「本当ですか! もしよろしければお願いします」

「テツヤの料理、食べたい!」

 まあそういうことなのだろう。

 もちろん仲の良かったリリアと会いに来たということもあることは間違いないが、この前食べた料理を気に入って来てくれたのかもしれないな。それにお土産で渡したチョコレートバーやようかんはどこにも売っていないわけだし。

「……なるほど、そういうことだな。テツヤ、私も何か手伝おうか?」

「いや、今日それほど凝った料理は作らないからさ。せっかくだから2人と話していてよ」

 カレーのトッピングを作るだけだからな。

「あっ、テツヤさん。今日もお土産を持ってきたので、もしよろしければこちらもぜひ使ってください」

「テツヤに料理してほしい!」

「おおっ、ありがとうございます! ……以前にいただいたワイバーンの肉より色が黒いですね。ちなみにこちらの肉は何の肉なんですか?」

 フェリーさんがなにもない場所から収納魔法で取り出した包みに入っていた肉は、以前のバーベキューの時にもらったワイバーンの肉よりも少し色が黒いように思えた。収納魔法でしまっていたわけだし、腐っているわけではないはずだ。

「これは()()()()()の肉です」

「王都のダンジョンのボスだった!」

「「………………」」

 これまたとんでもない肉を……





 今回の王都の近くに現れたダンジョンのフロアボスであったベヒーモス。非常に巨大な4足歩行するモンスターで、その表面は固い毛皮で覆われているが、その内面の肉は非常に柔らかくて栄養もある超高級食材だ。

 肉のおいしさ的には以前のワイバーンの肉と同じくらいらしいのだが、その討伐難易度はワイバーンをはるかに超えるらしい。今回はベルナさんとフェリーさんのパーティ以外のAランク冒険者バーティ3組と合同でダンジョンのフロアボスを倒したようだ。

 特にフェリーさんがいつもより張り切っていたらしく、無事に犠牲者ひとり出すことなくダンジョンボスを倒すことができたらしい。そしてベヒーモスの素材は山分けとなったわけだが、ベヒーモスはかなりの巨体らしく、全員で分けても結構な量がもらえたようだ。

「2人とも明日はまだこの街にいるらしいから、凝った料理は明日作ればいいな。そしたら今日作る予定だった料理の材料をこのベヒーモスで作ってみればいいか」

 せっかくなら日持ちするベヒーモスの燻製肉とかは作っておきたいところだな。また2人のお土産にいろいろと作ってみるとしよう。



「お待たせ。今日の晩ご飯のカツカレーだよ。2人からもらったベヒーモスの肉に衣をつけて油に浸して揚げるカツという料理を、カレーという料理の上に乗っけたんだ。少し辛くて独特な香辛料の香りがするのから、食べられなそうなら言ってね」

「とてもいい香りがしますね!」

「……でも色がちょっと微妙。テツヤの料理だから大丈夫だとは思うけど」

「私も最初は同じように思ったけれど大丈夫だぞ、フェリー。こっちのカツというのは初めてだな。前のから揚げとは違うのか?」

「から揚げのほうは肉に下味をつけているし、衣が少し違うんだよ」

 そういえばカツを作ったのは初めてか。やっぱりカツを作るならソースがほしいところなのだが、まだソースは手に入れられてないんだよね。今回はカツカレーにするからソースはなくても問題ない。

「……っ!? サクサクとした衣の中からベヒーモスの肉の旨みがこれでもかと溢れてきますわ! それにこの独特の味がする茶色いペースト状のものをベヒーモスのカツに付けると本当においしいです!」

「少し辛いけれど、とっても後を引く味。これだけだとただ辛い料理なのに、下にある白い穀物と合わせるとちょうどいい味! カレーも、このカツという料理も全部合わせて一緒に食べると今まで食べたことがない至高の味になる!」

 相変わらず2人とも良い反応をしてくれるなあ。元の世界の人達でも初めてカツカレーを食べた人はこんな反応をしたのかもしれない。

「テツヤ、このベヒーモスのカツとやらもとてもうまいぞ!」

「うん。確かにこれは肉がめちゃくちゃおいしいね! 普段食べている肉とは味が全然違うよ。でもワイバーンの肉とは微妙に味が違って、こっちのベヒーモスの肉もうまい!」

 この前もらったワイバーンの肉と同じくらいおいしいが微妙に味が違う。例えるならば牛と豚の肉の味が微妙に違うようなもんだな。

 久しぶりに食べるとカツもいいもんだ。でもカツを作るんならソースがほしいんだよね。塩とかアウトドアスパイスでも十分おいしく食べられるんだけど、俺はやはりソース派だ。だけどカツカレーなら全然ありだ!

「カツもカレーも多めに作ってあるから、お代わりがほしい場合には遠慮なく言ってね。あとは少し溶けたチーズをかけてもよりおいしいよ」

「テツヤ、両方お代わりを頼む! チーズも頼むぞ!」

「テツヤ、私も!」

「テツヤさん、私もお願いします!」

 ……みんなよく食べるなあ。ベヒーモスのカツが思ったよりもおいしいから、俺も少しお代わりするとしよう。

「ただいま~! なんだか今日はとてもいい香りがするね、お腹が減ったよ! いやあ今日は誘った女の子に最後の最後で逃げられちゃってさ! あともう少しでベッドまで誘えそうだったのに……って、あれ?」

「「「………………」」」

 そんな空気の中で、ランジェさんがとんでもないことを口走りながら帰ってきた。