「さあ、今日のメイン料理のローストワイバーンだ!」

「おお、ワイバーンの肉の塊が丸々と鍋に入っているな!」

「へえ~これは豪勢だね!」

 バーベキューとは別に火を起こして、ダッチオーブンをずっと熱していた。そう、ダッチオーブンである!

 アウトドアショップの能力がレベル4へと上がった際に購入が可能となったキャンプギアだ。

 ダッチオーブンは焼く、煮る、蒸す、燻る、揚げるなどの調理がこれひとつでできてしまう万能調理道具である。更に蓋の上に炭火を置くことにより、オープンのように食材の上からも加熱することも可能なのだ。

 また、フタが重く密閉性が高いため食材から出た水蒸気を逃しにくく、圧力鍋のように旨味をギュッと凝縮できるのも特徴のひとつだ。もともとはアメリカの西部開拓時代に使用されていた伝統的な調理道具らしい。

「これはダッチオーブンという俺の故郷の調理器具だよ」
 
「ずいぶんと大きな鍋なのですね」

「……持ち運びには不便そう」

 そう、ベルナさんとフェリーさんの言う通り、鋳鉄製は結構な重量があり、サビやすくて使用後にシーズニングという手入れが必要となるので冒険者にはあまり需要がないと思い、お店で販売はしていない。

 収納魔法が使えれば良いのだが、さすがにダッチオーブンを持ちながら探索というのはなかなか難しいだろう。むしろダッチオーブンの蓋を盾として使えるのではとも思ったが、そういうのは防具屋に任せるとしよう。

「テツヤさん、まだお肉が赤いですよ?」

「テツヤお兄ちゃん、もう少し焼いたほうがいいんじゃない?」

「いや、これはローストという調理法で、見た目は赤いけれど、中までしっかりと火が通っているから大丈夫なんだよ」
 
 ローストとは日本語で言えば炙り焼き、蒸し焼きとなり、オーブンでじっくり焼いた肉のことを指す。

 見た目はまだ赤いが、中までしっかりと火が通っている。先ほど確認してみたのだが、串を肉に刺して温かくなっていれば、真ん中まで火が通っていることになる。

「確かに生肉とは違うみたいだな」

「僕も遠くの街で似たような調理法を見たことがあるね」

 ローストワイバーンの作り方はいたってシンプルだ。まずは大きめのブロック肉の表面に塩とアウトドアスパイスを振って、軽く下味をつける。

 そして油を引いたダッチオーブンに強火で加熱していき、上下左右の全面に焼き色をつけていく。ある程度焼き目がついたら、一度火から上げてダッチオーブンに網を敷いてその上に肉を置く。

 火を弱火に調整して、ダッチオーブンの蓋の上にも炭を置き、それを30〜40分加熱する。火から上げてアルミホイルに包み、余熱で20分ほど温めて完成だ。

 ひとつの肉の塊をローストビーフとするのに約1時間はかかるわけだから、手間はともかく中々に時間のかかる料理だ。

「うん、これはいけるな! やっぱりこのワイバーンの肉がめちゃくちゃうまい!」

「おお、確かにちゃんと火が入っているな! それにこれは初めて食べる味だ!」

 さすがに肉がまだ赤く、みんな少し躊躇しているようだったので、まずは俺が一口食べてみる。

 ローストワイバーンの肉はしっとりと柔らかく、肉の旨みがしっかりと中に閉じ込められており、噛めば噛むほどジューシーで肉の旨みが口の中に溢れてくる。

 ローストビーフなどは常温や冷やして食べることが多いが、実はローストしたての温かい状態で食べるほうがおいしかったりする。

「テツヤさん、本当に美味しいですわ! それにワイバーンのこんな食べ方は初めてす!」

「……それにこのタレがおいしい!」

 ローストワイバーンのタレはグレービーソースにしてみた。一番最初にワイバーンの塊を焼いたときに出てきたワイバーンの肉汁に赤ワインと玉ねぎのみじん切りと調味料を加えて煮詰めたソースだ。

 他にもバーベキューで使っていたタレやアウトドアスパイスでも十分にあうな。

「気に入ってもらえたようでなによりです。ワイバーンの肉って本当においしいですね」

「いえ。確かにお肉もおいしいですが、これはテツヤさんの調理法やこのタレがとてもおいしいですわ。リリアの言う通り、本当に料理がお上手なんですね!」

「……王都でもワイバーンをこんなにうまく料理できる人はいない」

「そういってもらえると嬉しいですよ。いっぱい食べてくださいね」

 今回のゲストであるベルナさんとフェリーさんも、歓迎会の主役であるアンジュもおいしそうに食べてくれて良かったよ。

 普段王都で活動しているAランク冒険者の2人にそこまで言われると嬉しくもあるな。



 そのあとはみんなで食事を楽しみながら、ベルナさんとフェリーさんの王都での話や冒険者の話をいろいろと聞いた。フェリーさんはあまりしゃべるタイプではなかったため、基本的にはベルナさんが話してくれていたな。

 さすが2人ともAランク冒険者だけあって、今までいろいろな死線を潜り抜けてきたようだ。従業員のみんなも2人の冒険譚は聞き入っていたな。

 個人的には冒険譚よりも、王都での食材の話や、2人がドラゴンスレイヤーと呼ばれる所以となったドラゴンの肉の味とかのほうに興味があったな。いつかはドラゴンの肉も食べてみたいところである。

 ちなみにシレッとランジェさんが2人を口説こうとしていたのだが、うまくかわされていた。ランジェさんもイケメンではあるが、2人も綺麗だしAランク冒険者だし、王都ではとてもモテるのだろうな。