うちのクラスの学級委員長、王弟殿下なんですよ~王弟カズンの冒険前夜

 さて、それから十数分後。
 達成感溢れる表情でカズンとライルが持ってきたのは、フライものだった。

 一つは有頭・尻尾付きの海老フライ。
 もう一つは、円盤形のフライ。

 白い皿の中央に中サイズの海老2本と、円盤型フライ1枚が載せられ、彩りの香草とレモンの櫛切りが載せられている。

「海老と、海老の身の叩きをまとめたものに、溶き卵とパン粉をまぶして揚げてみたのだ」
「随分地味な見た目の料理だな?」

 自信満々に胸を張ったカズンに対し、こんがりきつね色だが茶色いフライ料理を見て、ユーグレンは訝しげな表情だ。

 アケロニア王国で揚げ物はあまり一般的でない調理方法だ。
 揚げ物といえば素材の形と色が見える素揚げがメインで、こういう衣を付けたものは珍しい。

「そう思うだろ? とりあえず、レモンかけて食って見てくれ」

 カズンと共に再びエプロンと三角巾を装着していたライルが、これまた自信満々にユーグレン、ヨシュアに勧めた。

「そこまで言うなら……」

 言われるままにフライへレモン汁を振りかけ、ナイフとフォークで海老の頭と尻尾を切り離し、一口大に切り分けてから口へ運ぶ。

「む」
「おお、これはこれは」

 フォークを刺したときの手応えでわかっていたが、ざくっとした軽いパン粉衣の歯応えの良さ。
 そして口いっぱいに広がる海老の旨味。
 レモンの爽やかな酸味と合わさって、非常に食べやすく舌を楽しませる料理だった。

 驚いて次から次へ口に運ぶ二人の様子に満足して、カズンは隣のライルを促した。

「そんで! 次は是非こっちのソースをかけて食ってみてくれ!」

 ライルが持つ配膳用のトレーの上には、人数分の小皿が載っている。
 小皿には黄色味がかった具入りのソースが入っている。

「円盤の形をした揚げ物も試してくれるか?」

 カズンに言われるまま、ソースをスプーンですくって円盤形のフライに添え、カットしたフライを付けていただく。

「「……!」」

 ヨシュアとユーグレンの反応はなかなかだ。
 カズンはライルとともに、己たちの勝利を確信した。



「揚げ物にマヨネーズベースのソースをかけるだなんて。背徳的な組み合わせです、カズン様」

 自前の物品鑑定スキルで材料を見抜いたヨシュアが、しみじみ呟いた。
 タルタルソースの材料は、マネヨーズ、ゆで卵のみじん切り、タマネギのみじん切り、パセリなど香草、後は軽く塩や胡椒。今回はレモン汁も加えてある。

「このフライなる揚げ物も素晴らしい。我がリースト伯爵領の鮭でも今度試してみますね」
「うむ、サーモンフライにタルタルソース。海老に勝るとも劣らぬマリアージュよな」
「ですよね! うちのサーモンパイにバリエーションが広がりそうです」

 ユーグレンや、調理を手伝ってくれていた調理師たちが、ワインが欲しい、いやこの揚げ物にはエール一択! などと悶えている。

 なお、このアケロニア王国の成人は18歳で、今回の学生組の中で成人しているのは春生まれのユーグレンだけだ。

 余談だが、爵位を継承するとたとえ幼児でも成人扱いとなる。
 既にリースト伯爵のヨシュアも実年齢は未成年だが、社会的には成人だ。
 もっとも、まだ本人に飲酒の意思がないことをカズンは知っている。



「まだ揚げたやつがあるから、腹に余裕があれば遠慮しねえでくれ」

 調理場から油切りバットごと、ライルが残りのフライを持ってきた。

「ふ。海老の円盤形フライもとい海老カツといえば、これをやらねばな」

 心得たとばかりに、カズンも調理場から何やら野菜の千切りや調味料を持ってきた。
 更には紙ナプキンまで。

「こう、丸パンを半分に切るだろう?」

 テーブル上のパン籠から、ミルク入りの柔らかな丸パンを手に取り、使っていなかった予備のナイフで横から切れ目を入れる。
 そこにバターではなく、マスタードを薄く塗る。
 その上に細かく千切りにしたキャベツ、海老カツと重ねていき、最後にタルタルソースをたっぷりと。
 出来上がったものは紙ナプキンで包んで、持つ手が汚れないようにした。

「というわけで、海老カツサンドの完成だ」

 やりきったという達成感に満ちた表情のカズンに、「それ俺食いたい!」と速攻手を上げるライル。



 対して、ヨシュアとユーグレンは少しだけ引き気味だった。

「揚げ物をパンに挟むなど……大丈夫なのか?」
「ええ……凄いこと考えますよね?」

 もちろん、アケロニア王国にもサンドイッチはある。
 ただ、従来だと挟む具は野菜やゆで卵、肉は燻製などが主流で、脂っ気の多いものは入れないことが多かった。

「ふっふっふ。さあ、二人ともどうする?」

 眼鏡のレンズを光らせながら不遜に笑うカズンに、ヨシュアとユーグレンは顔を見合わせた。
 既にフライで味をしめている調理師たちは、率先して海老カツサンド作りを買って出てくれている。

「あれ、二人とも食わねえの? ならオレ残り貰ってもいいか?」
「ああ、存分に食せライル。僕もいただくが、余った分は食堂の皆さんが美味しくいただいてくれるだろう」

 おう! と食堂のあちこちで声が上がる。
 今回は商業ギルド内の調理室を借りて実験しており、ここは食堂の一角だ。
 さすがに王族がお忍びで来ているため遠巻きにされているが、領主の息子が調理スキル持ちと何やら調理実験しているとは聞いているらしく、興味津々らしい。

「……っ、カズン様が言うなら絶対美味しいはず! 一つお願いします!」
「……私も一つ頼む」
「毎度ありがとうございます」

 紙ナプキンで包んだ海老カツサンドを皿に載せて、一つずつサーブした。

「これは、このままかぶりつけばいいのか?」

 慣れない食べ方にユーグレンが苦戦している。
 既に先に食べているライルを見て真似しようとするが、普段食しているサンドイッチと違い紙ナプキンに包まれているため、勝手が異なるようだ。

「殿下、こう……ナプキンから食べる分だけ押し出して囓ればよろしいかと」

 こう、と横からヨシュアが手を伸ばして、ユーグレンが持つ海老カツサンドの紙ナプキンを押さえてやっている。
 触れ合う指と指。互いの顔も近い。思わずユーグレンが取り落としそうになるのを、すかさずヨシュアが受け止める。

「す、すまない!」
「大丈夫ですか? 難しいようでしたら、皿でナイフとフォークを使って食べてもいいと思いますよ?」
「い、いや、このまま頑張ってみる……」

 うん。頑張れ。すごく頑張れ、ユーグレン殿下。

 図らずもカズン、ライルだけでなく、調理師たちも皆心の声は一緒だったようだ。
 あえて余計な口は挟まず、見守りに徹するのみ。

 何とかユーグレンが自分で海老カツサンドを食べ始めたのを確認して、ヨシュアも自分の分に口を付けていく。

「……うん、鮭をフライにして同じようにパンに挟むの、有りですね!」

 鮭が特産品のリースト伯爵領の主は、海老カツサンドを咀嚼しながら力強く頷いている。

 その隣の席では、「鮭を食しにリースト伯爵領……行きたいな……(ヨシュアと共に)」と副音声まで聞こえてきそうなことをユーグレンが呟いている。



「えっと……あれ、もちろんヨシュアは気づいてんだよな?」
「そう思うか? 気づいてるなら話はもっと早かったんだ」
「え。無自覚なの? 気づいてねぇの、あれで!?」

 うむ、と重々しくカズンは頷いた。

「ヨシュアはあの容姿だし、人から好意を向けられることに慣れているからな。はっきり言われない限り、自分から気にすることもないのだろう」
「うっわ、てっきり殿下からの好意をわかっててスルーしてるんだとばかり。それはそれでキツいな……」

 それぞれ数個めの海老カツサンドを囓りつつ、ヨシュアとユーグレンを眺める。

 にこやかに海老カツサンドの感想を言い合っているが、平常なのはヨシュアだけで、やはりユーグレン側はどこか挙動もぎこちない。

「キツいのは、あれを上手く導かねばならん僕のほうだ。今はまだ学生だから良いが、卒業後の王宮内でもあのままだと不味い」

 一国の王子が、ただの伯爵を信奉、いや崇拝する姿を他者はどう思うか。

 今は学園の最終学年で、三学期制の第一学期が始まったばかり。
 もう少し何とかなれば良いのだが。

「お前も大変だな。ま、愚痴くらいなら俺でも聞けるからさ」

 へへっ、と照れたように笑う赤茶の髪の少年の存在が、今はありがたい。
 今後は彼ら絡みの件でも遠慮なく巻き込ませてもらおう。



「カズン様、お待たせしてすいません。ところで海老のラーメンはどうされるんです? この後まだ調理実験します?」

 談笑しながら海老カツサンドを食べ終えたヨシュアが、ようやくこちらを思い出したようで、確認してきた。

「………………やはり一朝一夕にはいかん。今回は美味いフライ料理が作れたからよしとしよう」

 前世での日本のように保冷剤などない世界だ。
 転移陣はあくまでも人間の移動のためだけのもので、各地の物産品を運ぶことは禁じられているし、海老を新鮮なまま王都に持ち帰るのも難しい。

 商業ギルドからは干し海老を融通して貰えたので、王都ではそれを使って引き続き海老出汁スープの研究を行おうと思っている。



 それから腹ごなしに、漁港の街を散策することにした。

 今回のホーライル侯爵領への小旅行は私的な探訪のため、特に礼服は持参していない。
 ライルの父であるホーライル侯爵も王都のタウンハウスにいて、こちらまでは来ていないことだし。
 こういった街歩きを想定していたため、良家の坊ちゃんが街を適当に散策する程度のラフな衣服を心がけている。

 とはいえ、全員がジャケットとシャツ、スラックスに革靴と、これでスカーフかネクタイを締めればそのまま高級レストランに入れる格好でもある。
 カズンがどう頑張っても、アルトレイ女大公家の執事がこれ以上カジュアルな衣服を用意してくれなかった。その辺の事情は他の三人も同じだろう。

「なあ。ジーンズ、欲しいよな?」
「激しく同意。どうせ革靴とシャツからは逃れられんのだ、ジーンズルックだってキレイめにまとめればうるさくは言われないはず」

 アケロニア王国は王族や貴族のいる国のため、どこに行っても身分ごとのクラス感からは逃れられない。
 自宅の屋敷ならゆったりと動きやすいズボンとシャツだけでもいいが、人目のある場所で“庶民に見える格好”は、王族や貴族である彼らには許されなかった。



「ライル様ー! 地図お持ちでしたよね、見せてくださーい!」

 前を歩いていたヨシュアがライルを呼ぶ。
 商業ギルドで貰ってきた、漁港付近の簡易地図はライルが代表して受け取っていた。

 ライルがヨシュアの元へ行くと、すかさずユーグレンがカズンの元へやって来た。

「カズン……私はもう今日で死んでしまうのではないか? 今日だけでどれだけ彼と話しただろう? もう一生分話した……」
「何言ってるんですか、殿下。これからまだホーライル侯爵邸に行って、一緒の晩餐がありますよ。その後だって」

 さすがに高位貴族のホーライル侯爵邸で枕パーティーはできないだろうが、同級生の男子4人が集まっているのだ。話題は色々尽きないだろうと思う。

「殿下がもうちょっとしっかりしてくれてたら、ホーライル侯爵邸でゲスト用の四人部屋を用意してもらえたんですよ? 残念ながら今回は僕と二人部屋です。王族は二人まとめておいたほうが警備も楽でしょうから」

 当初、ちょっとした合宿みたいにしないか? とライルが提案してくれて、ホーライル侯爵邸では四人一緒に同じ部屋で眠れる広いゲストルームを用意してもらえる予定だった。

 ところがその話を聞いたユーグレンが「無理だ! 憧れの人(ヨシュア)と同じ部屋でなんて眠れるはずがない!」と悲痛な叫びを上げたため、仕方なく別々の部屋を準備させることになってしまった。

「この調子で、明日の午後帰るまで保つんですかね?」
「保たせて……みせる……」

 旅行はまだ丸一日残っているのに。

 まるで死に戦に赴く騎士の如き悲壮さを浮かべて、ユーグレンが黒い瞳に決意を固めている。
 自分より高い身長と体格以外はほとんど同じ、黒髪黒目の端正な顔立ちのいい男のはずが、どうにも締まらないことだ。

 前途多難だなあとカズンは思ったが、父ヴァシレウスに頼まれているということもある。
 この旅行期間中に、少しでも二人が親しくなれれば良いのだが。

 今のところ、ヨシュア側のユーグレン王子への対応は社交辞令の域を出ていない。

 アケロニア王国の貴族家には、それぞれ伝統的に伝わる名物料理がある。

 ホーライル侯爵家の代表料理は、自領で取れる魚介類をふんだんに使ったサフランスープで米を炊き上げた、いわゆるパエリアに近い米料理だ。
 大切な来客を迎えるときには大きな鉄のフライパンを使って炊き上げる。底にできる香ばしいお焦げの匂いが空腹を刺激して堪らなかった。

「今回は突然の来訪にも関わらず、このような歓待を受け感謝する。……乾杯!」

「「「かんぱーい!!!」」」

 やはりこういうときは、王子のユーグレンがいると挨拶など楽でいい。
 乾杯用の炭酸入りぶどうジュースのグラスに口をつけながら、カズンは内心ほくそ笑んでいた。
 これでユーグレンがいなければ、次は王弟の自分にお鉢が回ってきてしまう。

 調理実験と昼食を終え、商業ギルドを後にしてからは適当に漁港の街を散策し、露店などを冷やかしながら各々が家族への土産を買い求めていた。
 ライルが土産にと勧めてきたのは、海産物のオイル漬け瓶詰めだった。海老や魚、貝などを加熱してオリーブオイルのような食用油を注いだものだ。
 ニンニクや唐辛子、香草といったハーブ類と一緒に漬け込んだものなど様々あって面白かった。
 ホーライル侯爵領で育ったライル本人の一押しはイワシのニンニクオリーブオイル漬けで、これで作ったパスタが子供の頃からの好物だという。
 ところが、このイワシのオイル漬けなるもの、茹でたパスタと和えるとどうにも見た目がよろしくない。

(貴族の食卓に“猫まんま”を載せるわけにはいかんものなあ)

 イワシのような赤身で脂の強い魚は、瓶詰めや缶詰めにして保存すると脂身部分が黒っぽくなる。パスタと和えると、料理全体が黒っぽく雑多なものになってしまう。
 庶民なら気にせず日常的に食事に出すのだろうが、貴族の会食には不向きだ。
 しかしライルは是非とも! とごり押しして、カズンやヨシュア、ユーグレンに中瓶を一瓶ずつ買わせた。よほどのオススメ品と見た。

 そのイワシ、晩餐ではスープの具として登場した。
 切り身ではなく、すり身をスプーンで掬いやすいよう一口大に丸くまとめて、塩味でリーキ(ネギ)だけを具にしたシンプルで透明なスープに仕立てられている。いわゆる“つみれ汁”だ。
 イワシのすり身には生姜のすり下ろしも臭み消しに入っていて、爽やかな芳香がスープから漂う。
 口の中でとろけるイワシのつみれの脂と旨味に、皆相好を崩している。

(イワシのつみれ汁……前世ではよく食ったな)

 イワシが安い季節になると母親がよく作ってくれた。
 もっとも、前世では味噌仕立てで食すほうが多かった。
 今世、アケロニア王国に転生してからは、母親の名前も顔も不鮮明なままなのだが、そういうことだけは覚えている。

 ちなみに他のオイル漬けは、三人とも店の売れ筋を一通り購入して、王都まで配送してもらっている。

 加えてカズンは、更に燻製牡蠣のオイル漬けを数瓶追加した。
 これも前世で食したことがある。家族が他所から貰ってきて、家族で取り合いになった記憶が思い出される。

 燻製した牡蠣のオリーブオイル漬け、晩酌を楽しむ父への土産として間違いない逸品だ。



 さて、晩餐も終えて腹も膨れた。
 これが大人たちなら、ワインをウィスキーやブランデーに変えていくところだが、主賓は現役学生ばかり。
 そのまま食堂で食後のお茶をいただきながら、今後の話をした。

「疲れたならこのまま部屋戻って休んでくれてもいいぜ。余裕があるなら、風呂入った後はサロンに集まろう」

 ライルが言うが、晩餐を終えてもまだ時刻は夜の七時前後。夜はこれからだ。
 茶を飲んで一息ついてから、各自入浴を済ませ次第サロンに集合することにした。

「男四人集まって夜やることと言えば猥談だろ」

 などと宣うライルを、とりあえずカズンは一発殴っておいた。

「いってぇ!」
「馬鹿なことを言うからだ。……む、髪はちゃんと乾かしてこい、まだ春とはいえ風邪を引く」

 赤茶の髪がしっとり濡れている。首に掛けたままだったタオルを取って、がしがし遠慮なく拭いてやった。

「んー……風魔法、あんまり上手くなくてよ」
「暖かい季節だからと油断してると、調子崩すぞ」
「そんな柔じゃねえって」

 部屋で入浴を済ませ、ホーライル侯爵邸で用意してもらった寝間着、襟付きで前開きの俗にいうパジャマ姿で一同サロンに集まった。

 ちなみに全員、同じ男性用の淡いブルーの無地パジャマである。
 主のホーライル侯爵は留守だし、飲み物などの準備を整えた後で、執事や侍女など家人も下げてもらっての無礼講だ。



 風呂上がりで上気した肌を冷ますように、ヨシュアがグラスで冷たい水を飲んでいる。
 何気にユーグレンはちゃっかり推しと同じ三人掛けソファの隣に陣取っている。
 もっとも、その距離はしっかり安全に人一人分空いているのだが。

 ローテーブルを挟んで反対側に、こちらも三人掛けソファにカズンとライルが並んで座っていた。

「そういえば、カズン様は異世界からの転生者でしたね。ラーメンのような不思議な麺料理のことといい、もしかしてライル様も同じだったりしますか?」

 最初の話題にとヨシュアが持ち出したものが、それだった。

「おう、そうだぜー」

 何とも軽く肯定するライル。

「“異世界からの転生者”とはどういう意味なのだ?」

 初めて知る情報にユーグレンは困惑した様子を見せている。

 アケロニア王国のみならず、円環大陸全体で、異世界転生者というの一般的ではなかったが、知る人は知っている。そんな存在だ。
 この世界とは別の世界で生きていた記憶を持って生まれた人間を、そう呼んでいる。

 カズンもライルも公表はしていない。
 カズンは父母と兄王には幼少期から伝えてある。
 それとヨシュアには詳しく話していなかったが、ヨシュアの叔父が情報通で相談していたことがある。

 ライルは誰にも言っておらず、初めて出会った他の転生者もカズンだけで、これまでやってきている。

 ひとまず、異世界転生者についてカズンが概要を説明すると、納得したようにユーグレンは頷いた。

「こことは違う世界って、どんなところなのですか? カズン様たちの前世とはどのような方たちでしたか?」

 元が好奇心旺盛なヨシュアが、身を乗り出して訊いてくる。
 カズンとライルは顔を見合わせてから、特に隠すことでもないからと語ることにした。



「そんなに大した人生じゃなかったけど、悪くはなかったぜ」

 と前置きして語られたライルの前世は、このようなものだ。

「俺がいたのは、この世界とはまったく違う世界で、日本って国だ」
「ニホン……」

 円環大陸上にはない国の名前だ。

「昭和って名前の時代で、高校……今の俺らが通ってる高等学園と同じような学校だな。そこを卒業した後は警察学校に進学して、その後警察官になったわけだ」
「警察学校というのは、この国なら騎士団の警邏や犯罪の取り締まり部門に相当する人員を育成する機関だ。警察官はその騎士だな」

 横からカズンが補足する。

「で、警察官になった後は地元で知り合った女の子と結婚して、数年後に子供ができた」

 妻も子供も、もはや名前は思い出せないという。だが子供が男の子だったことは覚えているとライルは言った。

「んで、仕事が終わると職場の同僚たちと飲んで帰ることが多くてさ。上司もいるから下手に断ると仕事に差し支えるし。いっつも母ちゃんに怒られてた」

 高位貴族のライルが細君を庶民のように「母ちゃん」呼びするのが、何だか不思議な感じがするなと思いながら、一同は彼の話に耳を傾ける。

「日本だと、大学っていう、高校より高度な学修機関を卒業しないとあんま出世できねえんだ。だから俺も給料が低くてさ。まだ若かったし、大した贅沢はできなかった」

 そんな生活でも、楽しみはあった。

「夜中になると、よく家の近所に屋台のラーメン屋が来てさ。ほら、昼間、漁港近くで小さい荷台引いてる店あっただろ。あれに屋根付けたみたいな小さい店が来るんだよ」
「うん。何となくイメージは掴めます」

 ライル自身が前世のものと、この世界にあるものとを比較させて語るので、実物は知らなくとも何となくはわかる。

「その屋台が来るのが、日付が変わる前あたりでさ。その頃になると、母ちゃんも子供を寝かしつけた後でやっと一息つけるわけ。そんで母ちゃん連れてラーメン食いに行くのがささやかな贅沢ってやつだった」

 同じように日本人が前世だったカズンには、その光景がありありと脳裏に浮かんだ。
 まさに、古き良き昭和の庶民の光景だ。

「ワンコインでラーメン一杯と、母ちゃんの機嫌が良ければビールの中瓶を付けてもらえる。あッ、ビールってのはラガーのことな。俺のいた頃だと、エールより辛口のラガーのほうが主流だったんだ」

 この屋台のラーメンが絶品の味噌味で、だからライルは今もラーメンといえば味噌味にこだわりがある。
 アケロニア王国の貴族として生まれて以来、一度も口にしたことがないというのに。

「味噌はやはり探すべきだな。醤油と一緒に濃縮調味料を開発して、いつでも食せるよう環境を整えたいところだ」
「それな!」

 心意気を新たにするカズンに、ライルも強く同意する。
 ヨシュアとユーグレンはよくわからないなりに、二人を応援すると請け負った。



「俺が住んでたのは、日本の東北って地方だ。国土の北部で、すごく寒いし雪もドカドカ降る。ラーメンの屋台も来るのは雪が降る前、せいぜい秋口頃まででさ。後は春になって雪解けの季節になるまで、大した楽しみもねえ」

 そこからライルは、意図してか声をひそめた。

「警察学校を卒業して順調に警察官になった後、俺は地元の交番勤務のお巡りさんになった。交番てのは騎士団の小規模な詰め所みたいなやつで、お巡りさんはそこ勤務の騎士だな。で……」

 その先を続けるのを、ライルはほんの少しだけ戸惑いを見せた。

「あるとき、交番の担当地区を巡回していたら、騒いでた中年男を発見したんだ。雪の降る夜のことでさ。普通なら夜中になんて誰も出歩かねえような場所だ。そいつに職務質問したら、相手がナイフを隠し持ってて、グサッと」

 誰かが息を短く飲む音がした。
 ライルの前世での死亡シーンは、まるで他人事のように本人の口から語られている。

「んーと、ここだな。腹のとこ。すぐ医者にかかって治療してもらえば助かったかもしれなかった。でも雪が降っててさ……降り積もる雪が音を吸って消しちまって。助けを呼ぼうにも、相手と揉み合ったときに無線機を雪の中に落としちまったみたいで、見つけられなかった」

 無線機は説明なしでもわかる。魔導具で離れた場所同士でも通信できる機械がある。

 ライルが手を当てたのは、腹部の右側だ。急所の肝臓は逸れている。だが刃物で刺されたならすぐ治療せねば危ない位置なのは確かだ。

「交番に戻らない俺を心配して、他の警察官が来てくれたとは思うんだよなあ」

 だがその口ぶりだと、到着は遅れ、結果として前世のライルはそのまま助からなかったのだろう。



「……前世で、何か後悔などはないのか?」

 慮るように慎重に、ユーグレンが訊ねる。
 問われて、ライルは物事を思い起こすような顔つきになった。

「んー……まだ小っちゃかったガキんちょ……子供のことは心配だな。でも母ちゃんが育てるなら大丈夫だろ」

 案外後悔は少ないのだと、ライルはカラッと晴れた表情で笑う。

「あ、でも、そろそろ警察の剣道選手権大会が近かったんだ。死に際で浮かんだのが武道館の会場でさ」

 雪に埋もれながらの思念で思い当たるものといえば、それだ。

「……前の人生では、剣道をやっていたのだな」
「おう。中学のときの体育の先生がすっげえ有段者でさ。そこから剣道部に入って、中高とやってきて、警察官になった後も続けてた」

 前世から剣の道を歩み続けているとはすごい、とヨシュアやユーグレンが驚いている。

「今、剣豪を輩出するホーライル侯爵家に生まれて、剣の道に進んで実力磨いてるってのは、前の人生での想いを引き継いでるみたいな気がするぜ」

「ん……僕の場合は、ライルほどドラマチックではないのだが」

 カズンは躊躇ったが、同じ転生者のライルが語って、自分は黙したままというのもフェアじゃない。
 さて、何から話せばいいものやら。

「僕もライルと同じ日本という国にいた。時代はライルの昭和の次、平成という時代だ。そこで高等学校……高校の生徒だった。庶民の家庭に生まれて、両親は共働き。下に弟が一人の4人家族だった」

 標準的な、何不自由ない生活をしていたとカズンは言う。
 ただし、

「僕には親しい友人がいなかった。……ああ、いじめなどに遭っていたわけではない。学校では互いの家に行くほど親しい友人はできず、アルバイト先……短時間労働のファミレス……飲食店では、一人だけ年末のクリスマスパーティーに呼ばれなかった、そんな立ち位置だ」

 あるいは、バイト仲間の誕生日にプレゼントを渡しても、いざ自分の番になるとプレゼントどころか誰も誕生日を覚えていない。
 そんなポジションにいた少年だったという。

 ざわ、とカズン以外の3人がどよめく。
 偉大な先王と女大公の母親の間に生まれ、日々をほのぼの過ごしている今のカズンからは想像もできない姿だからだ。

「死因は、……僕も雪の季節だな。都市部に住んでいてそうそう雪なんて降らない地域だったのだが、その年は例年にない大雪で。労働先のレストランから帰宅しようとしたところで、雪の重みで店の看板が落ちてきたんだ」
「えっ、もう死ぬシーンかよ!?」
「……だって、本当に特筆すべきもののない人生だったのだ。年もまだ十代半ばくらいで、ライルほど社会経験があったわけでもない」

 そうして、落ちてきた大きな看板が頭部を直撃。頭蓋損傷による重傷だった。

「看板が落ちたことにすぐ店の者たちが気づいて、救急車……この国なら医療軍人たちだな。それを呼んでくれていた。だけど僕は負傷が頭部だったし、血も大量に流れ出ていて、自分はもうこのまま助からないと思ったよ」

 倒れて救急車が来るまで、そして自分が息を引き取るまでに、多少の時間があった。

「店での同僚や上司が、必死に呼びかけてくれていた。痛みが薄れてボーッとしてくる意識の中で、もし次に生まれ変われるならもっといい環境がいいなと思っていた」
「……それは、まあ、そのような死に方をしたなら当然思うだろうな」

 言葉を選びつつ、ユーグレンが同意する。

「うむ。それで僕が思ったのは、次があるなら、当時好んで読んでいた青春小説みたいな人生がいいなあ、ということだ」

 前世ではライトノベルやWeb小説と呼ばれていた作品のような、反則的に強いチート能力持ちの主人公になったり、異世界転生したりなどだ。

「イケメンの王子様に生まれて、イケオジの父親と美女の母親がいて。気の置けない友人がいて……こんな不運で死んでしまう取るに足らない存在でなく、『誰かにとって大切な存在』になりたいと強く思った」

 死に際の思念が天に通じたのかどうか。
 今、カズンは王弟として、偉大な父と美しい母親の元に生まれた。
 父母や兄とその家族から大いに愛され、親しい友人もできて恵まれた人生を送っている。

 生憎と、チート系能力の保持者にはなれなかったようだが。それだけが残念である。

(むしろチートは周りにいるのだよなあ)

 竜殺しの魔法剣士、伯爵ヨシュア。
 学生の身でありながら剣豪と呼ばれている、次期侯爵のライル。
 次期王太子で次世代の国王が確定している王子ユーグレン。

 そもそも、父親からして大王の称号持ちの先王ヴァシレウスで、母親は人物鑑定スキル特級ランク持ち。

(この中に混ざると、僕はだいぶ霞む)



 幼少期、4歳くらいの頃に前世の記憶を思い出した。
 当時、両親と暮らしていた離宮の自室の隅で蹲って泣いていたところを乳母に発見され、慌てて両親の元に連れて行かれた。

「あのね、おうちにかえっても、ごはんがないの」

 ポロポロと涙を流しながら言う息子に驚いた父ヴァシレウスと母セシリアは、慎重に、根気よくカズンから話を聞き出した。

 そうして、カズンが異世界の前世を持つ異世界転生者であることが判明する。
 『家に帰ってもご飯がない』とは、学生で放課後、アルバイトをして帰宅したとき、家族が自分の分の夕食を残しておいてくれなかったときの記憶らしい。

 “ピザ”という、アケロニア王国にもある小麦粉を水で捏ねて薄く延ばした生地にトマトソースと具材、シュレッドしたチーズを載せて焼いた料理がある。
 その日、家族はピザを自宅に配達して貰っていたようなのだが、アルバイトを終えて帰宅した前世のカズンの分を考慮せず食べきってしまったようだ。
 というのも、カズンの職場はレストランで、仕事終わりに希望すれば廉価で賄い料理が食べられるからだ。
 家族は前世のカズンが賄いを食べて帰って来るとばかり思っていた。だから夕食分を残して置かなかった。

 けれど前世のカズンはピザが好物で、自分にも数切れ残しておいてくれると思っていた。
 だからアルバイト先で賄いを食べずに楽しみに帰ってきたのだが、残っていたのはピザ入っていた空き箱だけ。

 話を聞いて、ヴァシレウスもセシリアも胸が締め付けられるような悲しい気持ちになった。
 前世のカズンは、決して家族から虐げられていたわけではない。衣食住はきちんと整えられていて、毎度の食事も用意され、洗濯だって母親が毎日洗って畳んで部屋まで持ってきてくれていたという。

 そんな恵まれた生活の中、些細であっても、優しい気持ちが傷つく経験を沢山していたらしい。

 それから泣き止まぬカズンを抱き締め、両親は時折うなされる息子と共に眠ることが多くなった。



「だが、僕自身はこの前世の記憶に少々疑問を持っている」
「疑問?」

 ああ、と頷く。

「他の記憶では、普通にちゃんと衣食住を整えてくれる家族だったんだ。それに、労働先から自宅への帰路にはピザが食べられる飲食店がざっと6店舗はあった。正直、配達されるピザよりずっとリーズナブルで美味なものだったと記憶している」
「だけどよ、悲しくてご両親と一緒に寝ないと泣いちゃうぐらいだったんだろ?」
「それは……まあ、そうだな。幼い頃は前世の記憶を思い出すたびに涙が止まらなかった」

 ライルに突っ込まれるものの、それでもやはりカズンとしては納得できていなかった。

「今の僕が客観的に思い返してみても、別に何てことのない記憶ばっかりなのだ」
「案外、核心的な記憶は思い出されてないのかもしれませんね。『家に帰ってもご飯がない』など、ちょっと聞いただけでは虐待かと思えますけど」
「それは今の父や母も言っていた。だが、同じような出来事の記憶は他にもあるが、前世の僕は本当に堪えてないんだ。ただ、……どうにもスッキリしない」

 それから誰も言葉を発しない。
 カズンの前世はあくまでも彼だけのもの。話を聞くだけで、あれこれ深いコメントができるわけでもなかった。



「なるほど、その前世とやらの記憶があるから、お前はずっと心配したヴァシレウス様やセシリア様と寝ていたのだな」
「え?」
「ふ。私は知っているぞ。カズンが高等学園に入学する頃まで、ご両親の部屋で寝ていたことを!」
「!?」

 突然、ユーグレンからの暴露話が来た。

「な、なぜそれを知っている……?」

 そう。実はカズンは高等学園に入学する前まで、週の半分は両親と寝ていた。
 幼少期、最初に前世の記憶を思い出して泣きじゃくったときから、ずーっとだ。
 王侯貴族の子供は、物心つく頃には一人部屋で一人で寝るのが習わしだ。それからするとかなり異例のこととなる。

「なぜって。ヴァシレウス様ご本人から伺ったに決まってるだろう」

 いつもカズンに口先でやり込められているユーグレンの反逆か、とカズンは警戒したが、意地の悪い意図があるわけではないようだ。

「……昔、私たちが6歳ぐらいのことだったか。ヴァシレウス様たちが公務で国外に出て留守にしたとき、お前を離宮ではなく王宮で預かっただろう。昼は私と同じ部屋で勉強していたが、夜は祖父王の部屋に入って行った。あれがずっと不思議だったんだ」

 で、祖父王テオドロスと先王ヴァシレウスが酒を飲む場に同席したとき訊ねてみたところ、二人ともあっさり教えてくれたというわけだ。

「くっ……父のみならずお兄ちゃままでバラしてるのか……っ」

 恥ずかしくて顔が熱くなってくる。
 カズンは眼鏡を外して天井を仰いだ。

「ふふ、ヴァシレウス様の伝記がまた厚くなりますねえ。末っ子の王弟殿下に添い寝する先王陛下。微笑ましいエピソードです」
「そ、それだけは勘弁願いたい……っ」

 これには全員が笑った。
 偉大なヴァシレウス大王は退位後に本人監修の伝記が刊行されている。
 現王への譲位後の業績は番外編としてまとめられているが、カズンとのエピソードはその中に加えられそうだ。

 まだ夜は長い。少年たちの談笑する声は、ホーライル侯爵邸で穏やかに響いていった。

 カズンの前世については、少々暗い話になってしまった。
 場の雰囲気を変えるため、カズンはあえて明るい声を出した。

「僕の前世はまた話すこともあるだろう。次は……ヨシュア! おまえは何かないか? ほら、リースト伯爵を襲名したばかりだろう。そろそろ結婚の話も出てきてるんじゃないか?」

 興味津々でユーグレンが聞いているのをわかった上で、彼に情報を流すため、ヨシュアに婚約者がいないか聞き出すカズン。
 だが当の本人は首を傾げている。

「うーん。お見合いは昨日もしてきましたけど、今のところ全部断られてしまっています。全敗ですよ、参ったなあ」
「き、昨日もだとっ!?」

 ユーグレンが泡を食っている。

(うん。ファンクラブ会長のおまえ的には会報のネタができて良かったじゃないか。ははははは)

 ヨシュアが言うには、これまで伯爵位継承前も併せれば多数のお見合いを経験しているが、すべて相手側から断られてしまっているという。

「こう言ってはなんだが、おまえの美貌ならいくらでも相手がいるだろう?」
「まあ、自分でも悪くない顔だと思ってますよ。釣書も沢山来ますし。でも嗜好が合わないと言って、すぐ断られてしまうんです」

 詳しく聞いてみると、ヨシュアは婚約者候補たちに必ず確認することがあるのだそうだ。



「我がリースト伯爵家は魔法使いや魔術師の家系です。領地では回復薬のポーション材料に使うための動植物が豊富です。それが領内の生活や食事にも反映されておりまして……」

 リースト伯爵領で特徴的なのは、薬食といって、魔法魔術薬の材料となる素材を食す文化だ。

「たとえばヤモリは、魅了薬の材料としてポピュラーですね。こんがり黒焼きにしておやつにしたり、酒の肴にすることが多いです」
「ヤモリってあの、家の壁とかにくっついてる黒いのか?」
「ええ、そのヤモリです。リースト伯爵領のヤモリは大ぶりで、なかなか食い応えがありますよ」
「お前、食うのか……ヤモリを……」

 ライルがヨシュアの顔をまじまじと見つめて、ビックリしている。
 そんなお綺麗なツラしてヤモリ囓るのか。

「あとは同じように、昆虫を食します。他領出身の方には驚かれることも多いので、お見合いの場で必ず確認するようにしています。『虫を食べるオレと口づけはできますか、この唇に愛されることはできますか?』と」
「………………きっつううう。え、ちょっと待て、虫食う習慣があるってことはだぞ、今日の昼にお前が作ってくれた飯って……」
「いえいえ。あれは海老ですから。見た目ちよっと似てるかもですが別物でしょう?」
「あー! 言っちゃなんねえこと言ったな!? この先海老食えなくなったらどうしてくれんだー!」
「はははは、イヤだなあライル様ったら。海老のほうが大抵の虫より美味ですよ?」
「だから想像させんなってー!!!」

 昼間に楽しんだ海老の思い出がぶち壊しである。



 ともあれ、ヨシュアがお見合いの場でお相手に対し、リースト伯爵領の食文化について事前説明するとの話に戻る。

「婚約して結婚後に発覚したらお嫌だろうなと思って、ちゃんと確認してるんです。それで婚約を辞退されてしまうのですが、仕方ないですよね」

 ちなみにヨシュアの亡くなった父、前リースト伯爵カイルも同じように、お見合いの場では丁寧に、令嬢たちに悪食を許容できるか否か確認していたらしい。

「でもおまえが産まれているのだから、カイル様は結婚できたってことだろう? お母上はゲテモノ耐性があったのか? それか同じ領地出身の方だったとか」
「いえいえ。亡くなった母は同じように婚前に父から説明を受けて、こう言ったそうです。『物を食べたら歯を磨いてうがいをし、香草を噛むのがエチケットでしてよ!』」

 何とも斜め上方向にズレたコメントをする女性である。
 残念ながらヨシュアの母は既に故人だ。

「……お母上はカイル様が昆虫を食すことについては、どうお考えだったのだ?」
「『口から虫の脚が飛び出てさえいなければ、我慢しますわ!』とのことでした。この令嬢を逃したら自分はもう一生独身に違いないと思って、一生懸命口説いて落としたらしいですよ。父は」
「ほう……」

 口を挟まず黙って聞きながら、がっつり耳を向けてヨシュアの台詞の一言一句逃さぬようにしているユーグレンを、ちらりと見やる。
 その拳は力強く握られている。

(推しが虫を食ってても無問題……か?)

 それぐらいではユーグレンのヨシュア信仰が揺らぐことはなさそうだった。
 さて、最後のトリはやはりユーグレン王子だろう。
 カズンが振る話題は決まっていた。

「そういえば、ユーグレン殿下からヨシュアに報告があるそうだ。ですよね、殿下?」

 いい加減、学園で非公認のままのファンクラブを、ヨシュア本人に認知してもらい公認をもぎ取るべきだ。

 しかし話を振られたユーグレンは、ソファに座りながら青ざめて冷や汗を流している。

「い、いや……そのな、それは……その……」

 いつも年に見合わぬ泰然とした様子を見せているのがユーグレン王子だ。
 そんな彼としては珍しいほど、狼狽えている。

 だが、睨んでくるカズンに逃げられないと覚悟を決めて、ヨシュアに向き直った。

「リースト伯爵。私たちが1年生のとき、君は竜を倒しただろう?」
「ええ、ユーグレン殿下。貴重な機会に恵まれました。あ、ヨシュアで結構ですよ、今さらですし」
「ありがとう、ヨシュア。……あのとき、君の勇姿に感銘を受けた者たちが中心となって、君のファンクラブを設立したんだ」

 頑張れユーグレン、めちゃくちゃ頑張れ! と内心でカズンは応援しまくった。

 これがヨシュアのいないアルトレイ女大公邸でなら、ユーグレンはとっくに「ヨシュアが尊い、尊すぎて言葉が出ない!」と天を仰いで、いるかどうかもわからない神に祈りを捧げているところだ。

 かなりユーグレンは頑張っている。これでも。
 カズンにはわかる。今握り締めているその拳の中が汗まみれであることを。
 ついでにいえば、声が震えないよう必死で腹に力を込めていることまで、筒抜けだ。

「すぐ、君に許可を貰いに行くべきところ、その……君はあの後、倒れてしばらく学園を休んでしまっただろう?」
「はい。お恥ずかしながら、魔力が枯渇しかけてしまって」
「うん、それは君のせいじゃない。君のお陰で私たち生徒は皆助かったのだから。……それで、だな。ファンクラブの会長は、私が代表して就任させてもらっているんだ」
「殿下がですか?」
「……うん。機を逃してしまって、君の許可を貰い損ねたまま今年になってしまった。この旅行を機に、ファンクラブを公認してもらえるかな?」

 ヨシュアは笑顔で承諾し、この件については休み明け、生徒会室で書類にサインしてもらうことで話がついた。



「はあ、ようやく話がつけられましたね。もう最高学年ですよ、このままファンクラブ会長であることを隠したままいくのかと、気を揉んでたのなんの」
「ヨシュアのファンクラブがあるってのは知ってたけど、許可なしの非公認だったのか。何でそのまま放置してたんだ? 殿下」

 愚痴を漏らしたカズンと、追撃するようなライルに、ユーグレンは言葉を詰まらせた。
 だが、ここは誤魔化さずすべて話すべきだと判断したようだ。

「私も忙しくて、というのは言い訳なのだが。後、伝え聞いたところによると、君は竜討伐に関して王家に不満があると耳にしたものだから、話しかけ辛かったんだ」

 これはカズンも初耳だった。

「どうなんだ? ヨシュア」
「んん……不満というか……」

 形の良い眉をしかめている。見るからに機嫌が悪そうだ。
 普段は麗しの美貌に常に微笑を湛えているヨシュアが不機嫌な顔になると、結構怖い。
 既にユーグレンなど内心でビビりまくっているのが、付き合いの長いカズンにはわかった。

「あのとき、竜にとどめを刺したのはオレじゃないですか。それで竜殺しの称号と、竜の心臓にあった魔石は報奨として頂戴しましたが……一番欲しかったものは貰えなかったのです」
「「「えっ!?」」」

「まさか、報奨金のことか? 大金貨50枚は決して少ない額ではなかったはず……」

 この世界で、貨幣は円環大陸上のすべての国家で共通貨幣を用いる。
 大金貨は、日本円でいうなら1枚20万円以上に相当する。単純に計算しても大金貨50枚なら1000万相当だ。

「もう、違いますカズン様! オレが欲しかったのは竜の牙と爪です! リースト伯爵家は魔法と魔術の家ですよ、素材になる材料を頂戴できるほうが嬉しかったんです!」
「ああ、そういう……」
「それに、オレが目を覚ました頃には竜退治の宴会も何日も前にとっくに終わった後でしたし。竜肉のロースト、少しぐらい残しておいてくれても良かったのに……!」

 アケロニア王国の貴族家には、各家それぞれに名物料理がある。
 リースト伯爵家はサーモンパイの赤ワインソース添え、ホーライル侯爵家は今日の夕飯で饗された魚介のサフランスープ炊き込みご飯(パエリア)。

 そして王家が、ローストビーフならぬローストドラゴンだ。
 半生で外はこんがり、中は血が滴らぬ程度の絶妙な火加減で焼き上げ、薄くスライスして建国当初から続く秘伝のガーリックソースで食す。
 竜はトカゲに似た外見から、爬虫類系の淡泊な味と思われがちだが、実際は極上の牛肉をはるかに上回る美味な赤肉として知られている。
 竜が討伐できたときしか食せない珍味でもある。

「自宅の自室で目を覚ましたら、あの後妻の連れ子が『竜旨かったぜ、ごちそーさん!』などと言いに来て。どれだけオレが悔しい思いをしたことか……!」
「お、おう」
「……それは確かに悔しいだろうな」

 ユーグレンの脳裏に、午前中に自らが引導を渡してきたヨシュアの元義弟もどきアベルの顔が浮かぶ。
 報告書を読んだときも感じたことだが、日常からヨシュアに対する態度は相当悪かったようだ。

 竜の牙と爪は、学園が受けた被害の補填のため売却されて、既に使われている。
 ただ、竜討伐の記念として一部が学園側に納められている。

 学園長に話を通せば、竜を討伐した本人が望むなら譲渡してもらえるだろう、とユーグレンが見解を示したことで、ひとまずこの件は週明けに持ち越しとなった。

 翌日は午後には王都に戻るため、もう港町まで出ることはせずホーライル侯爵邸での余暇を楽しむことにした。

 とはいえ、ご令嬢たちのようにお茶を楽しんでウフフと微笑み合うわけではない。

「訓練しようぜー。剣でも魔法でも魔術でもOKな!」

 と言って、朝食後サロンで休んでいた一同の元に、ライルが倉庫から木刀などの模造剣を持ってきた。
 本人はさっそく動きやすい訓練着に着替えている。

「魔力を使っていいのですか?」

 不敵にヨシュアが微笑んでいる。

 麗しの美貌と、まだ成長期で細身な体格に誤魔化されがちだが、彼は現時点で既に魔法剣士として完成されている。

 “魔法”と付くからには、分類上は魔法使いだ。最も魔力を高度に使いこなす職業であり称号といえる。

「ま、待て、お前に魔力使われるとさすがに俺たち全員ヤバい。とりあえず剣やろう、剣!」

 ハッとライルもすぐ気づいて、慌てて訂正する。
 ところが今度は、カズンとユーグレンが躊躇いを見せた。

「剣か……」
「まあ、魔力を使うよりはマシ、か?」

 互いによく似た黒い瞳を見合わせて、溜め息をついている。

「ん? 二人とも、剣は不得手だったか?」
「いや、剣は好きだが、王族は身の守りを優先せねばならないからな。防御や体術のほうが得意なんだ」

 それに、王子のユーグレンは今回、護衛を連れてきていない。
 専用の防具も持ってきていないことから、傷を作る可能性が高い剣術の練習は却下だ。



「王族の皆様は体術とバックラーの防御を中心に学ばれるのですよね」
「そう。こういうやつだ」

 とカズンは自分の魔力で、バックラーと呼ばれる小型の丸い短剣付きの盾を利き腕とは逆の腕側に出して装着した。

(僕の数少ない、異世界転生したっぽい能力だ)

「王族は社交や外交で剣を持てない場面が多いからな。必然的に防御特化していくことになった」

 ユーグレンも同じような形状のバックラーを出して見せる。

「ヴァシレウス様もバックラー、使われてますよね」
「うちのお父様の場合、魔改造しまくって原型を留めてないけどな」

 バックラーを改造する場合、盾のサイズや形状を変えるか短剣の刃を伸ばすかだが、カズンの父ヴァシレウスの場合はバックラー本体そのものを武器にできるような改造を行っている。

「最初に見たのは子供の頃で、あれが格好良いと大はしゃぎしたものだったが……」

 既に何か違う別の武器になっている疑惑もある。



 それから昼食の時間まで、訓練着を借りてホーライル侯爵邸の庭で4人で組手をして身体を動かしていた。
 その後はヨシュアとライルで木刀での打ち合いをやっていた。

「魔法剣士と剣士の対戦か」
「んー……やはり身体強化なしだとヨシュアが押されてしまうなあ」

 背丈はどちらも同じくらいなのだが、ヨシュアのほうが華奢だ。
 対するライルは脚や肩、腕など剣士に特化した筋肉がよく鍛えられている。

 身体強化術を使わない対戦では、ライルの一勝。
 次は制限なしの身体強化術を使用しての対戦。

「お。おおお、互角……!?」
「でもないな。やはりヨシュアが押され気味だ。単純な剣術の技は剣士の方に軍配が上がるか……」



 さて本命の、魔力を使う対戦は。

「カズン様、持っててください」
「おっと」

 ヨシュアから木刀を投げ渡され、ユーグレンと見学していたカズンは慌てて受け取った。

 手ぶらになったヨシュアの両手の中に、魔法樹脂の透明な剣が創り出される。
 同じように空中にも次々と魔法樹脂の剣が現れていく。
 数十本ほど出現させた時点で、ヨシュアは自分の瑠璃色の魔力をすべてに満たした。
 すると透明だった魔法剣は金剛石、即ちダイヤモンドの輝きを帯びて光を乱反射するようになる。

「リースト伯爵家の魔法剣。……やはり、美しいな」

 隣でユーグレン王子が感嘆の溜め息を漏らしている。

「まだあれで半分も出してませんよ」
「ああ。竜退治のときは百本以上あったものな」

 こうなると、もはやヨシュアの独壇場だ。
 手に剣を持ってはいても、ヨシュアはその場から動かない。宙に浮かせた魔法剣を操作してライルに向けて自在に翻弄している。

 数十本もの空中からの魔法剣攻撃に、ライルは奮戦したものの、数分で音を上げた。

「ぎ、ギブ、ギブアップ!」
「はい。勝利、いただきました」

 にっこり笑って、魔法剣を魔力に戻したヨシュアだった。



「くそ、あの数は反則だろ、反則!」

 訓練着のあちこちが細かく避けた姿でライルが悪態をついている。
 服は避けたが、その下の皮膚はどこも傷ついていない。ヨシュアが操る魔法剣のコントロール技術は実に精密で微細だ。

「魔法剣士とはそういうものだ。諦めろ、ライル」
「うう、悔しいったら……絶対ぇに攻略してやるからな、待ってろよヨシュア!」

 ビシッと人差し指で指されてもヨシュアは笑っていた。

「こちらこそ。身体強化や魔法剣抜きの素のオレも、まだまだです。ともに切磋琢磨して参りましょう」

 大変良い子のお返事であった。

 さて、今日はもう昼食をいただいた後は王都へ帰るだけだ。
 一泊二日の小旅行だったが、それなりに4人の仲はより親しくなったように思う。

 ホーライル侯爵領では、食の探求以外にも、4人で鍛錬したり、会話を楽しんだりでそれなりに仲を深めたカズンたちだ。

 そんな充実した週末の小旅行から王都に戻ってきて数日後。
 例の物を渡すから放課後王宮へ来いと、カズンは学園でユーグレンから手紙を貰った。

 今日は午前中で授業は終わりだから、カズンは一度自宅のアルトレイ女大公邸に戻って、制服から略礼装に着替えてから王宮へ上がった。



 王宮へ行くとユーグレンから「私だってガスター菓子店のショコラは好物なのだが」とブツブツ言われながらも中箱の詰め合わせを渡された。

 ちなみに祖父王から頂戴した小遣いは、家族や周囲の側近たちへの土産代に大半が消えて、残りはきちんと返金している。これはカズンも同じだ。
 ショコラ詰め合わせ・中箱は、きっちりユーグレンの毎月の小遣いからの支出である。痛い。

「ふふ。もう間もなく来ますよ、殿下。そのときまだ同じ愚痴が言えるかな?」
「えっ、来るって誰がだ?」

 王子として、ユーグレンは既に祖父王や王太女の母の執務を手伝っている。
 学園では生徒会長として生徒会の仕事、放課後帰宅してからは執務と忙しい。

 ちょうど王宮に着いた時間が午後のお茶の時間に近かったので、ユーグレンの休憩も兼ねて王宮内の庭園にあるあずまや(ガゼボ)にティータイムの用意をして貰った。

「ああ、ちょうど薔薇が咲き始める頃ですね」
「そうだな、今年は白薔薇から咲き始めて……」

 侍女が来客を告げに来る。
 この庭園は許可のない者は入れない。
 いったい誰が? と不思議そうな顔になったユーグレンは、すぐ後に現れた人物に息を止めた。



「アケロニア王国のユーグレン王子殿下にご挨拶申し上げます。先日は大変お世話になりました、リースト伯爵ヨシュアでございます」

 白地に鮮やかなネイビーの差し色、装飾にはミスリル銀を使った軍装に、肩からは太腿までの長さの同色のマントを装着している。

 リースト伯爵としての正装で膝をつくのは、青みがかった銀髪と銀色の花咲くアースアイの持ち主だった。

「ヨシュア……」

 咄嗟に椅子から立ち上がったユーグレンは、呆気に取られている。

 カズンもヨシュアが現れた方向を見て、おや、と黒縁眼鏡の奥の黒い瞳を瞬かせた。
 薔薇と葉の濃い緑を背景にすると、ヨシュアの白い礼装は大変に映える。

「咲きかけの白薔薇の中にその格好だと、なかなか絵になるじゃないか。どこの名画家の芸術かと思ったぞ、ヨシュア」
「おや、カズン様もいらしたのですか」

 自分への賛美は華麗にスルーして、ヨシュアが立ち上がる。
 そのままあずまやの中へ招いてやる。
 彼は、先日の亡父の魔法樹脂の解術の儀式立ち会いへの礼を言いに参上したのだ。

 その手には何やら見覚えのある、シックなビターチョコレート色の包装紙に金箔で店名の入った紙袋が提げられている。

「そ、それはガスター菓子店のではないか?」
「ええ。カズン様から、ユーグレン殿下がお好きな店と教えていただいたものですから」

 しかも大箱だ。大箱の中でも一番大きなやつだ。何と驚きの五段重ね!

 思わずカズンを振り向いた。カズンはニンマリと、黒縁眼鏡のレンズの奥で、してやったりな表情で笑っている。

「ね、良い出費だったでしょう?」

 と自分が貰ったショコラの中箱の包みを掲げて見せた後、一礼してその場を辞した。

「ショコラの食べ過ぎは鼻血が出ることがあるそうですよ。お気を付けて、殿下」
「ち、ちょっと待てカズン、どこへ行く!?」
「お兄ちゃまとお茶の約束があるのです。ではごきげんよう」

(よーし、いい仕事した自分!)

 元々、カズンはヨシュアから、ユーグレンへの礼の日取り調整を頼まれていた。
 学園でユーグレンからの手紙を貰った後、すぐヨシュアに今日の予定を確認したら大丈夫だと言うので、自分が王宮に上がる時間に合わせて登城してもらったのだ。

 ユーグレンから頂戴したショコラは兄王といただくとしよう。
 上機嫌で庭園を後にした。



 その後、王宮の兄王テオドロスの執務室でユーグレンが戻ってくるのを待っていた。
 お茶請けはもちろん、ユーグレンから頂戴したばかりのガスター菓子店のショコラだ。

 ちなみにこの菓子店のショコラは、王族は皆大好きで、献上はいつでもウェルカムである。

 そして帰ってきたユーグレンは、この上なく上機嫌だった。
 これはもしや? と期待するも、やはりヨシュア絡みのユーグレンは残念だった。

「聞いてくれカズン! ヨシュアと次にお茶する約束を取り付けたぞ!」
「えええええ……それだけ?」

 カズンは黒縁眼鏡が顔からずり落ちそうになった。

「何を言う。大した進歩じゃないか!」
「進展遅すぎませんか! ユーグレン殿下はもっと頑張れる男だと思ってましたよ!」

 国王のテオドロスと宰相は結果を予想していたのか、苦笑している。

「青春ですな、陛下」
「今どきの子供は奥手だと聞くが、まあ見てて飽きぬな」

 奥手ってレベルじゃない! とカズンは叫びたかったが、当のユーグレンは幸福感いっぱいのようで顔を盛大に綻ばせている。辺りに花が舞っているかのような浮かれっぷりだ。

「あれだけベストなシチュエーションを誂えて差し上げたのに! 何かもっとないんですか、こう……こう!」

 薔薇の咲く静かな庭園、そこにあるあずまやで優雅に二人だけのティータイム。
 完璧だったはずなのに、もっと機会を活かして欲しかった!

「高望みはするまい。共にいられるだけで幸せだった」

 自分にそっくりなユーグレンが、うっとりと頬を染めて天を仰いでいる。
 これはもう、今後もしばらくは彼の“ヨシュア信仰”を聞かされること間違いなしだろう。

(ヨシュア本人がユーグレンに興味がないからな。これはできるだけ、二人の接点を持たせるしかないか)

 幸い、同じ学園に通う同学年の生徒だ。
 今後はもっと、無理にでも二人が一緒にいられる場を作ってやろうと、半ばやけくそ気味に決意するカズンなのだった。