それで一通り、カズンが改めて一同に、環を発現させた経緯などを説明する。
「環が発現したきっかけがあるだろう? こう、莫大な魔力が自分の中を突き抜けていくような」
とフリーダヤに言われて思い出したのは、夏休みの直前、学園で親戚であるトークス子爵令嬢イザベラの婚約者とのトラブルに関与したことだ。
彼女を助けようとはっきり意識したとき、自分の中を通り抜けていった爽やかな清涼感は印象的で、カズンの中にいまだ余韻を残している。
「できるだけ克明に、細部まで思い出しながら語ってごらん。想起しながら追体験していけばまた同じ状態を再現しやすくなる」
「克明に、細部までですか。ええと……」
辿々しく語るカズンに、フリーダヤは様々な視点から疑問点や指摘を挟んでは確認していった。
ヨシュアとユーグレンは、カズンの中でそのような意識の変化があったことを初めて知って驚いている。
特にヨシュアは、その場面で同じ空間にいた立場であったにも関わらずまるで察知していなかったことで密かに落ち込むことになった。
「最初に無我になる瞬間は、人によって千差万別だ。あとは君なりに同じ状態を再現できるよう心がけてみることだ」
一通りカズンの内面が語られひと段落ついたところで、さて、とフリーダヤはヨシュアを見た。
「君はカズンの幼馴染みだそうだね、ルシウスの甥っ子君。君は環には興味ある人?」
「それはもちろん……オレとて環に憧れはありますが……」
ヨシュアの歯切れが悪い。
「そんなに難しいことじゃない。だけどね、ルシウスと血の繋がった甥なら、旧世代の魔力使いだろう?」
「……はい」
「見たところ、かなり魔力の強い術者と見た。でも今の時代、優秀な魔力使いほど、旧世代の“代償方式”の弊害が出ている。ヨシュア君」
「は、はい」
「君は典型的な“旧世代”タイプの魔法使いだ。ステータスを皆に見せて貰ってもいいかな?」
「……良いでしょう。オレの能力は国内では知られていますから」
ステータスオープン、と呟いてヨシュアは自分のステータスをその場の全員に見えるよう可視化させた。
--
ヨシュア・リースト
性別 :男
職業 :リースト伯爵、学生
称号 :魔法剣士、竜殺し
スキル :魔力鑑定(中級+)、物品鑑定(初級)、調理(初級)、身体強化(中級+)、魔法剣創造、魔法・魔術樹脂作成、、、
体力 6
魔力 8
知力 7
人間性 6
人間関係 3
幸運 1
--
基本ステータスは、円環大陸全土で人物鑑定スキルに使われているテンプレートの、代表的な項目だ。
人物鑑定スキルの使い方次第では別項目で表すことも可能だが、あまり一般的な使い方ではない。
「魔法剣士として傑出した能力を発揮するために、犠牲になっているステータスがあるだろう?」
「あー……なるほど、こういうことですか」
カズンが思わず声を上げた。
『幸運1』のことだろう。
ステータスの平均は5で、最低が1だ。
「でもこれは、かつて受けた呪詛の影響なのですが」
「そうかな? 元から低かったんじゃない?」
「……呪詛を受ける前は3でした。確かに、高くはなかったです」
ちなみに幸運値も平均は5である。
「フリーダヤ様。オレにも環が発現する可能性はあるでしょうか?」
ヨシュアに問われて、フリーダヤはじろじろと不躾な視線をヨシュアの全身、頭から足元までを見つめた。
魔力をスキャンするとき特有、独特な目つきだ。
その上で、ここに来る前にカズンにも話した環の概要を話してみせた。
即ち、環発現の条件である執着を離れて無我になることの必要性をだ。
「君さ、魔法剣士なんだって? それなら魔法剣にこだわりがあるよね」
「それはもちろん。我が家が代々受け継いできたダイヤモンドの剣の数々は一族の誇りです」
「それさ、捨てられる?」
「……はい?」
何か信じられない言葉を聞いた。
「今、君の魔力の性質と構造を見た。君の能力を阻害してるのが、その魔法剣だよ。そもそも何でわざわざダイヤモンドなんかにするわけ? 剣なら金属でいいじゃない。意味わからないよね」
「な、それは……っ」
馬鹿にするような言い方をされて、ヨシュアの白い頬が染まる。
「ほらね、揶揄されて怒った。その執着が環の発現にとって一番厄介なんだ。君、本来はもっと魔力量多いよ。魔法剣のせいで本来の実力の何分の一か……下手すると何十分の一になってる」
「そんな」
フリーダヤの発言の中には、期待させるような内容と、困惑させる内容とが混在している。
「やっぱり王侯貴族で環発現は難しい。今の地位や身分や矜持が邪魔過ぎる。ねえ。ヨシュア君だって、貴族なんでしょ?」
「……リースト伯爵と申します」
「わお、現役の伯爵サマ!」
道化のような派手な動作でフリーダヤが驚いてみせる。
「……必ずしも今の環境を捨てねばならない、わけではないですよね?」
「さて、どうだろう。でもいいじゃない、王侯貴族としてこれまで何世代にも渡って既得権益を独占して、いい思いしてきたんでしょ? そろそろ他に明け渡してもいい頃じゃない?」
「簡単に言ってくれる……」
苦々しげにヨシュアが呟く。
現役の伯爵の彼は、リースト伯爵領という豊かで広大な土地と領民を持ち、率いる立場だった。
「ははっ、いいねえその顔! 美少年の怒った顔もなかなかいい!」
「フリーダヤ様、その辺で。ヨシュアを揶揄わないで下さい」
さすがにカズンがそれ以上は止めた。
この薄緑色の長い髪と瞳の優男フリーダヤのことは昔から王宮にふらっとやって来るからよく知っているカズンだったが、こうして人を煽って苛つかせることが多かった。
それでいて捉えどころがないところは、新世代の魔力使いに多い特徴らしい。
「フリーダヤ様。では、私はどうでしょうか。カズンと同じように環が出る可能性は?」
「ユーグレン王子、君がその質問をするのは国王が許さないんじゃないかなあ」
この国の次世代の王となることが確定しているユーグレンが、王族としての責務を解除してしまう環を求めることは現状、許されない。
「環が発現したきっかけがあるだろう? こう、莫大な魔力が自分の中を突き抜けていくような」
とフリーダヤに言われて思い出したのは、夏休みの直前、学園で親戚であるトークス子爵令嬢イザベラの婚約者とのトラブルに関与したことだ。
彼女を助けようとはっきり意識したとき、自分の中を通り抜けていった爽やかな清涼感は印象的で、カズンの中にいまだ余韻を残している。
「できるだけ克明に、細部まで思い出しながら語ってごらん。想起しながら追体験していけばまた同じ状態を再現しやすくなる」
「克明に、細部までですか。ええと……」
辿々しく語るカズンに、フリーダヤは様々な視点から疑問点や指摘を挟んでは確認していった。
ヨシュアとユーグレンは、カズンの中でそのような意識の変化があったことを初めて知って驚いている。
特にヨシュアは、その場面で同じ空間にいた立場であったにも関わらずまるで察知していなかったことで密かに落ち込むことになった。
「最初に無我になる瞬間は、人によって千差万別だ。あとは君なりに同じ状態を再現できるよう心がけてみることだ」
一通りカズンの内面が語られひと段落ついたところで、さて、とフリーダヤはヨシュアを見た。
「君はカズンの幼馴染みだそうだね、ルシウスの甥っ子君。君は環には興味ある人?」
「それはもちろん……オレとて環に憧れはありますが……」
ヨシュアの歯切れが悪い。
「そんなに難しいことじゃない。だけどね、ルシウスと血の繋がった甥なら、旧世代の魔力使いだろう?」
「……はい」
「見たところ、かなり魔力の強い術者と見た。でも今の時代、優秀な魔力使いほど、旧世代の“代償方式”の弊害が出ている。ヨシュア君」
「は、はい」
「君は典型的な“旧世代”タイプの魔法使いだ。ステータスを皆に見せて貰ってもいいかな?」
「……良いでしょう。オレの能力は国内では知られていますから」
ステータスオープン、と呟いてヨシュアは自分のステータスをその場の全員に見えるよう可視化させた。
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ヨシュア・リースト
性別 :男
職業 :リースト伯爵、学生
称号 :魔法剣士、竜殺し
スキル :魔力鑑定(中級+)、物品鑑定(初級)、調理(初級)、身体強化(中級+)、魔法剣創造、魔法・魔術樹脂作成、、、
体力 6
魔力 8
知力 7
人間性 6
人間関係 3
幸運 1
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基本ステータスは、円環大陸全土で人物鑑定スキルに使われているテンプレートの、代表的な項目だ。
人物鑑定スキルの使い方次第では別項目で表すことも可能だが、あまり一般的な使い方ではない。
「魔法剣士として傑出した能力を発揮するために、犠牲になっているステータスがあるだろう?」
「あー……なるほど、こういうことですか」
カズンが思わず声を上げた。
『幸運1』のことだろう。
ステータスの平均は5で、最低が1だ。
「でもこれは、かつて受けた呪詛の影響なのですが」
「そうかな? 元から低かったんじゃない?」
「……呪詛を受ける前は3でした。確かに、高くはなかったです」
ちなみに幸運値も平均は5である。
「フリーダヤ様。オレにも環が発現する可能性はあるでしょうか?」
ヨシュアに問われて、フリーダヤはじろじろと不躾な視線をヨシュアの全身、頭から足元までを見つめた。
魔力をスキャンするとき特有、独特な目つきだ。
その上で、ここに来る前にカズンにも話した環の概要を話してみせた。
即ち、環発現の条件である執着を離れて無我になることの必要性をだ。
「君さ、魔法剣士なんだって? それなら魔法剣にこだわりがあるよね」
「それはもちろん。我が家が代々受け継いできたダイヤモンドの剣の数々は一族の誇りです」
「それさ、捨てられる?」
「……はい?」
何か信じられない言葉を聞いた。
「今、君の魔力の性質と構造を見た。君の能力を阻害してるのが、その魔法剣だよ。そもそも何でわざわざダイヤモンドなんかにするわけ? 剣なら金属でいいじゃない。意味わからないよね」
「な、それは……っ」
馬鹿にするような言い方をされて、ヨシュアの白い頬が染まる。
「ほらね、揶揄されて怒った。その執着が環の発現にとって一番厄介なんだ。君、本来はもっと魔力量多いよ。魔法剣のせいで本来の実力の何分の一か……下手すると何十分の一になってる」
「そんな」
フリーダヤの発言の中には、期待させるような内容と、困惑させる内容とが混在している。
「やっぱり王侯貴族で環発現は難しい。今の地位や身分や矜持が邪魔過ぎる。ねえ。ヨシュア君だって、貴族なんでしょ?」
「……リースト伯爵と申します」
「わお、現役の伯爵サマ!」
道化のような派手な動作でフリーダヤが驚いてみせる。
「……必ずしも今の環境を捨てねばならない、わけではないですよね?」
「さて、どうだろう。でもいいじゃない、王侯貴族としてこれまで何世代にも渡って既得権益を独占して、いい思いしてきたんでしょ? そろそろ他に明け渡してもいい頃じゃない?」
「簡単に言ってくれる……」
苦々しげにヨシュアが呟く。
現役の伯爵の彼は、リースト伯爵領という豊かで広大な土地と領民を持ち、率いる立場だった。
「ははっ、いいねえその顔! 美少年の怒った顔もなかなかいい!」
「フリーダヤ様、その辺で。ヨシュアを揶揄わないで下さい」
さすがにカズンがそれ以上は止めた。
この薄緑色の長い髪と瞳の優男フリーダヤのことは昔から王宮にふらっとやって来るからよく知っているカズンだったが、こうして人を煽って苛つかせることが多かった。
それでいて捉えどころがないところは、新世代の魔力使いに多い特徴らしい。
「フリーダヤ様。では、私はどうでしょうか。カズンと同じように環が出る可能性は?」
「ユーグレン王子、君がその質問をするのは国王が許さないんじゃないかなあ」
この国の次世代の王となることが確定しているユーグレンが、王族としての責務を解除してしまう環を求めることは現状、許されない。