「このことは実家に報告されていただきます」
「待ってくれ、それだけはっ!!!」
「いえ、報告させていただきま・す!」

 夫人は容赦なくそれだけ告げると、その足で部屋を後にした。
 部屋に残されたルセック伯爵は人生が終わった、といった様子で絶望し、その場に倒れてしばらく動かなかった──



◇◆◇



 ルセック伯爵が昼間の妻に暴かれた不倫による衝撃が癒えないで眠れない夜のこと。
 伯爵家の隠し金庫の前にある人影が忍び寄っていた。

「ふっ、この家もザルね。こんなに簡単に見つかるなんて」

 そう言う彼女はルセック伯爵家に雇われていたメイドの一人であり、ついでにいうとメイド歴三年の中堅メイドだ。
 そんなメイドの本来の目的はこの家の莫大な財産を盗むことであり、そうして今までも年齢や経歴を詐称しては貴族の家に忍び込んで金をくすねとっていた。
 彼女が狙うのは汚い金、つまり表には公に出せない金や不正に得られた金であり、彼女に狙われた家は等しくその金の出処を理由に王国に被害届を出せずに泣き寝入りしている。