「それで話って言うのは何なんだ?」

「はい。実は例のアウトドアスパイスを今度からお店で販売することになりました」

「おお、そりゃありがてえ! これで、店の料理にもアウトドアスパイスを使えるようになるな!」

 この店にはいろいろとお世話になっていたこともあって、こっそりアウトドアスパイスを分けていたが、それはあくまでも自分達で使う用で、お店の料理には使わないようにしてもらっていた。

 今までは香辛料は高価なもので、アウトドアスパイスをこの店で出したら、その出所を探られるのが不安だったからな。

 そしておっちゃんに早速本題を切り出す。アウトドアショップのお店で使用している木筒をこの店で洗ってくれないかという話だ。



「……なるほどな。確かにここなら洗い物をできる場所もあるから、それくらいの洗い物の量なら、1時間もかからずにいけるだろ」

 この宿にはおっちゃんの家族の女将さんとアルベラちゃん、他に2人の従業員が働いている。アルベラちゃんを含めなくても4人で洗い物をすれば、1時間ほどで予定している量の洗い物は終わるそうだ。

「量が多い日もあると思うので、1日あたり銀貨8枚ほどでいかがでしょうか?」

「……そいつはだいぶ多いな」

 この街のアルバイトの時給は1時間当たり銀貨1枚くらいが多い。銀貨1枚が約1000円くらいだから、元の世界のアルバイトの時給よりも少し安いくらいになるのかな。

 それに比べるとこの街ではかなり割の良い報酬になるだろう。とはいえ、普段の仕事に追加で1時間の仕事が増えるので、結構な負担にはなるはずだ。

「もちろん人手が足りなければ、こちらで冒険者ギルドに応援を頼むこともできますし、洗い場だけ貸してもらえるだけでも助かるのですが、いかがですかね?」

 人手だけなら冒険者ギルドで日雇いの冒険者を雇うこともできるし、場所だけでも貸してもらえるとありがたい。食事処の厨房だけあって、この厨房の洗い場はうちの店の2階の洗い場の3~4倍は大きいからな。これなら大人数で洗い物をすることができる。

「おう、構わねえぜ。洗い物なら宿の仕事をしながら、空いた時間で少しずつやりゃあ、そこまで大した負担にはならねえからな。従業員にも聞いてみるが、それで毎日銀貨2枚近く多くもらえるんだから、喜んで引き受けるだろうぜ。大丈夫だと思うが、もしも断られたら人を回してくれ」

「本当ですか。ありがとうございます、助かります!」

「ありがとうございます」

 俺とリリアが頭を下げる。俺達からしても、まったく関わりのない飲食店に声を掛けるよりも、何度もお世話になっていたこの宿のおっちゃん達に頼めるのはありがたいことだ。

「なあに、普段からテツヤにはアウトドアスパイスとやらを回してもらっていたからお互い様だぜ。それに容器を洗うだけでそんなにもらえるんなら、こっちも助かるぞ」

 なんだかんだでおっちゃん達とも長い付き合いだからな。これまでいろいろとお世話になったこともあり、すんなりと話がまとまって良かった。これで木筒と保存パックなどの容器の洗浄は大丈夫だな。

 そのあとおっちゃんと話をして、毎日アウトドアショップの営業が終わったら、荷車にてその日回収した容器をこの宿にまで運び、その日に洗ってもらった容器を回収するということになった。そして宿に運んだ容器は次の日までに洗ってもらうという流れだ。

 これなら容器を洗うまでに丸1日あって、仕事の合間にもできるから、そこまで大きな負担になるというわけではないだろう。あんまりこの宿に負担をかけて、アルベラちゃんが忙しくなったら嫌だものな。

 荷車についてはアウトドアショップで購入できるようになったワゴンを使うか少し迷ったが、さすがに目立ちすぎるので、こちらの世界の荷車を購入することにした。最近ではキャンプギアを運べるような折り畳みできるワゴンのようなキャンプギアが出ているから使いたかったのだが残念だ。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「うわあ~冷たくてとっても美味しいです!」

「プルプルとしてとても面白い食感ですね! それに冷たくてするっと口に入っていきます!」

「ああ、初めて食べる味だが、これはうまいな」

 今日の営業も問題なく終わり、2階でみんな一緒にゼリー飲料を試食してもらっている。どうやらフィアちゃん、アンジュ、ドルファの3人にも好評のようだ。

「このゼリー飲料は冷やしていないと美味しくないから、お店では販売しない予定だからね」

「う~ん、暑い日にこれが飲めると最高なのだが、これは仕方がないか」

 リリアも残念がっているが、ゼリー飲料は冷たくないとそれほど美味しくないからな。ちなみに今週ランジェさんはいないが、このゼリー飲料を冷やすことができている。

 というのも、アウトドアショップがレベル5になって購入が可能となった『ポータブル冷蔵庫』と『発電機』のおかげである。

 ついにこの異世界で電気を使用できるようになったのだ!