「もうひとつの依頼ですが、()()()()を使える人と、護衛のできる冒険者を紹介してくれないでしょうか? できれば信用や実績のある人だと助かります」

「収納魔法……なるほど、そういうことですか」

 おお、さすがパトリスさんだ。察しが良くてとても助かる。

「……どういうことだ?」

 ……まあこれだけで分かるパトリスさんの察しが良すぎるだけで、ライザックさんが分からないのも無理はないのかもしれない。

「実はうちのお店で売っている商品は少し特殊な場所から仕入れを行っております。ですので、収納魔法を使える人に定期的に仕入れを手伝ってほしいんです。

 それとうちのお店の商品は他で売っていない物が多いので、仕入れ場所を知ろうと街の外で強硬手段を取ろうとする輩が現れるかもしれません。なので、その収納魔法を使える人を護衛する人も必要になります」

 この世界には収納魔法がある。いわゆるアイテムボックスというやつで、いろんな物を収納しておける便利な魔法のようだ。荷物を楽に持ち運びすることができるので、この魔法を使える人は商人でも冒険者でも重宝されているらしい。

 今までは屋台で商品を販売していたから、商品を一度で大量に仕入れてそれを少しずつ売っていたで通るが、これからは店を借りて継続して商品を販売することになる。それなのに店で仕入れをまったくしていないと、どこから商品を持ってきているのか怪しまれることになる。

 そのため、収納魔法を使える人を雇って、定期的に仕入れを行うフリをしてもらおうと思っている。具体的には、尾行に気をつけながら、普段人が立ち入らないような場所に何ヶ所かに行ってもらってから、うちの店に寄ってもらうという依頼を定期的に頼む予定だ。

 秘密の場所で特殊な製法で作られた商品と言い張れば、どこでどんな商品を仕入れたのかわからなくなる。もちろん、その収納魔法を使える人にはこちらの事情も話さなければならないので、ある程度は信用のおける人物でなければならない。

「なるほどな。仕入れに収納魔法を使うってわけか。確かに珍しい商品みてえだから、普通に荷馬車で運ぶよりも、収納魔法を使ったほうが安全だな」

「ええ、うちで扱う商品にはそれほど大きな商品はないので、そこまで容量が必要というわけではありませんから。護衛の方のほうは多少依頼料が高くなってしまっても構いませんので、信用ができて強い方を頼みたいです」

 収納魔法の容量は使用者の魔力によって変わるらしい。とはいえ、方位磁石やストロー型の浄水器など、うちの店で扱うキャンプギアは基本的に小さいものばかりだから、容量はそれほどなくても怪しまれはしない。

 収納魔法を使える人が多少はいると聞いているので大丈夫そうだが、問題は護衛のほうだ。ここは駆け出し冒険者が集まる始まりの街、護衛のできるCランク以上の冒険者はリリアみたいに引退間近だったり、訳ありの冒険者が多い。

「私がその者の護衛をすれば良いのではないか?」

「いや、リリアには店の護衛のほうに専念してほしい。仕入れには数日かかってしまうからね」

 少なくともこの街からは離れた場所で仕入れをしていることにしておきたい。

「……テツヤの要望にピッタリのやつがいることにはいるな。そいつだったら収納魔法を使えるし、そいつ自身がBランク冒険者で護衛をする必要がないくらい強い」

「……なるほど、ランジェさんですね。実績もありますし、能力的には問題ないでしょう」

 いることにはいる、能力的には問題ない……ライザックさんもパトリスさんもなにやら歯切れが悪い。

「収納魔法も使えて護衛も必要ないなら、依頼をするのがひとりで済んで助かります。……そのランジェさんという方は、何か問題のある人物なんですか?」

「いや、問題はないんだが、あいつはちょっと特殊なやつでな……依頼をひどく選り好みしやがる。依頼を受ける際は必ず依頼者と会ってから決めんだよ。依頼内容が難しかろうが依頼料が安かろうが、受ける依頼は受けるし、受けない依頼はいくら金を積んでも受けやしねえ」

「ランジェさんがどういった基準で依頼の受ける受けないを決めているのか、我々にはサッパリわからないんですよ。本人に聞いてもインスピレーションで決めているとしか教えてくれませんし……」

「………………」

 なにやら一癖も二癖もありそうな人らしい。

「それにこの街を拠点にしていると言うよりは、いろんな街をフラフラと渡り歩いているやつだからな。幸い今はこの街にいるはずだ。とりあえず、まずはランジェと会ってみたらどうだ? 断られた時のために別のやつも探しといてやるよ」

「ありがとうございます、そうしてくれると助かります」

 断られるかもしれない前提で話を進めるのもあれだが、どうやらランジェさんは一風変わった人物のようだ。俺としては、仕入れの事情を話す人はできる限り少ないほうが良い。可能なら収納魔法を使え、護衛も必要ないその人に依頼をお願いしたいものだ。こちらの依頼についてはランジェさんに連絡が取れ次第、俺の宿に連絡を入れてくれるそうだ。

 凶悪な顔をした大男に話しかけられた時はどうなるかと思ったが、まさかそれがこの街の冒険者ギルドマスターだったとはな。顔はともかくライザックさんはまともな人だったし、パトリスさんは頭の回る人だった。これからは良い付き合いができればいいな。