「ありえないことだから、たぶん信じられないと思うけど。いや、信じられない話なんだけど。視界に入る物が全部お金に見えるんだ」
 柳は、人が服を着て飲食していることが、人がお金を着ているように、人がお金を飲み食いしているように見えるのだと言う。
 学校も、交差点の信号も、道路も全て。お金に見える。
 そう見えるようになったのは、小学生になってすぐだったそう。
 柳の家は裕福ではなく、今でも生活保護を受けている。小さい頃から、お金があったらと思うことがたくさんあった。もっと良い服を着て、好きなものを食べられたのに。周りの見る目が違っただろうに。
 小学生になって、突然周りのものがお金に見えるようになった。最初は、お金が手に入ったと喜んだ。だが、それは全て周りにある「もの」。三日もしないうちにその現実を知った。それと同時に、お金に憎しみを抱いた。
 柳の母親は柳が小さい頃に事故で亡くなり、父親が一人で柳を育てた。工事現場での重労働と、コンビニでのアルバイトを掛け持ちし、父親に休みなどなかった。
 中学生になった頃から、高校には行かず父親の負担を減らせるように働こうと考えていた。だが父親はせめて高校に行ってほしい、良い思い出を作ってほしいと、懇願し柳はアルバイトをしてもよい私立の高校に入学した。
 お金があったら、父親も柳もこんな思いしなくてよかったのに。
 「不安というか、辛かったことかな。誰かに聞いて欲しかった。聞いてくれてありがとう」
 「もう辛くない?」
 「うん。仲田が寄り添ってくれるから大丈夫」
 心の底から安心した。柳の顔に嘘がない。
 「もし嫌だったら、離れていって良いからね」
 「何が?」
 「変でしょ?やばい人でしょ?全部がお金に見える人」
 「そんなことない。好きな人のこと、変なんて思わないから」
 そっか、そう呟きながら、柳は安堵の顔を見せた。


 夕日が沈みかけた道を二人、手を繋いで進む。
 運命だなぁ。同じように視界に入るもの全てがお金に見える人が、大好きな人なんて——。