大好きなあなた。一緒にいると楽しい君。悲しみを分け合える人——。
 いつか、出会えるかな。
 そうやって、夢見てきた。いつか、いつかと。
 悲しみに暮れる日も、笑顔に満ち溢れる日も、幸せを夢見てきた。
 輝きを求めて、もがいてきた。

 手袋が欲しい寒さ。だけど眩しいほど日差しがある朝。
 進んでいく足が重かった。学校へ向かうことが億劫だった。
 先の見えない不安が心の中を渦巻いて、無力感に襲われた。光など、見えない。
 青信号が点滅し、赤色に変わった。点字ブロックで足を止めた。家に帰りたい。でも、体は言うことを聞いてくれない。足すら動かない。学校へ行くことが、体に染み付いているから。
 赤信号が、青色に変わった。行きたくない気持ちと裏腹に、足は歩みを進める。

 気づいたら学校の正門を通っていた。いつも通りの学校。いつも通りの騒がしさ。いつも通りの仲間たち。
 靴を履き替え、階段を上り、手前から二番目の教室。いつもの教室。いつものクラスメイト。
 「柳!おはよー!今日寒いね」
 いつも笑顔を絶やさない人。
 「仲田、おはよう。寒いなあー」
 「何?元気ないじゃん。なんかあった?」
 「別にー。何もないよー」
 「そっか。じゃあ宿題見せて!」
 いいよ、なんて言いながら席についた。
 仲田はたくさんの元気と笑顔をくれる。登校中の憂鬱なんて吹き飛んだ。
 仲田は、ほっとけない存在。気になる存在。仲田がいるから、学校に来ているのかもしれない。
 宿題を写す手を動かしながら、仲田は言った。
 「柳、話があるから今日の放課後屋上来てくれない?」
 心臓が強く大きく鼓動を打った。互いに少し無言になった。仲田は手を止めない。
 頭の中で思考が停止して、何を言ったらいいかわからなかった。
 「わかった。りょーかーい」
 無意識に口が勝手に動いていた。

 朝のホームルーム直前に仲田にドキッとさせられてから、何も手につかなかった。誰の話も頭に入ってこなかった。
 仲田に気持ちを伝えるには、この放課後を逃してはならないと思った。だから、そのことばかり考えていた。
 ずっとぼーっとしているので、一文字も黒板を写していない。
 「柳!聞いてるか!」
 「はい!聞いてます!」
 先生に注意されることもあった。周りはくすくすと笑みを浮かべている。
 放課後が待ち遠しくて、時計ばかり見つめていた。でも、時計の針は規則に則って動く。なかなか時間は進まないように感じる。放課後が遠く感じる。授業の終わりのチャイムだけが放課後に近づいていることを教えてくれる。