「おう、テツヤにリリアか」

「ご無沙汰しております」

「ライザックさん、パトリスさん、お久しぶりです」

「久しぶりだな」

 今日のお店の仕事が終わり、そのままリリアと一緒に冒険者ギルドへとやってきた。いつも通り受付に話をすると冒険者ギルドマスターの部屋へと通された。

「いつもの商品の納品は終わったみたいだが、今日はどうした?」

「ちょっとおふたりに相談事がありましてね。まずはこれを見てほしいんです」

 例のグレゴさんの保存パックを2人に見せる。

「これは保存パックと言ってグレゴ工房で試作品として作ってもらったものです」

「おう、グレゴ工房か。この街ではかなり有名な工房だな」

 どうやらライザックさんはグレゴ工房のことを知っているらしい。この街では有名な工房らしいもんな。

「実はですねえ……」

 ライザックさんとパトリスさんに元の世界の細菌の概念を簡単に説明した。

「……とまあ簡単に言うと、空気の中には細菌というものがいて、食べ物が腐る原因になります。この保存パックみたいな密閉できる容器に食べ物を入れて、熱湯の中でしばらく熱するとその細菌というものを殺すことができて、保存期間が延びるという仕組みです」

「……さっぱり分からん」

「細菌ですか。う~む……」

 ライザックさんはさっぱりで、パトリスさんはいまいちピンと来ていないといった感じだな。確かに目に見えない細菌がそこいら中にいるなんて言われてもピンと来ないよな。

「さらに簡単に言うと、熱して問題ない食べ物ならこれに入れて熱すると、食べられる期間を延ばすことができるかもしれないというわけですね」

「おお、そりゃすげえじゃねえか!」

「それで一応冒険者ギルドには報告しておこうかなと思いました。こちらの保存パックはグレゴ工房が注文を受けてくれますし、作り方はグレゴさんと相談して公開してもいいと言われています」

 この保存パックはグレゴさんの工房で注文すれば普通に購入することができるようにしておき、グレゴさんに料金を支払えば公開してくれる。ただし使うのは自由だけど、全部自己責任でよろしくねというスタイルだ。

 この保存パックを作ってくれたのはグレゴさんだし、この保存パック自体で儲けようとはしていない。

「普通に手に入るので何か言われることはないと思いますが、念のためということですね」

 今のところひとつ作るのに銀貨5枚がかかるし、この世界にも味は微妙だが保存食もいくつかあるから、それほど需要がないとは思うけれど念のためだな。

 うちの店では洗浄した保存パックの空気をできるだけ抜いてから煮沸殺菌して、そこに俺の能力で容器の中に直接商品を入れると、疑似的な真空パックとなるので保存期間は結構延びるはずだ。

 実際のところ、数日しか持たないはずのようかんとチョコレートバーが1週間以上もっているから、多少の効果はあるようだ。もう1週間が過ぎても大丈夫そうならグレゴさんに生産してもらう予定である。

「あとは王都や他の街の冒険者ギルドに少しずつ店の商品を卸す件についてなんですけれど、方位磁石と浄水器の他に食品系も他の街に少しずつ卸していこうと思っています。そちらのほうも非常食として冒険者ギルドに置いてもらえるか確認してもらってもいいですか?」

「おお、インスタントスープや棒状ラーメンなどですね! それは間違いなく受け入れてくれると思いますよ」

「それならよかったです」

 今のところこの街の冒険者ギルドには方位磁石と浄水器しか卸していない。まあうちの店があるわけだしな。

 他の街に非常食を売る場合には、どこに卸すかも問題になる。どこかの商店に卸すとなると交渉とかが面倒だから、非常食として冒険者ギルドに置いてもらえるのならそれが一番いい。

「それと輸送についてはベルナさんとフェリーさんが依頼として受けてくれそうです」

「なにっ!?」

「ええっ!?」

 なぜかライザックさんもパトリスさんも保存パックの時よりも驚いているのだが……

「よ、よくあの2人が依頼を受けてくれたな……」

「知り合いであるリリアさんがいたとはいえ、とてもすごいですね!」

「ええ~と……そんなにすごいことなんですか?」

「そうですね、テツヤさんは知らないと思うのですが、Aランク冒険者自体の数が少ないこともありまして、Aランク冒険者に依頼を受けてもらうのはとても難しいのです」

「それにあの2人は王都のAランク冒険者の中でもかなりの知名度を持っているからな。今回王都に現れたダンジョンのような緊急依頼でもなければ、冒険者ギルドからの依頼もなかなか受けてもらえないんだぞ」

「そうだぞ、テツヤ。ベルナもフェリーも有名な冒険者なんだ!」

「………………」

 そういえば、忘れていたけれど2人は王都ではアイドル的な存在だったんだっけ……

 なんか最近普通にうちの店に来て、おいしそうにご飯を食べていくからすっかり忘れていた。リリアも仲のいい2人が褒められていて嬉しそうだな。

「……そうですね、念のためにもう一度ちゃんと確認しておきます」

 本当に料理を提供するのと、最低限の輸送料だけでいいのか不安になってきた。



 そのあとはライザックさんとパトリスさんと今後の話をして冒険者ギルドをあとにした。

 ちなみにベヒーモスの燻製肉をおすそ分けしたところ、ライザックさんがものすごく喜んでいた。

 前回ワイバーンの燻製肉の時は、大の大人が本気でへこんでいたからなあ。今回は久しぶりにアウトドアスパイスの効いた燻製肉を酒と一緒に堪能してもらうとしよう。