一生一緒にいたい。

そんな風に思う人がいた。

太陽のように輝く笑顔を向けてくれる君。

私と彼の出会いは偶然だった。

いや運命だったのかもしれない。

同じクラスで席が隣だった君。

少しずつだけど話すようになった。

互いに意気投合し合って気づけばずっとそばにいた。

そんなある日、君は私に「美幸(みゆき)のことが好きです。ずっとそばにいて欲しい」

真剣な眼差しでそう言ってくれて、私は心の底から嬉しかった。

私の返事は一つに決まっていた。

「はい! お願いします!」

次の瞬間、私の身体は包まれた。

大きくて温かい彼の身体に。

その日から今までの一年半私たちは共にいる。

そしてこれからもだ。

そんなカップルでいようと思っていた。

一祈(かずき)くん! もうすぐクリスマスだよ!」

隣で携帯を触ってる彼に問いかける。

「今年はどこに行こうね」

最近は寒さが厳しくなり、本格的に冬が近づいてきている。

「イルミネーション見たい!」

「去年も行ったよね。今年も行こっか」

「やったー!」

私はクリスマスに手を繋いでイルミネーションを見ることが大好きだった。

それも彼と一緒なら尚更。

彼は冷たいように見えるが、とても優しく私の言うことを否定したりしない。

私たちは今まで喧嘩という喧嘩をしたことがなかった。

それは私の言うことに彼が否定したり怒ったりしなかったから。

だけどここ最近彼の様子が少し変だと思った。

最近の彼は愛情表現をあまりしてくれない。

付き合った当初は言ってくれていた「好き」という言葉も今じゃほとんど聞かなくなった。

それでも彼は優しく接してくれる。

私が行きたいと言った場所に付き合ってくれてり、いつだって私のことを優先して考えてくれる。

彼は昔から少し変わっている人だった。

付き合った当初から写真を撮られるのが苦手。

そう言っていたのに自分からカメラを構えて私と写真を撮ったり。

いつもは冷たい感じなのに、急に甘えてきたり。

だから私は彼は少し変わった人なんだな、とばかり思っていた。

それでもそんなとこも含めて全部好き。

「そういえばさ、一祈くんって私のどこを好きになったの」

この一年半聞こうと思ったけど、聞いてこなかったこの質問。

彼は私のどこを好きになったのか。

「美幸と初めて話した時、すっごく明るくて笑顔が素敵な人だなって思ったんだ」

面と向かってそんなことを言われると照れてしまう。

「逆に、美幸は俺のどこを好きになったの?」

私が彼を好きになった理由。

「私はねー、一祈くんと話す前は冷たい人なんだろうなーって思ってたんだよね。でも話してみるとすっごく優しくて楽しくて好きになってた」

彼も少し照れたように頭を搔く。

彼の少し照れた顔はとても可愛らしい。

「お腹すいたね、何か作ろっか」

時計を見ると短針と長針が12を指していた。

私たちはリビングへ向かい、何か作ることにした。

冷蔵庫を開けて何を作れるか考える。

「そうだ! ホットケーキでも作ろ!」

「いいね」

2人での共同作業。

今までも一緒に料理はしてきた。

私はよくホットケーキを作ってたので上手くできる自信はある。

ボールに卵と牛乳を入れて混ぜる。

次にホットケーキミックスを入れて、ダマが残るくらいに混ぜる。

あとはフライパンで焼くだけ。

ホットケーキは簡単に作れておいしいからよく作っていたのだ。

「作るのめっちゃ上手いね」

隣で見ている彼が褒めてくれる。

完成したホットケーキにメープルシロップをかける。

「よし! 完成!」

ホットケーキをテーブルに運ぶ。

「いただきます」と言って私たちは食べ始める。

「うん! 美味しくできた!」

「すっごく美味しいね」

味も見た目もとてもよく出来ていた。

やっぱり私は料理の才能があるのかもしれない。

食べ終わったあとは一緒に食器を洗う。

その後は時間が尽きるまでのんびりした。

食後だったため、私はとてつもない睡魔に襲われた。

次第に瞼が下がっていく。

「んー・・・・・・あっ」

「おはよう」

「今・・・・・・何時?」

時計を見ると16時30分だった。

結構寝てしまった。

「ぐっすり寝てたね」

一人で爆睡してしまったことに恥ずかしさが込み上げてくる。

残りの時間は二人で今後の予定などについて話した。

「もうそろそろ帰ろうかな」

そう言って彼は荷物をまとめる。

まだ18時だったが、冬は日が沈むのが早いため外は真っ暗だった。

「それじゃあ今日はありがとね。バイバイ」

「うん! こちらこそありがとね! 気をつけて帰ってね!」

彼が見えなくなるまで私は手を振る。

今日一日はとても楽しかった。

今の私にとっては彼と一緒にいる時が、一番の幸せだった。

そしてクリスマス2週間前、今日は珍しく朝から大雨だった。

12月にしてはごく稀と言えるほど荒れた天気。

「今日は一祈くんに会えないなー」

ベットに横たわる私は一人呟く。

そんな時、一件のメールが私の心を弾ませる。

『美幸、今から会える?』

私の答えはもちろん『会える!』の一択だった。

『美幸の家の近くにいるからいく』

私は『分かった!』と返信してすぐに部屋着から着替える。

少ししてチャイムがなり、私はドアを開ける。

開けた瞬間、私は目を疑う。

彼が傘もささずにずぶ濡れの状態で立っていたから。

「一祈くん!? 傘は!? 早く入って!」

中に入るように促すが彼は入ろうとしなかった。

「いや、ここでいいよ」

そう言った彼はいつもの優しい彼ではなく、まるで別人であるかのように冷たかった。

「えっ・・・・・・? なんで・・・・・・?」

「今日は伝えなきゃ行けないことがあっただけだから来たんだ」

何だろう・・・・・・

私は一祈くんの言おうとしていた事が予想ついていた。

だけどそれは絶対に聞きたくない言葉。

私が恐れていた言葉。

「美幸、別れよう」

あぁ・・・・・・やっぱり・・・・・・

分かっていた、最近の彼の様子は明らかに違かった。

だけどまだ信じられない。

いや違う、嘘だと願いたかったんだ。

「え・・・・・・うそ、だよね?」

私はできる限り笑みを浮かべる。

笑っていないときっと涙が出るから。

「嘘なんかじゃない、美幸のことが好きじゃなくなった。今までありがとう、バイバイ」

待ってよ・・・・・・行かないで・・・・・・

彼は私の返事など聞かずに去ってしまう。

「うぅ・・・・・・なんでよ・・・・・・」

私はその場に踞る。

我慢していた涙がとめどなく頬を伝う。

私はこの日初めて失恋をした。

彼と別れて一週間。

私はそれからの日々に生きている意味を感じれずにいた。

毎日何度も泣いた。

一年半も付き合った彼のことをすぐに忘れられるわけなんて無かった。

メールだって何度もした。

『もう1回ちゃんと話をしたい』

嫌われてしまうかもしれない。

それでも私は納得いく答えを聞きたかった。

返ってくる返信は『ごめんそれはできない』の一点張り。

もうダメなのかな・・・・・・

クリスマスまであと3日となったある日。

とうとう私のメッセージは彼に届かなくなった。

彼に送ったメールから返信は来ない。

彼がもう一度考え直してくれることはもうない。

私は諦めるしかないんだ・・・・・・

「あっ、これ・・・・・・」

私の部屋には彼から借りたパーカーが置かれていた。

すこし前に借りたのに、結局返していなかった。

どうしよう・・・・・・

返さないといけないのはわかっている。

しかし彼はきっと私に会いたくないだろう。

彼から返信が来たら必ず返しに行こう。

私はそう決めた。

結局返信が来ないまますぐにクリスマスが来てしまった。

去年は彼と一緒だったクリスマスも今は私一人だけ。

私はどこにも行く気力がなく家にいることにした。

出かけると彼のことを思い出してしまうから。

「美幸ー、美幸宛の荷物がポストに入ってたよ」

「荷物? 何だろう?」

お母さんにそう言われ、私はその荷物を取りに行く。

テーブルには少し大きめの箱が置かれていた。

私はその箱を持って、部屋へと戻る。

中を開けると綺麗に包装された袋と、手紙のようなものが入っていた。

誰からだろう?

そんな疑問ばかりが浮かんだ。

折りたたまれた手紙を開く。

そこには衝撃的な文章が書いてあった。

手紙を持つ私の手は震えていた。

『美幸へ

唐突に別れを告げてごめん。

この手紙が届いてる頃、俺はきっと空の上にいます。

俺は生まれつき病気だったんだ。

隠していて本当にごめん。

一ヶ月前に医者の先生に余命宣告をされたんだ。

それはたった一ヶ月。

クリスマスまで生きることは出来ないって言われちゃった。

悔しかったな。

美幸とクリスマスを過ごしたかった。

美幸を悲しませたくない、そう思ったから別れることを決意したんだ。

たくさん傷つけてごめん・・・・・・

ずっと一緒にいてあげられなくてごめん・・・・・・

幸せにしてあげられなくてごめん・・・・・・

俺は美幸のことが好き・・・・・・だいすき・・・・・・愛してる・・・・・・

だから幸せになって欲しい。

俺は空の上から美幸の幸せを一番に祈ってるよ。

本当に俺の彼女になってくれてありがとう。

俺は心から幸せでした。

一祈』

「っ・・・・・・うぅ・・・・・・」

私は全てを理解した。

彼は私のためを思ってあんな行動をしたんだ。

私は自分のことしか考えられていなかった。

一祈くんは辛い思いをしていたのに、私は自分勝手にメッセージを送っていたんだ。

もう一度彼に会いたい・・・・・・

そう思っても彼は二度と帰っては来ない。

私は包装された袋に手をかける。

中かを開けるとそこには四角い何かが入っていた。

「これって・・・・・・」

それは私と一祈くんの二人で撮った写真が入ったアルバムだった。

初めてデートに行った時の写真。

記念日の写真。

クリスマスの写真。

他にもたくさんの写真があった。

今まで彼が撮ってきた写真は全てこのためだったんだ。

写真が苦手な彼が私のために、私を思って撮ってくれていた。

どの写真の私も彼もとても笑顔だった。

彼のこの笑顔を見ることはもう出来ないんだ。

もう一度この笑顔が見たい。

私は彼のパーカーを持ってきて、思い切り抱きしめる。

一祈くんの匂い・・・・・・

「・・・・・・っ、一祈くん・・・・・・」

私はスマホを取りだし彼のメールを開く。

そして返事が返ってくるはずもない彼にメッセージを送信した。


『私も、一祈くんのことが大好きだよ』