騎士団本部で解散した後、カズンはライル、ヨシュア、グレンを連れて四人で学園へ向かった。
遅れて授業に参加するため登校したわけではない。明日以降、ドマ伯爵令息ナイサー包囲網を実行する許可を学園側に取り付けるためだった。
「困ったわねぇ。学園は不可侵領域なのよ。騎士団員を内部に入れたくないのよね」
事前に先触れを出しておいたお陰で、学園長は学長室でカズンたちを待っていてくれた。
ライノール伯爵エルフィン。
女言葉だが、れっきとした男性だ。
人間とは別種族“エルフ”の血を引く、すらっと背の高い麗人である。
白く長い髪を首の後ろでひとつにまとめ、透き通るような白い肌と薄紅に染まる頬、形の良い鼻と唇。
何より印象的なのは、ネオンカラーに光るブルーグリーンの瞳だ。鮮やかな蛍光色の瞳を持つのはエルフ族の特徴なのだ。
とはいえ、純血でないためエルフ族の特徴である、長くて尖った耳はない。
現役の伯爵で、常に家門の礼装を身にまとっている。墨色の生地に白の差し色、瞳と同じ鮮やかなブルーグリーンのラインの入った礼装は、装飾のミスリル銀と併せて大層彼に似合っている。
そんな彼は学園でファンクラブを持つ、数少ない人物の一人だった。
「でも、ナイサーの問題は学園側も把握されてますよね? 学園長」
「そうなのよねぇ……あの小熊ちゃんへの苦情はなかなか頭が痛いわ」
ナイサーはアケロニア王国の男子としては背が低く、ずんぐりむっくりな体型の男子生徒だ。脂肪で弛んでいるのではなく、鍛えて首が太く全体的に筋肉の塊なのだが、外見的な特徴はまさにグリズリー、“熊”みたいな印象がある。
学年はカズンたちと同じ3年生だが、成績劣等者のためのE組所属だった。
そのE組でも、頻繁に他の生徒たちと諍いを起こしては学園側から注意されている問題児として有名だ。
「今日はロザマリア嬢が休んでいますから、明日は必ずA組までナイサーが来るでしょう。そこを騎士たちに押さえてもらいます」
「うーん、短期決戦で済むならそのほうがいいのかしらぁ。仕方ない、許可するわ! ……でも実際、どうやってドマ伯爵令息を検挙するの?」
と訊かれたので、カズンは先ほど騎士団本部でホーライル侯爵たちとの話し合いの内容を詳しく説明した。
「それ、ドマ伯爵と話し合いの示談じゃ何とかならないのかしら?」
学園内で問題を起こしたくない学園長のライノールだったが、ライルははっきり否定した。
「そりゃ無理ってもんだぜ、学園長。ナイサーの野郎が仕出かしたことの規模がデカ過ぎるんだ。うちのホーライル侯爵家は全力で奴を追い詰める気満々だっての」
ナイサーが犯した犯罪は、時系列順に並べれば、まずグレンの実家の商会や異母妹絡みでの恫喝や恐喝。
次に、グレンを脅して女生徒に変装させ、ライルとロザマリアの婚約が破棄されるよう仕向けた。彼らの婚約破棄では、ライル側の有責でホーライル侯爵家は多額の慰謝料を支払っている。
そして、ロザマリアへの交際の強要。彼女は暴力を受けるのではないかと身の危険を感じている。
「……明日の放課後だけで片を付けてくれるなら、その後の事後処理は請け負うわ。長引くようなら、ドマ伯爵令息を含めた関係者すべて、事態が解決するまで登校禁止。いいわね?」
「了解しました。寛大な対応に感謝します、学園長」
話は付いた。あとは関係各所に学園側から騎士団立ち入りの許可を得たと連絡を入れれば、カズンたちのやることは一区切りとなる。
そのまま学長室の机を借りて、ライルのホーライル侯爵家、グレンのブルー男爵家、ロザマリアのシルドット家の三家に同じ文面の手紙を書いた。
手紙の最後に、カズン・アルトレイのサインを入れる。今回はアルトレイ女大公家の家紋ではなく、王弟としてアケロニア王国の王族の印を捺した。
少し離した下部に、学園長がライノール伯爵エルフィンとサインし、伯爵家と学園長の印を捺した。
手紙はこのまま、ライルは父のホーライル侯爵に、グレンは実家ブルー男爵家に持ち帰り、ロザマリアのシルドット家にはカズンが直接届けに行く。
明日は朝のホームルームでカズンとロザマリアの3年A組のクラスメイトたちに事情説明せねばならない。
午後の授業は中止にして、放課後までの準備を整えるのが良いだろう。
剣や体術が使える、腕に覚えのある男子生徒たちには残って貰って、ナイサーを拘束する手伝いを頼んでもいい。
遅れて授業に参加するため登校したわけではない。明日以降、ドマ伯爵令息ナイサー包囲網を実行する許可を学園側に取り付けるためだった。
「困ったわねぇ。学園は不可侵領域なのよ。騎士団員を内部に入れたくないのよね」
事前に先触れを出しておいたお陰で、学園長は学長室でカズンたちを待っていてくれた。
ライノール伯爵エルフィン。
女言葉だが、れっきとした男性だ。
人間とは別種族“エルフ”の血を引く、すらっと背の高い麗人である。
白く長い髪を首の後ろでひとつにまとめ、透き通るような白い肌と薄紅に染まる頬、形の良い鼻と唇。
何より印象的なのは、ネオンカラーに光るブルーグリーンの瞳だ。鮮やかな蛍光色の瞳を持つのはエルフ族の特徴なのだ。
とはいえ、純血でないためエルフ族の特徴である、長くて尖った耳はない。
現役の伯爵で、常に家門の礼装を身にまとっている。墨色の生地に白の差し色、瞳と同じ鮮やかなブルーグリーンのラインの入った礼装は、装飾のミスリル銀と併せて大層彼に似合っている。
そんな彼は学園でファンクラブを持つ、数少ない人物の一人だった。
「でも、ナイサーの問題は学園側も把握されてますよね? 学園長」
「そうなのよねぇ……あの小熊ちゃんへの苦情はなかなか頭が痛いわ」
ナイサーはアケロニア王国の男子としては背が低く、ずんぐりむっくりな体型の男子生徒だ。脂肪で弛んでいるのではなく、鍛えて首が太く全体的に筋肉の塊なのだが、外見的な特徴はまさにグリズリー、“熊”みたいな印象がある。
学年はカズンたちと同じ3年生だが、成績劣等者のためのE組所属だった。
そのE組でも、頻繁に他の生徒たちと諍いを起こしては学園側から注意されている問題児として有名だ。
「今日はロザマリア嬢が休んでいますから、明日は必ずA組までナイサーが来るでしょう。そこを騎士たちに押さえてもらいます」
「うーん、短期決戦で済むならそのほうがいいのかしらぁ。仕方ない、許可するわ! ……でも実際、どうやってドマ伯爵令息を検挙するの?」
と訊かれたので、カズンは先ほど騎士団本部でホーライル侯爵たちとの話し合いの内容を詳しく説明した。
「それ、ドマ伯爵と話し合いの示談じゃ何とかならないのかしら?」
学園内で問題を起こしたくない学園長のライノールだったが、ライルははっきり否定した。
「そりゃ無理ってもんだぜ、学園長。ナイサーの野郎が仕出かしたことの規模がデカ過ぎるんだ。うちのホーライル侯爵家は全力で奴を追い詰める気満々だっての」
ナイサーが犯した犯罪は、時系列順に並べれば、まずグレンの実家の商会や異母妹絡みでの恫喝や恐喝。
次に、グレンを脅して女生徒に変装させ、ライルとロザマリアの婚約が破棄されるよう仕向けた。彼らの婚約破棄では、ライル側の有責でホーライル侯爵家は多額の慰謝料を支払っている。
そして、ロザマリアへの交際の強要。彼女は暴力を受けるのではないかと身の危険を感じている。
「……明日の放課後だけで片を付けてくれるなら、その後の事後処理は請け負うわ。長引くようなら、ドマ伯爵令息を含めた関係者すべて、事態が解決するまで登校禁止。いいわね?」
「了解しました。寛大な対応に感謝します、学園長」
話は付いた。あとは関係各所に学園側から騎士団立ち入りの許可を得たと連絡を入れれば、カズンたちのやることは一区切りとなる。
そのまま学長室の机を借りて、ライルのホーライル侯爵家、グレンのブルー男爵家、ロザマリアのシルドット家の三家に同じ文面の手紙を書いた。
手紙の最後に、カズン・アルトレイのサインを入れる。今回はアルトレイ女大公家の家紋ではなく、王弟としてアケロニア王国の王族の印を捺した。
少し離した下部に、学園長がライノール伯爵エルフィンとサインし、伯爵家と学園長の印を捺した。
手紙はこのまま、ライルは父のホーライル侯爵に、グレンは実家ブルー男爵家に持ち帰り、ロザマリアのシルドット家にはカズンが直接届けに行く。
明日は朝のホームルームでカズンとロザマリアの3年A組のクラスメイトたちに事情説明せねばならない。
午後の授業は中止にして、放課後までの準備を整えるのが良いだろう。
剣や体術が使える、腕に覚えのある男子生徒たちには残って貰って、ナイサーを拘束する手伝いを頼んでもいい。