レオンハルトが妻の様子を伺うように顔を覗くと、わざと目を逸らして顔を左前にある水の入ったグラスに向ける。
 どうしようか、といった様子で小さなため息を吐くと、妻の手を握った。

「──っ!」

 身体をびくりとさせて目が泳ぐコルネリア。

「心配かけてごめん。コルネリアは僕の身体を心配してくれたんだよね?」
「……ええ」
「ありがとう」

 その言葉を聞いてレオンハルトのほうへと目を向けると、ふっと柔らかな微笑みが向けられていた。
 優しい微笑みを見て、余計に胸が苦しくなったコルネリアは、唇とぎゅっと噛みしめた後でゆっくりと口を開く。

「怖かったんです」
「うん」
「またレオンハルト様が倒れてしまうのではないかと」
「うん」

 レオンハルトの手がぎゅっとコルネリアの手を包み込む。

「少しでもレオンハルト様の姿が見えないと、胸がざわざわして落ち着かないんです」
「うん……」
「自分の目で見ないと、レオンハルト様の声を聞かないと」
「うん……」

 約束をした後もコルネリアは数十分や1時間に一回ほど、夫の執務室を覗いては彼が倒れていないかを確認していた。