神獣暦四一〇年の冬。
 一〇〇年ぶりの神獣人として生まれた神聖ウルフェン王国の第二王子、シルヴィニアスは記念すべき一〇歳の誕生日を迎えた。

 彼には兄や弟がいるが、恐らく次の王はシルヴィニアスだろうと予想されている。
 理由は勿論、彼が偉大なる神獣人だからである。


 そんな王家の事情もあり、彼の誕生祭には貴族を集めた盛大なパーティが開かれていた。

 豪華な食事に(きら)びやかなダンスホール。
 会場に(もう)けられた特別席には、銀髪の少年が座らされている。
 幼くとも不思議なオーラを放つその少年こそ、本日の主役であるシルヴィニアス王子だ。

 だが、主役であるシルヴィニアスはムスっとしていた。

 周りを貴族令嬢に囲まれているのが不満なのだろう。
 彼はまだ一〇歳の子どもだ。
 女性に興味を持つのはまだ早い。

 ――だが、たった一人だけ。
 シルヴィニアスが興味を持った少女が居た。

 別に目立つような子ではない。
 自分と同い年ぐらいの、ごく平凡な少女だった。

 彼女はホールの端っこで、同じ年ぐらいの男の子と談笑している。
 先ほどのダンスタイムでは王子に近寄りもしなかったし、会話なんて簡単な挨拶だけ。

 いったい何をしにここへ来たのか。シルヴィニアスには一切の興味を示さない。
 彼女は純粋に、この(うたげ)を楽しんでいるのだ。

 だからこそ、だったのだろう。
 ほんのりと頬を(あか)く染めて男の子と話すその姿は、シルヴィニアスにとって新鮮に映っていた。


 それを彼の(そば)で見ていたウルフェン国王陛下は「決まりだ」と言った。
 人嫌いのシルヴィニアスが珍しく興味を持ったのだから、彼女にしよう、と。

 王はただ自分の息子を祝うためだけに、この場を開いたのではない。
 将来は王となって民を導いていくであろうシルヴィニアス。
 その伴侶となる王妃に相応しい人物を見定めていたのである。


 王が急に立ち上がったかと思えば、(おもむろ)にその少女へと近寄っていく。
 それまで賑やかだったフロアが静まり返り、皆の視線が彼らに集まった。


「そなた、名をなんと申す」
「……み、ミーア=キャッツレイです」
「そうか……ではミーア。そなたを我が息子、シルヴィニアスの将来の妻とする」