「……状況は悪化していく一方ですわね。でしたら――」

現状を把握した聖花は唇を噛む。
このまま、悪戯に時間を消費しても平行線だ。
何もしなくては『破滅の創世』の配下達の前に為す術もなく朽ち果てるだけだろう。
ならば、機先を制した方が確かだ。

「『破滅の創世』様の記憶のカードはここにあるわ……」

聖花は劣勢に立たされても、愛しそうに所持しているカードに触れる。

「でも、私が所持している限り、それをあなた達が手にすることはないの。それにカードを手に入れても、一族の上層部は既に記憶を再封印する手立てを考えているわ」

窓から細く月明かりが射し込む中、聖花は謳うように囁いた。
そして、考え得るおよそ最悪のタイミングでそれを言った。

「さあ、どうするの?」

反応は劇的だった。
聖花のその言葉が引き金になったように、リディアはいつの間にか彼女の目の前にいた。

「当然、奪うだけだ」
「――っ」

口にすれば、それ相応の苛立ちと嫌悪がにじみ出てくる。
リディアは片手をかざし、明確なる殺意を聖花にぶつけていた。
衝撃の反動で、聖花の所持していたカードが落ちる。

「このカードが『破滅の創世』様の記憶のカードか」

カードを拾い上げたリディアは一目でそれが目的のカードであることを感じ取っていた。
しかし――

「だが、これは……!」

その瞬間、リディアの手にしていたカードが突如、爆発する。
聖花が『破滅の創世』の記憶のカードに施していたのは時限式の爆弾。
それは爆発に巻き込まれても敵の動きを阻止しようとする、聖花のその覚悟と。
たとえ、木端微塵になっても、『破滅の創世』の配下達に『破滅の創世』の記憶のカードを渡すまいとする強い意志が宿っていた。

「なっ……」

奏多達は改めて、一族の上層部の不気味さ、底知れなさを実感する。

「『破滅の創世』様の記憶のカードが粉々に……」
リディアの驚愕に応えるように、聖花は僅かに笑みを零し……息絶えた。
「ふーん。カードに時限式の爆弾を付与したんだね。あなたの能力って面白いね。確か、相手の能力をコピーすることができる力だよね」

アルリットは倒れ伏せた聖花のもとに歩み寄ると、その背中に手を当てる。

「アルリット、また『強奪』するのか?」
「うん。利用価値がありそうだし、この人間の能力なら『破滅の創世』様の記憶のカードを復元させられるかもしれない」

リディアの疑問に、アルリットは朗らかにそう応えた。

「それにケイのように生き返ったら困るからね」

重要な任務に失敗し、アルリットに殺害された後、慧は一族の上層部の者の手によってアンデット、つまり不死者として蘇っている。
だからこそ、アルリットは一族の上層部が再び、聖花を蘇させてくると踏んでいた。