両親から場所を密かに聞いていた地下室へと向かうと、何か金目になるものはないかと手当たり次第に探す。

「ないっ! これも、これもお金にならないわっ!」

 皆両親が財政難に陥った今年の春に屋敷のほとんどの骨董品や美術品などを売り払っており、今更空っぽの屋敷で金になるようなものが見つかるはずもない。

「ん……?」

 そんな時、ワインセラーの奥のほうに一本だけいかにも高級そうなワインが置かれており、テレーゼは不思議に思ってそれを手に取る。
 特に何の変哲もない、いや、売れば非常に高価そうなワインなのだが、なぜこれだけが残されていたのか。

「──っ!!」

 深い色をした赤ワインをしばらく眺めていると、テレーゼはあることに気づいた。

「私の……誕生日……」

 そう、何もないこの地下室でただ一つだけ残されたそのワインのラベルには、テレーゼの誕生日が刻印されていた。
 愛する娘の生まれた瞬間を忘れないように、そしてもしかしたらそれはテレーゼの20歳の時の贈り物として渡される予定だったのかもしれない。

「ふぇ……んぐ……ふっ……」