佐紀(さき)!佐紀!」
私は母親にそう言われ起きた。
「あれ、ここは……病院!?」
「佐紀!」
 母親は私をギュッと抱きしめこう言った。
「目を覚めして本当によかった、まさか佐紀が交通事故に巻き込まれるとはね」
「えっ、私が交通事故に!?」
 母親の話によると私は学校帰り途中に車に衝突されたと聞かされたが交通事故に遭ったということが思いだせなかった。
 そしてそこへ二人組の女子高生が病室にやってきた。
「佐紀!」
 二人組の女子高生は佐紀を強く抱きしめた。
「生きててよかった!」
 佐紀は突然、二人組の女子高生に抱きしめられ戸惑いを見せた。
「あの、どちら様ですか?」
「ふふ、佐紀、冗談はやめてよ」
 二人組の女子高生の一人が笑いながらそう言ったが佐紀は真面目な顔をしながらこう言った。
「すいません、本当にわからないです……」

 それから佐紀は医師の診断を受けると事故で頭を強く打って記憶喪失になったと言われ高校に入ってからの記憶が全て忘れてしまったのだ。
 佐紀はその夜、病室で高校に入ってからの記憶を思いだそうとしたがやはり思いだせないでいた。
(あの二人、高校で同じクラスの私の友達だったのか。今まで友達できたことなかったに二人も)
 佐紀はそんなことを思いながら眠りについた。

 そして毎日のように佐紀の家族と高校に入ってからできた友達二人が病院にお見舞いに来てくれたのだ。
 それから一週間後、佐紀はまだ記憶を思い出せないでいた。
(やっぱり記憶を思い出すというのは難しいな)
 そんなことを思っていると病室に一人の男子高生が入ってきた。
「あのどちらさまですか?」
 佐紀がそう言うとその男子高生はこう答えた。
「忘れてしまったのか佐紀、君の彼氏の慎二(しんじ)だよ」
 その時、佐紀はこう思った。
(高校で友達だけでなく彼氏もできていたのか、これは驚いたな)
 そして佐紀はその佐紀の彼氏と名乗る男子高生に記憶喪失になっていることを話した。
「自分に彼氏がいたなんて信じられないのですが本当に私の彼氏なんですか?」
「もちろんそうだよ」
 佐紀はそのことに信じられない顔をすると慎二はこう言った。
「そういえば佐紀は俺だけにだれにも言ってない秘密を教えてくれたな」
「たしか、女だけど実は戦隊ものが好きだということだったな」
 佐紀はそれを言われた時、この男子高生は私の彼氏だということを確信した。
「本当に私の彼氏なんだね」
 そして慎二は佐紀の両肩を掴みこう言った。
「だから佐紀、俺は記憶が戻るようにできるかぎりのことはするから俺との今までの記憶を絶対に思い出してほしい、佐紀が今まで俺と一緒にいた記憶が無いのは辛い……」
「わかった、思い出す努力はするよ」
 そして慎二は帰るからと言って病室から出ていった。

 次の日、病室にまた慎二が来たのだ。
「よう、佐紀。これ持ってきたよ」
 その持ってきたものとはよくデートの時二人で食べていたショートケーキだった。
「わ!ショートケーキじゃん!」
「デートの時に食べていた思い出の味を食べれば記憶を思い出すかなと思って買ってきた」
 佐紀はショートケーキをおいしそうに味わって食べたのだ。
「どう?なにか思い出せた?」
「うーん、何も思い出せないな」
「そうか……」
 慎二は残念そうな顔した。
 その後、慎二は佐紀にどうやって出会って付き合ったかを話したのだ。
「ふーん、慎二とは高校で出会って同じクラスで部活も同じなんだね」
「そうだよ」
 
 慎二はその後も毎日、佐紀のいる病室に来て二人の思い出の歌や物を聞かせたり見せたりなどしたが全く記憶を思い出せずにいた。
 そして今日も慎二が来たがあるものを持ってきた。
「これ、佐紀にプレゼント」
「わーきれい!」
 そのものとはローダンセの花だった。
「佐紀は花が好きだらから持ってきた」
 慎二は持ってきた花瓶にそのローダンセの花を入れ窓際に置いた。
「どうもありがとうね、慎二くん」
「喜んでくれたみたいでよかったよ」
 そして慎二はこんなことを言った。
「この花は俺の佐紀への気持ちだから」
「私への気持ち……?」
 佐紀はその慎二の言葉の意味がわからなかった。
 そう言って慎二は病室から去っていった。

 そんなある日、いつも通り病室に来た慎二がこう言いだした。
「ちょっと病院を抜け出して外へ行こう、行きたい場所があるんだ」
 慎二は佐紀の手を掴み一方的に外へ連れ出した。
「行きたい場所ってどこなの?」
 佐紀がそう言うと慎二がこう言った。
「俺と佐紀にとってとても大事で思い出の場所だよ」
そう言われ数十分歩くと大きな公園に着き公園の中を少し歩き、とあるベンチを指を差しこう言った。
「あのベンチが俺が佐紀に告白した場所だよ」
 二人はそのベンチ座った。
「佐紀、何か思い出せそう?」
「いや、何も思い出せない……」
 慎二はそれを言われた瞬間、絶望した顔をした。
「もう、一体どうすればいいんだ……」
 慎二は自分の無力さに涙を流すと佐紀はこんなことを言い出した。
「私は最悪、記憶が戻らなくてもいいかなと思っているんだ」
「たしかに記憶が戻らないのは嫌だけど戻らないものはしょうがないかなって思っているんだ」
「それに……」
「慎二くんが毎日、お見舞い来ては私のために記憶が戻るよういろんなことを一生懸命してくれる姿を見て好きになったんだよね」
「だからまた慎二くんと新たに思い出を作っていきたいと思っているんだ」
「私は記憶が戻らなくても、今を大切に生きていきたいんだ」
慎二は佐紀の言葉に驚きと感動の表情を浮かべた。
「佐紀、君がそう言ってくれるなら、俺も同じく今を大切にするよ。君が笑顔でいれば、それだけで幸せだから」
「慎二くん、改めてこれからよろしくね」
「こちらこそ」

 次の日、佐紀の高校の二人組の友達がお見舞いに来てくれた。
「佐紀、元気にしてる?」
「もちろん元気!」
 そして佐紀は高校の友達にとあることを聞いた。
「慎二くんは高校で元気にやっている?」
 その佐紀の言葉に二人の友達は戸惑った表情を見せた。
 そして佐紀は一つのことを思った。
(そういえば、慎二くん。毎日のように平日の昼頃も私のお見舞いに来てくれているけどもしかして……)
「慎二くん学校に来ていないの?」
 またその友達は戸惑った表情しながら一人の友達がこういった。
「慎二は学校には来てない、というか……」
 その後、沈黙が続くと佐紀はこう言った。
「まあ、言いづらかったら無理に言わなくていいよ」
「ごめんね、今は言わないでおくよ」
 それから友達は佐紀に学校でこんな授業をやっているなどのことを数時間、話すと帰っていった。

その夜、佐紀は友達が慎二が学校に来てない理由を話してくれないのはなんでなのか考えていた。
(何でだろう、本当に思いつかない)
 佐紀は次に来た時に学校に来ない理由をきいてみようと思ったのだ。

 次の日、慎二はいつも通り病室にきた。
「佐紀、今日もきたぞ」
 そして佐紀はあのことを慎二に聞いてみた。
「慎二くんってさ、お見舞いに来てくれた友達が言っていたんだけど学校に行ってないらしいけどどうしてなの?」
 慎二は深刻な表情をしながらこう言った。
「知りたい?」
 佐紀はこくりと頷いた。
「じゃあ、佐紀に連れて行きたい場所がある」
 そう言い慎二は佐紀の手をひっぱり病院の外へ連れ出した。
 そこは歩いて三十分ぐらいの所にあるとある交差点に連れて行かれると交差点の歩道の所に佐紀はあるもの見つけた。
「あれ、ここに花束がある」
 そこにはいくつかの花束が手向けられていた。
 そして佐紀は何かを思い出した顔でこう言い出した。
「慎二くん、私、全て思い出した。忘れていた記憶を……」
「そうか、よかった」
「ここで私と慎二くんは学校の帰りに車に衝突され交通事故に巻き込まれたんだ……」
「慎二くんは私をかばおうとした結果、死んじゃったんだよね……」
 そして佐紀は一つのことを思った。
「死んじゃった慎二くんがここにいるということは幽霊になったということ?」
「そう」
「ということは学校に来ない理由はそもそも死んじゃったからってことか」
 それから佐紀は慎二にこんなことを聞いた。
「幽霊になったということはこの世に何かしらの未練があるんじゃないの?」
「何か思い当たることない?」
「一つある」
 続けて慎二はこう話した。
「佐紀とずっと一緒にいたいということかな」
 佐紀は慎二にそう言われこう返した。
「慎二くん、私もいずれは死ぬから、そしたら二人で天国で永遠に一緒にいればいいじゃない」
「わかった、先に行っているからいつまでも待っているよ」
 そして慎二の体は光を放ち消えてった。
「待っててね、慎二くん……」

それから八十年後、とある一人のおばあさんが慎二のお墓に現れた。
「慎二くん、こんにちは」
「もう少し待っていてね、もうちょっとでそちらに行くからね」
 そして慎二のお墓にとある花を手向けこう言った。
「これが私の慎二くんへの気持ちだよ」
 その花はローダンセの花で花言葉は「変わらぬ想い」だ。
 それから数日後、そのおばあさんは亡くなり結婚をしていなかったため孤独死だった。

 そしてそのおばあさんは目を覚ますといつのまにか知らない所にいた。
「ここはどこなんだ……」
 そんなことを思っていると前の方から一人の男子高生がやってきてこう言った。
「やってきたか、待ちくたびれたよ」
 その男子高校生の顔を見た時、おばあさんはここは何処なのかわかったのだ。
「これからはずっと一緒だな、佐紀……」
「そうだね、慎二くん……」