手を繋いだ夢を見た。
いつも一緒にいる弟と、二人きりで晴れた日の公園を歩く夢。
周りには誰もいない。兄弟は無人の公園を燥いで駆け巡り、そのたびにどうでもいいことで一喜一憂する。
「――ありがとうな」
ふと、兄が笑顔のまま、そう呟いた。
「一緒に居てくれてさ」
弟と紡ぐ時間の糸は、時には絡まり、時には外れて思い通りにはならない。
だが、それでも恋い焦がれる気持ちと同じように、今も彼に結びついていた。
理不尽にさらされてきた。
滑稽な現実に直面した。
それでも。その全てを経て今、兄弟はこうして笑えている。
それが他の人にとって、どれほど哀れに映っても。
兄弟はこの瞬間、確かに幸せだった。
確かに幸せだったのだ。
交わないはずの二人の関係が再び繋がった日。
あの日、間違いなく兄弟の世界は変わってしまった。
だけど、それは一族の者達が望んでしまったことだ。
「今が幸せならそれでいい……」
醜い過去から兄は目を逸らす。
二人だけの優しさに満ちた世界。
たとえそれが……仮初めの平穏だと知っていても――。
この地から見える空はいつも美しく輝いて見えた。
他の場所を知らない兄弟にとって、その空が全てだったから――。
一番、最初に認識したのは煌びやかなシャンデリアだった。
どこだ、ここは……?
川瀬奏多はまるで思い出したように疑問と動揺が一瞬で頭の中を埋め尽くした。
視線を巡らせれば、煌びやかなシャンデリアが明るく会場を照らしている。
そこかしこで聞こえてくる会話の幾つかには、「あれが噂の」だの「あの少年が例の」だの聞こえてくるが、嫌味ではあるまい。
スマートフォンで時間を確認すると月曜日の夕方だった。
土曜日の夜、両親と話した後、部屋で眠りについたことは覚えている。そして、気がついたら月曜日の夕方、見知らぬ会場にいた。
具体的に現状を表すなら、自分の部屋のベッドで眠りについていたはずなのに、今は何故か見知らぬ会場内にいる。
またか……。
一日以上の意識の空白。その理由を奏多は知っている。
また、俺、余計なことを口走っていないよな。
その空虚な問いに、彼の者からの返事は永劫来ることはない。
いつの頃からか、この世界以外にも別の世界――多世界というものが存在するということが判明していた。
その多世界の数々を管理している三人の神の恩恵を受けて、数多の世界の人々は穏やかな平和を享受していた。多くの人々は神の恩恵により、前途洋々の未来が待っているのだと信じて疑わなかった。
しかし、いつの時代にも例外はある。
いかに恵まれていようと罪を犯す者がいれば、全てが覆ってしまう。時代が技術がいくら進んでも、解決不能なことは存在した。
全ての発端は異能力を持つある一族が強い力を欲するあまり、三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』の力を手に入れようとしたことからだった。
矜持が狂気を呼び、その執念はひとつの成果となって結実した。
その一族のとある夫婦の間に新たな生命が誕生し、その稚児は周囲から大いに祝福を受けた。『破滅の創世』の神魂の具現として、ありえざる形の生を受けてしまった稚児。
そうして生み出されてしまったのが俺なんだよな……。
神の魂の具現として生を受けた奏多。
これにより、一族の者達はおおよそ昔からは想像つかないような絶大な力を獲得し、この世界は更なる革新を成し遂げるはずだった。けれども、それはあまりにも虫のよすぎる願いだった。
人という器に封じ込め、神の力を自らの目的に利用する。それは『破滅の創世』のみではなく、他の神全てに対しての裏切りだった。
怒り狂った『破滅の創世』の配下達は一族の者共々、この世界を破壊し、『破滅の創世』を取り戻そうとした。
それは想定していた事だったとしても、一族の者達にとっては望まなかった最悪の事態。
圧倒的な力で蹂躙する管理者達は立ち向かうには高すぎる壁だった。
だからこそ、奏多は物心ついた時には神としての記憶を一時的に封じられていた。
一族の者のうち、記憶を封印する力を持つ此ノ里家の者達が主体となって神としての記憶を封じ込めたのだ。
記憶を封印。そうすれば、少なくとも奏多が自らの意思で他の神々や『破滅の創世』の配下達に接触することを防ぐことができる。
また、記憶を封印されることで神の力を行使することの妨げになる。
一族の者達はそう踏んでいた。
奏多は心理学的に言うと解離――自分が『破滅の創世』――神ではない感覚に陥っている。
その結果、奏多はまるで自己を否定するように自分は『人間』だと思い込んでいた。
だが、数多の世界を管理する神の記憶を完全には封じ切ることはできなかった。
いかに封印を施そうとも度々、『破滅の創世』としての記憶が戻ることがある。
神としての記憶が戻った途端、奏多はまるで二重人格のように人格が変わったような振る舞いで他人を寄せ付けまいとする。さらに――
俺、『破滅の創世』としての記憶が戻ると、意識が途切れてしまうんだよな。
神の記憶を封じられている状態の今の奏多はその時に起きたことが一切分からない。
ただ、幸か不幸か、記憶を常に封じている影響なのか、神としての記憶が戻っても奏多は神の力を行使することはできなかった。
とはいえ、記憶が飛び飛びになっては困るから、奏多はいつも親しい人達に情報を求めていた。
あれは……?
奏多は情報を求めてスマートフォンを操作しようとした。だが、また新たに疑問が浮上し、手が止まる。
目の前にはひっくり返ったテーブル。その下には……誰かがいた。
下敷きになっているのか!?
奏多が思わず息を呑んだ瞬間、その誰か――少女はむうっと頬を膨らませる。
「もう、奏多くん、急に黙らないでくださいよ。ほらほら、さっさと助けてください。今度は虫ケラを見るような目で見ちゃダメですよ」
「あのさ、おまえ、何でそんな状況になっているわけ?」
「何を言っているんですか! 先程、説明したばかりですよ!」
奏多の台詞にそう熱心にも声を荒げたのは見覚えのある少女であった。
透明感のある赤に近い髪。肩にかかる長さでふんわりとしている。
奏多と同じ一族の者で幼なじみの此ノ里結愛だ。
結愛が何故このようにして声を荒げたのか、その答えは周囲の状況が語ってくれる。
彼女は下敷きになっていた。それもテーブルの下敷きに。
「そもそも、なんでテーブルの下敷きになっているんだ?」
「奏多くん、その質問はコントですか?」
「いや、実際に記憶がない……」
「ほええ、それはひどい」
結愛の言い分に、奏多は途方に暮れたようにため息を吐いた。
先程。説明したばかり。そんなに前から結愛と話していた記憶はない。まるでたちの悪いドッキリにでも遭っているみたいだ。
どれだけ考えても今の状況に納得いく説明をつけることができなかった。
「仕方ないですね。もう一度、説明しますよ」
今の状況を飲み込めない奏多に、結愛が助け船を出してくれた。
「今日は世界会合の日で一族のみんなで重要な話し合いがあったんです。だけど、ほらほら、重要な話し合いって一人だと理解するのが難しいんですよ。でも、お姉ちゃんも同じ年頃の知り合いも誰もいなくて」
それが新鮮なのか、結愛はくっーと胸が弾ける思いを噛みしめる。
「誰も近くにいないのかなと諦めていたら、なんと奏多くんを発見したんですよ。早く話しかけたかったので、おもいっきり跳躍したんです。ていやーって」
「ていやーって急いだせいで、テーブルの下敷きになったのかよ?」
「イケると思ったんですよ! でも、間違いでした。私自身の運動能力の低さを忘れていたのが敗因です」
ひたすら柔和な結愛の微笑に、かすかに苛立ちのようなものが混じる。
「あーあー、いやです。いやです。世の中は運動音痴に厳しいんですよ。テーブルの下敷きになっても誰も助けてくれないんですから。運動音痴ってだけで!」
だから、と結愛の瞳に決意の輝きが見えた。
「奏多くんに説明して、ここから助けてもらおうと思ったんです」
「悪い。今の俺には今までの自分が何をしていたのか、全く把握できていなくてさ……」
「はううっ、なんですか、それ? もしかして先程までの奏多くんって、いつもの奏多くんじゃなくて神様の奏多くんの方だったんですか?」
奏多の戸惑いに元気の良い返事が返ってくる。結愛の食いつきが半端ない。
自分が『破滅の創世』と呼ばれる最強の神の具現である。
その事実は鋭利で、それを知った幼い奏多の心をいとも簡単に切り裂いた。
そして祖先の犯した罪の重さに喘ぎ、罪人の末裔(すえ)であることを呪った。
だが、結愛はその事実を知っても以前と変わらず、奏多に接してくる。『破滅の創世』としての奏多に対しても、気さくな感じで話しかけているのは恐らく彼女くらいだろう。
奏多はテーブルの端に手をかけた。力を込めると僅かに持ち上がる。
「わあっ、ありがとうございます! 奏多くんは命の恩人です! このご恩は一生忘れません! 私が神様なら福音か、恩恵(おんけい)をプレゼントしているとこですよ。ええと、何がいいですかね。この前、奏多くんが気になっていた音楽CDはどうですかね……」
「……早く出ろよ」
「あ、はい」
結愛は肘をついて、匍匐(ほふく)前進(ぜんしん)でもぞもぞと這い出てくる。彼女が身体を揺する度にふわりと髪が揺れた。
「ふー、ようやく解放されました」
テーブルの端を床に下ろした奏多の前で、結愛は喜色満面に大きく伸びをする。
「んもぉー、皆さん、話し合いに集中していて、私がテーブルの下敷きになっていても知ったこっちゃない状態だったんですよ」
「それだけ重大な話し合いの場だったんだろ」
結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた奏多をまっすぐに見つめた。
「私にとって、奏多くんは奏多くんです。だから、他の神様や『破滅の創世』様の配下さん達には奏多くんを渡しませんよ」
確かに今こうして、間違いなく奏多は『結愛の幼なじみ』としてこの世界に存在している。その事実は途方もなく、結愛の心を温める。
「あなたがこの世界にいなきゃ、嫌です」
「結愛……」
その言葉に奏多の目の奥が熱くなる。体中の皮膚が鳥肌を立てて、感情の全てが震え出す。
「俺にとっても、結愛は結愛だ」
言葉の意味を理解した瞬間、結愛の顔は火が点いたように熱くなった。
「はううっ。……もう一回、もう一回!」
妙な声を上げながら、身をよじった結愛が催促する。
「結愛は結愛だ」
「うわああ、すごい……幸せです……。も、もう一回!」
「結愛は結愛だ」
「きゃーっ」
止まない雨は無い。明けない夜も無い。奏でる音色はきっと美しく響き渡る。
まるで幼子のように微笑んだ結愛の笑顔は甘やかな色彩に彩られていた。
筑紫野学園。
一族の者として生まれた者達はみな、この小中高一貫校に通うことが義務づけられている。
「奏多くん、おはようございます!」
翌朝、学園に登校した奏多は校門前で真剣な表情の結愛と鉢合わせした。
まばゆい朝日を浴びて、透明感のある赤に近い髪が輝いている。
「……ずっと……奏多くんのことを考えていました」
「俺のことを……?」
中等部に向かう途中、結愛はぽつりと素直な声色を零す。
「私、自分で思っていたよりも奏多くんのことが好きだったみたいです」
結愛は幼い頃、臆病者だった。姉に手を引いて貰わねば、歩き出せないほどの。
俯いてばかりいたのは責任から逃れるためだったのかも知れない。
良い子でいたかったのは、その方が愛されると知っていたからだ。
だけど――
小学生の遠足で迷子になった結愛を一番最初に見つけてくれたのは奏多だった。
たった一人で泣いていた結愛に「傍にいる」と笑ってくれた。
――本当は人間ではなくても、たとえ神でも、奏多は紛れもなく『結愛の大切な幼なじみ』だった。
「だから怖いんです、怖いんです! いつか、奏多くんが私の前からいなくなっちゃうのが!」
奏多と出逢い、そこで生まれた数えきれない感情。
何でもないことが幸せだと実感できた。
「あなたがこの世界にいなきゃ、嫌です! あなたが傍にいなきゃ、嫌です!」
「結愛……」
大切だった。結愛を導く光だった。
ただ、奏多が傍にいてくれるだけで強くなれた。
『破滅の創世』の配下達がこの世界から帰還するために何かを置き去りにしないといけないのなら、それは奏多でなければよかったのに。
「だから、私と約束して下さい。どこにも行かないと!」
そう言う結愛の目には、光るものが浮かんでいた。
二人で歩む未来はこれからも続いていくと、甘く確かな約束を求めて。
俺の帰る場所なんて……そんなの……。
大切な人が覚悟を決めて、自分を切望する。その独占じみた想いに、奏多の胸が強く脈打った。
そんなの決まっているだろ……!
大事な何かをなくした心の闇はいつまでたっても明けない。
そこにあるのは無くした過去に縋り、未来を閉ざす停滞。だけど個人の事情なんて置き去りにして、世界はいつもと変わらず明日がやってくる。
これまではそれはひどく悲しいことだと思っていた。個人に価値などないと証明しているように感じていた。
でも、それは残酷なことなんかじゃなくて、前に進むための道標。進むはずだった未来に戻るための基準点。
時間とは個人では受け入れられない悲しみを癒やすために流れていく。そう思うことができるようになったのは結愛のおかげだった。
「ああ、絶対に傍にいる。結愛、約束だ!」
「ふふ、言いましたね、約束ですよ!」
ありふれた何気ない日常こそが救いなのだと他の誰でもない奏多と結愛だけが知っている。
二人でいれば、世界はどこまでも光で満ちていた。
遠くから誰かの叫び声が聞こえる。鋭い刃物同士がぶつかり合う音と銃声。
程なくして爆撃音が弾け、怒号が空気を震わせた。
始まりの事など覚えていない。
光陰矢の如し、神命の定めを受けて生を受けたからには彼らには朝と夜の区別など、さして気になるものでもなかった。
遥か彼方より、望みはたった一つだけだった――。
「神のご意志の完遂を――」
動き出した『破滅の創世』の配下達。
これまでも世界各地で暗躍していたが、ここにきて本格的に『破滅の創世』を取り戻そうという動きが見られる。
人は産まれながらに罪を犯す。だからこそ、絶望も退廃も虚栄もない世界を。
『破滅の創世』の配下達は主が御座す世界を正そうとする。その御心に応えるべく献身する。
つまり、どう足掻いても『破滅の創世』の配下達をどうにかしないことにはこの世界に平穏は訪れない。
彼らを何とかしなくては、奏多はずっと狙われ続けることになるだろう。
いずれにせよ、まずは目下の事態を収拾せねばならなかった。
浅湖家や此ノ里家を始め一族の冠位の者の役割は、敵である神々と『破滅の創世』の配下の部隊に対して警戒を行うことであった。
彼らもまた、形だけでも整えた急造部隊として、隙を巧妙にうかがう『破滅の創世』の配下への牽制を行う任務を帯びている。
「『破滅の創世』の配下に狙われているというのに相変わらず呑気な奴らだな」
「あら、結愛は嬉しそうね」
結愛の――妹の様子に満足げな此ノ里観月に、浅湖慧は顔をしかめつつ問うた。
まるで甘やかしも時には毒になるということを、彼は理解した方がいいとでも言いたげだ。
「つーか、どうして『破滅の創世』の配下の奴らはあいつを積極的に奪いにこねぇんだ?」
「神の記憶を封じられている状態の今の奏多様の出方が分からないからよ」
説明を一区切りさせてから、透明感のある赤に近い長い髪をなびかせた観月は嘆息する。
「それに神の記憶を取り戻した時の奏多様は記憶を封印されている時の出来事を覚えている。妹を始め、懇意を寄せている者が近くにいれば、周囲に危害を加える可能性は低いわ」
付け加えられた言葉に込められた感情に、さしもの慧も微かに目を見開いた。
戦局を混乱に導きたいなら、確かにそれで事足りるだろう。
「それが神としての記憶を封じ込めた理由の一つってわけか」
この世の悪意を凝集したような一族の上層部のやり方に、慧は、そして居並ぶ浅湖家の者達は激しい嫌悪を覚えたのは間違いない。
「随分と悪辣だな。一族の上層部らしいやり方だけどな」
慧の言い草に、観月はふっと微笑む。
如何に不明瞭な未来でも、儚い安寧に縋る。
それが一族の上層部の最後の矜持だったのだろう。
「まるで幽鬼ね」
「そうだな。まぁ、もっとも俺がここにいること事態、亡霊と話しているようなものみたいだけどな」
「亡霊……?」
そう話す慧はいつものように快活だった。話を聞いている観月だけが目を瞬かせては大きく瞳を開いている。
「そのままの意味さ。俺は本来、生きているはずがないんだよ」
『敵』に見逃がされたのは、あの時点で『揉め事』を増やすつもりがなかったからだろう。それに自分はまだ、利用価値があると思われたのかもしれない。
「どういうこと?」
彼の過去に繋がる話に観月が耳を傾けた、その刹那――
「ようやく、わたしにもアルリットとともに君達を抹殺することの許可が下りたよ」
不意にこの場にそぐわない涼やかな声が響く。
慧と観月が慌てて振り向くと、そこには白い二つの影――二人の少女のような存在がいた。
「『破滅の創世』様に目を付けて、私欲のために利用しようとしている愚か者達」
「ちっ、『破滅の創世』の配下の奴らか。いつの間に接近しやがったんだ……」
銃を構えた慧の反応も想定どおりだったというように、少女達の表情は変わらない。
『破滅の創世』の配下である少女達。
彼女達が『破滅の創世』である奏多ではなく、自分達に接触してきた狙いが何かは分からない。だが、その身の内からは……強大なる滅びの因子を感じる。
その上、先程まで居並んでいた浅湖家の者達の姿がない。
少女達によって、どこか別の場所に転移させられた可能性があった。
「悪いな、観月。話の続きは戦ってからだ……!」
事態を重く見た慧は即座に銃口を前方の少女達に向けて発砲する。
焦りもない。
怯えもない。
正確無比な射撃で、慧はただ眼前の敵達を撃ち抜いた。
『冠位魔撃者』、彼にその名が献ぜられた理由の半分は卓越した銃さばきにある。
だが――晴れた煙幕の向こうで展開していた光景は彼の想像を超えていた。
銃弾は一つとして、まともに標的に着弾していない。
「愚かなものだ。このようなものでわたし達を倒せると思っているとは」
口にすれば、それ相応の苛立ちと嫌悪がにじみ出てくる。
少女達は何事もなかったように慧を見据えていた。
「まぁ、この程度じゃ足止めにもならねえか」
慧は静かに呼気を吐きだした。
この際、少女達に関する疑問は後回しだ。
問題なのは彼女達が周囲の者を無差別に攻撃する可能性が高いという点である。
恐らく誰も彼もを『破滅の創世』を害する者、と認識しているだろう。
もしくは『破滅の創世』である奏多の出方が分からないから、まずは周囲の者を根絶やしにしようと思ったのかもしれない。
「観月、援護頼むぜ!」
慧は距離を取って、続けざまに四発の銃弾を放った。
弾は寸分違わず、少女達に命中するが、すぐに塵のように消えていく。
「まるで彼女達に触れる前に霧散しているみたいね」
少なくとも観月が畏怖に値する敵ではあった。
躊躇していては危険だと即断させる力を秘めていた。
「慧、加勢するわ!」
『破滅の創世』の配下二人を、慧一人で相手取るには銃だけでは危険すぎる。
だからこそ、観月はカードを操り、約定を導き出す。
「降り注ぐは星の裁き……!」
その刹那、立ちはだかる少女達へ無数の強大な岩が流星のごとく降り注ぐ。
此ノ里家の者は封印する力を持つが、それは何も記憶だけではない。
膨大な巨岩をカードに封印すれば、それを解放して放つことができた。
封印するものによって威力は異なるが、その爆発力は目を見張るものがある。
だが――