僕たちは再会してから時々会うようになった。僕が高校二年生、彼女が社会人一年目。

 僕が暮らす養護施設から彼女の住む町までは、電車で二十分ほどの距離だった。会いに行こうと思えば充分に会いに行ける距離。でも高校生で養護施設育ちの僕に財力なんてあるはずもなく、付き合ってもいないのに僕が会いたいからと言って毎日会いに行くことも許されるはずがない。だから月に一度か二度ほど会うだけだった。

「うちにね、黒猫がいてね。『猫氏』って」名前なんだけど」
「猫に『猫氏』? 『タマ氏』じゃなくて?」
「うん。保護猫なんだけど、ずっと名前を決められなくて……仮で『猫氏』って呼んでたんだけど、結局それに落ち着いちゃったの」
「へぇ。でも、なんかいいね」

 駅前のカフェで向かい合っておしゃべりをするこの時間が、僕にとっては何よりも大切な時間だった。気のせいかもしれないけど、僕と会う時は少しだけオシャレをしてきてくれるのも嬉しくて、日に日に好きだなぁという想いは募っていった。

 告白をしたら頷いてくれるだろうか。年下なんて範疇外かな。彼女にとっての僕ってどんな存在なんだろう? 友だち? 弟?

 再会してから半年が経ったある日のことだった。その日は一ヶ月ぶりに彼女に会えるとあって、足取りが軽かった。でも心臓はバクバクしていた。

 この日、僕は彼女に告白しようとしていた。好きだという気持ちが溢れて抑えられなくなっていて、伝えることによって名前のない関係から少しでも進展させたかったのだ。

 でも拒否されたら全てが終わる。月に一、二度会ってカフェで話をするだけの関係でさえもなくなってしまう。そんな恐怖を抱えながらも男の僕は彼女に告白することを心に決めた。

 期待と不安で歩調が速くなったり遅くなったりまちまちになる。でも結局は早く会いたいという想いが勝って、早歩きになった。