夢を見続けること……

 召喚されること、4日目……



 学園の休日、ということで俺はレインとリヴァーに連れられて、

 商店街を歩いている。



 外のテントに直接商品を並べ、様々な食べ物が売られている。

 

 「ふーーん」

 全く理解していないが何となくその雰囲気を見ながら何かを理解したような声をあげてみる。



 「もしかして、もうこの世界のこと理解できたのですか?」

 驚くようにリヴァーが尋ねてくる。



 「いや……全然わからん、それを理解した」

 そう返す。



 「はぁー」

 レインが呆れたようにため息を漏らす。





 「んっ?」

 だが、すぐにレインの目が何かを見つけると輝きを取り戻す。



 「リヴァー何やら新しい店が出てるぞ」

 スープ……シチュー……俺の知る料理名で現すならそんな感じのもの。



 「駄目ですよ、お嬢様」

 そうレインを止める。



 「少し味見をするだけだ、ケチケチするな」

 そう少し不服そうに言う。



 「ここ数ヶ月で1キロ……増えましたよねお嬢様」

 そうリヴァーが告げる。



 「ぐぬ……」

 レインが言い返せなくなる。

 サーチ能力……確かリヴァーさんが所有する能力がそんな感じのことをレインが最初に言っていたな。

 この人には秘密の一つや二つ筒抜けになってそうな気がする……。

 一番敵にまわしてはいけない人かもしれない。



 「さぁ、本屋に向かいましょうか」

 そう言ってレインの背中を押すようにその場を離れ、目的地を目指す。





 「……ここか」

 さすがに建物の中に店が有る。

 本棚に色々な資料がつまっている。

 



 「……なんか、こういう本棚にぎっしりと本がつまってる様子、見てると安心するんだよな」

 俺がそうぼそりと言うと。



 「……そうか……目当てのものを探すのが大変なだけだろう」

 そう、レインに返される。



 「私はそれわかりますっ……巻数とか欠けるとすごく落ち着かないんですよ」

 ……俺、レイン……そしてリヴァーが声の方に顔を向ける。



 「……あっ…えっと、こんな場所で偶然ですね」

 白くきれいな髪……クリア=スノーという名前がぴったり当てはまるようなそんな容姿の女性。



 何故か沈黙が続く……

 レインに関しては=の中央に・を入れたような目をしている。



 「……絶対偶然じゃないよなっ……貴様っ!」

 クリアを指差しレインが叫ぶ。



 「放課後、我々の会話を聞いていて、ここに来るとはっていたのだろうっ!」

 全てお見通しだと言いたそうな目でレインが続ける。

 

 「な……私は文学が好きなのでよくここに来るんです!」

 目を反らし否定するクリア。



 「おい、リヴァー、あやつをサーチしろ」

 冷ややかな目で再度、クリアを指しそうリヴァーに命令する。



 「人を嘘発見器みたいに使わないで下さい」

 リヴァーは優しくそれを拒否する。

 絶対服従の忠実な関係かと思っていたが……リヴァーはしっかりしていると感心する。



 「そうだ……レスさん、良ければ……お借りした本を参考に私がこの世界の小説でお勧めできそうなものをいくつか探してみました」

 クリアがそう、目線をレインから俺に切り替える。



 「あっ……本当か、助かる」

 確かにこの世界でそういったものがどんなものなのか……

 異世界による異世界物語……そんなものも存在するのか?

 そんなクリアの誘惑に簡単に乗っかり、クリアの方に歩いていくが……



 ガシッと掴まれた腕が鎖に繋がれた動物のように動きが制限される。



 「レス……お前……この店に来た理由覚えているのか……」

 冷たいレインの声。



 「……俺の教科書を買って頂くためです……」

 そう答える。



 「思わぬ邪魔が入ったが、本来の目的を果たして帰るぞ」

 そうレインに言われ、大人しく従う。



 「……邪魔?私に言わせれば貴方ですけど」

 顔を伏せ聞こえないように不貞腐れた顔でクリアがぼそりと言う。





 「それじゃ、全部で1200キャッシュになります」

 会計の場でそう告げられる。

 キャッシュ……これが通貨のようなものだろうか。



 レインがなにやらカードのようなものを取り出し、目の前の機械に入れる。



 「ありがとございます」

 なにやら、取引が成立したようだ。

 クレジットカード?みたいな仕組みなのか……





 店から外に出る……

 ぞくりとする……



 殺気……

 レインの兄に感じた、強大な魔力……

 まるで本能が、危険を身に知らせるような……恐怖に近い感覚。



 「クリア様、遅いので心配しました」

 褐色の肌……その肌とは逆の真っ白な髪……



 「アストリア……今日は護衛はいいって言ったのに」

 店の壁に背をつけるように待っていた者にそう告げる。



 「最近、この辺に殺人鬼が出るって、話しですからねー、私が護衛の任務を請け負っている以上は、クリア様に一時的に命を解かれていたなんて言い訳はできませんから……」

 そうアストリアと呼ばれた女性がクリアに近寄ってくる。



 「目当ての異性には会えたのですか?」

 そう不敵に俺に笑みを浮かべ言う。



 「……えっ、だから、それはっ!!」

 クリアが慌てて否定しようとするが……



 「やっぱりな……」

 冷たい目でレインがクリアを見ている。



 「ふむ、余り活気の感じられんが……なるほど」

 一人、女が納得しているように俺を見ている。



 「先ほど、殺気を当てた時に咄嗟に放った魔力を考えると……追い込まれないとやる気を出さんタイプか」

 勝手に何かを分析しているようだ。





 「なんだ?」

 露店の並ぶ商店街の方からキャーという悲鳴が上がる。

 そう言葉にしたレインと共に全員がそちらを向く。



 再び殺気の塊のような魔力を感じる……



 「切り裂き……切り裂きのミストだ!!」

 村人の叫ぶような声……と悲鳴が次々と響き渡る。



 「切り裂きのミスト?」

 ……俺のそんな疑問に……



 「先言った、ここ最近、この辺を賑わす殺人鬼の名だ……ミスト=ダーク」

 そうアストリアと呼ばれた褐色の女が説明する。



 ……俺が助けに行って……どうにかなるものなのだろうか。

 それとも……下手な正義感など捨てて、己を弁えここに居る者を安全な場所に逃がすことが優先か……





 「……それが正解だ」

 俺がレインたちを見渡す様子を見て、全てを読み取ったかのようにアストリアが告げる。





 「切り裂きのミスト……私が引導を渡す」

 切り裂きのミストと呼ばれる深くフードを被った人間。

 フードの奥の闇にかすかに見える顔は、正体を隠すように仮面をつけている。

 その前に……一人の女性が飛び出した。



 「……何処の馬鹿だあれは……」

 呆れたようにアストリアがその遠くに見える女性に向かい言う。



 「……あれ、クロハじゃないのか?」

 そうレインがその女性の名を呼ぶ。



 「間違いありません……同じクラスのクロハ=シラヌイさんですね……」

 リヴァーもそう続く。



 同じクラス……それでも見捨てるのか……守るべきものを考えるが……

 取り返しのつかない事態にはなりたくない……

 そう考え足を動かす……が……



 ミストと呼ばれる殺人鬼から黒い霧のようなものが吹き出す。

 あっという間に周囲を包み……まるで別次元に飛ばされたように誰一人の気配を感じ取れなくなった。





 まるで空間が抜き取られたかのように……

 取り残されたのは……クロハと呼ばれた女性とフードの殺人鬼……

 そして、咄嗟にその空間に踏み込んでしまった俺の3名。



 「あら、一人……余計なものが紛れこんだみたいね……」

 フードの殺人鬼が言う。



 「……女?」

 何処かこの手の奴は男だと勝手に決め込んでいたため、その声に少し戸惑う。



 「……?あなた……転入生?」

 ぼそりとクロハが言う。



 「あ……あぁ……クロハさん……って言うんだよな?」

 俺の言葉に不思議そうな顔をする。



 「いや……ごめん、一緒にレインたちと居たのだが……どうやら俺だけ巻き込まれたみたいで……」

 そう名前を知っていた理由を説明する。



 「いい……離れろ、巻き込みたくない」

 そうクロハが俺に言う。

 そういって、剣の柄の部分しかないものを取り出す。



 右手に握り正面に構え、左手を右腕に添える。



 「……えっ?」

 刃の無い武器……

 何をするつもりなのか……



 「小鳥丸(コガラスマル)……抜刀」

 そうクロハが言葉にすると……

 

 刃の無かった柄から……漆黒の刃が現れる。



 「……かっけぇ」

 思わず口にする……



 「ヒヒヒッ……」

 殺人鬼の奇妙な笑い声。

 そうだ……ここは奴のテリトリーの中……



 言えば……俺たちは殺人鬼の能力にすでに取り込まれている。



 「ムダッ」

 クロハが突然そう言うと、漆黒の刀を振るうと、突如現れた投擲される武器を弾き返した……



 「ヒヒヒッ」

 殺人鬼は笑う……

 まるで……この状況の余裕を楽しむかのように……



 次々と現れる投擲具をその漆黒の刃で弾き返すが……

 その攻撃がやむ事が無い。



 漆黒の刃より先に、透明な結界が投擲具を防ぐ……



 「なに!?」

 クロハが驚いたように声をあげる。



 「それらは俺に任せてくれ」

 少しだけ目が慣れてきた……

 目の前の敵に集中できるようこっちは俺が引き受けよう。



 「感謝……ミスト、覚悟!」

 単語を淡々と口にする……



 クロハは腰を落とし、斜に構える……

 存在しない鞘に刀を納めると漆黒の刀身が再び消える。



 「刀技……光芒(こうぼう)

 そう言葉にし、クロハが見えない鞘から再び黒き刀身を抜いた。



 漆黒の刀風が目に終えぬスピードで殺人鬼の身体を真っ二つに引き裂く。



 が……まるで幻でしたというようにその殺人鬼の身体が薄れ消えていく。



 「ヒヒヒッ」

 不気味な笑い声が再び聞こえる。



 「……完全に遊んでやがる」

 懸命に本体の気配を探るが……霧の闇で完全に気配が読めない。



 「くっ…」

 向こうからこっちは丸見えなのだろう。

 俺の結界の隙間をつくように投擲具が精製される。

 それらを懸命に新たに作り出した結界で防ぐが……



 「……くっ」

 投擲具を結界で防ぐたび……身体の疲れていくのを実感する。

 その攻撃を防ぐたび魔力を消費している……それが疲れという感覚に直結しているのだろう。

 投擲具の威力が上がっていく。

 それは、魔力の消費量に比例するように、体力をどんどん奪っていく。



 「……いい、自分を守るのに集中しろ」

 クロハはそう言うが……



 「そう言うなよ……存在の意味が自分自身で肯定できなくなった時ほど、倦怠感に襲われることはないんだ……俺が今やれること……この世界でくらい否定しないでくれっ」

 出口の無い闇……

 匿うことしかできなくても……

 俺は、彼女の身体に傷をつけさせない……





 「よく、持ちこたえたな、小僧っ」

 そんな言葉と共に、文字通りに暗闇の空間が割れるように現実世界に引き戻される。



 「殺人鬼……この先の遊び相手は私が請け負う」

 アストリアが不敵に笑う。

 

 「リヴァーという小娘に感謝しろよ、貴様の気配をサーチしこの場所を探し当てたのは彼女だ」

 そうアストリアが言い、クロハと俺の間を割って前に立つ。



 彼女の周辺に現れる投擲具……

 彼女は余裕の笑みを浮かべたまま、右足で地面を強く叩くと、



 舞い上がった瓦礫でその迫った投擲具の攻撃を無効化にする。



 一つその隙間を縫うように投擲具が彼女の顔面に迫るが、

 それを目で追う事無く、素手でそれを掴み取ると……



 その投擲具をそのまま、殺人鬼の居る方に向かい投げ返す。



 「なぁっ……」

 フードを少し掠り、間一髪それを回避する。



 「ひぃ……」

 その投げ返された投擲具を回避するために、アストリアから目を反らした一瞬……

 すでに、目の前に迫っていた彼女。



 ガードをするも、その繰り出された回し蹴りを受け、地面を転がるように吹き飛ばされる。



 再び殺人鬼の周囲から黒い霧が現れる……





 「つまらん、逃げたか……」

 アストリアがそう呟く。



 「……凶悪過ぎないか?」

 そんな彼女への率直な感想。



 「アストリア=フォース……通称、トリアと呼ばれている、兄様と同じ3学年……表立ってる兄上とは別で、目立つ成績を残さないが……兄様に並ぶ学年トップ3に入る実力だとも噂がある……」

 そう、レインが彼女を語る。

 いや……間違いないだろう。

 あの殺人鬼を赤子のように持て遊ぶ実力……



  

 「もう少し、小僧……お前の力を見られると思ったが、彼女リヴァーの能力が憎くも優秀だったか……」

 そうトリアが言う。



 「……勘ぐるほどじゃない、どう頑張っても俺の力は貴方に及ばない」

 素直にそう思う。



 「小僧……我のようにただ魔力の高い人間はそれなりに居る……だが、小僧、お前のような能力を持った者は私は見たことがない……」

 そうトリアが俺に向かって言った。



 「……少なくとも俺があんた以上にそれ以前に並べる凶悪な存在にはなることはないよ」

 苦笑まじりにそう言う。



 「……確かに、小僧、お前が表立ち、凶悪な存在を打ち倒すような存在にはなることはないかもしれない……だが、そんなお前がなりえない英雄……そんな強者たちが守れぬもの、それを守れるものそんな存在があるとすれば……その存在の可能性を秘めている者が現れたとなれば、中々面白い話だと思わないか」

 トリアは楽しそうに笑い……



 「さて、クリア様、私の目的も今日のところで考えれば十分な成果がありました……帰りましょう」

 実に楽しそうな笑顔でトリアはクリアを連れ、その場を立ち去る。



 

 「謝罪……感謝、ありがとう」

 クロハが俺に頭を下げる。



 「感謝するべきは俺じゃなく、俺は何もできなかったんだが……」

 「まぁ……一つ言いいたいのは、何か理由あったかは知らないが、あんな危険な奴相手に一人で飛び込む真似はするな」

 そう彼女に告げる。



 「忠告……受ける、一応……」

 そう……少しだけ反省した声で言う。



 「いったい……何しにここにいたんだ?」

 そう、レインがクロハに尋ねる。



 「散歩……連れてきた」

 そう指差す先に犬やネコのような動物が5、6匹首輪に取り付けられた紐を柱にくくりつけられていた。



 「今日……もう帰る」

 「再度、感謝……ありがとう」

 そう言って、クロハが柱から紐を解き、再びこちらを向いてお辞儀をする……が、



 「ワウワウッ!!」

 (ペット)たちは一斉に吠え出すと、一斉に走り出し……主は引きずられるようにどこかへ消えた。



 「ペットを飼っているのか、ペットに飼われているのか……」

 そんな俺の問いに……



 「飼われてますねぇ」

 リヴァーが冷静に答える。





 そして休日が終わる。

 まだ……夢は続くのだろうか。



 命の危険すらあるこの場所で……



 それでも、俺は……