「いつ頃戻られるのかな?」
「私にはわかりかねます」

 コルネリアはここに来て数日であったし、レオンハルトもまだ仕事から帰る時間などを詳細に教えてはいなかった。
 彼女の負担をなるべく軽くしたいという思いからであったが、今回はそれが仇となったのだ。

「北方の領土権利の申請書について伺いたいのだが」
「私にはわかりかねます、申し訳ございません」
「この紅茶は北方のものかね?」
「……」

 答えを持ち合わせておらずごくりと喉を鳴らして焦ってしまったコルネリアだったが、すぐ後ろに控えていた執事が言葉を発する。

「アスマン公爵の仰る通り、そちらは北方の今年流通が始まった茶葉でございます」
「そうかっ! 私は紅茶にうるさくてな、あそこの茶葉は時期にこだわっているんだが、さすがだなヴァイス公爵は」
「主人に伝えておきます」
「ああ、それに比べて……」

 そう言いながらなんとも文句を言いたげな、蔑んだ目でコルネリアを見つめるアスマン公爵は、ため息を大きくついて髭を触る。

「ご夫人はこの家のことを何にも知らないといいますか、先ほどから話していてもなかなかその、学がないというか」