「それでロイヤ達はもう他の街に拠点を移したりするのか?」

 俺が一番気になっていたことをロイヤ達に聞いてみた。

 このアレフレアの街は駆け出し冒険者達が集まる街だ。高価な素材になる魔物もいないし、他の街と比べて物価も安いため、駆け出し冒険者を卒業した冒険者達は別の街に拠点を移していく。

 もちろんロイヤ達の冒険者ランクが昇格したことは非常に喜ばしいが、この街から離れてしまうのはとても寂しい。

 この街でアウトドアショップのお店を開いてから、別の街へ拠点を移動する際に、世話になったとわざわざお礼を言いにきてくれる冒険者も大勢いた。それは俺にとって嬉しくあると同時にとても寂しいことでもある。

「ああ、俺達はまだしばらくこの街にいるぞ」

「あっ、そうなんだ」

「Dランクには上がったが、俺達はもう少し準備を整えてから次の街へ向かう予定だ」

「もう少し武器や防具を整えてから次の街に進みたいわね」

 どうやらロイヤ達パーティはもう少しこの街で準備をしてから別の街に進むそうだ。少し……いや、本音を言うとかなりホッとした。

 この街にお店を開いてからいろんな人たちと知り合ったが、やはり一番仲が良いのはロイヤ達だ。ロイヤ達と別れることになったらだいぶ寂しくなってしまうところだった。

「だからもうしばらくはテツヤの店でお世話になる予定だぜ。今後ともよろしくな」

「ああ、今後ともうちの店をご贔屓にな!」

 ロイヤ達との付き合いはもう少し続きそうだ。これで今日はなんの憂いもなくロイヤ達を祝うことができるな。





「おお、テツヤ、久しぶりだな。今日の料理はどうだ?」

 みんなで料理を楽しんでいると、この宿の店主であるマッチョなおっさんがやってきた。

「ええ、おいしいですよ。たぶんこれは味付けにうちの店で売っているインスタントスープを使っているんじゃないですか?」

「おう、さすがだな。前にテツヤから聞いたインスタントスープを味付けに使ってんだ。なかなか評判もいいぞ」

 以前にこの店で食事をした時に、うちで売っているインスタントスープを調味料としても使えるということを教えてあげた。どうやらおっちゃんはそのあとインスタントスープの味付けをいろいろと試していたらしい。

「おっちゃん、前に食べた煮込みもうまかったけれど、こっちのほうがうまいぜ」

「ああ、私もこっちのほうが好きだな。味に深みがあっておいしいと思うぞ」

「そりゃよかったぜ。最近は飯だけ食べに来てくれる客もだいぶ増えてきたからな。これもテツヤの店のインスタントスープのおかげだ」

 たぶんこっちの煮込みには味噌汁のスープだけを入れて味に深みを出しているな。そしてこっちの野菜の炒め物にはコンソメスープを使っているようだ。俺も料理にインスタントスープやラーメンのスープの素を使っているからよくわかる。

「あとはあのアウトドアスパイスとかいうやつも、テツヤの店で販売してくれるとありがてえんだけどな」

 この街では胡椒などの香辛料はまだ少し高価だ。アウトドアスパイスを販売してしまうといろいろと問題が起こりそうのなので、まだお店では販売していない。

 いつもお世話になっているこの店のおっちゃんやロイヤ達だけにはこっそりと安値で販売している。その代わりに俺達が出す料理にはこっそりと調味料を加えてもいいという話になっている。

「だが、もう少ししたら胡椒が安く手に入れることが可能になるらしいぞ。そうすりゃテツヤの店でも普通に販売できるようになるんじゃねえか?」

「へえ~それは初耳ですね」

「なんでも高名な魔術師様がどんな場所でも胡椒の栽培ができるようになる魔法を開発したらしくてな。俺達宿屋や飲食店の間じゃあ、胡椒だけじゃなく他の香辛料なんかも安く手に入るようになるのは時間の問題だと聞いているんだよ。それに合わせて税金なんかも下がるかもしれねえって話だ」

 確か元の世界で胡椒が高価だったのは、原産地から遠い陸路を運んでいくための輸送費がとてつもなくかかってしまうのが理由だったはずだ。確かにどこでも胡椒が栽培できるようになれば、その価格は大きく下がるに違いない。

 しかし魔法って本当にすごいな。下手したら将来的には品種改良とかもできてしまいそうで怖い……

「もし本当に胡椒や他の香辛料が安くなるならアウトドアスパイスも販売できるようになりますね。それにいろんな香辛料や調味料が手に入りやすくなるのはありがたいな」

 その話は俺にとっても朗報だな。もちろん店の利益という点でもそうだが、やはり食の発展というものは日々の食卓を豊かにする。他のいろんな香辛料や調味料が安く手に入りやすくなるのは日々料理をする俺にとってもありがたい。

「そんなに値段が高くなかったら、冒険者のみんなも絶対に買うと思うぞ! 焼いた肉にかけるだけで本当にどんな肉でもうまくなるからな!」

「うん、塩をかけるだけよりも全然おいしいから絶対に売れるよ!」

「普段の料理でも使えるからな。冒険者だけじゃなくて一般の人達も購入すると思うぞ!」

 ロイヤ達がそう言ってくれるのなら、他の冒険者達にも売れそうだな。やっぱり食関係のものは需要がありそうだ。もしも香辛料の値段が落ち着いてきたら、アウトドアスパイスも販売してみるとしよう。