提案 - 02/18 19:21
「陽くん、久しぶり。変わらず元気そうだね」
「そうかな」
「もしかして、何か学校とかであったのかい」
彼の素朴で突拍子もない質問に刹那僕の心は躊躇したものの、思い切って話してみた。
「そうか」
彼の眼はどこか遠いところを見ているようだった。少し時間をおいて、
「もし陽くんがよければ、僕と一緒に音楽やってみないか?」
これは僕にとって衝撃的な提案だった。自分が音楽のセンスを持っていないことくらい彼は容易く理解するだろうに。僕はそんな提案をにわかに却下した。彼はまた遠いところを見るようだった。思えばこの時に気づいておくべきだったのかもしれない。
しかし、彼がいない学校や家という場所は自分にとってアウェーで、僕の精神的に限界がすぐそこまで来ていた。やっぱり彼の提案を受け入れれば良かった、と思い率直に話すと彼は微笑んで「一緒にやろう」と言ってくれた。
それからというもの、二人でじっくりと構想を練り音楽用の共同Twitterアカウントを作ってからはすべて順調に進んでいた。
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充実した生活 - 03/26 10:03
それから少し時間が経ち、僕の学校は春休みに入り、彼も新年度に向けての準備が終わったところで、活動者用のDiscordサーバーを作ることとなった。このサーバーの主な目的というのは、依頼件数を増やすこともあるが、きっと彼なりに僕のことを配慮してくれたのだろう。Discordサーバーの参加者は順調に増えていった。彼は熱心にサーバーの大規模化を進めて、頻繁に通話部屋で活動者と話して僕に逐一活動者一人ひとりの性格などを教えてくれた。さらに、彼はサーバーの参加者とともに企画を立ち上げたり参加したりと三月と四月は本当に多忙を極めていた。
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行方 - 05/18 09:18
最近彼から連絡がない。これはメンヘラ彼女的なそれではないのだが、本当に一回も返信が来ていないのだ。彼の友人に聞いても分からず終いで僕は彼から与えられていた情報を基に活動者との関わりを何とか維持しているが、高二になったのもありそろそろ時間的な余裕がなくなっていたある日の放課後、僕宛に荷物が届いた。
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絶望 - 05/19 16:51
荷物はそれなりに大きかった。僕はネットで買い物なんてしないし、本当に心当たりがなかった。しかし、送り主の名前を見てすぐに背中に変な汗が滴るのが分かった。
そこには間違いなく彼の筆跡で水瀬と書いてあった。急いで荷物を開けると、中には彼の自宅にあったパソコンが入っていた。幸いなことにロックはかかっておらず、僕はそのパソコンの中身を見ることができた。
デスクトップには何か言いたげに置かれているテキストファイルがあり、それを見てみた。その抜粋をこちらに記しておく。
ーーーーー
久しぶり。陽くん。もう噂は聞いてると思うけど、もう君とは会えないんだ。ごめんな。勝手に消えてしまったことを許してほしい。君がいまどうやってこのアカウントを運営してくれているかわからないけど、もしもこのアカウントの運営で困っているなら、すぐにアカウントを消してほしい。僕の生きた証がどうとかって君は言うかもしれないが、それならなおさらだ。さっさと消してくれ。もし本当に消したくないなら、陽は陽なりの方法でここを運営してくれ。(中略)このDiscordサーバーは、メンバーの様子を見て判断してほしい。多分だけど、ここを閉じると言ったら数人は反発して、殆どが無関心だろうね。けどいいんだ。君も学業優先だし、面倒だったらサーバーを閉じても構わないよ。(中略)無責任で申し訳ないが、僕はこのアカウントで活動を続けるばかりか、生きていることでさえ難しくなったらしい。本当にすまない。
最後に、僕と関わってくれた人にこれだけ伝えてくれないか。
今まで本当にありがとうございました。僕も陽も互いに臆病者ですが、決して僕のことで気を悪くしないでください。
どうせ君はまた一歩踏み出せずにいるんだろう?けどそれでいい。人間なんてそんなもんだよ。いつ死ぬかなんていつでも選べるんだからさ。
じゃあな。君のこと本当に大切にしてるから。強く生きろよ。
ーーーーー
僕は一度読んだだけでは何が起こったのかわからなかった。後で分かったことなのだが、彼自身の創作物に対して、また彼自身の性格に対しての誹謗中傷が後を絶たず、それに耐えきれなかったとのことらしい。もっと思い出したいのだが、残念ながらそれ以上は何も思い出せなかった。結果的にDiscordメンバーの主要参加者が全員退出し、サーバーは事実上の閉鎖へと追い込まれ、彼とのアカウントも停止せざるを得なかった。僕が彼の受けた誹謗中傷に気づけなかったこと、何も彼にできなかったことを後悔していた。僕はしばらくこの一件の影響で人と話すのを拒むようになったのだった。
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「陽くん、久しぶり。変わらず元気そうだね」
「そうかな」
「もしかして、何か学校とかであったのかい」
彼の素朴で突拍子もない質問に刹那僕の心は躊躇したものの、思い切って話してみた。
「そうか」
彼の眼はどこか遠いところを見ているようだった。少し時間をおいて、
「もし陽くんがよければ、僕と一緒に音楽やってみないか?」
これは僕にとって衝撃的な提案だった。自分が音楽のセンスを持っていないことくらい彼は容易く理解するだろうに。僕はそんな提案をにわかに却下した。彼はまた遠いところを見るようだった。思えばこの時に気づいておくべきだったのかもしれない。
しかし、彼がいない学校や家という場所は自分にとってアウェーで、僕の精神的に限界がすぐそこまで来ていた。やっぱり彼の提案を受け入れれば良かった、と思い率直に話すと彼は微笑んで「一緒にやろう」と言ってくれた。
それからというもの、二人でじっくりと構想を練り音楽用の共同Twitterアカウントを作ってからはすべて順調に進んでいた。
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充実した生活 - 03/26 10:03
それから少し時間が経ち、僕の学校は春休みに入り、彼も新年度に向けての準備が終わったところで、活動者用のDiscordサーバーを作ることとなった。このサーバーの主な目的というのは、依頼件数を増やすこともあるが、きっと彼なりに僕のことを配慮してくれたのだろう。Discordサーバーの参加者は順調に増えていった。彼は熱心にサーバーの大規模化を進めて、頻繁に通話部屋で活動者と話して僕に逐一活動者一人ひとりの性格などを教えてくれた。さらに、彼はサーバーの参加者とともに企画を立ち上げたり参加したりと三月と四月は本当に多忙を極めていた。
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行方 - 05/18 09:18
最近彼から連絡がない。これはメンヘラ彼女的なそれではないのだが、本当に一回も返信が来ていないのだ。彼の友人に聞いても分からず終いで僕は彼から与えられていた情報を基に活動者との関わりを何とか維持しているが、高二になったのもありそろそろ時間的な余裕がなくなっていたある日の放課後、僕宛に荷物が届いた。
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絶望 - 05/19 16:51
荷物はそれなりに大きかった。僕はネットで買い物なんてしないし、本当に心当たりがなかった。しかし、送り主の名前を見てすぐに背中に変な汗が滴るのが分かった。
そこには間違いなく彼の筆跡で水瀬と書いてあった。急いで荷物を開けると、中には彼の自宅にあったパソコンが入っていた。幸いなことにロックはかかっておらず、僕はそのパソコンの中身を見ることができた。
デスクトップには何か言いたげに置かれているテキストファイルがあり、それを見てみた。その抜粋をこちらに記しておく。
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久しぶり。陽くん。もう噂は聞いてると思うけど、もう君とは会えないんだ。ごめんな。勝手に消えてしまったことを許してほしい。君がいまどうやってこのアカウントを運営してくれているかわからないけど、もしもこのアカウントの運営で困っているなら、すぐにアカウントを消してほしい。僕の生きた証がどうとかって君は言うかもしれないが、それならなおさらだ。さっさと消してくれ。もし本当に消したくないなら、陽は陽なりの方法でここを運営してくれ。(中略)このDiscordサーバーは、メンバーの様子を見て判断してほしい。多分だけど、ここを閉じると言ったら数人は反発して、殆どが無関心だろうね。けどいいんだ。君も学業優先だし、面倒だったらサーバーを閉じても構わないよ。(中略)無責任で申し訳ないが、僕はこのアカウントで活動を続けるばかりか、生きていることでさえ難しくなったらしい。本当にすまない。
最後に、僕と関わってくれた人にこれだけ伝えてくれないか。
今まで本当にありがとうございました。僕も陽も互いに臆病者ですが、決して僕のことで気を悪くしないでください。
どうせ君はまた一歩踏み出せずにいるんだろう?けどそれでいい。人間なんてそんなもんだよ。いつ死ぬかなんていつでも選べるんだからさ。
じゃあな。君のこと本当に大切にしてるから。強く生きろよ。
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僕は一度読んだだけでは何が起こったのかわからなかった。後で分かったことなのだが、彼自身の創作物に対して、また彼自身の性格に対しての誹謗中傷が後を絶たず、それに耐えきれなかったとのことらしい。もっと思い出したいのだが、残念ながらそれ以上は何も思い出せなかった。結果的にDiscordメンバーの主要参加者が全員退出し、サーバーは事実上の閉鎖へと追い込まれ、彼とのアカウントも停止せざるを得なかった。僕が彼の受けた誹謗中傷に気づけなかったこと、何も彼にできなかったことを後悔していた。僕はしばらくこの一件の影響で人と話すのを拒むようになったのだった。
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