それは想定していた事だったとしても、一族の者達にとっては望まなかった最悪の事態。
圧倒的な力で蹂躙する管理者達は立ち向かうには高すぎる壁だった。

だからこそ、奏多は物心ついた時には神としての記憶を一時的に封じられていた。
一族の者のうち、記憶を封印する力を持つ()(さと)家の者達が主体となって神としての記憶を封じ込めたのだ。
記憶を封印。そうすれば、少なくとも奏多が自らの意思で他の神々や『破滅の創世』の配下達に接触することを防ぐことができる。
また、記憶を封印されることで神の力を行使することの妨げになる。
一族の者達はそう踏んでいた。
奏多は心理学的に言うと解離――自分が『破滅の創世』――神ではない感覚に陥っている。
その結果、奏多はまるで自己を否定するように自分は『人間』だと思い込んでいた。
だが、数多の世界を管理する神の記憶を完全には封じ切ることはできなかった。
いかに封印を施そうとも度々、『破滅の創世』としての記憶が戻ることがある。
神としての記憶が戻った途端、奏多はまるで二重人格のように人格が変わったような振る舞いで他人を寄せ付けまいとする。さらに――

俺、『破滅の創世』としての記憶が戻ると、意識が途切れてしまうんだよな。

神の記憶を封じられている状態の今の奏多はその時に起きたことが一切分からない。
ただ、幸か不幸か、記憶を常に封じている影響なのか、神としての記憶が戻っても奏多は神の力を行使することはできなかった。
とはいえ、記憶が飛び飛びになっては困るから、奏多はいつも親しい人達に情報を求めていた。

あれは……?

奏多は情報を求めてスマートフォンを操作しようとした。だが、また新たに疑問が浮上し、手が止まる。
目の前にはひっくり返ったテーブル。その下には……誰かがいた。

下敷きになっているのか!?

奏多が思わず息を呑んだ瞬間、その誰か――少女はむうっと頬を膨らませる。

「もう、奏多くん、急に黙らないでくださいよ。ほらほら、さっさと助けてください。今度は虫ケラを見るような目で見ちゃダメですよ」
「あのさ、おまえ、何でそんな状況になっているわけ?」
「何を言っているんですか! 先程、説明したばかりですよ!」

奏多の台詞にそう熱心にも声を荒げたのは見覚えのある少女であった。
透明感のある赤に近い髪。肩にかかる長さでふんわりとしている。
奏多と同じ一族の者で幼なじみの()(さと)結愛(ゆあ)だ。
結愛が何故このようにして声を荒げたのか、その答えは周囲の状況が語ってくれる。
彼女は下敷きになっていた。それもテーブルの下敷きに。

「そもそも、なんでテーブルの下敷きになっているんだ?」
「奏多くん、その質問はコントですか?」
「いや、実際に記憶がない……」
「ほええ、それはひどい」

結愛の言い分に、奏多は途方に暮れたようにため息を吐いた。
先程。説明したばかり。そんなに前から結愛と話していた記憶はない。まるでたちの悪いドッキリにでも遭っているみたいだ。
どれだけ考えても今の状況に納得いく説明をつけることができなかった。