「それで、侯爵家まで事情を説明に行ってたのかい?」

 夜の9時過ぎと、いつもより何時間も遅い時刻に帰宅した息子を待っていた父親と、遅い夕食を取りながら、はい、とカズンは頷いた。

「わかりやすいハニートラップでしたから。経緯を令息のお父上の侯爵閣下に説明したら、すぐに女を押さえに動いてくれましたよ」

 あらかじめクラスメイトに先触れを頼んでおいたお陰で、非常にスムーズに事態は進んだ。

 息子がハニートラップに嵌まったと聞いた王国騎士団の副団長でもあるホーライル侯爵は、すぐに息子ライルの居場所を確認した。

 帰宅した息子が本邸ではなく、同じ敷地内の別宅に入ったと執事から報告を受け、即座に自ら別宅へ赴いた。

 すると、そこに居たのは薬を嗅がされ意識を失って、部屋の柱に縛られ物置の中に放り込まれていた息子ライルの哀れな姿だったというわけだ。

「既に別宅の貴重品が盗まれた後でした。あの様子だと計画的な犯行だから、犯人の捜索は難しいかもしれません」

 ホーライル侯爵令息ライルとピンク頭のアナ・ペイルが別宅に入ってから、学級委員カズンがホーライル侯爵家に到着し、侯爵に詳細を説明するまでの間は一時間と空いていない。

 その短時間のうちにこれだけのことを仕出かすとは、おそらくアナ・ペイルは単独犯ではなく協力者や組織だった犯行の可能性が高い。

「ホーライル侯爵令息は無事だったのか?」
「……無事といえば無事でしたが……」

 薬物で眠らされたライルは、気付け薬代わりのブランデーを口に含ませるとすぐに目を覚ました。
 カズンも侯爵や侯爵家の家人たちも安堵したが、しかし。

「彼の発見されたときの姿が問題で。……その、女性の下着を頭に被されていて……」

 部屋の柱に縄で縛り付けられたライルの頭部には、女物の下着、俗に言うパンティーがヘッドマスクのように被されていた。

「犯人女性の脱ぎたてと思われます」
「それはまあ、何とも」

 その光景を想像して父親も苦笑している。

「発見した一同、大爆笑ですよ。あんまりにも無様な姿だったものだから、侯爵閣下も叱る前に腹抱えて笑ってましたね」

 とはいえ、意識を取り戻した後のライルを拳で思いっきりぶん殴っていたが。



 それからカズンは、侯爵家から早急に報告の必要な関係各所に、事態の経緯を改めて手紙にまとめて送った。

 まずはライル・ホーライル侯爵令息の婚約破棄の被害にあった、ロザマリア嬢のシルドット侯爵家。

 次に、報告を待ち望んでいるだろう、学園の職員寮に帰宅して待機している担任教師ロダンへ。

 その上でホーライル侯爵に声をかけてから、侯爵家を辞去してきたというわけだ。