「まずはアンジュだけど、接客についてはまったく問題なかったね。このままの調子でお願いするよ」
「はい、ありがとうございます!」
「アンジュお姉ちゃん、本当に上手だったね! フィアも見習わないと!」
「ああ、言葉遣いがとても丁寧だった。私も見習わないといけないな」
アンジュの接客についてはまったく問題なかった。長年接客業で働いていたこともあって、言葉遣いや立ち振る舞いなど、みんなの見本になるほど上手であった。お客さんが落ち着いたあとは会計を任せてみたのだが、計算間違いもなく対応も申し分なかった。
「キャンプギアや食品の説明に商品が置いてある場所までよく1日で覚えられたよ。俺が特に注意する点もないな」
「ありがとうございます!」
「本当に1日目とは思えないよ。僕も頑張らないといけないね」
「さすがアンジュだな。兄としても鼻が高いぞ!」
「問題はドルファのほうだぞ!」
「うっ……」
そう、アンジュのほうに問題点はまったく見つからなかったが、ドルファのほうは問題が山積みだった。
「そもそもアンジュのほうを気にしすぎだよ。心配な気持ちはわかるけれど、ちゃんと目の前の接客に集中しなくちゃ」
「うぐっ……」
「それとアンジュをナンパしたからといって、お客さんを睨まないようにね」
「す、すまない……」
「まあテツヤ、今日が初日だし、明日から注意していけばいいだろう」
「うん、僕も初日はいろいろと失敗したし、次から同じ失敗を繰り返さなければいいんだよね」
「ドルファお兄ちゃんなら大丈夫だよ!」
みんながドルファをかばってくれる。普段はあんまり厳しいことを言わない俺が少し強く言ったせいもあって、怒っていると思われたのかもしれない。
人を雇う側の人間として、言うべきことは言っておかなければならないからな。
「もちろん明日から直していけばいいだけだよ。それにアンジュに付き合っている男がいるってことはすぐに広まって、ナンパしてくるようなお客さんはすぐに減ってくると思うから」
「そ、そうなのか?」
「多分だけどね」
こういった情報は悲しいことだがすぐに広まっていく。あれだ、学生時代にクラス一美人の女の子が誰かと付き合い始めたら、その情報が一瞬で学校中に広まっていくのと同じ原理だ。男とは彼氏持ちの女の子を相手にするよりも、すぐに新しい女の子を探す生き物なのである。
「あとはイラついてもそれを表情に出さないように意識することだね。俺も面倒なお客さんを相手にする時とかにたまにやるんだけど、表情には出さずに心の中では相手をボコボコにぶん殴ったりするといいよ」
「……意外だな。テツヤでも頭の中でそんなことをしたりするのか」
今思うと元の世界ではだいぶストレスが溜まっていたのだろう。ムカつく上司とか面倒な顧客とかに笑顔で対応しつつも、心の中ではぶん殴っていたな。まあ俺なりのストレス発散方法だ。とはいえ、実際行動に移したら即アウトだから気を付けるように!
「それでほんの少しだけど気は晴れるからね。ぶん殴るのは一例だけど、とにかく今やっている仕事とは別に、何か頭の中で別のことを考えたりするといいかもしれないよ」
「……なるほど、頭の中でアンジュに声を掛けたやつらを片っ端から叩き斬っていけばいいんだな! わかった、やってみるぜ」
「うん……でもくれぐれも行動に起こしたら駄目だからね。大事なのは仕事をしている自分と頭の中の自分を切り離して考えることだから」
アンジュに声を掛けただけで叩き斬るのか……想像以上にドルファのアンジュに対する想いは強いようだ。少し舐めていたかもしれない。もしもドルファのストレスがやばくなりそうだったら、何か別の対策を考えないといけないかもな。
そんな感じで今日の反省会を終えた後はみんなで閉店作業を行ってから解散した。少しずつでも改善されることを祈るとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うん、昨日と比べたら今日はだいぶ良くなっているよ。ちゃんとお客さんに笑顔で接客できていたみたいだね」
「本当か!」
そして翌日、お客さんがひと段落したところでドルファに声を掛けた。
多少はアンジュを意識しているのは分かるが、それでも目の前の仕事に集中しようと意識していることは感じられた。昨日みたいにアンジュをナンパしたお客さんを睨むのも何とかこらえていたようだ。……まあコメカミに青筋は浮かんでいたが、顔はギリギリ笑顔であった。
「あとはアンジュがお客さんからナンパされた時に、すぐそっちの方向を見るのはやめようね。その場合には耳だけ意識を傾けておいて、会話の流れが危うくなりそうだったら、次の行動を起こすようにしていこう」
「ああ、了解だ!」
俺も昨日と同じように仕事をしながらドルファとアンジュに意識を向けていたのだが、毎回俺が気付くよりも早くドルファは気付いていた。ドルファのアンジュに対する反応が速すぎるんだよな……
なんかスキルでも持っているんじゃないかと疑ってしまうくらいの速度だ。
とはいえ改善の兆しは見えたので、このまま続けていけば、今まで通りの接客に戻っていくだろう。少しでも改善の兆しが見えて本当に良かったぞ。これで改善の見込みがなければ本気でどうするか考えなければならなかった。
「はい、ありがとうございます!」
「アンジュお姉ちゃん、本当に上手だったね! フィアも見習わないと!」
「ああ、言葉遣いがとても丁寧だった。私も見習わないといけないな」
アンジュの接客についてはまったく問題なかった。長年接客業で働いていたこともあって、言葉遣いや立ち振る舞いなど、みんなの見本になるほど上手であった。お客さんが落ち着いたあとは会計を任せてみたのだが、計算間違いもなく対応も申し分なかった。
「キャンプギアや食品の説明に商品が置いてある場所までよく1日で覚えられたよ。俺が特に注意する点もないな」
「ありがとうございます!」
「本当に1日目とは思えないよ。僕も頑張らないといけないね」
「さすがアンジュだな。兄としても鼻が高いぞ!」
「問題はドルファのほうだぞ!」
「うっ……」
そう、アンジュのほうに問題点はまったく見つからなかったが、ドルファのほうは問題が山積みだった。
「そもそもアンジュのほうを気にしすぎだよ。心配な気持ちはわかるけれど、ちゃんと目の前の接客に集中しなくちゃ」
「うぐっ……」
「それとアンジュをナンパしたからといって、お客さんを睨まないようにね」
「す、すまない……」
「まあテツヤ、今日が初日だし、明日から注意していけばいいだろう」
「うん、僕も初日はいろいろと失敗したし、次から同じ失敗を繰り返さなければいいんだよね」
「ドルファお兄ちゃんなら大丈夫だよ!」
みんながドルファをかばってくれる。普段はあんまり厳しいことを言わない俺が少し強く言ったせいもあって、怒っていると思われたのかもしれない。
人を雇う側の人間として、言うべきことは言っておかなければならないからな。
「もちろん明日から直していけばいいだけだよ。それにアンジュに付き合っている男がいるってことはすぐに広まって、ナンパしてくるようなお客さんはすぐに減ってくると思うから」
「そ、そうなのか?」
「多分だけどね」
こういった情報は悲しいことだがすぐに広まっていく。あれだ、学生時代にクラス一美人の女の子が誰かと付き合い始めたら、その情報が一瞬で学校中に広まっていくのと同じ原理だ。男とは彼氏持ちの女の子を相手にするよりも、すぐに新しい女の子を探す生き物なのである。
「あとはイラついてもそれを表情に出さないように意識することだね。俺も面倒なお客さんを相手にする時とかにたまにやるんだけど、表情には出さずに心の中では相手をボコボコにぶん殴ったりするといいよ」
「……意外だな。テツヤでも頭の中でそんなことをしたりするのか」
今思うと元の世界ではだいぶストレスが溜まっていたのだろう。ムカつく上司とか面倒な顧客とかに笑顔で対応しつつも、心の中ではぶん殴っていたな。まあ俺なりのストレス発散方法だ。とはいえ、実際行動に移したら即アウトだから気を付けるように!
「それでほんの少しだけど気は晴れるからね。ぶん殴るのは一例だけど、とにかく今やっている仕事とは別に、何か頭の中で別のことを考えたりするといいかもしれないよ」
「……なるほど、頭の中でアンジュに声を掛けたやつらを片っ端から叩き斬っていけばいいんだな! わかった、やってみるぜ」
「うん……でもくれぐれも行動に起こしたら駄目だからね。大事なのは仕事をしている自分と頭の中の自分を切り離して考えることだから」
アンジュに声を掛けただけで叩き斬るのか……想像以上にドルファのアンジュに対する想いは強いようだ。少し舐めていたかもしれない。もしもドルファのストレスがやばくなりそうだったら、何か別の対策を考えないといけないかもな。
そんな感じで今日の反省会を終えた後はみんなで閉店作業を行ってから解散した。少しずつでも改善されることを祈るとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うん、昨日と比べたら今日はだいぶ良くなっているよ。ちゃんとお客さんに笑顔で接客できていたみたいだね」
「本当か!」
そして翌日、お客さんがひと段落したところでドルファに声を掛けた。
多少はアンジュを意識しているのは分かるが、それでも目の前の仕事に集中しようと意識していることは感じられた。昨日みたいにアンジュをナンパしたお客さんを睨むのも何とかこらえていたようだ。……まあコメカミに青筋は浮かんでいたが、顔はギリギリ笑顔であった。
「あとはアンジュがお客さんからナンパされた時に、すぐそっちの方向を見るのはやめようね。その場合には耳だけ意識を傾けておいて、会話の流れが危うくなりそうだったら、次の行動を起こすようにしていこう」
「ああ、了解だ!」
俺も昨日と同じように仕事をしながらドルファとアンジュに意識を向けていたのだが、毎回俺が気付くよりも早くドルファは気付いていた。ドルファのアンジュに対する反応が速すぎるんだよな……
なんかスキルでも持っているんじゃないかと疑ってしまうくらいの速度だ。
とはいえ改善の兆しは見えたので、このまま続けていけば、今まで通りの接客に戻っていくだろう。少しでも改善の兆しが見えて本当に良かったぞ。これで改善の見込みがなければ本気でどうするか考えなければならなかった。