誰もいない家に帰った。私の家族は常に仕事が忙しく、家にいる事が少ない。
 家事などは、家政婦さんが家に来てやってくれる。
 正直、私の家はお金持ちと言われても否定できない程に裕福である。
 私はそれが嫌だった。
 何もかもが普通な私に対して、家だけが、家族だけが普通じゃないのが嫌だった。
「はぁ、」
 思わずため息を付く。
 疲れ切った体は、今日も頑張ったんだと知らせてくれている。
 今すぐにでも、ベッドに飛び込みたい気持ちはあるものの、少なくともお風呂に入ってスキンケアもしなくてはならない。
 お腹も空いているからご飯も食べたい。
 袋から取り出したコンビニ弁当を、レンジで温めている間にスマホを開く。
 やはり、何度見ても日向くんには癒される。
 本当に、私のHPがぐんぐん上がっていく。

ピーピーピー

 レンジが知らせてくれる音。その音が鳴り、スマホを閉じる。
 食べてる間にお風呂を沸かすため、スイッチを押す。
 友達と食べる昼食の後のご飯である夕飯はなんだか味気ない。
 その後、お風呂へ。体の疲れをほぐしてくれる。
 スキンケアを終え、寝るには少し早い時間。
 1人の寂しさを誤魔化すように、スマホを開き、日向くんを眺める。
 日向くんにハマったのは、1人の時間を埋めてくれるから。
 1人じゃ無いと、思えるから。
 同じ時を過ごしているから。
 しばらく、スマホを眺め、眠くなったので布団に入る。
 すると急に、涙が込み上げてきた。
「なんで、日向くんと会えないんだろう」
 日向くんは、推しなんかじゃ無い。私の初恋。そして今も、日向くんに恋をしている。
 いわゆる、ガチ恋勢だ。
 会えない苦しさ、話せない苦しさ、触れられない苦しさ、全部全部辛い。
「日向くん、会いたいよ」
 ベッドの中でそう呟く。
 俺も会いたいよ、そう聞こえたのは気のせいでは無いだろう。
 私と日向くんは体を共有している。
 だから、ファンとアイドル以前に互いに会う事も、話す事も、触れる事もできないのだ。

 私は二重人格。
 私と日向くん、性格、得意な事、苦手な事、好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味……。
 全て違う。
 だって、同じ体を共有してるだけの、別の人間。
 あぁ、二重人格なんかになりたくなかった。
 切なくて儚い恋。でもその想いは、決して散る事が無いだろう。