エピローグ

「キーンコーンカーンコーン」と学校のチャイムが鳴る。
僕はそれまで付けていたイヤホンを外した。
「これからホームルームを始める」と先生が話始めた。
 そして十分程で朝のホームルームは終わり、僕はまたイヤホンを付けなおした。
少し僕のことを話しておこう、
僕の名前は霧里 白(きりさと はく)17才の一般的な男子高校生だ。
 特に運動神経も友達も多い訳ではない。
スマホを持ってない訳ではないがいつも、今となってはあまり使われなくなった音楽プレイヤーを使い暇さえあれば音楽を聴きながら、小説を読むか寝て過ごしている。
だからと言っていいのだろうか話すような友達すらほとんどいないというわけだ。僕だって少し悲しいがそれはしょうがない
【だってそれよりも好きなのだから音楽というものが】
 
 
第1章 君との出会いが僕を変える
 
聴きなれた音楽が耳に流れてくる。
今日も何もない一日を過ごすと思っていた。
小説を読んでいると一人の女子が寄ってきて
「ねー白くんはさ、いつもなんの曲を聴いてるの?」彼女は少し緊張気味な顔で聞いてきた
が、「あんまり人には言いたくないかな」と僕は追い返すような口ぶりで言った、こんな感じだから僕は友達ができないのだろう、けど自分で作った曲を聴いているなんてバレたくはないんだ。
「教えてくれたっていいじゃん」少しほほを膨らませながらじっと僕のことを見ている
「知ってるような曲ではないと思うよ?」と言ったが「それでもいいから教えてよ」と言ってまた僕の事をじっと見つめ始めた。
僕はきりがない気がしたので「少しだけなら聴いてみていいよ」と言い、曲名もあるわけもない曲を聴かせることにした。
彼女は「曲名だけでいいんだけどな」と少し困惑しながらもイヤホンを耳につける
「これで満足だろ」と10秒ぐらい聴かせて僕はイヤホンを外させた。
「えーすごくいい曲だったのに。もう少し聴きたいなぁ曲名は何?家でも聴きたいから教えてよ」彼女は目をキラキラさせながら訪ねてきた。
まぁ、曲名は無いし、ネットにもあげたりもしていないから「教えられない」と答えるしかなかった
彼女は「けちっ」と言いながらまた頬を膨らませて続けて「いいじゃん曲名ぐらい。それにしてもなんで有名じゃないんだろこんないい曲なのに。掘り出しもんじゃん」と言った。
「そんなにいい曲でもないだろ」と自分で作ったこともあり反射的に言った。
「いい曲じゃん、いい曲じゃなかったらなんで聴いてるの?」
 確かに好きでもない曲をずっと聴いているのは謎だなと自分でも思ってしまった。
「まぁたまたま聴いてみただけだから」と言って、このタイミングで授業開始のチャイムが鳴った
「また、あとで来るから」と言って席に戻っていったその彼女の名前は天上 心桜
(てんじょう こはる)だ。
最初の授業は現代文だった。
今日の授業の内容は、論文を書くというものだったのだが、俺は論文といった少し硬い文を書くのが苦手だ。だが、小説などは趣味で書いている。その為、言葉選びは少しはできた。
それよりテーマが「恋」についてなんて、先生は何を考えてるのだろうか。
僕はこれまで生まれて17年間恋愛なんてしたことがないし、どうやって書けと言っているのだ。
色々とありながらも自分の好きな曲をもとに何とか文章の一部を書き終え、最初の授業は終わった。
授業が終わるとすぐに天上さんが僕の席へと来た。
「それでさっきの曲名何?すごく気になるんだけど」「気になりすぎて授業全然集中出来なかったしさ。」少し期待しながらもさっきの一件であきれてそうな一面もあった。
「曲名はない」自分で作った曲だがタイトルとか付けるのが下手な僕は曲名を付けていないのだ。
「え?なんでないの?曲名なかったら聴けないじゃん」と頭にはてなを浮かべながら天上さんは言っていた。
はぁと溜息をつき、このまま話を続けてもキリがないような気がしたので小声で「僕が作った曲だからないんだ、だからあまり言いたくなかった」すべて言ってしまった、何を言われてもいいと少し投げやりになったことに言い終わってから少し後悔した。
「えぇ?!この曲、白くんが創ったの?天才じゃん。」すごく驚きながらも褒めてくれた、天上さんはクラスの中でも人気でいつも誰かと仲良く話しているイメージがある。
多分、僕に話しかけてきたのはただの興味本位だったのだろうな。そんな人が僕の曲を聴いて驚いた反応をしているのに僕も驚いた。
「ちょっ、声大きいよ声量に気をつけて、僕は1人でいるのが好きなんだ」少し睨みつけるように言うと
「ご、ごめん。けどさ、ここまですごい曲を創ってるのにネットにあげないのかなって…」
 天上さんは申し訳なさそうに言った。さすがに僕も言いすぎてしまったと反省をして、謝ろうと思い言葉を吐きかけた瞬間。天上は急に耳元でささやく
「もし、だめじゃ無いのであれば、白くんの創った曲を私だけに聴かせてくれないかな?」
僕は少しドキッとしてしまった。誰しも女の子に急に耳元でささやかれたらドキッとなるであろう、特に僕は女子と関わることなんてめったにない様なやつで、女子に耐性なんてないのだ。
 僕は一旦落ち着き少し下を向きながら考えた。元々、自己満足で始めた作曲だった、気持ちをただただ歌詞にしてそれに合う音を打つ、そんな単純な作業をしていただけだ。
 喜び、悲しみ、孤独といったテーマで曲作りをしている。最初は夜空が好きでこの果てしなく広がっている空を歌にできたらなんて思って作曲を始めた。
そんな僕の感情をすべて語っているようなこの曲たちを天上さんに聴かせてもいいのだろうか…
もし、人に聴かせることで何か変わるのだろうか。それに僕は天上さんのことはあまり信用してないし、誰かにばらす可能性だってある。
だから「まぁ考えとくよ」そんな言葉でまとめた。
「うん!答えを楽しみに待ってるね」とまるで恋をしている人が放つような言葉を言って天上さんは自分の席の方へ戻っていった。
 気づけばなにも起こらないまま、下校のチャイムが鳴り、僕はまた音楽プレイヤーを取り出しイヤホンを耳につけ歩き始めた。少し大きめの音量で周りの音を遮断した。音楽を聴いている時はありのままの僕でいられる、誰も気にしなくていいので自分の世界に入り想像を膨らませられるから。そうしていつも空を眺めながら歌詞を考えている。
けど、今日はあまり歌詞が浮かばなかった、天上さんに言われたことが頭をよぎるからだ。
これまで僕が創った曲は誰にも聴かせたことがなかった、もし侮辱されたり変な曲だなんて言われたくなかったから人に聴いてもらうことを避けてきた。
だけど、天上さんは率直な意見で「いい曲」と言ってくれた。
僕が創ったことを知らない状態で、その言葉を放った天上さんを少し信じてみたくもなった、もしかするとアドバイスがもらえるかもしれない。
明日、もし天上さんに話しかけられたら一曲だけ聴いてもらおうと思っていると、家まであと少しのところで天上さんを見かけた。
なんで彼女がここにいるんだろうと疑問に思ったが話はかけないでおこう、なんか関わったら面倒なことになりそうだしなと思い歩き始めると。
少し歩いたところで肩が叩かれた、振り返って見ると天上さんがそこにはいた。
「白くん。だ、す、け、て~」と半泣き状態彼女は言ってきた。話を聞いてみると友達と話して帰ってたところ友達の家までついてきてしまい、その友達は「帰れる?」と心配してくれたみたいだが天上さんは意地を張って帰り道も分からないのに帰れると言って今に至るらしい。
「何故意地張ったんだ?」
「だって、少しは道を、覚えてたからさ帰れると思ったの…」
「ふっ」つい鼻で笑ってしまった。少しドジな性格というのはクラスの人達も言っていたがここまでとは思ってもいなかったから無意識のうちに笑ってしまったのだ。
「笑わないでよ!」少し恥ずかしそうな声で天上さんは言ってきた。
「だって少ししか道を覚えてないのに意地張って道に迷ってるってなんか面白いなと思って」
 これまでは何も考えてなかった学校のこと、何をしても僕には無縁の話だと思い逸らしてきたクラスメイトとの関わりなどを天上さんと話していく中で少しは楽しいのではないかと思うようになっていた。
「学校近くの通りまででいいから教えてくれないかな?」と彼女は両手を合わせ申し訳なさそうに言う。
「一旦荷物だけ家に置きたいからついてきて、そうしたら送ってあげるからさ」といい、僕は天上さんを連れて近くの交差点を曲がりすぐ近くの僕の家へと向かった。
 家に着き、持っていた荷物を置いて僕達は歩きだした。
 何を話していいのか分からなくて少し沈黙の時間が流れていると天上さんが気をきかせてくれ、話題を振ってきた。
 「白くんはいつから音楽に興味持ち始めたの?」
「ん〜中学に入ってすぐの時だったかな」
 あのころは人との関わりで色々とあり、半分不登校みたいな感じになっていた。誰とも関わりたくなくて部屋でただゲームをやったり天井を眺めて過ごしてた。
 その時、唯一の僕の救いは音楽になっていた、曲を聴くと気持ちの共有ができてるような気がした。同情も相まっていつしか涙が零れる事もあった。そんな時に、窓から外が見えた、そこには満天の夜空が広がっていて今でも覚えている。あの夜空はこれまで見てきた中でも一番美しく思えた、それが曲にのめり込んでゆくきっかけになった。
 そこからだった、僕が音楽を創りたいと思ったのも。
「どんな曲聴くの?」と天上さんが僕に対して聞いてくる。
「比較的、自分のその時の気分によって変わってくるかなぁ。気分に同情するような曲聴いてるかも」落ち着くし、歌詞が思いついたりすることがおおいいんだよなぁ
「逆に天上さんはどんな曲聴くの?」少し今の女子高校生の聴くような曲がどのようなものなのか気になったので聞いてみた。別に下心とかがある訳ではないシンプルに気になっただけである
「ん〜大体は流行ってる曲を聴くことが多いかな?流行ってる曲ってハズレないじゃん?それに探しても全然いい感じの見つからなくて探すことやめちゃったんだよね…」
 まぁ思った通りといったところだろう、流行りの曲を悪く言う気はないが結局その曲も自分の好き嫌いかは人に代わってくるであろう。
「確かにいい曲見つかりづらいよね、けど探してみると結構心に刺さる曲とか出てくるよ。もしあれだったら、僕のおすすめ教えようか?」
「おすすめ教えてくれるの?!是非教えてほしい!」天上さんは目をキラキラさせながらこちらを覗き込む、ホントに天上さんって感情が表に出やすいよな。
「まぁ教えるけど、交換条件っていうのはどう?学校では僕に大事な用事がない限り話しかけないこと」学校で今日みたいに天上さんに話しかけられてしまうと目立ってしまう。
 僕は平穏な学校生活をしたい、友達が増えることは別に嫌ではないが小説を読んだりする時間をあまり減らしたくないから
「えぇせっかく仲良くなれたんだし学校でも話させてよ!少しでいいからさ…」下を向きながら彼女は僕に言った。まぁ僕はそれでも学校で話す気はない、まだ天上さんのことをあまり知らないし仲良くなれたとも思っていないから。
天上さんは続けざまに「じゃあおすすめの曲は教えてもらわなくていいから、白くんと学校で話したい!!もし、それでも嫌なら白くんの創った曲を聴かせてもらうのもやめるからさ!」天上さんが泣きそうな顔で言ってくる、なぜ僕に対してここまでするのだろうかと不思議に思えた。
「なんでそんなに僕と話したいの?それと元々一曲だけ聴いてもらおうと思っていたから曲の件は気にしなくていいよ。」こんな風に人と話すのは何年ぶりだろうか、まだ中学生の時のこともあり少し抵抗はあるけど天上さんはこれまで話してきた人の中でも話しやすい。
 彼女が顔に出やすかったり話題を振ってくれるからだろうと考えた。
「え、ホント?!白くんの創った曲聴けるなんてうれしいな」ニコニコ言っていた、次は真面目な顔になり続けて言う
「話したい理由はね、だって白くんはあまり人と話をしたりしないでしょ?1人でいるのが好きなのは私も同じだから分かる、けど少しは人と話すのが楽しいって思ってもらいたいの!だから学校でも私の話し相手になってもらえたらなって」僕の目には真面目なようでどこか無邪気な彼女はとても美しく見えた。
僕は溜息をついたのち「あぁ負けたよ、天上さんの勝ちでいいよ。学校で話かけてもいいけど話かけてきていいの許したのは天上さんだけだからね?」別に1人友達ができたところで大きく学校生活が変わったりしないだろう。
「やった!!なんか分からないけど白くんに勝った!これからもよろしくね」すごく嬉しそうに天上さんは喜んでいた。つい「かわいいな」と声に出してしまった。
天上さんは顔を少し赤く染め照れていることを隠すように「え、かわいい?なになに好きなの私のこと?」と言ってきた
 な、なんだこの女なんかうぜぇ、少し声に出てしまっただけでここまで言ってくるとは思わなかった。
「何言ってるの?確かにかわいいとは思ったけどさ、一切天上さんのこと興味ないから」
「ちょっと言いすぎじゃない?私、シンプルに傷つくんだけど」グズグズとしながら言ってくる。
「ご、ごめん確かに言い過ぎた」ここまで感情が顔に出やすい人滅多にいないだろうな
「まぁ話してくれることになったし、白くんの創った曲も聴けることになったから嬉しいしそれに免じて許してあげる、それと少しは私に興味持ってもらえるようにするからね」
そんな話をしていると気づけば学校の通りに出ていた。
「じゃあ僕の役目はここまでだね」
「ここまでありがとう、明日からもよろしくね」
 家への帰り道に後悔をした、なんか明日から色々とめんどくさい一日が始まるような気がする
 家に帰ってから天上さんに聴いてもらう曲を何にしようか考えていた
 これまで中学生に入ってから約3年間20曲以上曲を創ってきた分どんなものなら天上さんが気に入ってくれるか、そんなことを考えながらジャンル分けをし、学校で少し聴かせた曲をもとに絞りだしてみた。
 色々と聴き比べた結果たどり着いたのは、僕が一番お気に入りのものだった。その曲は夜空について書いた歌詞で、僕の部屋の窓から見える星空をもとにした曲だった。
【あの日の空は澄んだ空で流れ星もきれいに見える満天の星が広がっていた。】
 聴かせる曲が決まったので、スマホに曲を移すことにした。せっかく移すならと5曲ぐらい追加で入れといた、滅多にスマホはいじらないのでどうやって天上さんに曲を渡せばいいのかあまりわかっていない。そんなことを考えていると寝落ちしており日が変わっていた…
 「うわああああ」どう話せばいいんだよ!朝起きてから我に返ってしまった。女の子に話しかけることもないからどうすればいいのか分からない。まぁ話掛けてきたら渡せばいいのか。何とか自分を落ち着かせて家を出た。
 家を出るとそこには天上さんがいた。
「え?なんで天上さんが僕の家の前にいるの」
 昨日は道に迷って半泣きだった人がよく、次の日に僕の家までこれたなと驚きしかなかった。
「いやー、早く白くんと話したくてさ昨日の帰り道の記憶をたどりに来たんだ !」
「よく道に迷わずこれたね」と聞いてみると
「え?道には迷ったよ。家を出たの二時間前だもん一時間以上は迷ってたんじゃないかな」へらへらしながら彼女は言った。
「って二時間前って朝の5時じゃん、本当に君は何がしたいのか分からないな」
 それにしてもここまで方向音痴だったとは驚きだ。「えへへ。」天上さんは僕より少し前を歩きながら「君が悪いんだよ?白くんが創った曲を聴かせてくれるって言ったから楽しみであまり寝れなくてさ早めに準備してきたんだ」
 うれしい限りだがここまでされると本当に僕なんかが創った曲でいいのかなとも思ってしまう。人のために書いた歌詞ではないから尚更そんなふうに考えてしまった。
「嬉しいことなんだけど、付き合ってないのに一緒に登校なんてしていいのか。」
 クラスでも人気で愛されキャラの天上さんと一緒に歩いていていいのだろうか、これがきっかけで注目を浴びるなんてごめんだ。
「え?よくない、結構いるじゃん異性で一緒に登校してる人たちだって」なぜこんなにも天上さんは冷静なんだろうか、まぁ僕のことなんて話しやすいモブキャラ程度に見えているんだろうな。
「そうだけどさ、天上さ…」と僕が話しているのもお構いなしに「もしかして私と登校するのが恥ずかしいとか?そんなわけないよね」と天上さんは分かったうえでクスクス笑いながら言ってきた。
 確かに天上さんはかわいい一面もあるし話しやすいとは思うがたまにうざい。もう少し鈍感であったら恋愛対象には入るかもなと思った。
「はいはい、僕は君と登校するのが恥ずかしいんですよ。君みたいなクラスでも人気の人と歩くのがね」真顔で棒読みで僕は言った
「え~何その反応本当に思ってるのか分からないじゃん!」むすっとした顔で天上さんは言ってくる、やはりこの人は感情が顔にも出やすい、だからかわいいのかもしれない。天上さんは僕が思っている以上に素直で嘘はついたりできないような人なんだろうな。
「そんなことよりも聴かせる曲持ってきたけどどう聴かせればいい?」僕は話を切るように話題を変えた
「そんなことってなによ。まぁ曲聴かせてくれるからいいんだけどね。じゃあその曲を私のメッセージアプリに送ってよ。これが私のIDだからさ!」それにしても簡単にメッセージアプリのIDを渡したりするのか、こうやって色んな人と接しているのかな?と少しモヤモヤした。
「どうやって追加すればいいんだ?僕、交換することないから分からないんだよね」友達の少ない僕はこうやってメッセージアプリで話すような人も殆ど居ない、昔からの仲の友人の一人から一方的に連絡が来ていたぐらいだ。小学生の頃に仲良くなっていつも一緒に居たが僕が中学で不登校になってからほぼ毎日連絡をくれたのに、どう返信していいのか分からなくてもうここ2年は連絡が来ていない。
「いいよ!これはねこうやって追加すると出来るの。」天上さんは優しく教えてくれた。なんだか意外だ、さっきまであれだけイジって来ていたのでからかってくるかと思っていたのだが。
「ありがとう。昨日天上さんに聴かせた曲から天上さん好きそうな曲を選んだけど、本当に天上さんが気に入るかは分からないからな?」人には人の好みがある決して僕が天上さんが好きそうな曲を選んだとしても気に入って貰えない可能性もあるのだ。
「大丈夫だよ!君が作る曲なら全部好きな自信あるからさ。」まるで告白の言葉みたいだった。そこまで言いきられると少し恥ずかしくなる。まぁ僕の創った曲で彼女が喜ぶならいいと思えた。
 そんな話をしていると学校の前まで来たのでそろそろ離れようとすると
「ち、ちょっと待ってよどこ行くつもり?クラス一緒なんだから一緒に行こうよ」
「さすがに僕は注目を浴びたくないからさ先に行かせてもらうよ」そう呟いて早足で教室に向かい始めると、何故だろう僕の服の先っぽを掴んで天上さんはトコトコとついてきた。
 傍から見たら付き合いたてのカップルにしか見えなさそうだ。
「お、おいなんでついてくるんだよ」
「せっかくここまで一緒に登校したんだからクラスまで一緒に行きたいじゃん!」なんて奴だ僕は注目を浴びたくないと言っているのに僕の言葉なんて知らんぷりとは彼女は自由奔放である
 気づけば、そのまま教室へと着いてしまった。
「僕は席に座るから天上さんはいつものメンバーのところに行きなよ」と、さすがに席まではついてこないだろう、そう思っていたのだが、
「白んくんはどんなアクセサリーが好き?」
 …普通に席についてきた。
「何故天上さんは僕の席まで来るの?僕は一人でゆっくりしたいんだけど…」
「だって白くんと話してるの楽しいんだもん。だからいいじゃん」何がいいじゃんだ!まぁ僕も天上さんと話すのはなぜだか楽しく思える。これまでの人とは、どこかが違うような気がした。
 そんな風に話しているとクラスの一人である祥吾が僕の席に向かって来た。
「ねー天上さんと霧里くんって付き合ってたりすんの?」祥吾はクラスで一番頭が良く、面白さも兼ね備えているという超絶イケメンな男子だ。
「え、気になる?」ニヤッと笑いながら天上さんは言った。「めっちゃ気になるわ。」祥吾は天上さんの言葉に食いつきぎみだ。
「実はね私達は…付き合って…」彼女は言葉を溜めながら期待を持たせる言い方をしている
「ないんですねよ〜」「まだ」上手く聞き取れなかったが最後にボソッと何かが聞こえた。
「付き合ってないのか、にしても昨日から、急に仲良くなったよな2人」まぁ僕は仲良くなろうとして仲良くなった訳でもないんだけどな。
「期待させたようでごめんねぇ」僕はこの人と付き合ったとしたら色々と振り回れそうだなと思ったが、まぁあまり人と関わる事が無い僕からしたら無縁の話であろう。
「はぁ、天上さんはただの友達だし、謎に突っかかってくる変な人ってだけ」
「やった!白くんに友達って認めて貰えた。けど少し酷いよぉ私、そんなにしつこくないもん!」頬を膨らましながら仁王立ちで彼女は僕にむかって言った。
「あはは、確かに天上さんは、たまにしつこい時あるよな、分かるよ」祥吾は笑いながら僕の味方へと付き続けざまに
「に、してもお前ら2人見てると甘い夫婦喧嘩見てるみたいだわ」と言った。
「んなっ」と天上さんと僕は驚いてしまった。
「そんなことないでしょ」と天上さんは1度落ち着いたのち言い
「わりぃわりぃ、ふと思っただけだから気にしないでくれ」いやいや、僕たちが周りからそんなふうに見えているのは誤算だ。これでは注目を浴びることになる。
「そろそろチャイム鳴ると思うし席に戻りな」と僕は言って彼女達は各自の席へと帰っていった。やっと1人になれたと一息つくとすぐに朝のホームルームが始まった。先生の話を聞きながらこの時間が終わったらまた天上さんは僕の席へ来るのではないだろうかと考えた。それは当たりホームルームが終わるとあんのじょう彼女は僕の席へとトコトコ歩いてきた。
「私たち、夫婦に見えるらしいね。少し話すことが増えただけで大袈裟な気もするよね」と少し恥ずかしそうに天上さんは言う
「そうだな、まぁ僕には無縁な話だからなんとも思わないが」そんなこと言ってるが実は結構恥ずかしかったりする。
 少しすると祥吾がやってきた「今日二人とも暇?」
「私は特に予定はないかな」「僕も今日は予定とかないかも」
「それなら三人で放課後遊びに行かない?ゲーセンとかさ」あの聞き方をしたらそうなるか
「いいね!行こう!白くんはどう?」「あまり人と遊んぶことないからな」と迷っていると「絶対楽しいよ!」と二人は声をそろえて言った。
「まぁ少しならいいよ」僕は何年ぶりかも分からないが友達と遊ぶことになった。
 学校は終わり放課後となり、三人で集まったのちゲーセンへと向かった。
 たくさんの人の声、色んなゲームの音。これまで引きこもってた僕はどこか懐かしい感じがした、小学生の頃に来たことがあるからだろう。
 天上さんはクレーンゲームのくまさんのぬいぐるみの景品にすごく興味を示していて、天上さんと祥吾は5回ずつ挑戦するも、取れていなかった。クレーンゲームの取り方でも調べているのだろう、少し祥吾は携帯をいじっていた
「全然とれないな~このぬいぐるみかわいいから欲しいなぁ」としょぼんとする天上さんは僕の方を見て「白くんやってみてよ!」と促してくる。「僕、下手だから取れないしいいよ。」そういうと目をキラキラさせて覗き込んできた。彼女の圧に負け「一度だけだからね」と言って100円をクレーンゲームに入れ、感覚でボタンを押したのだが、、、まさかの取れてしまった。
「白くん!」「霧里くん」「すごいよ一発で取るなんて」と二人は驚きながら褒めてくれた。まぁ僕も驚いている
「はい、天上さんこれあげる。欲しがってたからね」部屋にぬいぐるみがあっても置く場所がないし、僕は欲しくてやったわけでもないしな
「え、いいの?!でも取ったの白くんだよ」「いいよ僕はいらないからさ」
「でも…」「まぁいいじゃないか霧里がくれるって言ってるんだからさ」祥吾は僕のサポートをしてくれた。すると突然祥吾に電話が鳴った。「わりぃ少し電話してくる」
「行ってらっしゃい」二人の時間は気恥ずかしかった。
 祥吾は申し訳なさそうに「ごめん急用が入って帰らないと行けなくなった」と言って帰っていってしまった。
「…」少しの沈黙の後「二人になっちゃったね、今日は遊ぶの終わりにする?」と僕は天上さんに言ったがまだ、ゲーセンに来てから30分くらいしか経ってない。
 彼女は「少し行きたい場所があるんだけど付き合ってくれないかな?」と言い返事を待たず、僕の手をつかんで歩き出した。
「ちょ、どこ行くの」僕は焦ってしまいそんな言葉しか出なかった。
「えっとねアクセサリー屋さん」なんでアクセサリーなのだろうかと疑問が浮かんだがまぁ欲しいのだろうと思いしょうがなくついていくことにした。
「ついて行くからさ、手は離してくれ」さすがにこの状態で店まで行くのは恥ずかしすぎる。
「あ、ごめん」なぜか焦った感じで手を離した
「それにしてもなんでアクセサリー屋なの?」と聞いてみるも
「それはね内緒だよ!」と返されてしまった。
 天上さんは時々謎だ、どんなことを考えているのかも分からないし変な行動をする時だってある
 少しするとアクセサリーを扱っているお店へと着いた。
 すぐさま天上さんはネックレスやブレスレットなどを見始め
「白くんは男の子へのプレゼントならネックレスかブレスレット、どっちがいいと思う?」と聞いてきたが、僕はプレゼントとかそういうものは、ほど遠い存在であると悲しいが僕自身が認めている。
「あんまりプレゼントとかしないからな、人の好みによるんじゃない」
「人の好みかぁ、白くんだったらどっちが欲しい?」
 話を聞いていたのだろうか…まぁ僕ならどっちを選ぶかと聞いているしプレゼントの質問ではないからいいのかもしれんが
「別にどっちもいらないかな」
「えぇ、ちゃんと答えてよ!質問の意味ないじゃん」彼女は少し焦ったような顔をしている。プレゼントごときでそこまで焦るものなのだろうか僕には分からない。
「強いて言うならネックレスかな」もし持ってたとしても服に隠せるしということでネックレスを選んだ
「おっけーどんなネックレスがいいかな」
 5分ほど悩んだ後1つのネックレスを買った。ネックレスを買った後も服などの買い物に振り回されて、途中から荷物を持つ係に任命されていた。
「そろそろ帰ろっか」と7時をまわった頃に彼女から言われた、色々とあったが予想以上に楽しんでしまっていたようで時間が過ぎるのが早く感じた。
「そうだな、じゃあ荷物返すよ」
「何言ってるの?私の家まで持って行ってよ」さすがにめんどくさいが、確かにこの荷物の量は天上さん1人では持ちきれないかもしれない。
「分かった家までついて行くけど、少しは自分で持ってくれないか?」
 僕が買ったものは殆どないからいいだろう。
「えぇ、ここまで付き合って貰ったしいいよ」なんでこの人は上から目線なのだろうか。そんなことを思いながら僕達は歩き出した、たわいもない話をしながら帰るこの時間はこれまでにはない感覚でなぜだか落ち着く。
 そんなことを考えていると急に雨が降り始めた。僕達は近くにあった屋根のある場所へと走ったが突然の雷雨だったため濡れてしまった、昨日気象情報を見たときは晴れると言っていたはずだが…
 彼女をみると少し震えているように見えた、雨で濡れたのもそうだが10月の頭ということもあり冷えている。僕はバックの中に詰め込んでいた濡れていないタオルと上着を取り出し
「一旦拭いて、上からこの上着を着ときな。こういう物しかなくてすまん」何もしないで彼女に風邪をひかれるのは嫌な気がした。
「ありがとう、けど白くんも寒いでしょ?」申し訳なさそうにこちらを伺う
「大丈夫だ、それにしてもこの雨だと帰れないなどうしようか」さすがにこの状態でいると二人して風邪を引きかねない。コンビニで傘を買うかタクシーを呼ぼうか迷っていると
「私の家ここからすぐだから一旦行かない?」
「そうだねその方がいいかもしれないな」
 荷物もたくさんあるが雨の中駆け出し、3分ぐらい走ると天上さんの家に着いた。
 僕はさすがに家に上がるのは申し訳ないので、荷物を置いたらすぐに帰ろうとしたのだが
「どこ行くつもり?」と天上さんは僕の手をつかみ止めてきた。「さすがにお邪魔になるのはあれだし…」
「ダメ!風邪ひいちゃうでしょ?シャワー浴びてって服はこっちで用意するから」いいのだろうか、まだ喋り始めて2日目の女の子の家に上がっても、それにシャワーまで借りるなんて。ただ天上さんはこういう事には頑固な気がするこの2日間で学んだ。
「分かった。シャワーだけ借りさせて頂く、けど先に天上さんが浴びて?寒そうにしてたし風邪ひかれたら困る」
「君今、えっちなこと考えた?私の入った湯船飲むとか?」こいつは何を言ってるんだ、馬鹿なのか?いや馬鹿だ
「そんなこと考えない、君に魅力感じんし。それにシャワー借りるだけだから湯船とか関係ないやろ」
「くしゅん、えへへ」天上さんはくしゃみをした
「ほら言わんこっちゃない早く入ってきな僕はここで待ってるから」
「わかったよ、けど待つなら私の部屋にして欲しいな玄関にいられると私が気になっちゃうし」
 そして僕は天上さんの部屋に連れていかれた。
 天上さんの部屋は女の子らしい部屋ではあるのだが物が思ったよりも少ない、だからといって女の子の部屋は初めての事で緊張するのに変わりは無い。
「じゃあ少しだけ待ってて、すぐ浴びて出てくるからさ」
 少しするとシャワーの音が聞こえてきた、女の子が…顔を横に振って想像しそうなってしまう感情と緊張を紛らわすために携帯をいじろうとしたのだが充電がほぼなかった…
 どうしようかと思い軽く周りを見渡すと星をテーマにした本が並んでいた。衝動的に本へと手が伸び読み始めると止まらなくなってしまった。
 恋愛ものだが感動のシーンがあり胸をギュッとされる感じがする、物語の2章の終わり携帯で時間を確認したところ8時を過ぎていたのでやっぱり帰った方がいいかもなと振り返るとそこに天上さんの顔があった。あと少しで唇が当たりそうな距離に驚きひっくり返ってしまった。
「あはは、大丈夫?そんなに驚くことかな?」
「いるならいるって言ってよ、心臓止まるかと思ったよ」風呂上がりで湯気が彼女を覆っていた、少し経ってもドキドキしているきっと驚きすぎたからだろう。
「えへ、思った以上に集中して読んでて声かけようと思ったけどやめたんだ。ほら、シャワー浴びてきてよ。私の家ついてから30分も時間すぎてるし」
 ずっと濡れた服の状態で居たし長居するのは迷惑だろう早く入ってしまおう。そして僕はシャワーを浴び始めた
 扉の奥から「ここに着替えとバスタオル置いておくね」と聞こえ、ここまでされるとさすがに申し訳ない。いつかお礼をしようと思って風呂場を出る
「色々とごめんね、シャワーに服まで借りちゃって」
「いいよ、どうせお兄ちゃんの服だからさ」
「天上さんってお兄さんいたんだね知らなかったよ」どんな人なんだう、イケメンなんだろうなとか考えていると
「まぁ3年前に火事でね…ちょうど今が同い年で高校生の時に友達と遊びに行った先で火事で取り残された人を助けてその人は助かったんだけどお兄ちゃんだけが。今は私の自慢のお兄ちゃんだって思う」
「そうだったんだ、本当にごめん。なんにも考えないで発言しちゃって。」いつも明るく振る舞ってる天上さんにそんな出来事があったなんて思っても見なかった。とても辛かったであろうに…
「大丈夫だよ!いつまでもメソメソしててもお兄ちゃんに天国で笑われちゃうし今を楽しむって決めたからさ!」
「天上さんって意外と真面目なんだね」少し笑いながらいう
「意外と真面目って私がいつも真面目じゃないみたいじゃん!」むすっと顔をしながらいい
「こんな時間だしさ、もしよければこのままご飯でも食べていく?」と聞いてくる
 さすがにこんな親切にしてもらったのにご飯を食べさせてもらうのは申し訳ないし、それに天上さんと今日は二人でいることが多い気がする。女の子に耐性がない僕からするとこれ以上一緒にいるのは精神が持たないかもしれない。今日は帰ろう
「ごめん今日は家でやることがあるから帰らせてもらうよ」実際は何もないがそんなことを言いながら、窓から外をみると雨はまだ少し降っていた。
「わ、分かった、 じゃあ傘貸してあげるね。明日返してくれればいいからさ服はいつ返してくれてもいいよ」と少ししょげた顔を言いつつも傘を貸してくれた。
 天上さんの家から僕の家までは20分程で意外と早く帰れた。
 家に帰り、カップラーメンにお湯を注ぎ込む、今日あった事を思い浮かべつつカップラーメンをすする。彼女は色々な表情や発言をしてくるが、どれが本当の天上さんなのだろうかと気になる。カップラーメンを食べ終わると疲れたので今日は寝ることにした
 日は変わり、学校へと向かおうと外に出るが今日は天上さんは迎えには来ていなかった。
 そして学校に着いたのだが天上さんの姿は無い、今日は休みのようだ。
 もしかすると昨日の雨で風邪をひいてしまったのかもしれない。こういう時にメッセージアプリだろう。僕はホームルームの後、天上さんに【昨日の雨で風邪でもひいた?お見舞い行こうか?】とメッセージを送った。返信は直ぐに返ってきた【ごめんね家の用事で少しの期間学校行けなくなっちゃった。】昨日のお礼も含めて話そうと思っていたから少し残念だ。そして彼女が来ない日が1週間続いた。