学園のカズンとヨシュアのクラス、3年A組に転校生がやって来た。
他国からの留学生で、名をイマージ・ロットという。
このとき、彼の名字と、聞いたばかりのロットハーナとをなぜ関連付けることができなかったのかと、カズンたちは後々長いこと後悔することになる。
ロット自体は平民に多い苗字だった。
ヨシュアから見たところ、イマージはほとんど魔力を持っていなかったし、教室でも特に問題行動を起こすタイプでなかったから、学園を出ればほとんど意識することがなかった。
転校生のイマージ・ロットは品の良い顔立ちの青年で、平民ながら穏やかで大人びた物腰で最初はクラスの女生徒たちに騒がれていた。
が、しばらくすると自然と男女の別なく距離を置かれるようになった。
あまり話が弾むタイプではなく、少々考え方が独特で、物腰の穏やかさのわりに絡みにくいのだ。
学級委員長のカズンとは親しく交流している。
いや、むしろカズンとしか親しくしていない。
一週間経ってみると、クラスの生徒たちとほとんど馴染んでいないのがわかる。もちろん、ヨシュアとも挨拶する程度でそれ以上関係が深まることもない。
イマージは次第に、クラスメイトたちからはどこか遠巻きにされるようになっていった。
カズンはあまり気にしていないようで、学級委員長の彼はイマージを気にして世話を焼いている。
教室内の微妙な雰囲気にも特に気づいていない。彼はこういうところは鈍感だった。
(妙な男だ。よくわからない魔力の質をしているし、何だか気持ちが悪い)
転校生の世話を担任教師から任されたということで、いつもなら休み時間や昼休み、放課後はヨシュアといることが多いのに、最近ではすっかりイマージに掛かりきりである。
妙に気に食わないし、面白くない。
国王やカズンの父の先王から護衛を任されたとはいえ、大事にしたくないからと学園ではいつものクラスメイトの距離を保つようにしていた。
今のところ、ロットハーナが関与すると思しき次の事件も起こっていないことから、ヨシュアも登下校まで付き添うことは避けている。
放課後も、カズンはイマージに付き合って、授業内容のチェックをしている。転校生のイマージの授業の理解度を確認するよう担任教師に頼まれているそうだ。
彼を放って帰ることはできないから、ヨシュアは離れた自分の席で教科書を眺める振りをしながら、彼らが話し終わるのを待っていた。
数十分後、話に一区切りついたようでイマージが下校していく。
「すまん、ヨシュア。待たせた」
「ええ。帰りましょうか」
馬車留めへ向かい、カズンがアルトレイ女大公家の馬車に乗り、発車して馬車が見えなくなるまで見送った。
今日はこの後、少し用事を片付けてからアルトレイ女大公家を訪問する。
夕方よりやや早い時刻に、王都のガスター菓子店の新作ショコラ持参でアルトレイ女大公家を訪れた。
アルトレイ家では執事や他の使用人たちとも、カズンたち一家が離宮住まいだった頃からの付き合いだ。
「カズン様はご在宅だろうか?」
「本日、カズン様はテラスで読書を楽しまれております。ご案内致します、こちらへ」
邸宅の中、テラス手前のサロンで女主人に出くわす。
普段は豪奢な装いで人々の目を楽しませる情熱の女大公も、自宅ではワンピースに、自慢の金の巻き毛をポニーテールに結うだけの気楽な姿だった。
「あら、ヨシュア。先日振りねえ」
「セシリア様、ご機嫌麗しゅう」
「うふふ。あたくしの可愛いショコラちゃんはお昼寝中でねえ」
手招きされてテラスへと入りながら、無声音でひそひそと話す。
セシリアは愛息子を“あたくしの可愛いショコラちゃん”と呼ぶ。
カズンの黒髪黒目をチョコレートになぞらえてのことだが、本人がチョコレート菓子に目がないことを揶揄した呼び方でもある。
「今日はガスター菓子店の新作を持参致しました」
「んまあ、もうそんな時期? あたくしもお相伴にあずかってもよろしくて?」
「もちろんです。セシリア様」
テラスでロッキングチェアに座り、膝の上に本を開いたまま置いて、カズンはうたた寝している。
学園から帰った後はここで読書していたようだ。
テラスに差し込む落ちてきた陽が、カズンの頬を照らしている。
「起きませんね」
「昨晩も本に夢中になって夜更かししてたみたい。ふふ、かーわいい」
横から頬を、魔術樹脂のベビーピンクのネイルの指先で突かれても、カズンは起きない。
そのセシリアに促されて、ヨシュアはカズンのもとに近づいた。
「本当だ。よく寝てますね」
小さく口を開けて、眼鏡をかけたまま、すーすー寝息を立てている。
「んふ。子供の頃みたいにハグして起こしたら?」
「しー、セシリア様」
閉じられた瞳の黒い睫毛が震える。
「……ヨシュア? 来ていたのか」
「お目覚めですか、カズン様。お邪魔してます」
今後の護衛の仕方について話し合いに来たのだと伝えると、すぐに姿勢を正して話を聞こうと言われた。
「風が出てきたわ。二人とも、サロンルームにお入りなさいな」
◇◇◇
幼少期に紹介されて以来、ヨシュアは現在までずっとカズンの親友ポジションを維持している。
カズンと遊ぶため彼の住まう離宮に行くときだけは、普段の厳しい魔力使いの修行を免除される。
最初はそれが目当てでカズンと遊びたくて、魔法魔術騎士団の所属だった父にくっついて、王宮奥の離宮に連れていってもらったものだ。
領地でも、王都のタウンハウスでも、父が在宅時には過酷な修行を課せられる。場合によっては父より厳しい叔父の指導まで加わるときた。
魔力切れで倒れることもしばしばで、剣の修行では生傷の絶えることがない。
それがヨシュアの子供時代の日常だった。
いつもは寛容な母親も、夫らが行う子供の魔力と剣の修行にだけは口を挟まなかった。
ただ、何かを堪えるようにかたく唇を閉じて、じっと修行するヨシュアたちを見守っていたことを、よく覚えている。
カズンは離宮で、両親と限られた使用人だけに囲まれて育った箱入りの王族だった。
そのためか、他の貴族子女たちのように、ヨシュアの奇跡のような美貌を見ても、騒ぎたてるような価値観を持っていなかった。
むしろ、同い年の友達ができたことに純粋に喜んでいたぐらいだ。
カズンは徹底的に箱入りにされて守られていたため、一般的な魔力持ちの貴族の子供たちがやるように、ともに魔力を使った専門的な修行をすることもなかった。
一緒にいるときは、離宮の料理人ご自慢の菓子やジュースを楽しんだり。絵本を並んで読んだり。離宮の中や庭を探索したりと、自由に敷地内を駆け回っていた。
一番嬉しかったのは、ヴァシレウスの腕に抱かれているカズンを父のカイルが見たときは、自分もまた父の腕に抱いてもらえることだった。
ヨシュアの父は無口で無愛想な人だったが、ヨシュア自身はそんな父が好きだったので。
互いの父親の腕の中から互いに顔を見合わせると、どちらからともなく笑いがこぼれた。
そんな子供たちの姿を見る父親たちも、とても嬉しそうで、胸の中はいつもポカポカと暖かかった。
ヨシュアがカズンを好きになったきっかけは、いくつかある。
ずっと離宮暮らしで外の世界を知らなかったカズンは、最初ヨシュアやその父リースト伯爵カイル、それに叔父のルシウスなどが、世間一般的に絶賛される美貌の持ち主であることを認識していなかった。
顔を合わせれば老若男女問わず、誰もが容貌のことばかり褒めそやされるヨシュアには、そんなカズンが新鮮に感じられたものだ。
だがあるとき、自分の乳母からヨシュアらリースト伯爵家の者たちが“美しい”ことを教えられたカズンが暴走した。
次に会ったとき、カズンはヨシュアを見るなり、その美しさ綺麗さを飽きることなく延々と褒め讃え続けた。
「ヨシュアのおかお、きれい!」
「ヨシュアのかみ、きらきら!」
「ヨシュアのおめめ、かわいい!」
この調子で会うたび褒められて、すっかり参ってしまった。
それ絶対意味わかってないで言ってるよな? と思うのだが、突っ込むような無粋もできない。
傍にはカズンの父ヴァシレウスや母セシリア、あるいは乳母や侍女侍従、執事などの誰かが必ずいる。
誰もが微笑ましげに自分たちを見守っているものだから、水を差せない。
最後には必ず、
「ぼく、ヨシュアだいすき!」
と言ってハグしてくるこの王弟が、結局のところヨシュアもずっと大好きなのだった。
その頃まだ存命だったメガエリスという祖父がヨシュアにはいた。
彼にカズンのことを話すと、ふわふわの口髭の祖父は目元を緩ませて幼いヨシュアを腕に抱き上げ、自分と同じ青みがかった柔らかな銀髪の頭を撫でてくれたものだ。
「ヨシュア。我らリースト一族はな、心を許せる者や、想いを分かち合いたいと思える者を見つけることこそが、生き甲斐となる一族なのだよ」
そう言って、リースト伯爵家に連なる血族たちの物語をたくさん語り聞かせてくれた。
祖父自身は晩婚だった祖母との出逢いが運命だった。
父のカイルは、お見合い結婚で見つけた母がそうだった。
叔父のルシウスは、ヨシュアの父であるその兄カイルを深く慕っている。
一族の者の中には存在感が大きく優秀なこの叔父を崇拝する者が多い。
何代も前の本家筋の娘は、学園の先輩でもあった王族女性と仲が良く、実の姉妹のようだったと伝わっている。
「おじいさま。ぼくはカズンさまとずっといっしょにいたいのです。どうすればいいですか」
ストレートに尋ねてみると、祖父はよくぞ聞いたと言わんばかりに、頬を擦り付けるチークキスの後で秘訣を教えてくれた。
「己の唯一こそが人生のすべてなのだ。カズン様がお前の唯一なら、側に侍るために、どんなことでも油断なく全力でやりなさい」
今思い返してみると、実に過不足なく必要なアドバイスをくれたものだと思う。
他国からの留学生で、名をイマージ・ロットという。
このとき、彼の名字と、聞いたばかりのロットハーナとをなぜ関連付けることができなかったのかと、カズンたちは後々長いこと後悔することになる。
ロット自体は平民に多い苗字だった。
ヨシュアから見たところ、イマージはほとんど魔力を持っていなかったし、教室でも特に問題行動を起こすタイプでなかったから、学園を出ればほとんど意識することがなかった。
転校生のイマージ・ロットは品の良い顔立ちの青年で、平民ながら穏やかで大人びた物腰で最初はクラスの女生徒たちに騒がれていた。
が、しばらくすると自然と男女の別なく距離を置かれるようになった。
あまり話が弾むタイプではなく、少々考え方が独特で、物腰の穏やかさのわりに絡みにくいのだ。
学級委員長のカズンとは親しく交流している。
いや、むしろカズンとしか親しくしていない。
一週間経ってみると、クラスの生徒たちとほとんど馴染んでいないのがわかる。もちろん、ヨシュアとも挨拶する程度でそれ以上関係が深まることもない。
イマージは次第に、クラスメイトたちからはどこか遠巻きにされるようになっていった。
カズンはあまり気にしていないようで、学級委員長の彼はイマージを気にして世話を焼いている。
教室内の微妙な雰囲気にも特に気づいていない。彼はこういうところは鈍感だった。
(妙な男だ。よくわからない魔力の質をしているし、何だか気持ちが悪い)
転校生の世話を担任教師から任されたということで、いつもなら休み時間や昼休み、放課後はヨシュアといることが多いのに、最近ではすっかりイマージに掛かりきりである。
妙に気に食わないし、面白くない。
国王やカズンの父の先王から護衛を任されたとはいえ、大事にしたくないからと学園ではいつものクラスメイトの距離を保つようにしていた。
今のところ、ロットハーナが関与すると思しき次の事件も起こっていないことから、ヨシュアも登下校まで付き添うことは避けている。
放課後も、カズンはイマージに付き合って、授業内容のチェックをしている。転校生のイマージの授業の理解度を確認するよう担任教師に頼まれているそうだ。
彼を放って帰ることはできないから、ヨシュアは離れた自分の席で教科書を眺める振りをしながら、彼らが話し終わるのを待っていた。
数十分後、話に一区切りついたようでイマージが下校していく。
「すまん、ヨシュア。待たせた」
「ええ。帰りましょうか」
馬車留めへ向かい、カズンがアルトレイ女大公家の馬車に乗り、発車して馬車が見えなくなるまで見送った。
今日はこの後、少し用事を片付けてからアルトレイ女大公家を訪問する。
夕方よりやや早い時刻に、王都のガスター菓子店の新作ショコラ持参でアルトレイ女大公家を訪れた。
アルトレイ家では執事や他の使用人たちとも、カズンたち一家が離宮住まいだった頃からの付き合いだ。
「カズン様はご在宅だろうか?」
「本日、カズン様はテラスで読書を楽しまれております。ご案内致します、こちらへ」
邸宅の中、テラス手前のサロンで女主人に出くわす。
普段は豪奢な装いで人々の目を楽しませる情熱の女大公も、自宅ではワンピースに、自慢の金の巻き毛をポニーテールに結うだけの気楽な姿だった。
「あら、ヨシュア。先日振りねえ」
「セシリア様、ご機嫌麗しゅう」
「うふふ。あたくしの可愛いショコラちゃんはお昼寝中でねえ」
手招きされてテラスへと入りながら、無声音でひそひそと話す。
セシリアは愛息子を“あたくしの可愛いショコラちゃん”と呼ぶ。
カズンの黒髪黒目をチョコレートになぞらえてのことだが、本人がチョコレート菓子に目がないことを揶揄した呼び方でもある。
「今日はガスター菓子店の新作を持参致しました」
「んまあ、もうそんな時期? あたくしもお相伴にあずかってもよろしくて?」
「もちろんです。セシリア様」
テラスでロッキングチェアに座り、膝の上に本を開いたまま置いて、カズンはうたた寝している。
学園から帰った後はここで読書していたようだ。
テラスに差し込む落ちてきた陽が、カズンの頬を照らしている。
「起きませんね」
「昨晩も本に夢中になって夜更かししてたみたい。ふふ、かーわいい」
横から頬を、魔術樹脂のベビーピンクのネイルの指先で突かれても、カズンは起きない。
そのセシリアに促されて、ヨシュアはカズンのもとに近づいた。
「本当だ。よく寝てますね」
小さく口を開けて、眼鏡をかけたまま、すーすー寝息を立てている。
「んふ。子供の頃みたいにハグして起こしたら?」
「しー、セシリア様」
閉じられた瞳の黒い睫毛が震える。
「……ヨシュア? 来ていたのか」
「お目覚めですか、カズン様。お邪魔してます」
今後の護衛の仕方について話し合いに来たのだと伝えると、すぐに姿勢を正して話を聞こうと言われた。
「風が出てきたわ。二人とも、サロンルームにお入りなさいな」
◇◇◇
幼少期に紹介されて以来、ヨシュアは現在までずっとカズンの親友ポジションを維持している。
カズンと遊ぶため彼の住まう離宮に行くときだけは、普段の厳しい魔力使いの修行を免除される。
最初はそれが目当てでカズンと遊びたくて、魔法魔術騎士団の所属だった父にくっついて、王宮奥の離宮に連れていってもらったものだ。
領地でも、王都のタウンハウスでも、父が在宅時には過酷な修行を課せられる。場合によっては父より厳しい叔父の指導まで加わるときた。
魔力切れで倒れることもしばしばで、剣の修行では生傷の絶えることがない。
それがヨシュアの子供時代の日常だった。
いつもは寛容な母親も、夫らが行う子供の魔力と剣の修行にだけは口を挟まなかった。
ただ、何かを堪えるようにかたく唇を閉じて、じっと修行するヨシュアたちを見守っていたことを、よく覚えている。
カズンは離宮で、両親と限られた使用人だけに囲まれて育った箱入りの王族だった。
そのためか、他の貴族子女たちのように、ヨシュアの奇跡のような美貌を見ても、騒ぎたてるような価値観を持っていなかった。
むしろ、同い年の友達ができたことに純粋に喜んでいたぐらいだ。
カズンは徹底的に箱入りにされて守られていたため、一般的な魔力持ちの貴族の子供たちがやるように、ともに魔力を使った専門的な修行をすることもなかった。
一緒にいるときは、離宮の料理人ご自慢の菓子やジュースを楽しんだり。絵本を並んで読んだり。離宮の中や庭を探索したりと、自由に敷地内を駆け回っていた。
一番嬉しかったのは、ヴァシレウスの腕に抱かれているカズンを父のカイルが見たときは、自分もまた父の腕に抱いてもらえることだった。
ヨシュアの父は無口で無愛想な人だったが、ヨシュア自身はそんな父が好きだったので。
互いの父親の腕の中から互いに顔を見合わせると、どちらからともなく笑いがこぼれた。
そんな子供たちの姿を見る父親たちも、とても嬉しそうで、胸の中はいつもポカポカと暖かかった。
ヨシュアがカズンを好きになったきっかけは、いくつかある。
ずっと離宮暮らしで外の世界を知らなかったカズンは、最初ヨシュアやその父リースト伯爵カイル、それに叔父のルシウスなどが、世間一般的に絶賛される美貌の持ち主であることを認識していなかった。
顔を合わせれば老若男女問わず、誰もが容貌のことばかり褒めそやされるヨシュアには、そんなカズンが新鮮に感じられたものだ。
だがあるとき、自分の乳母からヨシュアらリースト伯爵家の者たちが“美しい”ことを教えられたカズンが暴走した。
次に会ったとき、カズンはヨシュアを見るなり、その美しさ綺麗さを飽きることなく延々と褒め讃え続けた。
「ヨシュアのおかお、きれい!」
「ヨシュアのかみ、きらきら!」
「ヨシュアのおめめ、かわいい!」
この調子で会うたび褒められて、すっかり参ってしまった。
それ絶対意味わかってないで言ってるよな? と思うのだが、突っ込むような無粋もできない。
傍にはカズンの父ヴァシレウスや母セシリア、あるいは乳母や侍女侍従、執事などの誰かが必ずいる。
誰もが微笑ましげに自分たちを見守っているものだから、水を差せない。
最後には必ず、
「ぼく、ヨシュアだいすき!」
と言ってハグしてくるこの王弟が、結局のところヨシュアもずっと大好きなのだった。
その頃まだ存命だったメガエリスという祖父がヨシュアにはいた。
彼にカズンのことを話すと、ふわふわの口髭の祖父は目元を緩ませて幼いヨシュアを腕に抱き上げ、自分と同じ青みがかった柔らかな銀髪の頭を撫でてくれたものだ。
「ヨシュア。我らリースト一族はな、心を許せる者や、想いを分かち合いたいと思える者を見つけることこそが、生き甲斐となる一族なのだよ」
そう言って、リースト伯爵家に連なる血族たちの物語をたくさん語り聞かせてくれた。
祖父自身は晩婚だった祖母との出逢いが運命だった。
父のカイルは、お見合い結婚で見つけた母がそうだった。
叔父のルシウスは、ヨシュアの父であるその兄カイルを深く慕っている。
一族の者の中には存在感が大きく優秀なこの叔父を崇拝する者が多い。
何代も前の本家筋の娘は、学園の先輩でもあった王族女性と仲が良く、実の姉妹のようだったと伝わっている。
「おじいさま。ぼくはカズンさまとずっといっしょにいたいのです。どうすればいいですか」
ストレートに尋ねてみると、祖父はよくぞ聞いたと言わんばかりに、頬を擦り付けるチークキスの後で秘訣を教えてくれた。
「己の唯一こそが人生のすべてなのだ。カズン様がお前の唯一なら、側に侍るために、どんなことでも油断なく全力でやりなさい」
今思い返してみると、実に過不足なく必要なアドバイスをくれたものだと思う。