ですみませんが、状況を教えてもらってもいいですか?」
「分かった!一先ず座ってくれ」
椅子に腰かけた俺達はウイングさんから状況を伺った。
聞いたところによると、ギガントオークは元々このグランマル街から程近い、国境付近にある山が生息地との事。これまでも年に数回ギガントオークの被害が出ていたそうだ。
ここまでは俺が知っている情報通り、十分対応出来たとウイングさんも言っていた。
そうなるとやはり気にいなるのが……。
「――じゃあ今回の様に20体近くの群れで出て来たのは初めてなんですね?」
「ああ。流石に数が多くて手を焼いている」
「分かりました。じゃあオーク達は一先ず討伐して、その後原因の調査を行ってきます」
「頼んだぞ。キャンディス!彼らの案内頼む!」
「了解!」
こうして、俺達はキャンディスさんの案内でオークが出没している場所に向かった。
「――凄ッ! 速ッ!」
ドラゴンの姿で移動している為、俺の背には当然レベッカとキャンディスさんが乗っている。レベッカはもう慣れた様だが、初めて乗ったであろうキャンディスさんは終始興奮している様子だ。
「これは移動が楽で便利だなぁ!」
「そうですよね。速いし交通費も掛かりませんよ」
「……あの、ギガントオークはどこに……?」
背で盛り上がってるところ悪いが、本題はそこじゃない。
「そうだった。あっちあっち!この先で奴らが群れを作っているんだよ!」
キャンディスさんの言う通りに、俺は山の中を移動していった。
~山の中腹~
「――あそこだよ」
案内通り山道を進んで行くと、結構深い崖の上に出た。
キャンディスさんが崖の下を指差しているので恐る恐る下を確認すると、そこにギガントオークの群れがあった。
確かに数が多い。だがここに集まっているなら上から攻撃魔法を放てば一網打尽だ。でもそれだと簡単過ぎるから、レベッカの魔力コントロールの練習にでもなってもらうか。
「よし、2人共。ここから飛び降りるからまた背中に乗ってくれ」
「「えッ⁉」」
俺の突然の申し出に、レベッカもキャンディスさんも驚いている。流石に垂直に近いこの崖を下ると思っていなかった様だ。そこそこ高さもあるし。
「いやいや、大丈夫なの?」
「大丈夫です!早く乗って下さい」
俺は再びドラゴン化し、早く乗ってくれと2人を促した。キャンディスさんは開き直った様に乗ったが、レベッカはまだ不安そうな顔をしていた。
「じゃあ行くぞ」
そう言って、俺達は崖から飛んだ――。
「キャァァァァァァァァァァッ!!」
「アッハッハッハッハッ!」
飛ぶと言うよりこれはもう落下に近い角度だ。笑うキャンディスさんと悲鳴を上げるレベッカ。反応が両極端。
瞬く間に地上にいるギガントオーク達との距離が縮まり、俺はレベッカに指示を出した。
「今だレベッカ! 出来る限り広範囲で攻撃するんだ!」
「えぇぇぇ⁉ こ、この状況で……⁉ もうッ……“アイスブレイク”!」
レベッカは半ば投げやりで魔法を繰り出した。
放たれた大きな氷の結晶は勢いよくギガントオークの群れのど真ん中を直撃。そして瞬く間に地面やオーク達を凍り漬けにした。
「“プロメテウス”!」
レベッカの一撃で仕留めそこなった3体のギガントオークは俺が炎魔法で掃除し、無事全て討伐完了。
「こりゃ凄い!あれだけ私達が苦戦したのをこうもあっさり片付けちゃうなんて……。立場がないねこれは」
討伐したギガントオークの素材を全て回収した俺は空間魔法に収納し、そのまま今度は調査に入った。
今回のイレギュラーな事態の原因はなんだろうか……?
「ルカ、匂いって辿れる? もしかしたらコイツらが来た方向に何か手掛かりがあるかも」
「確かにそうですね。寧ろそれしか調査のしようがないかも」
俺は再び2人を背に乗せ、ギガントオークの匂いを辿った。そして暫く進むと、山の奥にある洞窟を見つけた。
「匂いはあの奥に続いてるな」
「行ってみよう」
「こんな洞窟に何かあるのかな……」
洞窟の中に入ろうと入り口まで近づくと、そこには何故か結界魔法が張られていた――。
「何でこんなところに結界魔法が……」
「ねぇルカ、あそこ見て!」
徐にレベッカが洞窟の奥を指差した。すると、入り口からの明かりが辛うじて届くぐらいの位置で“何か”が動いたように見えた。
「あれは何だ……?」
「ただの鳥かな?」
<違う。奴は確か聖霊“不死鳥”だ――>
「不死鳥って……フェニックス⁉」
薄暗くてしっかりと姿を確認出来ない俺達にジークがそう言った。
「フェニックスって、あの聖霊の……?」
なんと、そこに倒れるのは聖霊と呼ばれる珍しいモンスターのフェニックスであった――。
♢♦♢
~辺境の島・収容所~
「――トロトロしてんじゃねぇ! またお前達か!さっさと動いて働け!終わらねぇぞ!」
辺りに鳴り響く怒号の先に、グレイ達の姿があった……。
「ぐッ……! ハァ……ハァ……」
「ハァ……ハァ……待ってくれ……」
「畜生ッ……ハァ……ハァ……」
辺境の島――。
此処は罪を犯した罪人達が送られ収容される場所である。
先の一連において、国王に罪人と言い下されたグレイ達は、この辺境の島の収容所でも特に厳しい環境だとされる重警備収容所に送られていた。
重警備収容所は罪人の中でも重い罪を犯した者達が行きつく場所。警備も当然厳しい事ながら、与えられる労働も極めて辛く厳しいものであった。
グレイ達の主な労働は採掘場での魔石採掘。勿論全員が魔力封じの鎖を付けられている為、魔法など一切使用出来ない。全てが手作業であり肉体作業。いつ崩れるか分からない恐怖と暗く狭い場所での休みない労働……。
いっそもう死んでしまった方が楽だとさえ思う程の過酷な労働環境に、グレイ達は早くも心身共に腐りきっていた。
一方、女のラミアは担当労働が違い、グレイ達と同じ採掘場ではなかったが、ラミアもラミアでその採掘された魔石の仕分け等の労働を与えられ、炎天下の中や強い雨風に晒された労働に酷く疲れ切っているのであった。
「休むんじゃないノロマ共ッ! 懲罰房に入れるぞ!」
「「ゔゔッ……!」」
グレイ達は完全に怯えていた。
収容所の警備員達によって何時間も働かされ、いざ動きを止めようものなら魔法攻撃で体罰を受ける。そんな毎日を送っていた。
今日という日もそんな1日。
やっとの思いで労働が終わったグレイ達は房に戻った。重罪として独房に入れられていたグレイ達は皆部屋がバラバラ。狭く薄暗い部屋で常に1人だった。
「畜生ッ……何でだ……!何で俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよクソッ!
あの野郎……。ルカにさえ、ルカにさえ出会っていなければ……こんな事になっていなかったんだよクソ野郎ォォォ……!!」
この過酷な極限状態の中でも、グレイを最後に支えていたのはルカへの怒りと恨み……そして消える事の無い殺意であった――。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!絶対あの野郎殺してやるッ!」
『――いい殺意だね』
行き場の無い感情を吐き出しているグレイの後ろから、突如声が響いてきた。グレイは幻聴かと思いながらも反射的に振り返ると、そこにはグレイ以外にいる筈のない1人の人間の姿があった。
「だ、誰だ……?」
この独房にグレイ以外の人物がいるなど有り得ない。ましてや此処は重警備の独房だ。グレイは疲れ過ぎて幻覚を見ているのだと思ったが、その幻覚は再びグレイに話し掛けたのだった。
『私の名前は“オロチ”。質の良い魔石を頂戴しに来たら、君の魅力ある殺意を感じてね。ちょっと見に来たのさ――』
話し出した幻覚は幻覚でない。
白銀の長い髪に吸い込まれそうな漆黒の瞳……。色白の綺麗な肌をした美しい青年が確かにそこに存在していた。
「オロチ……だと? 何だお前は」
『いい目つきだね。そこまで憎い敵がいるなら、私が殺してあげようか?』
「なんだと……⁉ ルカを、あの野郎を殺してくれるのか⁉」
既にまともな思考回路ではにグレイは、この者が何者かという事や何故こんなところにいるのかという事が最早気になっていなかった。ただただルカを殺すと言う思いがけないオロチの言葉に飛びついたのだ。
細かい事などどうでもいい。
ただただルカを殺したいという一心しか存在しないグレイは、何時しか正気を完全に失い、殺意と言うエネルギーだけが彼を動かしていたのだった――。
『君が望むなら殺してあげるよ。ただし条件が1つ』
「何でもいい!言ってみろ!」
『君の“仲間の命”を私にくれないかい?』
「それだけでいいのか⁉ そんなの幾らでもくれてやる!」
オロチの出した条件に、グレイは一切の迷いなくそう答えた……。
『よし。契約成立だね。じゃあここから出ようか――』
その日の夜、グレイとラミア達は収容所から忽然と姿を消したのだった。
♢♦♢
~辺境の島・森林~
「――何処まで行くつもりなのグレイ!」
収容所から脱獄したグレイ、ラミア、ブラハム、ゴウキンの4人は、収容所を取り囲む様に広がる森林の中へと逃げ込んでいた。
「うるせぇ! 俺のお陰で逃げられたんだから黙ってついて来い!
(確かオロチに言われた場所はこの辺りだ……)」
オロチと契約したグレイは、オロチの力によって収容所から脱獄。あの時、オロチがグレイの影に入り込んだ瞬間、いつの間にかグレイ達は外に出られていた。
グレイ以外の3人はずっと驚いているが、これがオロチの力だと認識したグレイはどんどん森林の奥へと突き進んでいた。そして訳も分からないまま取り敢えずラミア達も着いて行く。
そしてオロチに言われた場所までグレイ達は辿り着いたのだった。
『お疲れ様。待っていたよ』
オロチはまた突然姿を現した。
彼を初めて見たラミア達は、その余りの美しさに言葉を失っている。まるで神を崇めているかの様にさえ思えたラミア達は、ただオロチに見とれていたのだった。
「おい、オロチ! これで条件は満たしただろう!早く俺の望みをかなえてくれよッ!」
「条件って……一体なんの話しなの……?」
「それよりこの人は誰だ……?」
状況が理解出来ないラミア達は困惑していたが、グレイはもう皆の事など眼中にない。あるのはルカに対する純粋な殺意のみだ。
『そうだね。ルカはしっかり私が殺そう。ああ、イケない。その魔力封じの鎖を取ってあげないとね。“楽しめないから”』
オロチはそう言い、グレイ達の鎖を壊した。
「嘘!やった、外れたわ!」
「マジかよ!これで自由だ!ありがとう!」
心の底から喜ぶラミア達に対し、オロチは背筋の凍るような冷酷な視線を飛ばした。
『フフフ。楽しそうで何より……。無事に“逃げ延びたら”本当の自由だよ――』
「「……⁉」」
刹那、オロチは白色の蛇の様なモンスターを召喚した。
「何アレ⁉」
「知らねぇよ……! どうなってんだグレイ!」
「あんなモンスター見た事ねぇぞ……」
シュルルっと不気味に長い下を出している白蛇のモンスター。オロチと白蛇の異様な雰囲気に、ラミア達には一瞬で恐怖が植え付けられていた。
『じゃあ好きに逃げなよ。直ぐ終わったら詰まらないからさ、3時間後にこの子達を放つよ』
微笑みながら言うオロチであったが、目は一切笑っていなかった。そんなオロチを見て、本能的にヤバいと察したラミア、ブラハム、ゴウキンの3人は、気が付けば全速力でその場から走り去っていた――。
3人共既に日々の労働で体は疲れ切っていた。だが本能が察知した危険と自由への欲望が3人を一心不乱に突き動かしていたのだ。
そして3時間後……。
『さぁて、3時間経ったね。行っておいで』
オロチの言葉で、召喚された2体の白蛇はラミア達を追って行った。凄まじい速さで地を這う白蛇達。3時間というハンデがあったにも関わらず、この白蛇の速さならばものの10分程度で追いつかれてしまうだろう……。
「おいッ、もういいだろ!早くルカの野郎を殺せよッ!」
『せっかちだね。君には1番の席で見せてあげるよ』
そう言ったオロチは突如青い炎に包まれ、その炎が一瞬で消え去ったと同時、オロチは10の頭を持つ白銀の大蛇へと姿を変えていた――。
「お、お前は……」
『フフフ』
――バクンッ……。
それがグレイの最後の言葉となった。
『成程ね……。ジークリートの奴が人間に召喚されたと聞いたが……こんなの何が使えるんだろうか?
まぁ奴は魔力の魂として人間の中にいる様だから、私もこの人間の“抜け殻”を使ってみるか。これから案外役立ちそうだし。フフフフ』
誰もいなくなった森林で、オロチは不気味に笑った。
「――……ァァ……ッ……!」
風音に消されそうな程遠くから“叫び声”が僅かに響いた。
『“そっち”も片付いたみたいだね。案外呆気なかったな。残念』
静かに呟いたオロチは、夜空に輝く満天の星空へ向けて10の頭を仰いだ。
『あぁ……早く君に逢いたいよジークリート……。次こそ必ず、“現竜神王”の私が君が葬ってあげるからね――』
~グランマル街・冒険者ギルド~
「――ま、待ってッ!置いて行かないで!」
「うわッ、ビックリした……!」
今しがた、寝ていた不死鳥ことフェニックスが突如大きな寝言を言った。その場にいた俺、レベッカ、キャンディスさんも皆驚いた。そりゃそうだろ。急に大きな声出したし、しかも今“喋った”よな……?
「お、おい……大丈夫か?」
「えッ⁉ こ、ここは……⁉」
起きたフェニックスは混乱している様子。
だが俺達も目の前のフェニックスのまさかの行動に混乱しているのは言うまでもない。洞窟で倒れていたこのフェニックスを見つけた俺達は、結界を破り一先ず回復魔法を掛けた。意外と傷だらけだったからそのまま眠らせておいたけど、今急に寝言言いながら起きた。
「お前言葉が話せるのか?」
「え?私ですか……?ええ一応……。正確には言葉というより念波によってそう聞こえてるのですが……。あの~、貴方達は一体……? 私はどうなるんでしょう?」
フェニックスは何処か不安げな様子だ。
「ここはグランマルって言う街のギルドで、一応俺達は冒険者。任務でギガントオーク倒してたらさ、洞窟で倒れているお前を見つけたんだよ。
大丈夫、安心しろ。そんなに怖がることない。別に取って食ったりしないからさ」
「グ、グランマル……⁉ 私はそんな遠くまで来てしまっていたのか……」
「フェニックスさん、何があったの?」
「良かったら教えてくれないか? 困ってるみたいだし」
「え⁉ こ、こんな優しい方達がいるなんてッ……」
そう言ったフェニックスは突如泣き始めた。
「ゔゔッ……ゔゔッ……! な、何か助けてもらったみたいで……本当にありがとうございますッ……! 私、私本当に困ってて、大変でッ……! 取り敢えず話しだけでも聞いてくれますか……!」
余程の事があってここまで来たのだろう……。数秒前までとはまるで違う反応に一瞬戸惑ったが、俺達は勿論話を聞く事にした。
「まぁ落ち着けよ。話しなら聞く。寧ろ聞かせてくれ。俺の名前はルカ、宜しくな」
「ルカさんですね、はい! 私一生忘れません!そして私の名前はニクスです。宜しくお願いします!」
さぞ嬉しかったのか、ニクスと名乗った目の前のフェニックスは、これまでの経緯を流暢に喋り出した。
「全ての始まりは、私達フェニックスが住むヨーハン遺跡を出てしまった事でした――」
ニクス曰く、ニクスは不死鳥の聖霊でありながら、飛ぶ事が出来ずに他の仲間達から毎日馬鹿にされていたらしい。
それでもニクスは懸命に頑張り飛ぶ練習をしていたのだが、今でも飛べるのは精々数メートル程。仲間達は馬鹿にする挙句、友達も出来ずに何時もニクスは1匹だった。
そこへある日、何時も馬鹿にしてくる1匹のフェニックスがニクスに話し掛けて来た。また馬鹿にされると思ったニクスだが、その相手の言葉は思いがけないものだった。
「――おい、誰も友達いないなら外の世界に遊びに行こうぜ」
突然の言葉にニクスは驚き戸惑ったが、初めてそんな言葉を掛けられてとても嬉しかったらしい。
ヨーハン遺跡に住むフェニックス達は、長であるフェニックスから外の世界へ行くのはダメだと強く言われていたらしいが、嬉しかったニクスは誘ってきたもう1匹のフェニックスと一緒に言い付けを破ってしまった。
「でも、私は空飛べないから……」
「大丈夫だよ。歩いて行けるところだから」
すっかり安心したニクスは遂にヨーハン遺跡を出た。
初めてみる外の世界はとても素敵で刺激的だった。見るもの全てに目が奪われてしまう程に。
だがニクスどこか外の世界に不安もあった為、ずっと仲間にくっ付いていたそうだ。そのまま暫く進んだニクス達。すると突如、仲間のフェニックスが見知らぬ土地でニクスを置いて羽ばたいてしまった――。
「え……⁉ ちょ、ちょっと待ってよ! 何処に行くの⁉」
「ハッハッハッ!やっぱ馬鹿だなお前! 本気で友達だとでも思ったのかよ。悔しかったら飛んでみろ!気が向いたらまた迎えに来てやるよ~」
そう言われ、ニクスは本当にその場に置いて行かれてしまったとの事。
外の世界は初めてで右も左も分からない。しかも飛べない上に、ニクスはフェニックス達聖霊が当たり前に使える“聖霊魔法”もまともに使えないらしい。
ニクスは分からないながらも何となく来た方向を戻って山の中を彷徨ったが、そこで数人の男達に捕まってしまった。
「なんか珍しいモンスター捕まえたぞ!」
「何だコレ。見た事ねぇな」
「コイツ使って他のモンスターおびき寄せる餌に出来ねぇか?」
「おお、それは名案だ! だったら逃げ出さない様に首輪でも付けとくか。雷魔法で」
「間違いない。逃げ出したら電気流れる様にしておけ!あ、殺さない程度にな」
こうしてニクスは男達がモンスターを狩る為の餌にされてしまった。男達の浅はかな思いつきが失敗に終われば良かったのだが、幸か不幸か、ニクスは結構モンスターをおびき寄せてしまったらしい。
だからそれからはモンスターに食べられない様必死に逃げたとの事だ。
毎日毎日モンスターの餌にさせられたが、もし全くモンスターをおびき寄せていなかったら直ぐに殺されていただろう。不幸中の幸いと言えば聞こえはいいが、ニクスにとって毎日が地獄であった……。
そんな地獄が終わったのは1週間程前――。
何時もの如く餌にさせられていたニクスであったが、この日おびき寄せたのがあのギガントオークとの事だ。しかもいきなり5体も現れた事によって、男達は顔面蒼白で逃げ出していったらしい。
遂に男達から解放されたニクスであったが、これはこれでまた地獄。何時もならここで男達がモンスターを狩っていたが今回は違う。自分で逃げ切らないと今度はギガントオーク達に食べられると、ニクスはまた必死で逃げた。
もう自分が何処にいるのかなんて全くわからない。ただただ食べられない様、逃げて逃げて逃げ抜いた……。その途中で首に付けられた首輪から何度も電気が放たれたが、懸命に耐えてひたすら走ったとの事……。
そうして彷徨いボロボロになりながら見つけたのが、あの洞窟だったのだ。ギガントオークが何処まで追って来ているか分からない。当然男達の行方も。
最早考えたくもなかったニクスは、最後の力を振り絞り、何十回に1回成功するかどうかの賭けの聖霊魔法で結界を張ったそうだ。そしてそのまま力尽きたのが最後の記憶だと――。
「……と言う感じで今に至ります。すみません、思った以上に長く話してしまって……」
何も悪い事をしていないニクスは、俺達にまた申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
――ギュッ……!
「もう大丈夫だからねニクス! 私達が守ってあげる!」
ニクスの話を聞き終えた瞬間、レベッカがニクスをギュっと抱きしめた。気持ちは俺もキャンディスさんも一緒だ。
「ニクス、これからどうしたい?」
俺はニクスに聞いた。
こんな不思議な出会いも何かの縁。それに余りに酷い話だ。ニクスが帰りたいのならヨーハン遺跡とやらに行くつもりだし、望むならその男達に仕返しをしに行ってもいい。
だがこれは最終的にはニクスが決める事。俺はただ出来る範囲で力を貸してあげたいと思った。
暫く俯きながら考えていたニクスであったが、意志が固まったのか真っ直ぐ俺を見つめて言ってきた。
「あ、あのー、もし宜しければ……このままルカさん達のところに置いてもらえませんか――? 」
「「……!」」
俺達はニクスの申し出に一瞬驚いて顔を見合わせたが、何故だろう……。気持ちは既にニクスを受け入れているのが分かった。
「俺のところに……?」
「は、はい! 助けて頂いた上に、突拍子もない事を言ってるのは承知です。ですが、私にはもう帰る場所がないです……!」
確かに突拍子もない。これは予想外だけど。本当にその気なのか?
「ヨーハン遺跡が住処なんだろ? そこにも帰りたくないのか?」
「今お話した通り、戻ってもどうせ私は皆から馬鹿にされるだけですから」
「そうか……」
俺が無意識のうちにニクスを受け入れていたのは、きっと以前の俺と重なる部分があったからかな……。何気なくレベッカを見ると、無言のまま静かに頷いてくれた。
「よし分かった!ニクス、俺達のところでいいなら好きなだけいてくれ――!」
「ほ、本当にッ……⁉ ありがとうございます! 本当にありがとうございます! 何も出来ませんが、出来る事は何でもやりますので!」
「何もしなくていいって別に」
「竜神王の次は美女、そして不死鳥まで仲間にするとは……。流石SSSランク」
キャンディスさんが珍しく小声で呟いていたから、俺は思わず聞き逃した。何て言っていたのだろう……?まぁいいか。
「特殊隊の寮って聖霊いいのかな?」
「別に大丈夫なんじゃない? そこを気にする様な場所じゃないと思うけど……って、ちょっと失礼発言よね」
まぁ確かに。ある意味聖霊より珍しい人の集まりだからな。
「すみません……。なんか早くも迷惑を掛けてしまっている様で……。私がちゃんと聖霊魔法を使えれば、一応人の姿にも変化出来るんですけど……」
<――ルカ。どうやらコイツ、レベッカと“同じタイプ”らしいぞ>
急に会話に入ってくるなり意味深な事を言ったジーク。
「どういう事?」
<ニクスとか言う奴も魔力が多いんだ。だからコントロール出来ていない。レベッカ、ニクスの魔力を吸ってやれ>
「え、うん、分かった」
戸惑いつつもレベッカはジークに言われた通りニクスの魔力を吸い始めた。すると、明らかにニクスの調子が良くなった。
「あれ……? 何だか体が軽いです。今まで以上にしっかり魔力も感じます」
「へぇ、本当に魔力コントロール出来ていなかっただけなのか」
<ハッハッハッ。こりゃ互いに互いを使えるいい訓練相手だ>
直ぐそこに行き着く発想が恐ろしいなコイツ。
<今なら主でもコントロール出来る筈だ。魔法出してみろ>
「え、本当ですか⁉ って言うかさっきから聞こえるこの声の方は……?」
ジークを知らないニクスは辺りをキョロキョロ見渡しているが、当然ジークの姿を見つけられない。ニクスがそんな事をしていると、ジークが<早くやれ>と煽った為、戸惑いつつニクスは魔法を使った。
「“不死の加護”」
ニクスが部屋に置かれていた花瓶の花に向けて魔法を出すと、枯れていた数本の花がみるみるうちに色鮮やかに花を咲かせ、他の花もよりピンと茎が伸び綺麗に咲き誇った。
「わッ! 本当に出来た⁉」
ニクス本人が1番驚いている。
しかも流石不死鳥の魔法。簡単に出した回復魔法の効果が凄い。
<ニクス、主はまだ若く未熟だ。それ故自身の多い魔力を扱いきれていないのだ>
「成程。そうだったのか……って、さっきから誰でしょうかこの声は?」
「ジークちゃんだよ! 」
「ハハハ、それじゃあ分からないだろ。ニクスは竜神王ジークリートって知ってるか?」
「ええ、それは勿論聞いた事があります……。何でも昔存在した危険なドラゴンだと。だから絶対に近寄ってはいけないと言われました」
声の主が“その”ジークリートだとまだ察していないニクスはこれでもかと正直に言った。それを聞いた俺もレベッカもキャンディスさんも大笑い。このピュアさがニクスの良い所なんだろう。
<――ほぅ。誰がそんな事を言ったのだニクスよ。“我”の悪口とは聞き捨てならんな>
「我って……。えッ⁉ う、嘘ですよね⁉」
遂にニクスも状況を理解した様だ。
「本当だよニクス。俺の中に魔力の魂となったジークリートがいるんだ。安心してくれ。態度はデカいけどいい奴だからさ」
「まさか本当に存在したとは……竜神王ジークリート。驚きましたがルカさんの言う事なら信じます!」
「ありがとう。あ、そう言えばさっき人に変化出来るって言ったけど、もしかして今なら出来る?」
別にどちらでも構わないが、フェニックスなんて珍しいからまた変な奴らに捕まえられるかもしれない。それなら人の方がいいよな多分。
「今なら出来る気がします!」
「ちょっと待って! ニクスって女の子……だよね? 一応私って言ってるし……」
そうだ。危ない。レベッカが確認してくれなかったらどっちに転んでもパニックになるところだった。
「はい、雌です。人間だと女の子ですね私は」
気にしてなかったけど女の子かい。レベッカが確認してくれて助かった……。
「だったら私の服貸してあげるね。ルカ、収納してある私の着替え出してくれる?」
レベッカにそう言われ、俺は空間魔法で入れておいたレベッカの服を取り出した。クエストや今回の任務みたいに何処かへ出掛けた時用に常に最低限の物を入れてあるんだ。
準備も整い、ニクスは改めて魔法を掛け人の姿へと変化した。俺のドラゴン化と逆パターンだなこりゃ。
女の子の姿へと変化したニクス。見た感じ俺とレベッカよりもやや年下っぽい。元のフェニックスとしての面影が綺麗な赤い髪へと反映されていた。
「ニクス可愛い~!」
「そ、そうですか? なんか照れますね」
「凄いな聖霊って! こんなの初めて見たよ私」
「これ人型になったって事はさ、ひょっとして冒険者として診断出来るのかな?」
俺はふとそう思った。人ならば出来るんじゃないかと。しかもこんなの珍しいからちょっと興味もある。どんな測定値になるのか。
「面白そうだからやってみよう!マスターにも報告しないといけないし!」
キャンディスさんも乗り気だ。まるで報告の方がついでみたいな言い方だし。
勢いよく部屋を出て行ったキャンディスさんに俺達も続いた。
~マスターの部屋~
今回の事を報告すべく俺達はマスターの部屋に来た。事情を整理すると案外複雑であった……。
元々フェニックスは国境を越えた隣の王国で神聖なモンスターとして崇拝されている存在。別に何をした訳でもないが、俺達がフェニックスを手にしている事をどう思うかは全く分からない。
これが普通のモンスターだったら話は別だが、今回はフェニックスだからややこしいらしい。
「――兎も角、事情は大方分かった。ギガントオークの群れの原因は不明だが、このニクスという彼女がルカ君達と行動を共にしたいと言うのならばそれはいいだろう。
それより別で気になったのが、聖霊である君を餌にしていたという野蛮な者達だ!」
そう。報告を聞いたマスターもまた熱い人。ニクスの話しに相当怒りを露にしている。まぁキャンディスさん同様とても良い人だという事が伝わってくるけどね。
「ニクス君!そのどこぞの冒険者と思われる男達は、確かに“ドクロのマーク”が付いていたんだね?」
「は、はい! 皆腕や足や首など、場所はバラバラでしたが同じドクロのマークが記されていました」
マスターへの報告で新たに分かった事。それがニクスを酷い目に遭わせた男達の正体だ。マスター曰く、奴らは俺達と同じ冒険者らしい。だが奴らは普通の冒険者ではなく、いわゆる半グレと言われる達の悪い犯罪者集団。
なんでも、隣の王国では冒険者達が全員フリーであり、好きにパーティを組んだり組織化をしているとの事。しかもニクスが捉えられていたドクロのマークを付けた奴らは、金さえ払えば何でも請け負うと言う隣の王国でもかなり悪名高い集団らしい。
聞いただけで不愉快だ。
流石に隣の王国の事だから俺は何も言える立場じゃないけど、もし同じ王国内だったら間違いなく潰してやるけどな。
「一先ず、ニクス君の件は別の王国も絡む事案だ。本部や国王にも報告しないといけないから俺はもう行かせてもらうとする。ルカ君達もありがとう! 君らも国王団に戻って報告をしてくれ!また会おう!」
そう言ってマスターは颯爽と部屋を出て行った。
……かと思いきや、直ぐに戻って来て「ニクス君の診断結果が出たら教えてくれ!」とキャンディスさんに一言だけ伝え再び去って行った。
勿論報告の為というのもあるだろうけど、やっぱり皆聖霊の診断なんて見た事ないから気になるんだろうな。俺も早く見たいし。
そんなこんなで、遂にニクスは診断を受けた――。
「……コレに魔力を流せばいいんですよね?」
「ああ」
初めての事に戸惑いながらも、ニクスは魔石に魔力を流し込んだ。
『ニクス 魔力値:SSSランク
適性:聖霊
使用魔法:聖霊魔法
身体・特殊:魔力感知(S) 超再生(S)
超魔法(S)
性質:不死の加護 不死の再生 不死の運 』
流石聖霊……。当たり前にSSSランクだよな。しかも超再生とか如何にも不死鳥っぽいし、不死の運って何だ? まさかそのお陰で今まで運良く生き抜いたとか……?
「あ、あの~。これはどういう結果なのでしょうか? 私、やはりお役に立てませんよね……」
「そんな事ないよニクス! 寧ろ凄すぎて驚いてる。こんな能力初めて見たもん。流石フェニックスだね」
「またルカのパーティが強くなったな!」
兎も角、これで一応ニクスも冒険者登録出来るよな?俺達とのパーティ登録もしておかないと。
「よし、それじゃあ俺達も寮に帰るとするか。ダッジ隊長にも報告しないといけないし」
「そうだね」
「もう行くのか。じゃあ2人共元気でね!また一緒に戦おうよ!」
こうして、俺達に新たなニクスと言うフェニックが仲間に加わった――。
~特殊隊の寮~
「――以上が今回の報告となります」
「分かった。ご苦労だったな」
寮へと戻った俺達は、今回の件を全てダッジ隊長に報告した。ニクスの事も俺のパーティならと特別に許可を出してくれた。取り敢えず一安心だな。まぁ駄目だったら特殊隊抜けようと思ってたけど。
「この子がニクス? 可愛い!」
「フェニックスなんて初めて見た」
「……人間になれるのか……」
ニクスを見た他の皆も珍しそうに見ていたが、何やら直ぐに打ち解けて仲良くなっていた。それからというもの、ニクスは毎日楽しそうに過ごしていた。レベッカとも互いの魔力コントロールの為日々訓練もしている。
そして、そんな生活が早くも1ヵ月以上が経ったある日、俺はダッジ隊長に呼び出された。
「――え、国王様とですか……? 国王に謁見ですか?」
「ああ。何やら話しがあるとの事でな。だから俺と一緒に今から向かうぞ」
「あ、分かりました!」
ダッジ隊長に呼び出されたかと思いきやまさかの国王からの呼び出しだ。何かあったのかな……? わざわざ俺なんかに話なんて。
全く身に覚えがなかったが、俺はダッジ隊長と国王の元へ向かった――。
♢♦♢
~城・玉座の間~
「――国王様。国王団、国王特別特殊任務隊所属、ダッジ・マスタングとルカ・リルガーデンであります」
城の扉を潜り、玉座に座る国王の前に通された俺とダッジ隊長は、国王の前で膝をつき敬礼をした。
「急に呼び出して申し訳ない。折り入った話が合ってな。もう楽にして構わぬ」
そう言いながら国王が軽く手を挙げると、玉座の間にいた護衛の人達が一斉に部屋から去って行った。騎士団の大団長だけが残っている。
「すまないね。実は3人だけで話したかったんだ。彼だけは万が一の為残ると言ってな」
国王は大団長を見ながらそう言った。
そりゃそうですよ。貴方国王様なんですから……。幾ら話し相手が俺らだけだからって気軽過ぎますよ。
「全く問題ございません。それよりお話と言うのは」
「ああ、そうだな。早速本題に入らせてもらうとしよう――。
先日ダッジ隊長からも、ギガントオーク討伐応援の報告は聞かせてもらったね。話はそれに関わるのだが……ルカよ」
国王は何やら真剣な表情で俺を見てきた。
「は、はい。何でしょうか……」
「実はな、新たに君の仲間となったフェニックスの少女の事だが……。彼女は紛れもなく聖霊のフェニックス、そしてフェニックスは隣の国であるイディアナ王国で古来より神として崇められている神聖な存在だ。
よって、誠に急で申し上げにくいが……直ちにフェニックスの少女をパーティから外し、住処であるヨーハン遺跡に帰してくれ――」
国王からの突然の告白に、俺は直ぐには呑み込めなかった。返す言葉も出ない。何かの冗談だとも思いたいが、国王の表情は真剣そのもの。
有り得ないだろ……。ニクスを帰すだと……?
「……お、お言葉ですが国王様!事の経緯をお伺いしたと言っておられましたが、ニクスがッ……彼女が僕のところに来る前、どのような事情があったかご存じなのでしょうか……?」
「ああ、勿論だ。彼女が仲間から馬鹿にされている事も、イディアナの犯罪冒険者共から酷い目に遭わされたという事もな。
だがこれは最早一言で片付けられぬ。そういう次元の問題ではないのだ。
我がドラシエル王国、そしてイディアナ王国と両国の全国民が関わる国際問題なのだ――。
私は王国の国王として、国民の命と安全性を第一優先に判断する」
闘技場でも直に体感したこの圧倒的存在感……。これが多くの命を背負う、唯一無二の国王のオーラ。
だが、例え偉大で恩のある国王様だからといって、こっちも簡単に納得出来る訳がない――。
「僕は確かに国王様程背負うもの多くはないです。ですが……ニクスはもう僕の大事な仲間です。納得出来ない理由もさることながら、俺は彼女を2度と同じ様な目に遭わせたくはありません!」
うわー、何してるんだよ俺。何で微妙に国王に啖呵切っているんだよ……!
「そうか……。流石私の“よく知る”ルカ・リルガーデンだ。君がこの話を受け入れ無い事は予想通り。
だがこれはさっきも言ったが、王国に関わる国際問題。下手したら戦争だって起こりかねないんだよ――。
だからわざわざ此処に招き、国王である私自らが君に頼んだのだ。これが君への最大の譲歩だと思ってな」
――グワァン……!
「……!」
刹那、国王が王の覇気を俺に放ちながら言った。
「だからこれは頼みではなく、私からの精一杯の気持ちを込めた命令だ。例え相手が君であったとしてもこれは覆らない……。
まだ納得いかないというならば、こちらも“それ相応の対応”を取らざるを得ないぞ――!」
国王の覇気がこれでもかと俺を襲って来る。正直、ここまで事が深刻になるとは思わなかった……。だが、こっちだって例え国王の言う事であっても、やはり引く事は出来ない。
「特殊隊で国王様の命令をどうしても聞かないと言うならば、僕は今すぐに止めます。勿論ニクスも帰すつもりはないです……!」
国王の覇気に対し、俺も無意識のうちにジークの覇気を飛ばしていた。
やべぇぇぇッ……! 国王様なんて俺にとって恩しかない人なのに何してるんだよ俺は。もうなんか引っ込みつかねぇぞコレ……!
俺が覇気を飛ばしたことにより、近くにいたモレー大団長とダッジ隊長も即座に戦闘態勢に入っていた。勿論俺目掛けてな……。何とも恐ろしい状況だが、悪いけど負ける気もしない。
「ルカよ。己が言っている事を本当に理解しているのか?
ハッキリ言おう……。君のその選択は間違いなく戦争を意味する。それでもやはり変わらぬと――?」
「勿論戦争など望んでいません。自分が今している無礼も百も承知です。ですが……僕はニクスが、彼女自身が帰りたくもない場所に無理矢理連れて行くなんて出来ないんです!
それにニクスはもう僕の大事な仲間……。力で来るならこっちも“力で対応”するだけですよ――!」
うはぁぁぁッ! な、な、何て事を口走ったんだ俺! どこの国のどこのアホが自分の王国の国王に宣戦布告なんてするんだよこの馬鹿がッ!
そう思った次の瞬間、覇気を解いた国王は大笑いをした。
「ハッハッハッハッハッ!確かに今しかと聞きかせてもらったルカ!
ならば自分が言った通り、フェニックスに向けられている“脅威を相手に”力で対応してもらおうか!」
高々と声を上げて笑う国王は、最後にニヤリとした表情を浮かべ俺を見た。
「――え、ハメられた……?」
勘づいた時に時すでに遅し――。
そう。
国王はハナから俺が賛同すると分かっていたんだ……!
「……」
「成程。そう言う事か」
冷静に状況を察したモレー大団長とダッジ隊長も戦闘態勢を解いていた。
「ハッハッハッ!若者は勢いがあって良い! 自らこんな大きな問題に志願してくれるのだからな!」
くそくそくそッ……! 完全に乗せられた! まぁ結果ニクスの事だけど、まんまとしてやられた。そしてそれを受け入れる程腹が立つ!
「では国王様、ルカは次の任務が決まったという事で?」
「良い。 詳細はまた追って出す。ご苦労だったな!」
こうして、訳の分からない国王との話し合いが終わった――。
結構性格悪いのかもな、国王って……。
♢♦♢
~特殊隊の寮~
先日の国王との話し合いから1週間。遂に今回の任務の詳細が入ってきた。とは言っても、内容は大方は話した通り。ニクスの存在でちょっと面倒が起きている様だ。
「――分かりました。一先ずニクスをヨーハン遺跡に連れて行けばいいんですね?」
俺は今、国王直属の諜報員であるバロさんと話している。彼は様々な裏方の任務を任されており、俺や他の人達に任務の伝令もしている。
「はい。国王よりそう伝えられています」
「い、嫌ですッ!ルカさん、私絶対に帰りたくないです!
!ずっとここにいたいです!」
分かってはいたが、ニクスはずっとこの調子だ。そりゃそうだよな。
「大丈夫だよニクス。国王は何か考えがある筈なんだ。俺もまだ聞いていないけど、ニクスの事は絶対に俺が守る。だから一緒に行こう」
「私もついてるよニクス!」
ニクスは余程嫌なのか黙り込んでしまった。
「彼女に更に重荷を与える様で申し上げにくいのですが……。
イディアナ王国からの要望では、何としてでもフェニックスをヨーハン遺跡に戻してくれとの事です。
彼女が行方不明となってから、フェニックスの長がイディアナ王国に使いを向かわせたらしく、直ぐにニクスをヨーハン遺跡に戻せと言っ要求されたそうですよ。もし従わなければ王国を焼き払うとまで……。
イディアナ王国からした寝耳に水でしたが、必死に探してやっとの思いでここにいる事を突き止めたと、私と同じ諜報員をしている彼が泣いて知らせてくれたのです」
思った以上に凄い事になってるな……。そりゃいきなり王国焼くなんて言われたら焦るよな。
「――分かりました……」
「え?」
聞き間違いじゃなければ、今言葉を発したのはニクス。
「正直……何時かはこの日が来るだろうと思っていました……。自分でもケジメを着けなければいけないと思いながら、このままうやむやに時が過ぎ去ってくれればラッキーだなとも思っていました……」
「ニクス……」
「でも、これ以上ルカさん達に迷惑を掛けたくありません。ただ……自分の事なのに、私だけで行く勇気も覚悟もありません。
迷惑と分かっていながら、情けないと分かっていながら、それでもまだ負担を掛けてしまいますが、私と一緒に来てくれませんかッ……ルカさん、レベッカさん!お願い致します!勿論我が儘を言ってる事は分かってます!でも……どうかお願い致します!」
声を震わせながらニクスは深々と頭を下げていた。
小刻みに震える体から、様々な感情がヒシヒシと伝わってくる。
ニクス……。
俺達はもう仲間だ。家族同然のな。だから我が儘を言ってもいいし、迷惑を掛けたっていい。そもそもお前は何も悪くないんだから――。
「当たり前でしょニクス! 寧ろ私がその馬鹿にしたフェニックス達をやっつけてやるわ!」
「おいおい……それはそれで大問題になるぞ」
まぁレベッカと気持ちは同じだけどな。
「ありがとうございます……!レベッカさん」
「それじゃあ取り敢えず行く事で決定だな。バロさん、俺達もニクスと一緒にヨーハン遺跡に向かいますよ」
「分かりました。ありがとうございます。この事はしかと国王に伝えさせて頂きます。では――」
そう言ってバロさんは瞬く間に消え去ってしまった。
「もう泣くなニクス。何が合っても俺達が着いてる。明日に備えて今日はもう休むぞ」
「は、はい!」
こうして、明日ヨーハン遺跡に向かう事が決まった――。
♢♦♢
~ヨーハン遺跡~
「――確かに連れてきましたからね」
念を押す様に言ったのはイディアナ王国の諜報員。
彼とバロさんは、ニクスがしっかりとヨーハン遺跡に来た事を確認する為の互いにとっての見届け人的役割。
目の前には長からイディアナ王国への使いに出された1匹のフェニックスもいる。そしてコイツがニクスを置き去りにした全ての始まりの奴。今すぐ丸焼きにでもしてやりたいコイツの名前はザックと言うらしい。どうでもいいがな。
「いいですか? しっかりと貴方達の長に伝えて下さいね!王国を焼き払うなんて2度と言わないで下さい!では私は帰ります!」
そう言ってイディアナ王国の諜報員の人は帰って行った。
「じゃあ私も国王に報告しに戻りますね。後は任せますねルカ君」
「はい」
バロさんもそう言って王国に戻って行った。
「お前……本当にニクスか……⁉ 人化出来たのかよ……」
「だから何? 今はもう飛べるし魔法も使えるわよ」
「なッ……⁉」
ザックとか言う奴は平然とニクスに話し掛けていたが、ニクスは目も合わせずあしらう様に言葉を帰していた。そして不死鳥だからよく感情が分からないが、何処となくこのザックと言う奴は機嫌が悪そうだ。
「おい、早く長のところへ案内しろ下っ端」
「何⁉ ムカつく人間だ…… チッ、こっちに来い」
自然と俺の態度も悪くなっていたが、コイツがした事を踏まえれば当然だろう。生きてるだけ有難いと思え。
そう思いながらコイツの後に付いて行くと、広く空けた場所に出た。そしてその奥にニクスの何倍も大きいフェニックスの姿があった――。
「戻って来たようですねニクス」
これがフェニックスの長である“バーレーン”か……。
ニクスの赤い毛の翼と違い、バーレーンの翼はユラユラと炎が纏われていた。初めて見たが凄い……しかも何か神秘的だ。ちょっと近づき過ぎると熱いけどな。ここでも熱波が熱い。
「お言葉ですがバーレーン様……私はここに戻ったのではありません!自分なりにケジメをつけに来たのです!」
「……」
ニクスはバーレーンにハッキリと意思表明をした。こんなに堂々としているニクスの姿に驚いたが、更に驚かされたのはバーレーン。暫し沈黙した後、静かに口を開いてこう言った。
「――そうですか。後ろにいる彼らが貴方の仲間ですかニクス」
「はい!ルカさんとレベッカさんは私の命の恩人であり、私にとってかけがえのない存在です!」
「分かりました。ニクス、貴方がここを旅立つというのなら止めません。ですが、貴方の仲間がそれに値するかどうか……私に証明してみせなさい」
バーレーンはそう言いながら俺達の方を向いた。
おっと。何故急に矛先が俺達にきた?
「証明とは……?」
「貴方達がニクスの仲間に相応しいと分かる為に、ある者達を倒してほしいのです」
「ある者達?」
「彼らの名は“ドクロシーフ”。
イディアナ王国の冒険者と呼ばれる者達で、モンスターや人間の非道な討伐や売買を繰り返している愚か者集団。私の可愛いニクスをモンスターの餌にもした、非常に許しがたい者達です――」
これは話が一気にまとまった。思いがけない偶然が重なり過ぎて何と言っていいか分からないが、一言で言うなら“賛成”です。はい。
「ハハハハ、なぁんだ。何かと思えばそんな事かよ。こりゃ願ってもない展開だ。俺も丁度ソイツらに用があるんだよな」
「では頼みましたよルカ、レベッカ。本来であれば、私自ら制裁を加えたいのですが、イディアナ王国の民に手を出してはならないと言う制約が私には課せられています」
なんだその制約は……? バーレーンもバーレーンで訳ありって事か?
「そうなんだな……。でもイディアナ王国を焼き払うって……」
「ええ。制約は民ですので、別に“王国”は焼けます」
ほぉ~。これはまた恐ろしい。物は言いようって訳ね。
「まぁ分かったよ。取り敢えず今から直ぐドクロシーフとかいう奴らを全員潰してッ……「――ルカ君、国王から新たな伝言です」
うわッ! ビックリして声が出なかった。
突如姿を現したのはバロさん。バロさんは何時もこうして突如気配もなく現れる。秘密裏に動く事が多いからという理由らしいが、如何せん毎回心臓に悪い。これは何度経験しても慣れないんだよな……。しかもこのタイミングじゃないとダメかな?
「ドクロシーフの拠点が此処との事です。そして、一切の手加減をせずぶっ飛ばせと――」
俺が驚いている事や目の前いるバーレーンに全く構うことなく、バロさんは俺に拠点の位置が記された紙と物騒なメッセージを残すなりまた消え去った。
成程……。
段々繋がってきたぞ……。
余りにタイミングが良すぎる上に全く無駄もない。しかも流れる様に事が進んでいる……。これは恐らく国王が元から計算していた事だな……。
聞いた感じドクロシーフとやらは結構悪名高いから、何時か潰そうと思っていたところにタイミング良く俺が紛れ込んでしまったのか――。
くそ……。ここまでが国王の策略の1セットか……。
まぁいいや。どの道ニクスに酷い事した奴らだからな。寧ろ俺が直接仕返し出来るならラッキーだ。まんまと国王にハメられたが結果オーライ。逆に言えば俺が美味しいとこ取りだぜ。
「よし。そうと分かれば全開で行こうじゃないかレベッカ」
「そうだね! 最近ずっと繊細なコントロールばかりでストレス溜まってたから、今日は全部発散させちゃう!」
<空回りだけは止めろよ……>
「了解ジークちゃん!」
こうして、俺達は直ぐに紙に記されたドクロシーフの拠点へと向かった――。
~ドクロシーフの拠点~
「――ここだな」
「如何にもって感じだよね」
ドラシエル王国とイディアナ王国の国境付近の森の奥。バロさんから貰った地図の通り、奴らドクロシーフの拠点と思われる、趣味の悪い1つの建物が建っていた。
外観にデカデカとドクロマークが描かれているし、その建物の周りにいる奴らも出入りしてい奴らも皆ドクロのマークを付けているから確定だ。これ以上無いほど確定。こんな森の奥を拠点にしているのに、あのセンスのない拠点。隠れたいのか目立ちたいのかもう訳分からん。
「クソの集まりか……よし。派手にかましてくれレベッカ」
「え、いいの? よ~し。じゃあいきなり高火力の攻撃魔法出しちゃおうっと!」
<なんだ雑魚ばかりか。我は今回パスだ。寝る>
レベッカはやる気満々。ジークはサボり。
ギガントオークからまともにレベッカの戦いも見ていなかったから、またどこまで成長したか少し楽しみだ。
「“アイスド・メテオール”――!」
次の瞬間、レベッカが杖を振り下ろすや否や、無数の氷塊が流星の如く拠点一帯に降り注いだ。
――ズガガガガガガガガガガガッ!
「ぐはッ……!」
「な、何だ⁉」
「うわぁぁぁッ!」
静かだった辺りは一気に叫び声に包まれた。レベッカの放った氷塊はただ降り注ぐだけでなく、落下した氷塊が更に周囲を凍らせていった。
「凄いなレベッカ」
「フフフフ!」
クレーグが特注で改造してくれたらしい杖によって、魔法の威力も上がってるみたい。これは氷魔法だけで見ればSSSランク並みの威力だぞ。やるな……。もう半壊はしてるんじゃないか?
「よし。そろそろ中に乗り込もう」
「今ので凄いスッキリ!」
こんな状況なのに、その可愛い笑顔に一瞬見惚れてしまった。
……って、何考えてんだ俺。集中しろ。
「さて……“どこだ”?」
俺は抜いたゼロフリードに雷を纏わせながら匂いを追っていた。狙うは勿論ニクスを酷い目に遭わせた奴らだ。あの時ニクスと首輪に残っていた僅かな匂いを俺はしっかりと覚えている。何時か出会った時に為にとな――。
数は全部で4人……。
建物の中はレベッカの奇襲で大いに混乱中。俺を敵だと認識して攻撃してくる奴も多くいるがそんな連中は一先ず無視。何よりも先ず目的の4人を見つける。
「ここだ――」
不意に漂ってきた目的の匂い。俺はそれを逃さなかった。
匂いを辿って行きついたのはとある部屋。そこだけ一部が異様に暗く、扉も頑丈な鉄格子だ。更に奥から幾つもの匂いや魔力を感じた。
「早くズラかるぞ!」
「おい待て、こいつらどうするんだよッ⁉」
「知らねぇよ!それより自分達の命が優先だろうが普通!」
「どこの組織の敵襲だ?早くしないと此処も見つかッ……「――よお、なんか盛り上がってるな」
「「……⁉」」
鉄格子の扉を開けて中に入ると、そこには幾つもの牢屋があった。逃げようとしていた男達を呼び止め何気なく牢屋を見渡すと、そこには何十体ものモンスターが捕まえられていた。
ニクスに付いていた首輪と同じものがモンスター達にも付けられているから、やっぱコイツらだな。それにしても……。
俺は思わず自分の目を疑った。
何故なら……牢屋に閉じ込められたモンスターの他に、あろう事か“人”まで入れられていたのだ――。
「これが冒険者の……いや、人のする行為か……?」
刹那、俺の中で何かがキレた――。
「なんだテメェは!」
「驚かせやがって!こんなガキなら俺達で片付けるぞ!」
「ああ、そうしよう!まだ入り口の方が騒がしいから、他の敵が来る前に逃げるぞ!」
体の奥底から湧き上がってきたドス黒い衝動を、俺はそのまま覇気で飛ばした。
――ビクンッ……!
「<動くんじゃねぇ>」
ジークの覇気で動けなくった男達に、俺は目の前まで近寄った。
「あッ……あが……ッ……!」
男達は4人共ただただ震えるばかりで何も動けない。
「<お前ら、前にフェニックスを捕まえて餌にしたか? >」
「は、はい……」
覇気によって本能的に逆らえない男達は、自分の意志に反して出た言葉に対し慌てて口を塞いだ。だがそんなの意味はない。
「<この牢屋にいる人やモンスターは何だ? 何してやがる>」
「こ、これは商品でして……」
「裏オークションで売買するんです……」
「全部“ボス”の命令で……」
ボス?
成程、そりゃ組織なんだから頭がいるか。こんな末端じゃ何人倒しても解決にならないもんな。
「<そのボスとやらは何処だ>」
「う、上です……!」
「1番上の階の、奥の部屋です……」
「<そうか。じゃあくたばれ――>」
ボスの場所を聞き出し、俺はゼロフリードを男達に軽く当てた。
――バチバチバチバチッ!
「「ぐあぁぁぁッ……!!」」
雷を食らった男達は感電し倒れ込む。ニクスにした事をお前らも味わえ。勿論俺の怒りも加わってるから威力は増してるけどな。だが致命的なダメージではないだろう。加減したから暫く感電を味わっていろクソ共が。
「――大丈夫か? 直ぐにここから出してやるからな皆。少しだけ待っててくれ。ボスを倒して安全になったらまた戻ってくるよ」
「分かりました……ありがとうございます……!」
俺は牢屋に囚われていた人達にそう言い残し、最上階にいるボスの元へと向かった。
本当に胸糞悪い連中だ……。早くぶっ飛ばして皆を出してあげないと。
「ルカ!」
「お、レベッカか」
最上階を目指し階段を駆け上っていると、上の階に既にレベッカがいた。周りはそこかしこに倒れている者達がおり、所々凍り漬けにもなっていた。レベッカが攻撃したことは一目瞭然だな。
「全部1人でやったの?」
「勿論! 久々の解放感」
「そうか。俺今から上にいるボスのところに行くけど」
「そうなんだね。やっぱり親玉がいたんだ。じゃあもうここには敵がいないみたいだし、私は下に戻って足止めしておく!」
「分かった、ありがとう。でも無茶はするなよ。何かあったらすぐ呼んでくれ」
「うん!」
レベッカは元気よく返事をして、階段を下って行った。余程調子がいいらしい。一切困った様子もなかったし傷1つ付いていなかったな。やはり心配しなくて大丈夫みたいだ。俺もさっさと終わらせよう。
再び階段を駆け上がり、一気に最上階まで登った。すると廊下の1番奥の部屋から、明らかに異質な空気を纏った魔力を感じた。
「いるな……」
ゆっくりと部屋の扉に近付き、バッと扉を開けた。
「ヒャハハハ!」
――ガキィィィン!
扉を開けて1歩部屋に踏み込んだ瞬間、不気味な笑い声と共に鋭利な刃物が俺を襲ってきたが、手にしていたゼロフリードでその攻撃を受け止め武器ごと奴を弾き返した。
「こりゃ珍しく強いのが現れたなぁ! ヒャハハハ」
「お前がボスか」
「あぁ?それがどうした?」
ドクロのマークが描かれたマントの様なものを羽織り、男は手に短剣を握っている。見るからにイカれた風貌だが、速さも威力もそこそこあったな。こんな組織とはいえ、腐ってもトップか。
「長居する気分じゃないからな……。直ぐにお前を倒してこんなところ潰してやるよ」
「なんだテメェはよ。ヒャハハハ、頭可笑しいのか?」
それはお前だろと思いながら、俺は間髪入れず奴に炎魔法を放った。
「“プロメテウス”」
――シュゥゥン。
「ん……?」
「ヒャハハハ! 変わった魔力してるなぁお前!」
俺は今確かに奴目掛けて炎を飛ばした。だがその炎は奴が向けた掌に吸い込まれる様にして消えてしまった。前にクレーグと戦った時ととても似ている。だけど奴は武器じゃなく、確実に手で吸収した……?
「魔法か?」
「もうビビったか! そうさ、これは空間魔法。どんな魔力も攻撃も封じ込めるのさ。ヒャハハハ!」
成程、空間魔法ってあんな使い方も出来るのか。
<奴の空間魔法は少し違うな>
「お、ジーク。起きたのか」
<ああ、コイツだけ少しは暇つぶしになりそうだ。奴の空間魔法は全てを吸収している。我の様に空間に留めておく事は出来ない。言わば我の劣化版だ>
そういう事らしい。まぁそれでもそこそこ厄介なのは変わらないぞ。
「お前何でこんな下らない事しているんだ?」
「は? どこが下らねぇんだよ。こんな効率よく稼げるもの他にねぇだろうが!ヒャハハハ! 頭が弱いみたいだなお前も。俺の部下もあんまり頭が良くねぇ。だからこれを思いついた俺が天才で俺がボスなのさ!
“国王お墨付き”なんだから間違いねぇだろうが。ヒャハハハ!お前強いみたいだから仲間にしてやってもいいぞ?」
国王のお墨付きだと? 一体何の事だ……。まさかな。
「なんかきな臭い香りがプンプンしてきたぜ。これは俺が思っている以上に闇が深いなきっと」
「何をブツブツ言ってやがる! 仲間にならねぇなら邪魔だから死ねや!」
「お前が死んでくれ――」
俺は再び連続で魔法を放った。だが奴の空間魔法によって全て吸い込まれてしまった。奴は随分と余裕なのかずっとニヤニヤしている。
「無駄無駄無駄ぁぁ! どれだけ攻撃しても俺には全部聞かねぇんだよ!」
「じゃあ斬る」
――ガキィィン!
「……!」
「だから無駄だって言ってるだろアホが! こんなの魔力を纏ってなきゃただの鉄の塊さ!甘く見るな、これでも俺はSSSランクだからなぁ。ヒャハハハ!」
奴の言う通り、剣に纏っていた雷はどんどん吸い込まれてしまっていた。コイツSSSランクなのか。ちょっとだけ納得。
<ルカ、コイツの魔力量は相当だ。クレーグよりかなり多く吸い取るぞ。まぁ逆を言えば……それだけなのだが>
「そうなのか。なら1発で奴の吸い込める量を上回れば終わりだな」
奴もSSSランクなら結構力を込めて大丈夫だろ。俺は風魔法で手のひらサイスの小さい圧縮した風の弾を生み出した。そしてそこにこれでもかと魔力を込める。
「ハハハ、出来た。魔力を超圧縮した風のボール」
「余所見してんじゃねぇぞ!」
奴が俺目掛けて剣を振り下ろそうとしてきたので、そっと風のボールを奴に投げてあげた。すると今まで通り何の疑いもなくボールを吸い込んだ。
「なんだこりゃ、失敗か? 悪いがこっちも暇じゃねぇッ……『――ズパァァァン!』
皆まで言いかけた次の瞬間、超圧縮のボールを吸い込んだ奴は破裂するかの如く思い切り吹き飛び、建物の壁を貫通して外の地面に散っていった。
「……がはッ……⁉」
「おー、ビックリした。思った以上に勢いよく破裂したぜ」
突如建物から飛んできた自分達のあられもないボスの姿を見て、残りの残党も慌てて逃げだして行った。これにて終了。呆気なかったな。
「ルカー!」
空いた壁の穴から下を見ていると、相変わらず元気なレベッカが大きく手を振ってきた。
「――お疲れ様ですルカ君!」
「うわぁぁ⁉ バ、バロさんッ!」
この人の登場も相変わらず心臓に悪い。もっと思いやりのある出方はないのだろうか……。他の皆もこんな感じなんだよな? しかも待ってましたと言わんばかりのタイミング。絶対監視してただろコレ。
「流石、ドクロシーフを仕留めてくれた様ですね」
「え、ええまぁ一応……」
「では再び国王様からの伝言です――。
ドクロシーフの件はこのまま他の者が後処理を行う為、ルカ君にはフェニックスの長であるバーレーンとの面会をお願いしたいそうです」
「面会って……国王がですか?」
「はい」
「あ、そうだ!それより牢屋にいる人達を出してあげていいですか?約束してあるんで」
「勿論構いません。ですが、囚われていた者達は重要な参考人でもありますので、こちらで安全に保護させて頂きます」
「分かりました。お願いします」
俺は魔法で牢屋の鍵を壊し、皆を解放してあげた。その後騎士団員や国王団の他の隊が直ぐに来た為、俺とレベッカはニクスとバーレーンがいるヨーハン遺跡に戻った――。
♢♦♢
~ヨーハン遺跡~
「なんだあれ……」
俺達が戻ってくると、何やらヨーハン遺跡の上空で炎が上がっていた。よく見るとその炎は一瞬で消えたり再び現れたりしている。
「何か飛んでる?……って熱いな!」
その炎を確認しようと少し近付いたら、辺りは凄い熱波に包まれていた。それでも何とか少しづつ近づいていくと、上空を舞うニクスとザックの姿を確認した。
どうやらニクスとザックが戦っている……? いや、どう見てもニクスが一歩的に攻撃してる様にしか見えない。全く状況が理解不能だった俺達は、一先ず下で静観しているバーレーンに報告をした。
「あの……。シドクロシーフの片付け終わりました」
「ルカ、レベッカ。ありがとうございます。流石の実力ですね。これで一安心です」
「後、国王が貴方と面会をしたいらしいんですけど……」
「国王がですか?」
「はい。俺も伝言を預かっただけで詳細は知りませんが」
「そうですか。分かりました。面会を快諾すると国王にお伝え下さい」
「あ、ありがとうございます。それであの……ずっと気になっているんですけど、ニクス達は何を……?」
そう。一応バーレーンに報告をしているが、上で勢いよく炎を吐いているニクスが気になってしょうがない。
「あの子達はですね――」
バーレーンは俺達がドクロシーフの所へ向かった後の事を教えてくれた。
そもそも、今回ニクス達がこのヨーハン遺跡を抜け出してしまったのは私の落ち度であると言ったバーレーン。当然彼らフェニックスにはフェニックスの決まりや暮らしがあり、俺達は詳しい事情まで知らない。
だが、色々思う事のあるバーレーンは、一先ず今回の一連の原因であるザックに対し、ニクスにお詫びをしなさいと言ったそうだ。しかしザックは面白くなかったのだろう。何時も馬鹿にしていたニクスが遺跡に戻って来た事や魔法が使える様になっていた事、そしてザックが悪いにも関わらずバーレーンがニクスを庇っている事に。
素直に謝れなかったザックは会話の流れで俺達の事を悪く言ったそうだ。そしてそれにニクスが怒りを露にしたらしい。
突如人化を解き、元のフェニックスの姿に戻ったニクスは、自分で少しずつ魔力のコントロールが出来ていた事もあり、ザックに置き去りにされたあの頃から二回り近く大きなフェニックスの姿に成長していた――。
バーレーンからそう聞いた時は俺とレベッカも驚いたが、それは上を見れば一目瞭然。空を舞っているニクスの大きさはザックを遥かに上回っていた。
バーレーンも好き好んで同じ仲間のフェニックス同士を争わせたくなかった。しかもニクスとザックフェニックスの中ではまだ幼鳥。一瞬悩んだバーレーンであったが、聖霊やモンスターも弱肉強食の世界。互いのいざこざの為に、そして今後生きていく1つの経験として、ニクスとザックが正面からぶつかるのを見守る事にしたとの事――。
「ニクス……」
話を聞いている間もニクス達は戦っていた。そして……。
――ズガァン……!
上を見上げた瞬間、ニクスが鋭い脚でザックを捉えそのまま地上にある岩盤へと押し込んだ。
「ぐッ……ま、待ってくれニクス……ッ!」
「私の事はいい……。でも、ルカさん達を侮辱した事は絶対に許さないわよ!謝りなさいッ!」
「わ、分かった……!ご、ごめんよ……」
「声が小さいッ!」
「ご、ごめんなさい!」
ザックは泣きながらニクスに謝った。
それを見て落ち着いたのか、ニクスは再び人の姿に戻っていった。
「次言ったらもう許さないからね!」
「ニクス」
「バーレーン様……」
「ザックがした事は決して許されません。ですが、ザックはあの後直ぐにニクスを迎えに行ったそうですよ」
「え、そうだったの……?」
まだ泣いているザックにニクスはそう尋ねた。
「ああ……。流石に人に見つかったらマズいと思って……。でも戻ったらもうお前がいなかった……。探しても見つからなくて、怖くなって……。本当にごめん……」
ザックの声はとても小さかったが、しっかりと気持ちが込められていた。
「ふーん。でもだからって、はいそうですかとは許せないわよ。散々私の事馬鹿にして、辛い目にも遭ったんだから!
でも……そのお陰でルカさんやレベッカさんに会えたのも事実だし、取り敢えず見逃してあげる。
けどバーレーン様、やっぱり私はここには戻りません――」
ニクスはバーレーンを真っ直ぐみながらそう言った。
「貴方の気持ちは良く分かりましたニクス。彼らなら貴方を任せても大丈夫な様です。私の大切な仲間をを宜しくお願いしますね」
「ああ。ニクスは俺が守るから安心して下さい」
こうして無事事なきを得た俺達は、王国へと戻ったのだった――。
~特殊隊の寮~
ドクロシーフを片付けた日から3日後――。
ニクスがバーレーンにしっかりと思いを告げ、正式にまた俺達と行動を共にする事となり、あの後寮に戻った俺達はダッジ隊長と国王にも詳細を報告し、無事一件落着となったのだ。
「――そういえばドクロシーフの奴らどうなったんだろ? クレーグ知ってる?」
「あー、アイツらかい? ドクロシーフの奴らは元から評判が最悪だったからねぇ、ルカが拠点を潰した後にさ、いざ蓋を開けて調査してみたら……これがとんでもない悪事ばかりが出るわ出るわだったらしくて、皆はらわたが煮え繰り返ったみたいだよ。
一切の余地なく重罪人扱い。即死刑でも良かったぐらいだけど、今頃死んだ方がいいと思える様な収容所で血反吐はいて労働してるよ」
クレーグは明後日の方を見ながら俺にそう言った。
「収容所か……。そこってそんなにキツイの?」
「そうだね。聞いただけでもかなりヤバいかな。僕だったら迷わず自害するね。まぁそれすらさせてくれないからより地獄だよ。
あそこは1番キツイのが採掘場の労働と言われているみたいだけど、それ以上に恐ろしいのが、実質死刑になった連中が飛ばされる人体実験施設。
ドクロシーフの奴らは確実に採掘場かその人体実験施設のどちらかに放り込まれるってダッジ隊長が言っていたよ」
うわぁ~、本当に聞いただけでヤバそう……。人体実験って何やらされるんだろ。まぁアイツらは自業自得だよな。非人道的な事していたんだから当然だ。
「そうなんですね……」
「まぁ関係ないけどね、僕らには。それよりフェニックスの件も無事済んだみたいで良かったね」
そう。どちらかと言えばこっちの方が凄い事になっていた――。
あの日、俺達がダッジ隊長と国王に報告を伝えた後で、国王は早くもバーレーンと会って話をした様だ。しかも超極秘の会談だったらしい。だが、何故そんな超極秘の会談があったと俺が知っているかと言うと、余りに“起きた事が大きい”からだ……。
正確に言うと、この極秘会談は俺とダッジ隊長などごく一部の人しかまだ知らないと思う。だがその起きた事自体は国民全員が知っている。何故かって? そりゃそうだろ。だってあのイディアナ王国がドラシエル王国に“引き渡された”たんだから――。
あれからまだ3日しか経っていないんだぞ……? 何故それで国民どころか世界が揺らぐ大騒動になったんだ。誰もがそう思う。勿論驚いた俺も理由を聞いた。そしてこの理由がまた驚きなんだけど……。
イディアナ王国は何年か前に国王が変わったらしく、イディアナ王国の現国王であったソイツがかなりヤバい奴だったらしい。簡単に言うとドクロシーフの奴らとも繋がっていて、裏で相当悪事を働かせて利益を生み出していたとか何とか。
以前からそのイディアナ王国の異変に気付いていたバーレーンが何とか状況を変えようとしたのだが、バーレーンは昔結んだ制約のせいで攻撃が出来なかった。でもそこへ今回の出来事。
俺らの国王がバーレーンと手を組み、悪事を働かせていたイディアナ王国の国王を襲撃。まぁ襲撃と言ってもフェニックスと国王の絶対的な脅しらしいけど……。ってな感じでイディアナ王国の国王は自らその座を降り、かなり貧困が進んでいた情勢を立て直すべく、イディアナ王国はドラシエル王国に正式に引き渡される事となったんだ。
そしてこれでも十分驚きだがまだある――。
なんでも、イディアナ王国の立て直しに選ばれた最高責任者はなんとマスターだ。俺らのゼインマスターね。だからギルドの次のマスターはフリードさんがなった。
色々驚く事ばかりだったが、人選に間違いないと俺は思う。俺なんかが偉そうに言う事じゃないけど……。
「――おーい、ルカ!」
そんな事をボーっと考えていたらエレナに声を掛けられた。任務に行っていたから2日ぶりに顔を見た。
「お帰り。任務ご苦労様」
「ありがとう。なんか隊長が呼んでるよ」
「そうなんだ。すぐ行くよ」
エレナにそう言われ、俺はダッジ隊長の部屋に向かった。
~ダッジ隊長の部屋~
「――以上が次の任務内容だ。頼んだぞ」
「はい!」
しっかり返事をして、俺は部屋を後にした。
ダッジ隊長から言い渡された次の任務……。内容はモンスターの討伐。もう慣れたものだ。と言うかほぼそれしかしていない。まぁそれが俺の目的でもあるからいいんだけどさ。
こうして、新たな任務の為俺とレベッカとニクスの3人は、王国の最南端にある雪の街……スノウランド街に向けて出発した――。
♢♦♢
~スノウランド街~
「――よく来てくれたね!ルージュドラゴンの時は本当に助かったよ。改めてお礼を言わせてくれ」
「いえいえ、あれは皆で協力した結果なので、お礼なんてされる立場じゃないですよ」
俺達を出迎えてくれたのはここのマスターだ。スノウランド街には南の冒険者ギルドがある。
東西南北全ての街に冒険者ギルドが存在するが、どこのマスターとも以前のルージュドラゴンの件で顔はもう知っている。あんまり話す時間はなかったけど皆一緒に戦った仲間だ。
「寒ーい!」
「それは全くだ。マジで寒い!」
「ハハハハ。慣れていないとかなりキツイだろここは。取り敢えず中に入りなよ。暖かい飲み物でも用意するからさ」
そう言ってマスターはギルドの中へ案内してくれた。
流石雪国の人だなマスターも……。俺達より薄着なのに全然寒そうじゃない。それにニクスもこの寒さが大丈夫みたいだ。いいな~、羨ましい。フェニックス暖かそうだもんな。
そんな事を思いながら、俺達は今回の討伐の件について話し合った。
「どうだ?少しは温まったか?」
「かなり良いです。ありがとうございます。それでマスター、今回は“ホワイトゴーレム”の討伐って事でいいですよね?」
「ああ。此処からもう少し南に行ったところに大きな雪山があってね。そこでホワイトゴーレムの姿が確認されているんだけど、何せその雪山はここより寒い上に吹雪が凄くて歩くだけでも大変なんだ。
雪や寒さに慣れている私でも1人だと厳しくてね。実力ある人にサポートしてもらわないと厳しくて」
雪国で暮らすマスターでも大変な環境って……これ人選ミスじゃないか? 街の寒さで既に俺とレベッカは凍死しそうだぞ。
「俺達に出来る事なら勿論協力したいですけど、この寒さどうにかなりませんよね……?」
「ルカさんそんなに寒いの?レベッカさんも?」
「「寒い」」
「じゃあ私の聖霊魔法で暖かくしてあげますよ」
えー!そんな事出来るの?是非お願いしますニクス様!
ニクスは早速俺達に聖霊魔法を掛けてくれた。するとあら不思議。本当にポカポカと暖かくなってきた。
「もう大丈夫ですよ」
「本当だ。なんか暖かい感じする!」
「いや確かに暖かい感じするけど、本当に大丈夫?」
決してニクスを疑っている訳ではないが、まさか本当にコレで寒さが和らいだのかと疑問に思いながら俺は確かめるためにまたギルドの外へ出た。すると……。
「うわ凄ぇ!本当に寒くない!」
「だから言ってるじゃないですか!信じてないんですか私の事」
「私は何も疑ってないからねニクス」
「ズ、ズルいぞレベッカ!俺だって別に疑ってた訳じゃないからなニクス……!」
苦し紛れにそう言うも、ニクスは疑う様な目で俺を見ていた。
そんなこんなで話を戻し、俺達はマスターと一緒に目的のホワイトゴーレムの討伐に向かった――。
~雪山~
ホワイトゴーレムはSランク指定のモンスター。普通のゴーレムよりも更に防御力が高い。半端な攻撃では倒しきれないちょっと厄介な相手だ。しかも生息場所がこんな険しい雪山とくれば、普通のSランクより討伐が難しい。
「――あそこだよ」
マスターがそう指差した方向に、確かにホワイトゴーレムの姿を確認した。
<奴はただの木偶の坊。強めに一撃放てば終わりだな>
「それよりも、凄い吹雪だな……!」
「前がほぼ見えないよ」
「何処かに降りますか?」
マスターの言った通り雪山は吹雪がとても凄いな。普段から全く見慣れていない俺達にとってはより現実離れして見えてるだろう。
「いや、これは慣れない俺達にとって危ない環境だ。俺がこのまま1発で仕留める」
「頼もしいな~」
マスターに少し茶化されながらも、俺はホワイトゴーレムを一撃で倒し、サクッと素材も回収して街に戻った。そしてマスターとも別れを済ませ、俺達は寮に帰った――。