「次は果獣戦隊メチャシトラスのグリーンライムさんが使う必殺技フレッシュ果汁乱れ突きを実演して貰う!最初の三回は避けて四回目の突きで後ろに刎ね飛ばされるのが理想のやられ方だ!それではAさんお願いします」
「イー!」
訓練場に移動して、同僚である戦闘員を相手に次回撮影の予定があるヒーローの必殺技を模倣する。
フレッシュ果汁乱れ突きとは。
開いた手の指をやや曲げて両手を同じ速度で外、内、外、内と物凄い速度で動かす技である。
残像すら見える速度で動かすので指の残像が柑橘を絞った時に広がる果汁の様に見える。
グリーンライムさんは指の力が物凄いので少し掠っただけでもそれなりの怪我をするだから食らい方には注意が必要だ。
と言っても私は当たりそうになれば当たる瞬間に加減をするので怪我を負う事は無いのだが。
一人ずつ順番に稽古をしていき、合格者がどんどんと列から外れる。
最後の一人まで合格したら次のヒーロー技に変更してまた一人ずつ稽古をする。
これが我々戦闘員の訓練風景だ。
「先輩。自分今日初めて現場に行ったんですけど、Aさんの再現率ヤバいっすね。Aさんとの訓練が無かったら普通に怪我してたと思うっす」
「当たり前だろう。お前うちの会社の動画見てないな?戦闘員Aのヒーロー模写って動画見てみろ。スローモーションにして漸くズレが認識出来るってレベルの再現度だぞ。動画内で検証した結果、模倣の精度は98%だ」
「すげぇ。最早ヒーローじゃないっすか。うちって日ヒロに比べたら給料安いし待遇も良くないのに。どうしてヒーローにならなかったんすかね?」
「Aさんはヒーローよりも悪役怪人に憧れてうちに入ったらしいからな。けどAさんがヒーローになっちゃったら戦闘員の質は確実に下がるからな。会社としても簡単には出せないだろう。Aさんがいつ出て行っても良い様にBさんがヒーロー模写を頑張っているけれども。最新版で再現率63%だ。それでも凄い数字だけどな」
「そうなんすね。いや、普通に訓練なら63%でも充分っすけどね。98%って本人でも毎回再現するの無理じゃないっすか?」
「お前もそう思う?体調次第でもっとブレるよな普通」
そんな風に雑談をしている戦闘員達がいるのだが。
稽古を終えた戦闘員達は訓練をするか休憩をするかは自由なのだから何の問題も無い。
弊社はノビノビとした育成をモットーにしているのだ。
18時を知らせるチャイムが鳴り。
終業時間となったので訓練を終わらせた。
弊社は基本的に残業不可のホワイト企業なので終業時間になれば全ての社員が一斉に上がる。
ビルの中は管理人さん数人だけが残って真っ暗になるので外壁の黒さも相まって外からだと夜は非常に見辛かったりする。
なので弊社の前は若干街灯が多かったりするのだが。
これは単なる豆知識である。
同僚と食事に行ったり飲み会に行ったりする者が多い中。
私は会社から真っ直ぐに住んでいるアパートへと帰った。
ここは狭い安アパートだが会社から徒歩5分の距離にある好立地なので。
入居してから15年住み続けている。
部屋に入ったら冷蔵庫にある物を使って適当に料理を作り。
食事を摂ってから大画面の液晶モニターを起動した。
今日は日ヒロで新たに生まれた新人ヒーローの紹介動画が公開された筈である。
今から彼らの技を見て模倣の為に研究をしなければならない。
何度も繰り返し見て。
覚えたら体を動かして細かな確認。
部屋の外に出て道路で実践。
習得出来たら部屋に戻り。
続きを見て一つ一つの技を模倣していく。
彼らは新人なのだからこれからどんどん強くなり、技の精度も上がっていく事だろう。
今の状態から将来的に到達するであろう精度までの振り幅で模倣する事によって。
ヒーローの成長に合わせた微調整を行うのが密かに私の得意技である。
技の研究が終わって風呂に入ったら御褒美タイムだ。
御褒美は勿論、憧れである悪役怪人の動画漁りだ。
眠くなるまで動画を見耽って眠くなったら寝る。
朝起きて食事を済ませたらしっかり目に体を動かして出社する。
撮影が入っていない日の戦闘員は案外と忙しい。
午前中は取引先と連絡を取り合ってオンラインで次回の撮影に関する打ち合わせ。
力仕事などの雑務に電話番。
宣伝用の動画撮影などを行って。
午後から訓練とトレーニングを開始する。
我々は華やかなヒーローとは違う。
スポーツに例えるならば彼らはプロスポーツ選手であり、我々戦闘員は社会人のアマチュアスポーツ選手だ。
悪役怪人ともなればプロとして年俸制での契約となるものの。
戦闘員の段階だと月給制で戦闘員以外の仕事も熟さなければならない。
そうは言っても戦闘員の先に悪役怪人になる道があるのだから。
私はいつの日か悪役怪人に昇格出来る様にと日々の職務に邁進していくだけである。
世知辛い話をしておくと悪役怪人になれば給料が年俸制に変わるのだが。
ヒーローと比べるとプロスポーツで言う一部リーグと二部リーグぐらいの差があるとは加えておこう。
私はどちらの給料事情にもちょっとばかり詳しいのだ。
取引先の方々と素顔での打ち合わせを終えたら戦闘服に着替えて全フロアのゴミを集めてゴミ置き場へと運ぶ。
ゴミ捨ては小まめにやっておかなければ悪臭の原因になるので出来るだけ毎日行っておきたい。
あまり人の悪口を言いたくは無いが弊社はその辺ずぼらな人達が多いのだ。
お弁当の残りとかが剥き出しで捨てられていたりするので、私が出張から帰ったら虫が沸いていた事があった。
社屋でコバエが繁殖しているのは環境的にも気分的にもあまりよろしくない。
そう言った状況を放置出来る者達だからこそ、弊社の社員たちは悪の存在でいられるのかもしれない。
残念ながら見習おうとは思わないが。
ゴミ捨てと他の部署の社員達に頼まれた雑務を終えたら訓練場で体を動かす。
今日は昨日のおさらいから始めて。
昨晩動画で研究した新人ヒーローの立ち回り解説、実践を交えた手合わせを退社時間まで行った。
金曜の夜は皆遊びに出るのだが、私は自宅に帰ってしっかりと休む事にしているので牛丼チェーンに寄っておかずを買ってからアパートに帰った。
買ったのは精が付けばと思い鰻の蒲焼きだ。
普段は栄養バランスを考えた薄味の食事を摂っているのだが、金曜日だけは好きな物を食べ事にしている。
土日は仕事ではないのだが色々とやる事があるので金曜のこの時間が私のリラックスタイムだ。
今日はヒーローでは無く好きな悪役怪人の動画を見ながら食事を摂って就寝する事にしよう。
土曜日の朝が来た。
今日はプライベートでヒーローショーへの出演を頼まれている。
朝食を済ませたら直ぐに出掛ける事とする。
ウォーミングアップも兼ねてバスや電車は使わずに一時間走ってデパートに到着。
道中で横断歩道を渡る野良猫が車に轢かれそうになっていたのをどうにか助けるハプニングに見舞われたりもしたのだが。
早めに家を出ておいたのでヒーローショーの時間には余裕で間に合った。
ヒーローショーが行われるのはデパートの屋上だ。
屋上に行くと既にスタッフの皆さんがいたので、台本を貰って楽屋に入った。
今回の出演は残念ながらヒーロー側のスタントである。
私の気持ちとしては悪役怪人をやりたかったのだが。
皆の役に立てるならばどんな役でも真剣に熟すのに変わりは無い。
開園時間間近になるとショーを見に来た親子連れで屋上の客席が埋まった。
子供達はこれから始まる格好良いヒーローショーにキラキラと目を輝かせている。
私も彼ら彼女らの期待に応えなければ立派な悪役怪人になんてなれはしないだろう。
さあ、本気のショーを始めようか。
ちょっと本気でやり過ぎてしまってヒーロー本人が来ていると言われ、騒ぎを起こしてしまった事を謝罪したい。
ヒーローショーは30分の公演を夕方まで続けたが、全ての公演で満員御礼だった。
出演が終わると顔見知りになったスタッフさんを手伝って舞台のバラシをしてから自宅に帰る。
ショーを主催していた代表からうちで働かないかとお誘いを受けたが丁重にお断りをした。
今日は沢山の子供達の声援を浴びて気分が充足している。
送って貰ったショーの動画を見て立ち回りの確認と一人反省会をしてから眠りに就く。
日曜日はボランティアの日だ。
戦闘服に着替えてから区内で行われる清掃活動に顔を出し。
区内をパトロールして困っている人がいたら手助けをする。
随分と気温が上がってきたせいか熱中症で倒れている人を複数見掛けたので処置をしたり。
迷子の犬を捕まえたり。
川で溺れている女の子を助けたりして。
夜になったら自宅へと戻った。
明日は朝が早いので早めの夕食を摂ったら直ぐ眠りに就くとしよう。
さて、明日は忙しくなるぞ。
「イー!」
訓練場に移動して、同僚である戦闘員を相手に次回撮影の予定があるヒーローの必殺技を模倣する。
フレッシュ果汁乱れ突きとは。
開いた手の指をやや曲げて両手を同じ速度で外、内、外、内と物凄い速度で動かす技である。
残像すら見える速度で動かすので指の残像が柑橘を絞った時に広がる果汁の様に見える。
グリーンライムさんは指の力が物凄いので少し掠っただけでもそれなりの怪我をするだから食らい方には注意が必要だ。
と言っても私は当たりそうになれば当たる瞬間に加減をするので怪我を負う事は無いのだが。
一人ずつ順番に稽古をしていき、合格者がどんどんと列から外れる。
最後の一人まで合格したら次のヒーロー技に変更してまた一人ずつ稽古をする。
これが我々戦闘員の訓練風景だ。
「先輩。自分今日初めて現場に行ったんですけど、Aさんの再現率ヤバいっすね。Aさんとの訓練が無かったら普通に怪我してたと思うっす」
「当たり前だろう。お前うちの会社の動画見てないな?戦闘員Aのヒーロー模写って動画見てみろ。スローモーションにして漸くズレが認識出来るってレベルの再現度だぞ。動画内で検証した結果、模倣の精度は98%だ」
「すげぇ。最早ヒーローじゃないっすか。うちって日ヒロに比べたら給料安いし待遇も良くないのに。どうしてヒーローにならなかったんすかね?」
「Aさんはヒーローよりも悪役怪人に憧れてうちに入ったらしいからな。けどAさんがヒーローになっちゃったら戦闘員の質は確実に下がるからな。会社としても簡単には出せないだろう。Aさんがいつ出て行っても良い様にBさんがヒーロー模写を頑張っているけれども。最新版で再現率63%だ。それでも凄い数字だけどな」
「そうなんすね。いや、普通に訓練なら63%でも充分っすけどね。98%って本人でも毎回再現するの無理じゃないっすか?」
「お前もそう思う?体調次第でもっとブレるよな普通」
そんな風に雑談をしている戦闘員達がいるのだが。
稽古を終えた戦闘員達は訓練をするか休憩をするかは自由なのだから何の問題も無い。
弊社はノビノビとした育成をモットーにしているのだ。
18時を知らせるチャイムが鳴り。
終業時間となったので訓練を終わらせた。
弊社は基本的に残業不可のホワイト企業なので終業時間になれば全ての社員が一斉に上がる。
ビルの中は管理人さん数人だけが残って真っ暗になるので外壁の黒さも相まって外からだと夜は非常に見辛かったりする。
なので弊社の前は若干街灯が多かったりするのだが。
これは単なる豆知識である。
同僚と食事に行ったり飲み会に行ったりする者が多い中。
私は会社から真っ直ぐに住んでいるアパートへと帰った。
ここは狭い安アパートだが会社から徒歩5分の距離にある好立地なので。
入居してから15年住み続けている。
部屋に入ったら冷蔵庫にある物を使って適当に料理を作り。
食事を摂ってから大画面の液晶モニターを起動した。
今日は日ヒロで新たに生まれた新人ヒーローの紹介動画が公開された筈である。
今から彼らの技を見て模倣の為に研究をしなければならない。
何度も繰り返し見て。
覚えたら体を動かして細かな確認。
部屋の外に出て道路で実践。
習得出来たら部屋に戻り。
続きを見て一つ一つの技を模倣していく。
彼らは新人なのだからこれからどんどん強くなり、技の精度も上がっていく事だろう。
今の状態から将来的に到達するであろう精度までの振り幅で模倣する事によって。
ヒーローの成長に合わせた微調整を行うのが密かに私の得意技である。
技の研究が終わって風呂に入ったら御褒美タイムだ。
御褒美は勿論、憧れである悪役怪人の動画漁りだ。
眠くなるまで動画を見耽って眠くなったら寝る。
朝起きて食事を済ませたらしっかり目に体を動かして出社する。
撮影が入っていない日の戦闘員は案外と忙しい。
午前中は取引先と連絡を取り合ってオンラインで次回の撮影に関する打ち合わせ。
力仕事などの雑務に電話番。
宣伝用の動画撮影などを行って。
午後から訓練とトレーニングを開始する。
我々は華やかなヒーローとは違う。
スポーツに例えるならば彼らはプロスポーツ選手であり、我々戦闘員は社会人のアマチュアスポーツ選手だ。
悪役怪人ともなればプロとして年俸制での契約となるものの。
戦闘員の段階だと月給制で戦闘員以外の仕事も熟さなければならない。
そうは言っても戦闘員の先に悪役怪人になる道があるのだから。
私はいつの日か悪役怪人に昇格出来る様にと日々の職務に邁進していくだけである。
世知辛い話をしておくと悪役怪人になれば給料が年俸制に変わるのだが。
ヒーローと比べるとプロスポーツで言う一部リーグと二部リーグぐらいの差があるとは加えておこう。
私はどちらの給料事情にもちょっとばかり詳しいのだ。
取引先の方々と素顔での打ち合わせを終えたら戦闘服に着替えて全フロアのゴミを集めてゴミ置き場へと運ぶ。
ゴミ捨ては小まめにやっておかなければ悪臭の原因になるので出来るだけ毎日行っておきたい。
あまり人の悪口を言いたくは無いが弊社はその辺ずぼらな人達が多いのだ。
お弁当の残りとかが剥き出しで捨てられていたりするので、私が出張から帰ったら虫が沸いていた事があった。
社屋でコバエが繁殖しているのは環境的にも気分的にもあまりよろしくない。
そう言った状況を放置出来る者達だからこそ、弊社の社員たちは悪の存在でいられるのかもしれない。
残念ながら見習おうとは思わないが。
ゴミ捨てと他の部署の社員達に頼まれた雑務を終えたら訓練場で体を動かす。
今日は昨日のおさらいから始めて。
昨晩動画で研究した新人ヒーローの立ち回り解説、実践を交えた手合わせを退社時間まで行った。
金曜の夜は皆遊びに出るのだが、私は自宅に帰ってしっかりと休む事にしているので牛丼チェーンに寄っておかずを買ってからアパートに帰った。
買ったのは精が付けばと思い鰻の蒲焼きだ。
普段は栄養バランスを考えた薄味の食事を摂っているのだが、金曜日だけは好きな物を食べ事にしている。
土日は仕事ではないのだが色々とやる事があるので金曜のこの時間が私のリラックスタイムだ。
今日はヒーローでは無く好きな悪役怪人の動画を見ながら食事を摂って就寝する事にしよう。
土曜日の朝が来た。
今日はプライベートでヒーローショーへの出演を頼まれている。
朝食を済ませたら直ぐに出掛ける事とする。
ウォーミングアップも兼ねてバスや電車は使わずに一時間走ってデパートに到着。
道中で横断歩道を渡る野良猫が車に轢かれそうになっていたのをどうにか助けるハプニングに見舞われたりもしたのだが。
早めに家を出ておいたのでヒーローショーの時間には余裕で間に合った。
ヒーローショーが行われるのはデパートの屋上だ。
屋上に行くと既にスタッフの皆さんがいたので、台本を貰って楽屋に入った。
今回の出演は残念ながらヒーロー側のスタントである。
私の気持ちとしては悪役怪人をやりたかったのだが。
皆の役に立てるならばどんな役でも真剣に熟すのに変わりは無い。
開園時間間近になるとショーを見に来た親子連れで屋上の客席が埋まった。
子供達はこれから始まる格好良いヒーローショーにキラキラと目を輝かせている。
私も彼ら彼女らの期待に応えなければ立派な悪役怪人になんてなれはしないだろう。
さあ、本気のショーを始めようか。
ちょっと本気でやり過ぎてしまってヒーロー本人が来ていると言われ、騒ぎを起こしてしまった事を謝罪したい。
ヒーローショーは30分の公演を夕方まで続けたが、全ての公演で満員御礼だった。
出演が終わると顔見知りになったスタッフさんを手伝って舞台のバラシをしてから自宅に帰る。
ショーを主催していた代表からうちで働かないかとお誘いを受けたが丁重にお断りをした。
今日は沢山の子供達の声援を浴びて気分が充足している。
送って貰ったショーの動画を見て立ち回りの確認と一人反省会をしてから眠りに就く。
日曜日はボランティアの日だ。
戦闘服に着替えてから区内で行われる清掃活動に顔を出し。
区内をパトロールして困っている人がいたら手助けをする。
随分と気温が上がってきたせいか熱中症で倒れている人を複数見掛けたので処置をしたり。
迷子の犬を捕まえたり。
川で溺れている女の子を助けたりして。
夜になったら自宅へと戻った。
明日は朝が早いので早めの夕食を摂ったら直ぐ眠りに就くとしよう。
さて、明日は忙しくなるぞ。