おはやしが響き、沿道から紙ふぶきが飛ぶ。
 花嫁行列の先頭を紋付袴の万次郎と白無垢のえんが歩いていく。
 今日は万次郎とえんの祝言の日。
 図らずとも足入れ婚が始まった日からちょうど一年後、彼らは再び夫婦になった。
 一年前とは違うところもある。万次郎とえんをつなぐように、二人の手を取って真ん中をこまりが歩いている。
 なおはその光景に顔が笑うのを止められなかった。
 ちなみに百太郎はこまりにふさわしい男になるべく、男磨きの旅に出ている。万次郎に勝負に負けても懲りないところが、ある意味憎めない奴だと思う。
 なおはまだ田中家で奉公中だ。
 なおが横を見ると、美鶴もうれしそうに前をみつめていた。
「僕が比良神になって初めての縁結びがやっと実ったね」
 なおはうなずいて、僕もですねと笑い返した。
 幸運の狐祭りの日、彦丸は比良神を引退して、放浪の妖怪になった。美鶴は神様に、なおは神使に、人生のサイコロが転がっている。
「なお」
 でも、変わってないこともある。彦丸は一年前と変わらず、狐目を細めてからかうようになおの首に腕を回してくる。
「次は何の勝負をする?」
「……また?」
 彦丸は事あるごとになおに勝負を挑んでくる。
「何度でも挑戦していい。なおが言い出したことだろう?」
 なおは横目で彦丸を眺めながら考えた。
 願い事がぶつかったら、正々堂々と勝負をすればいい。
 そして願い事が重なったなら、おもいきり派手に祝言を挙げる。昔から続いてきた単純で幸せな世界の理だ。
 なおは思いついたことがあって、彦丸を振り向く。
「そういえば、一つ難しそうな縁結びの依頼が来ててね……」
 その中で幸運のしっぽをつかむ手助けをするために、今日もなおは馬鹿騒ぎを考えるのだった。