転生世界で能力を創造しろと言われたので防御特化にしてみた。そんな俺にできることは、その防御結界能力で仲間を英雄にすることしかなかったけど、そんな彼女たちには俺はそんな彼女たちの英雄のようだ。

 少なくてもこれは……俺が自分で選んだ人生の筈だ。

 誰にも文句を言えるはずも無かった……



 いわゆるオタク趣味……運動能力も知力も人並みかそれ以下……

 俺の青春時代と言えば……オタクなど悪の象徴だ。

 今がどうなのか……詳しくしらないが、



 オタクなんてタグをつけた人種は、クラスメイト、自称正当な人類の者からすれば、イジメの格好の餌食だ。

 そんな自分の趣味を隠すように生きて、教室の隅で隠れるように生きて……

 逃げるように生きてきた。



 やがて……就職した。

 適当に働いて、いやいやでも生活費を稼ぎ……ひっそり自分の趣味を楽しめればいい……それくらいに思っていた。



 そして、今日もそんな未来を楽観視していた自分が会社の外に出る。

 無駄に天を仰ぎ……空を見る。



 今年で何年目になるだろうか……。

 学生時代に染み付いた人間不信など消える訳がない。

 染み付いた逃げ癖が解消される訳がない。



 やっと終えた……地獄。

 解放されても……脳裏を支配するのは、また明日始まる地獄が思い浮かぶ。



 最初は自分の無能もそれほど気にならなかった。

 でも……自分の後ろから現れた後輩……

 そんな奴らにまで後ろからその背中を蹴りつけられているような……

 そんな風に感じる日々が続くようになり……



 あぁ……ここから逃げ出したい……

 そんな……毎日。



 

 あれ……?

 こんな場所に店なんかあったか?



 帰りなれた道……の筈だったが……



 「道を間違えたか……?」

 見知らぬ通りに出て、思わずそう独り言を漏らす。





 「転職屋……?」

 看板を見てそう呟く。



 ハローワークとは、別モノなのだろうか?

 そう思いながらも……まだ営業中と思われる胡散臭い店舗に目がいく。



 再度……店の看板を眺めた。



 「ん……転生……屋?」

 改めて見ると確かに看板にはそう書かれている。

 ……余計に胡散臭いその店舗……

 だが……今の精神状態の俺にはその文言は逆に興味を引いた。





 「興味がありますか?」

 背筋が凍りつく。

 店の中をドアのガラス越しに覗いていると不意に後ろから声をかけられた。



 「あ……えっと……ここって何の店なのかなって?」

 そう思わず話しかけられた女性に答える。





 「……どうぞ、中に丁度、転生者を求める者と転生者になりたいと思う者がマッチングしたんです」

 女性はそう言って、俺を店の中に誘導する。

 小さな事務所……



 「さて、それではさっそくあなたが新しい世界での能力値と特殊能力の設定に入りましょう」

 女性が唐突に話を勧める。



 「いや……何がなんだか、わからないんだけど……ここは何処であなたは誰で、今からなんの設定をするって?」

 一人パニックの俺はそう女に質問をするが……



 「看板……見たでしょ?ここは……転生したい人と転生者を求める世界を結ぶ場所で、ここはそこを結ぶための境界線のような場所で、私はそこの管理を任されている、あなたがたの世界で言うなら神様?みたいな存在になるんでしょうか?」

 女性は平然とそう言って……



 「それで、貴方の助けを求める人のいる世界であなたはその世界で生きるための能力を備わるわけなんだけど、あなたがこれから行く世界では魔力的なものが存在していてね、今からその魔力の構成をしようってことなの」

 ……このへんから、あぁ……俺は覚えていないだけで家に辿り着いたのだと思った。

 それで、疲れて……すぐに寝てしまった。

 そして、夢を見ているのだと。



 「で、魔力の構成だけど、主に100ある数値をどう振り分けるか……あなたは特別でチート能力が備わるなんて甘い事考えないようにね」

 女性は意地悪そうに笑う。



 「攻守、サポート、回復……それらに魔力の数値を振り分けて、その振り分けた魔力をどのように特殊能力と発揮するのか……イメージしてくれる?それが……そのまま新しい世界での貴方の能力になる」

 そう女性に告げられる。



 「あと……年齢は転生者を召喚した者の年齢と同じ年齢で転生するから……そのあたりは了承お願いね」

 そう付け足す。



 ……逃げ根性……それが俺。

 この世界でいつも逃げ続けた。

 誰よりも護りを固め、傷つかないように生きてきた。

 そのはずなのに……



 新しい世界……夢の世界でくらいは傷つかないで生きたい。

 鉄壁の防御が欲しい。

 魔力は守備に全振りしよう……

 その魔力の具現化の仕方……そうだな……



 そのイメージが固まると世界が真っ白な輝きに包まれて……



 夢の終わりを予感する。

 結構楽しい夢だったのに……もう少しどんな夢か続きが見たかったな。



 そんな事を考えながら、引き戻された意識で目を開く。





 「…………ん?あぁ?」

 頭の中に?が広がる。



 見知らぬ部屋……

 ファンタジーちっくな部屋……しかも女性の部屋っぽい感じの場所。



 水色の髪の女性が、目をぱちくりしながら……俺を覗き込むように見ている。



 「ん……と……えと……?」

 完全に頭がパニックだ。 





 「……あなたが、異世界の英雄?」

 完全にパニックの俺に異国の女性が告げる。



 「……夢の続きか?」

 俺はそう呟くと……右手で自分の頬をつねってみる。



 「……何してるの?」

 そう言って、彼女は右手で俺の逆の頬をつねってくる。



 「……いひゃい……」

 痛い……。

 どうなっている……



 俺の夢では……ない?

 となると……



 「……い、いひゃぁい」

 ……。

 となれば、この水色の髪の女の夢……ではないか?

 そんな仮説を立てて女性の頬をつねってみたが……



 「にゃ……んひゃほ?」

 これは……いったい誰の見ている夢なのか……

 少し涙目でなにすると問う水色の髪の女性。



 とりあえず……この不気味な夢ともう少し付き合ってみようと思う。





 「えっと……ここは何処だ?あんたは……?」

 取り敢えず……浮かんだ疑問を言葉にする。



 「私はレイン……あなたをこの世界に引き込んだ張本人よ」

 腰に手を当て偉そうに抜かす。



 「私がこの世界、このアクア家で兄様に並び恥じぬ英雄となる為、力を貸しなさいっ」

 劣等感……そういった感情には敏感だ。

 強がる彼女の表情とは別にその瞳は何処か不安そうで……



 「……力を貸せって言われてもなぁ……」

 つい先ほど、はいどうぞと言わんばかりに渡された魔力とやら……

 全く持って、まだその力を理解していない。

 それに、俺はその魔力の全てを防御の数値に割り当てた。



 

 レインと名乗った女性に連れられ、部屋の外に出る。

 割と立派な屋敷……だろうか?

 メイドのような女性が数人いて、忙しそうに廊下の掃除などをしている。



 そんな様子を珍しそうに眺めていると、

 レインに誘導され、中庭のような場所に連れて来られた。





 「さぁ……あなたの能力を見せて頂戴」

 人型の案山子……が立っている。



 「リヴァー、測定お願いね」

 そう言われお辞儀をする別の女性。

 メイド服に身を包んでいる。



 「リヴァーはサーチ能力に優れているの、彼女にあなたが私に相応しい人間かどうかを見極めてもらうわ」

 そう告げる。



 「いや……見極めるも何も……」

 本当に俺に能力が備わっていた……としても、その能力は……



 「……俺にこの案山子をどうにかする能力はないぞ?」

 その台詞に……レインは目を点にして……



 「ど……どういうことっ、私はリスクを犯してまで貴方をっ」

 そのリスクの意味するところは知らないが……



 「……お嬢様、たぶん、彼の言っていることは本当です……彼から攻撃的な魔力の根源を感じることができません」

 そうリヴァーと呼ばれた女性が変わりに答える。





 「……なっ、えっ……そんなぁ」

 明らかに悲しそうな表情のお嬢様と呼ばれた女性に申し訳なく思いながらも……





 「レイン……ここに居たのか」

 不意に後ろから声がした。



 ぞくりと……殺気のような……鋭い感覚。



 「あ……あ…に様……」

 少し怯えるような声でレインが言う。



 兄……?随分と……冷めた目。

 まるで……殺人鬼だ。

 そんな感想を持ちながらも少し離れた場所でその会話を眺める。



 「……家宝である、召喚石を貴様が持ち出したと聞いた、あれはお前がイタズラ半分で遊ぶ玩具ではない、さっさと返すんだ」

 そう冷たい目がレインを突き刺すように見つめる。



 「……兄様……それが……」

 ……そんな大事な物を無断で使って……俺なんかを呼び出しちまったというのか?

 

 「……ごめんなさい」

 深く頭を下げるレイン……

 怒られてもしかたないよな……

 ……は?



 興味無さそうに目を反らそうとした顔を再び二人に向ける。



 振り上げた拳が、レインの頬を捉え後方に弾き飛ぶ。



 「お辞めくださいっ!スコール様っ!」

 リヴァーがそう現れた男に告げるが……



 「……出来損ないの恥晒しの兄妹の教育だ、邪魔をするな」

 そう男が告げ……レインに近づくと右手に青白い光が灯る。

 あれが魔力……その魔力で実の妹に手をあげようって言うのか?



 「……!?」

 容赦なく振り下ろそうとした手が途中で止まる。



 「……誰だ?」

 振り下ろした手を止めたスコールと呼ばれた男は恐らく俺に向けて言っている。



 初めてのぶっつけ本番ではあったが……多分上手くいったのだろう。

 彼女の前に防御結界をはってその攻撃を防ごうとした。





 「何のつもりだ……?」

 ぞくりとするような鋭い目は俺に向かっていた。



 夢だか異世界だか……よくわからないが……馬鹿な俺でも知っている……

 それは、どこの世界だろうと変わらない。



 「……男の力は、女に力を振るうためにあるんじゃない」

 そう呟くように言う。



 「……兄としてその力も、妹を守るべき力だ……そんな使い方するんじゃない」

 そう続けて呟く。



 「……」

 目の前の男は無言で……気がつくと自分の目の前に立っていた。



 「……あぶねっ」

 咄嗟に魔力を右腕に集中させると、繰り出された回し蹴りをその腕で防ぐ。



 「!?」

 その一撃を防がれたのが予想外なのか、スコールという男とリヴァーとレインが信じられないというように見ている。



 さらにスコールは攻撃の手を緩めず、魔力が篭った攻撃をしかけてくるが……それらを魔力結界を両手にまとわせるように張り巡らせ、その攻撃を防ぐ。

 反撃の意思があるかは、微妙だが……防戦に徹する。

 というか……防ぐしかできないというのが現実だ。



 「何者だ……貴様っ」

 未だ、自分の攻撃が防がれている事が信じられないというように男が言う。

 



 名前か……空を見上げる。

 その青を象徴するかのように……その存在を主張する、彼、彼女たち。



 俺といえば……何色にもなれない無色。

 色無き存在。



 「……レス」

 俺は……この世界でそう名乗る事にした。









 「お食事です……お口に合えば宜しいのですが」

 そう言われ、リヴァーに出された食事を眺める。



 見た感じ、自分の知る世界の料理とほとんど代わり映えは無い。



 「……うん、美味い」

 そう答えると、取り敢えず目の前の女性が安心する。





 「お嬢様の兄であるスコール様は、レイン様共に通う学園で、生徒会長をも務める学園切ってのエリートです」

 興味無さそうに食事をしながら聞いて、その言葉を噛み砕く。



 「……お嬢様は、その兄や家族に恥じぬよう、その期待に答えようと必死なのです」

 そうリヴァーが続ける。



 「……目が覚めればさ、また……俺は俺の住みなれたつまらない世界に戻るのかもしれない……」

 夢半ば……



 「……リヴァーさんが作ってくれた料理の味も……あの俺なんかを召喚したお嬢様の劣等感も……悪いけど、その兄に抱いた嫌悪感も……本物なのかもまだ曖昧だ……」

 その言葉を少し不思議そうにリヴァーは聞いている。



 「せっかくの能力……そのお嬢様のためにももっと、この世界で役に立つ最強の能力をイメージできれば良かったのだろうけどな」

 そう呟く。





 「……いえ、能力を不使用だったとはいえ、あのスコール様の魔力を込めた打撃を生身で受け流す……正直そんな者が存在するとは思いませんでした」

 そう評価される。

 そのスコールと呼ばれる兄様とやらは、余程の攻撃魔力の高い奴なのだろう。

 まぁ……鉄壁だけが取り得だからな。

 

 「……転生……ね」

 与えられた部屋の鏡の前に立つ。

 レインと同じ16歳くらいまでの年齢まで若返った身体。

 どうせなら、顔もイケメンにするくらいのオマケが欲しかったが、

 それは、まぁ……。



 「レス様……貴方がここに召喚されたのはきっと何かの運命だと思います……どうかお嬢様……レイン様の救世主になってください」

 そうリヴァーが自分ごとのように頭を下げる。



 「……俺は前に立つのが嫌いだ……注目をされるのが嫌いだ……」

 その言葉にリヴァーが不安そうな顔をする。



 「生憎、俺の能力というのは、誰かを守る事だけに特化している……この能力がお嬢様とやらを英雄にしてやれるかはわからない……そんな俺が優勢に対抗できる手段なんてものは限られている……その程度の男ができる英雄で本当にいいのか?」

 その言葉に、リヴァーは嬉しそうに笑顔を作り



 「はい……お願いします」

 まるで、自分ごとのように喜ぶリヴァー。













 目を開ける……目を覚ますという感覚。

 見慣れない天井。



 まだ……俺は夢を見続けているのだろうか?





 「おはようございます」

 俺がベッドから起き上がると同時にリヴァーが部屋に訪れる。



 ダイニングテーブルを押して俺の前に立ち止まる。



 「良ければ、顔を洗ってください」

 桶に汲まれたぬるま湯とタオルがテーブルの上に置かれている。

 取り敢えず言葉に従い、顔を洗いタオルで顔をふいていると……



 「朝食です……」

 続けて、下の段と上の段を入れ替えるように、朝食を並べる。



 「それ……?」

 何やら衣服を大事そうに抱え、俺の朝食を終えるを待っているリヴァーを横目に尋ねる。



 「今日から、レス様も通う学園の制服になります」

 ……その台詞に思わず青ざめる。



 「……学園?」

 そんな場所に再び通う羽目になるとは……



 相変わらず美味な料理。

 朝食を済ませると俺は用意されたっ制服に身を包む。



 かつての俺の中二心を擽るデザインの制服に少しだけ歓喜してしまう。





 リヴァーに連れられ、一人早めに学園に向かわせられた。

 入学テストとような行事を受けさせられる。



 防御一線の自分にアピールできる能力は無い。

 異世界から来た自分にこの世界の歴史や学問に知識などない。

 恐らく、そのテストの結果とやらはさぞ、最悪なものであろう。





 1学年、クラスは3つ……そのクラスに入学テストの結果の能力を平等に分散するように振り分けられている……らしい。

 それとは別の特別クラス……



 別け有りクラス……そこに俺は割り当てられた。

 言えば……出来損ない、はみ出し物の集まりだろうか。



 「全く……こういう時期に転入してくる奴ってのは、同じはみ出し者でも不正能力を持った、チート級じゃねーのかよ」

 担任と教師と思われる少し乱暴な口調の女。



 

 「解り易い劣勢者で申し訳ありませんね……」

 教師の後ろを歩き、割り当てられるだろう教室を目指す。



 「解り易い?そんな生易しい存在ならこのクラスに割り当てられず普通に3クラスのどこかに劣勢者として平等に分散されてるんだよ」

 そう担任の教師と思われる女が言う。



 「魔力の数値は平均以上の値を叩き出してはいるんだ……だが、お前は先のテストでその能力を披露していない……それはお前が捻くれているだけなのか……それともそうせざる得ない何か……があるのか、どちらにせよ、得体の知れない存在だよお前」

 乱暴な口調で教師は続ける。





 通された教室で……つまらない自己紹介の挨拶を済ませる。

 見知った顔が二人。

 レインとリヴァーの二人。

 少しだけ安心するのと同時に……

 優等生の家計であるレインも、このはみ出しもののクラスに割り当てられていた事。

 リヴァーもこの学園に通っていて、同じようにこのクラスに割り当てられている事だ。



 だが、与えられた席は二人からは程遠い。

 自分的には好みの一番後ろの窓際の席。



 隣の席の女性が不思議そうにこちらを見ている。



 白い髪……眼鏡から覗く瞳は少しだけ大人びて見える。





 「ども……宜しく」

 目が合って思わずそんな挨拶をして頭を下げる。



 「クリア=スノーです……レスさん、宜しくお願いします」

 丁寧に頭を下げ挨拶を返してくる。



 すぐに自分の机に目を向けると、次の授業で使うだろう教科書を広げている。



 「……って、え?」

 そういや、俺……

 思わず持って来た転生時に一緒にこの世界にやってきたバックを開ける。



 出て来たのは、自分の大好きな漫画の本や小説……

 いや、俺の人生の教科書バイブルなのは確かなのだが……



 この世界からすれば不思議な書物だろう漫画や小説をパラパラ広げながら苦笑いする。

 その様子を不思議そうにながめるクリアと名乗った女性に目を向ける。



 「教科書……見せてもらっていいかな?」

 そう……クリアに尋ねる。



 「……はい……」

 その……訳もわからず返す彼女の興味は俺ではなく……別の場所にあるようだった。



 「あの……さっきの書物は?」

 少し間隔の空いていた席をつめ、クリアの横に並ぶとすでにクリアの興味は別に有り、その興味に逆らえないとばかりにそう質問をしてくる。



 自分が別世界から召喚された者だというのは……そう紹介されたのですでにクラスの者が理解している。

 

 「小説や……漫画……この世界にもあるかはわからないけど、なんだろ……作者の考えた物語を文字や絵に書きおこしたモノ……とでもいうところかな?」

 そう表現する。





 「……小説はこの世界にもあるのですが……漫画……凄いです、こんな考えた物語を表現する方法……」

 手渡した漫画を興味深そうに眺めるクリア。

 別に自分が描いたものでは無いにしろ、やはり自分が好きなものにこうやって興味を持ってくれるのは嬉しいものである。



 「この世界に持ち込めたものだけで良かったら、貸してあげようか?」

 少しだけ踏み入ってみる。



 「え……ほ、本当ですか?」

 手にした本を大切そうに胸元に抱え大げさに驚く。



 「あ…うん、教科書を見せてもらうお礼」

 そう理由をつける。



 3時限目の授業を終え……ようやく見つけたお手洗いから教室に帰還する。

 目立たないよう心がけては居たが……

 転生、転入……この二つのワードは十分に……少なくともこの数日の間は人の興味に触るのかもしれない。





 「……えっとレス……なんだっけあいつ」

 素行の悪そうな集団……

 

 「何処の世界にもいるもんだな……」

 ……思わず口に出す。



 「……あぁ、何か言ったか?」

 威圧するようにガンを飛ばしてくる。



 「いえいえ……勘弁してくださいよ」

 情けない……でも昔からの俺に染み付いた、

 上手く生きる方法……



 「返してくださいっ!!」

 自分の席の方からそんな叫び声がする。

 思わず、そちらに目を向けると……



 この男と同じ集団に属していると思われる女がクリアから何かを取り上げ、

 クリアが必死にそれを取り返そうとしている。



 「なにこれ、うけるーーー、ヴァニ、こいつなんか変なもん見てたんだけど」

 クリアに貸した漫画の本。

 何処の世界でも……このような人種は浮いてしまう。

 浮いた人間の行き着く場所は決まって惨めな場所だ。



 女はヴァニと呼ばれた俺に絡んだ男にその本を投げて渡す。

 

 俺が生きて来た教訓……こういった人間には関わらないことが一番。

 そのつもりだったが……





 「返して下さいッ!!」

 震えながら、男の前に立ち塞がる……白い髪の女性。



 「……ははは、クリア行こう、また違うの持ってくるから……な」

 そう説得して一緒に席へ戻ろうとする。



 「小説……だっけ?こいつの頭の中の妄想みたいなの……そういうの書くのが趣味なんだよな、なにコレ、その妄想のいきついた先?」

 その言葉に周囲がゲラゲラと笑っている。

 悔しそうにする……クリアの顔に……



 次第に笑い声や周りの言葉が脳内にぐるぐると回るように……聞き取りにくくなる。

 無難に生きることは得意な筈だったのに……

 怒りを誤魔化して生きるのは得意なつもりだったのに……



 ガンッと激しい音と共に、俺の目の前の机が天井にぶつかるように浮いた。



 ドンッと机がヴァニと呼ばれた男の近くに落ちた。



 「……ねぇ、今の台詞言ったの誰?」

 静まり返った教室の空気……そんな事すら気づけないほどに俺はどうかしていた。



 「……何が?」

 ヴァニが近寄ってくる。

 先の台詞がこの男の言葉だったかは解らない。

 それでも、その言葉の責任を負う事を恐れる理由がないヴァニは、俺の行動と言動が面白くないと目の前に立ち塞がっている。



 「……別に他人の趣味を理解しろなんて言わない……」

 負けじと冷たい目で目の前の男をにらみ返す。



 「……訂正しろよ……その好きの凄さや喜びがわかんねー奴が、他人の好きなものを笑うなっ!」

 凍り付いている教室……



 「!?」

 繰り出された一撃を咄嗟に両手に巻きつけた防御結界で防ぐ。

 その勢いで数メートル床に足をついたまま後退する。



 俺が防御特化というなら、この男は攻撃特化というところか……



 この素行の悪さがなければ、普通の3クラスでも上位の魔力成績を所持しているのではないだろうか?



 「えっ……ヴァニのアレを防いだの?」

 ヴァニの集団であった女の一人がそうぼそりとこぼす。



 「馬鹿……まだ、本気じゃねぇ……調子に乗るな、転入生っ」

 そうヴァニと呼ばれた男は魔力を解放する。



 両手に手甲のようなものが現れる。

 魔力で具現化された武装だろうか……



 かっけぇな……思わず余計なことを考える。



 「あぶねっ……」

 繰り出される攻撃を魔力を集中させ丁寧に防いでいく。

 防御魔力に全振りした能力だ……

 その通常であれば鉄の壁すら簡単に破壊しそうな一撃を、

 まるで、普通のパンチを防ぐ感覚で無力化する。



 「……なんだ、てめぇ……その力」

 無敗とは言わないだろう……

 だが、この己の攻撃をことごとく無力化されたことはなかったのかもしれない。

 男もその周囲のクラスの人間も……静かにその様子を見入っている。



 だが……レインの兄と対峙した時と同様。

 防戦に徹する。



 活きこんで……殴られているだけ……とか……

 



 「守ってやる……クレア……」

 ぼそりと呟く。

 勝手な押し付けだろうか……



 「お前の好き……は、俺が守ってやる」

 諦める事無く繰り出される攻撃を防ぐ。

 さて、防御だけのこの能力でどう……これを抗う?



 考える……



 「疑問だったんだ……」

 そう過去の疑問を思い返す。



 「矛盾という言葉……その意味はもちろん……」

 最強の矛と最強の盾はどちらが……優れているのか……それはもちろん。

 その最強の矛に肩を並べる盾で人を攻撃したら……どうなるのか?

 同様に疑問だったんだ……



 両手には目の前の強力な攻撃を防ぐ腕がある……

 

 教室は静かに静まり返っていて……



 繰り出された一撃を耐え、再び攻撃に備える……そのルーティンを崩す、



 防御に特化したその腕を振り上げる。





 「どうなっても、しんねーぞっ!!」

 繰り出した、ヴァニの拳と、俺の防御特化の拳がぶつかり合う。



 ぶつかり合う拳……ヴァニの手甲にヒビが入りその手甲が砕け散る……

 繰り出した右手がそのまま、ヴァニの頬を捉え、そのまま俺の体重を乗せた一撃がヴァニを吹き飛ばした。



 クリアも……初めは興味無さそうにしていたレインも気がつけば、席から立ち上がりその様子を見ていた。





 「目立つのは……好きじゃないんだけどな……」

 登っていた血が下がると……現状に後悔するようにそう漏らした。








 目を覚ます……

 夢は……続いている。



 「……やっちまったな」

 レインの住む……アクア家。

 彼女の家にあたり前のように住み着いている。

 

 「……本当に許せなかったんだよ」

 そう言い訳するように、独り言を呟いた。



 「まったく……転入早々問題起こさないでよね」

 独り言に反応が有ったことに驚き、慌てて身体を起こす。



 「私は素敵だと思いましたよ、クリアさんを想い、凶悪な相手に立ち向かう姿、賞賛致します」

 俺が寝ている間、二人で団らんしていたのだろう。

 部屋のテーブルのあたりでくつろぐように二人がこちらを見ている。



 「まぁ……あのクラスのお山の大将を黙らせたのは、私もちょっとだけ評価してあげるわ」

 少し上からの目線でそうレインが言う。



 「……あの後、お嬢様、自分の事のように嬉しそうにレス様のこと絶賛していたんですよ」

 光景を思い出すようにリヴァーは笑いながら……



 「おい、見たかリヴァー、レスがスパーンッとあのヴァニをぶっ飛ばしたぞ!さすが私が召喚した男だって」

 そうレインのモノマネをするように笑いながら語る。



 「馬鹿……言うなっ、ちょっと褒めただけだ、まだ認めたわけじゃないっ、ちょっとだけ認めただけだ」

 片目を瞑り、両手を両脇に沿え、偉そうな姿勢でそうレインが言う。





 あの、ヴァニという男がどれ程の奴かは知らない。

 それでも……俺の防御特化の魔力。

 

 あの転生屋の女に、俺に100の数値の魔力を振り分けろと言われた時。

 どうすれば……100以上の魔力を引き出せるかを考えた。



 防御値をもし……攻撃に変換するような方法があるのなら……

 そう考えたとき……

 その防御魔力を身にまとう事ができれば……



 上手くいったのだろうか……

 わからないが、少なくともあの男を吹き飛ばせるだけの変換能力はあったことになる。





 「……兄様とやらは、あの不良より強いのか?」

 その答えは……魔力というものに馴染みが無い自分にも解る。

 あの殺気のような鋭い魔力。



 「……別次元だ」

 そうレインがぼそりと言う。



 「兄様と比較される事がどれほどのプレッシャーか……」

 そう……遠い目でレインが言う。



 「プレッシャーか……」

 誰に望まれるわけでもない……

 きっと誰でも無い自分自身に……認められたいのだろう。



 そうすれば……あの男と彼女は解りあえるのだろうか?

 





 ・

 ・

 ・





 3時限目の授業を終える。

 一人寂しくトイレで用をすませると、すぐに教室へと向かう。



 「あぁ、なめんじゃねーぞっ!」

 聞き覚えのある、威圧的な罵声。





 教室の前で何やら当クラスの問題児が別のクラス数名ともめているようだった。



 「俺は君たちのために良心的に言ってあげてるんだよ」

 メガネで知的……何やら上級民臭あふれる男……

 もっとも、あのヴァニと言われる男が嫌いそうなタイプだ。





 「君たちに、3日後のクラス対抗の交流戦……てめぇら恥晒しは出ないほうがいいよって言う忠告をしてあげてんだよ」

 見下すような目で……ヴァニという男を軽くあしらっている。



 「……魔力、知力、チームワークどれ一つも優れない劣勢なお前たち……ねぇ、生きてて恥ずかしくないの?」

 そうメガネの男が言った瞬間、ヴァニの右腕が燃え上がるように魔力が解放され、魔力の手甲が装着されると同時にその顔面を目掛けパンチを繰り出す。



 メガネの男は一瞬焦ったような表情を見せるが……

 ヴァニの拳は男の寸前で止まる。



 取り巻き数人がヴァニを取り囲み、どうやら魔力によりその動きを拘束されているようだった。

 

 「残念だったね……これで目を覚ませよ」

 そう男が言うと、目の前に銀色の巨大な拳が創り出される。



 「製造……魔法?」

 俺はぼそりと呟きながら様子を見ていた。



 拘束され身動き取れないヴァニ……黙って自分にその巨大な拳が迫るのを待つ。



 思わずヴァニがその衝撃に備え顔を伏せるが……



 「なっ……何だ?」

 ヴァニの拳が迫ったときに見せた嘘の表情を、今度は偽りなく表情を作る。



 

 「残念だったね……悪いけど通してくれ……教室に戻れない」

 防御結界でその一撃を防ぐと、俺はそれ以上かかわるつもりもなく通り過ぎようとする。



 「噂の……異世界からの召喚者という奴か……まぁいい、君からも言っておくのだな……交流戦で恥をかきたくないなら辞退しろと」

 そう、再び冷静さを取り戻す。



 「……そうだな、気が向いたら言っておく……それはそうと、あんたはさ、自分より劣勢だと思う奴を捕まえて、わざわざ自分は優勢ですと誰でも無い自分に言い聞かせて自分自身を騙すことでしか、自分を優勢だと評価できないのか?それ……生きてて恥ずかしくないの?」

 そう捨て台詞を吐いて教室へ戻る。

 怒り狂う声が外からするが、教室の中まで追ってくる様子は無さそうだ。



 自分の席に戻ると……

 ヴァニも同じように俺の方に向かってくる。



 あいつの席は別のような気がするが……



 ヴァニは俺の前の席の椅子を掴むと俺の席の前に置き、

 椅子に跨るように座り、背もたれの部分を腹をつけ、

 背もたれの上部に両腕を置くように俺と向き合うように座った。



 「2、3発殴ったって文句いわれねーだろ」

 「おぃ!レス、悔しくねーのかよっ」

 イライラした様子でヴァニが言う。



 「……えっ?」

 なに、この状況?

 思わず?が浮かんでいる。

 いや……恐らく教室全体がそうだろう。



 「なぁ……レス、俺とお前ならあんな奴らに絶対に負ねーって」

 昨日の……険悪が嘘のような……

 昨日の敵は……今日の友、そんな熱い奴なのか……こいつは?



 「……なに、固まってんだよ?」

 不思議そうにヴァニが聞いてくる。



 「あ……そっか、俺はヴァーニング=フレイム」

 そうヴァニが名乗る。



 「まぁ、呼びにくいだろ……ヴァニでいいぜ」

 一方的に会話が続いていく。



 「レス……お前と俺が組めば、クラス交流戦、絶対いいとこまでいけるって」

 そう嬉しそうにヴァニが言う。



 「……その、なんだ……交流戦?」

 俺の知る、運動会や球技大会のような類のものだろうか?





 「そっか……レスはまだしらねーのか」

 そう一人納得している。



 「3日後に……クラス対抗の競技がある、あんな奴らにコケにされたままなんて納得いかねー、なぁ、レス俺と手を組もうぜ」

 そう……熱く語られるが……



 チャイムが鳴り、ヴァニが席に戻るため、立ち上がる。





 「まぁ……レスもまだこっちに着て、情報が混乱してるんだろうからな、また勧誘しにくるわ」

 そうヴァニが背を向け立ち去る。



 「それと……さっきはありがとな」

 ……惚けるように何の事?という顔を返す。

 先ほど、廊下での出来事だろう。





 「レス……お前も見ておくべきだったぜ、レスに生きてて恥ずかしくない?って返された時のあの野郎の顔、傑作だったぜ!」

 ヴァニは思い出すように笑いながら席に戻る。





 「……っと」

 そして、ヴァニはクリアの席の前で立ち止まると……



 「……ケジメだけはつけとかないとな」

 そうヴァニが呟く。



 「その……昨日はすまなかった……」

 そうクリアに頭を下げる。



 「……いえ、昨日の台詞はヴァニさんが言った言葉じゃないの知ってますから」

 クリアも笑顔で、ヴァニを許す。





 クラス対抗の交流戦……

 どんな内容かはわからない……



 正直、それほど興味も無い。

 俺はそこで目立とうとは思わない。



 それでも……俺の力で……

 守ることしかできない力で……

 この劣勢と呼ばれた者たちに……

 少しくらい、陽を浴びる景色を見せてやれないだろうか……



 ガラッと教室のドアが開き、教師が入ってくる。

 ……と、教科書を見せてもらうため、席をクリアの側に近づける。



 クリアは少し恥ずかしそうに教科書を俺の席に半分渡した。



 「いつまでも迷惑かけてごめんな……」

 そう謝罪する……が、この世界の金も教科書の買い方もわからない。

 呼び出されたとはいえ、住む場所と食べ物を与えられてる宿主にそれを強請るわけにもいかない。



 「いえ、ぜんぜん迷惑じゃありませんっ!!」

 なぜか力強くクリアが返す。







 「……そうだな、明日の休みにでも、レスを街を案内すると同時に教科書を買いに行くとしよう」

 放課後……事情を知ったレインはそう告げる。



 「そうですね、最低限案内しておいた方がいい場所はいくつかありますから」

 そうリヴァーも付け加える。



 「え……教科書……買ってしまうの?」

 何故か困ったように会話を聞いていたクリアが尋ねる。



 「それはな……教科書が無いとレスも今後困るだろ」

 そうレインが返すが……



 「……わたしと一緒に、見るので困りません」

 何故かそっぽを向いてぼそりとクリアが返す。



 「そんなもん、いつまでも続けるのを許すわけなかろうっ」

 レインが少し叫ぶように言う。



 「そもそも、コイツの所有者はこの私な、の、だっ!」

 俺を指でさしそうクリアに告げる。



 「……いつも自宅で一緒に居られるんだから、別に少しくらいいいじゃないですか」

 また、顔を反らし、クリアが言う。



 「どいつも、こいつも、私のモノを無断で使用しようとしおって」

 そう不機嫌な様子でレインが言う。





 「……人を物みたいに言うな」

 取り敢えずそう突っ込むが誰にも届かない。



 「どいつも……こいつも……?」

 自分以外にいったい誰を指しているのか……クリアが疑問に思う。



 「第3のヒロイン、ヴァニさんですね」

 何故かリヴァーが嬉しそうに胸の前で手を叩きながら言う。

 謎めいた事を言うので取り敢えず今度は俺が聞こえてないふりをする。



 どちらにしても、街の案内をしてもらうのは必要だろう。



 ギャーギャーと喚くレイン。



 少しキャラに似合わずそれにムキに受け答えするクリア。



 それに時たま楽しそうに合いの手を入れるリヴァー。

 何をそんなに言い争っているのかはわからないが……





 それは何だか凄く楽しそうに見えた。



 夢……を見ているのだろうか。

 知らない世界に来てしまったのだろうか。



 わからない……



 俺にこの世界に英雄になれるような……大きな力はない。

 俺にあるのは、何かを守るための魔力。



 守れるだろうか……

 この風景を……

 

 いや……表には立てない俺のこの魔力……

 



 「守ってやる……レイン、クリア……リヴァー」

 そう呟いた。



 「……?」

 ギャーギャーと騒いでいた3人が不思議そうにこちらを見ている。

 

 「あぁ、ごめん……なんでもない」

 この世界に来てまだ数日……

 それでも……



 「本気で守りたいものが……できたんだ」

 ありがとう……

 俺は彼女たちに感謝する。













 夢を見続けること……

 召喚されること、4日目……



 学園の休日、ということで俺はレインとリヴァーに連れられて、

 商店街を歩いている。



 外のテントに直接商品を並べ、様々な食べ物が売られている。

 

 「ふーーん」

 全く理解していないが何となくその雰囲気を見ながら何かを理解したような声をあげてみる。



 「もしかして、もうこの世界のこと理解できたのですか?」

 驚くようにリヴァーが尋ねてくる。



 「いや……全然わからん、それを理解した」

 そう返す。



 「はぁー」

 レインが呆れたようにため息を漏らす。





 「んっ?」

 だが、すぐにレインの目が何かを見つけると輝きを取り戻す。



 「リヴァー何やら新しい店が出てるぞ」

 スープ……シチュー……俺の知る料理名で現すならそんな感じのもの。



 「駄目ですよ、お嬢様」

 そうレインを止める。



 「少し味見をするだけだ、ケチケチするな」

 そう少し不服そうに言う。



 「ここ数ヶ月で1キロ……増えましたよねお嬢様」

 そうリヴァーが告げる。



 「ぐぬ……」

 レインが言い返せなくなる。

 サーチ能力……確かリヴァーさんが所有する能力がそんな感じのことをレインが最初に言っていたな。

 この人には秘密の一つや二つ筒抜けになってそうな気がする……。

 一番敵にまわしてはいけない人かもしれない。



 「さぁ、本屋に向かいましょうか」

 そう言ってレインの背中を押すようにその場を離れ、目的地を目指す。





 「……ここか」

 さすがに建物の中に店が有る。

 本棚に色々な資料がつまっている。

 



 「……なんか、こういう本棚にぎっしりと本がつまってる様子、見てると安心するんだよな」

 俺がそうぼそりと言うと。



 「……そうか……目当てのものを探すのが大変なだけだろう」

 そう、レインに返される。



 「私はそれわかりますっ……巻数とか欠けるとすごく落ち着かないんですよ」

 ……俺、レイン……そしてリヴァーが声の方に顔を向ける。



 「……あっ…えっと、こんな場所で偶然ですね」

 白くきれいな髪……クリア=スノーという名前がぴったり当てはまるようなそんな容姿の女性。



 何故か沈黙が続く……

 レインに関しては=の中央に・を入れたような目をしている。



 「……絶対偶然じゃないよなっ……貴様っ!」

 クリアを指差しレインが叫ぶ。



 「放課後、我々の会話を聞いていて、ここに来るとはっていたのだろうっ!」

 全てお見通しだと言いたそうな目でレインが続ける。

 

 「な……私は文学が好きなのでよくここに来るんです!」

 目を反らし否定するクリア。



 「おい、リヴァー、あやつをサーチしろ」

 冷ややかな目で再度、クリアを指しそうリヴァーに命令する。



 「人を嘘発見器みたいに使わないで下さい」

 リヴァーは優しくそれを拒否する。

 絶対服従の忠実な関係かと思っていたが……リヴァーはしっかりしていると感心する。



 「そうだ……レスさん、良ければ……お借りした本を参考に私がこの世界の小説でお勧めできそうなものをいくつか探してみました」

 クリアがそう、目線をレインから俺に切り替える。



 「あっ……本当か、助かる」

 確かにこの世界でそういったものがどんなものなのか……

 異世界による異世界物語……そんなものも存在するのか?

 そんなクリアの誘惑に簡単に乗っかり、クリアの方に歩いていくが……



 ガシッと掴まれた腕が鎖に繋がれた動物のように動きが制限される。



 「レス……お前……この店に来た理由覚えているのか……」

 冷たいレインの声。



 「……俺の教科書を買って頂くためです……」

 そう答える。



 「思わぬ邪魔が入ったが、本来の目的を果たして帰るぞ」

 そうレインに言われ、大人しく従う。



 「……邪魔?私に言わせれば貴方ですけど」

 顔を伏せ聞こえないように不貞腐れた顔でクリアがぼそりと言う。





 「それじゃ、全部で1200キャッシュになります」

 会計の場でそう告げられる。

 キャッシュ……これが通貨のようなものだろうか。



 レインがなにやらカードのようなものを取り出し、目の前の機械に入れる。



 「ありがとございます」

 なにやら、取引が成立したようだ。

 クレジットカード?みたいな仕組みなのか……





 店から外に出る……

 ぞくりとする……



 殺気……

 レインの兄に感じた、強大な魔力……

 まるで本能が、危険を身に知らせるような……恐怖に近い感覚。



 「クリア様、遅いので心配しました」

 褐色の肌……その肌とは逆の真っ白な髪……



 「アストリア……今日は護衛はいいって言ったのに」

 店の壁に背をつけるように待っていた者にそう告げる。



 「最近、この辺に殺人鬼が出るって、話しですからねー、私が護衛の任務を請け負っている以上は、クリア様に一時的に命を解かれていたなんて言い訳はできませんから……」

 そうアストリアと呼ばれた女性がクリアに近寄ってくる。



 「目当ての異性には会えたのですか?」

 そう不敵に俺に笑みを浮かべ言う。



 「……えっ、だから、それはっ!!」

 クリアが慌てて否定しようとするが……



 「やっぱりな……」

 冷たい目でレインがクリアを見ている。



 「ふむ、余り活気の感じられんが……なるほど」

 一人、女が納得しているように俺を見ている。



 「先ほど、殺気を当てた時に咄嗟に放った魔力を考えると……追い込まれないとやる気を出さんタイプか」

 勝手に何かを分析しているようだ。





 「なんだ?」

 露店の並ぶ商店街の方からキャーという悲鳴が上がる。

 そう言葉にしたレインと共に全員がそちらを向く。



 再び殺気の塊のような魔力を感じる……



 「切り裂き……切り裂きのミストだ!!」

 村人の叫ぶような声……と悲鳴が次々と響き渡る。



 「切り裂きのミスト?」

 ……俺のそんな疑問に……



 「先言った、ここ最近、この辺を賑わす殺人鬼の名だ……ミスト=ダーク」

 そうアストリアと呼ばれた褐色の女が説明する。



 ……俺が助けに行って……どうにかなるものなのだろうか。

 それとも……下手な正義感など捨てて、己を弁えここに居る者を安全な場所に逃がすことが優先か……





 「……それが正解だ」

 俺がレインたちを見渡す様子を見て、全てを読み取ったかのようにアストリアが告げる。





 「切り裂きのミスト……私が引導を渡す」

 切り裂きのミストと呼ばれる深くフードを被った人間。

 フードの奥の闇にかすかに見える顔は、正体を隠すように仮面をつけている。

 その前に……一人の女性が飛び出した。



 「……何処の馬鹿だあれは……」

 呆れたようにアストリアがその遠くに見える女性に向かい言う。



 「……あれ、クロハじゃないのか?」

 そうレインがその女性の名を呼ぶ。



 「間違いありません……同じクラスのクロハ=シラヌイさんですね……」

 リヴァーもそう続く。



 同じクラス……それでも見捨てるのか……守るべきものを考えるが……

 取り返しのつかない事態にはなりたくない……

 そう考え足を動かす……が……



 ミストと呼ばれる殺人鬼から黒い霧のようなものが吹き出す。

 あっという間に周囲を包み……まるで別次元に飛ばされたように誰一人の気配を感じ取れなくなった。





 まるで空間が抜き取られたかのように……

 取り残されたのは……クロハと呼ばれた女性とフードの殺人鬼……

 そして、咄嗟にその空間に踏み込んでしまった俺の3名。



 「あら、一人……余計なものが紛れこんだみたいね……」

 フードの殺人鬼が言う。



 「……女?」

 何処かこの手の奴は男だと勝手に決め込んでいたため、その声に少し戸惑う。



 「……?あなた……転入生?」

 ぼそりとクロハが言う。



 「あ……あぁ……クロハさん……って言うんだよな?」

 俺の言葉に不思議そうな顔をする。



 「いや……ごめん、一緒にレインたちと居たのだが……どうやら俺だけ巻き込まれたみたいで……」

 そう名前を知っていた理由を説明する。



 「いい……離れろ、巻き込みたくない」

 そうクロハが俺に言う。

 そういって、剣の柄の部分しかないものを取り出す。



 右手に握り正面に構え、左手を右腕に添える。



 「……えっ?」

 刃の無い武器……

 何をするつもりなのか……



 「小鳥丸(コガラスマル)……抜刀」

 そうクロハが言葉にすると……

 

 刃の無かった柄から……漆黒の刃が現れる。



 「……かっけぇ」

 思わず口にする……



 「ヒヒヒッ……」

 殺人鬼の奇妙な笑い声。

 そうだ……ここは奴のテリトリーの中……



 言えば……俺たちは殺人鬼の能力にすでに取り込まれている。



 「ムダッ」

 クロハが突然そう言うと、漆黒の刀を振るうと、突如現れた投擲される武器を弾き返した……



 「ヒヒヒッ」

 殺人鬼は笑う……

 まるで……この状況の余裕を楽しむかのように……



 次々と現れる投擲具をその漆黒の刃で弾き返すが……

 その攻撃がやむ事が無い。



 漆黒の刃より先に、透明な結界が投擲具を防ぐ……



 「なに!?」

 クロハが驚いたように声をあげる。



 「それらは俺に任せてくれ」

 少しだけ目が慣れてきた……

 目の前の敵に集中できるようこっちは俺が引き受けよう。



 「感謝……ミスト、覚悟!」

 単語を淡々と口にする……



 クロハは腰を落とし、斜に構える……

 存在しない鞘に刀を納めると漆黒の刀身が再び消える。



 「刀技……光芒(こうぼう)

 そう言葉にし、クロハが見えない鞘から再び黒き刀身を抜いた。



 漆黒の刀風が目に終えぬスピードで殺人鬼の身体を真っ二つに引き裂く。



 が……まるで幻でしたというようにその殺人鬼の身体が薄れ消えていく。



 「ヒヒヒッ」

 不気味な笑い声が再び聞こえる。



 「……完全に遊んでやがる」

 懸命に本体の気配を探るが……霧の闇で完全に気配が読めない。



 「くっ…」

 向こうからこっちは丸見えなのだろう。

 俺の結界の隙間をつくように投擲具が精製される。

 それらを懸命に新たに作り出した結界で防ぐが……



 「……くっ」

 投擲具を結界で防ぐたび……身体の疲れていくのを実感する。

 その攻撃を防ぐたび魔力を消費している……それが疲れという感覚に直結しているのだろう。

 投擲具の威力が上がっていく。

 それは、魔力の消費量に比例するように、体力をどんどん奪っていく。



 「……いい、自分を守るのに集中しろ」

 クロハはそう言うが……



 「そう言うなよ……存在の意味が自分自身で肯定できなくなった時ほど、倦怠感に襲われることはないんだ……俺が今やれること……この世界でくらい否定しないでくれっ」

 出口の無い闇……

 匿うことしかできなくても……

 俺は、彼女の身体に傷をつけさせない……





 「よく、持ちこたえたな、小僧っ」

 そんな言葉と共に、文字通りに暗闇の空間が割れるように現実世界に引き戻される。



 「殺人鬼……この先の遊び相手は私が請け負う」

 アストリアが不敵に笑う。

 

 「リヴァーという小娘に感謝しろよ、貴様の気配をサーチしこの場所を探し当てたのは彼女だ」

 そうアストリアが言い、クロハと俺の間を割って前に立つ。



 彼女の周辺に現れる投擲具……

 彼女は余裕の笑みを浮かべたまま、右足で地面を強く叩くと、



 舞い上がった瓦礫でその迫った投擲具の攻撃を無効化にする。



 一つその隙間を縫うように投擲具が彼女の顔面に迫るが、

 それを目で追う事無く、素手でそれを掴み取ると……



 その投擲具をそのまま、殺人鬼の居る方に向かい投げ返す。



 「なぁっ……」

 フードを少し掠り、間一髪それを回避する。



 「ひぃ……」

 その投げ返された投擲具を回避するために、アストリアから目を反らした一瞬……

 すでに、目の前に迫っていた彼女。



 ガードをするも、その繰り出された回し蹴りを受け、地面を転がるように吹き飛ばされる。



 再び殺人鬼の周囲から黒い霧が現れる……





 「つまらん、逃げたか……」

 アストリアがそう呟く。



 「……凶悪過ぎないか?」

 そんな彼女への率直な感想。



 「アストリア=フォース……通称、トリアと呼ばれている、兄様と同じ3学年……表立ってる兄上とは別で、目立つ成績を残さないが……兄様に並ぶ学年トップ3に入る実力だとも噂がある……」

 そう、レインが彼女を語る。

 いや……間違いないだろう。

 あの殺人鬼を赤子のように持て遊ぶ実力……



  

 「もう少し、小僧……お前の力を見られると思ったが、彼女リヴァーの能力が憎くも優秀だったか……」

 そうトリアが言う。



 「……勘ぐるほどじゃない、どう頑張っても俺の力は貴方に及ばない」

 素直にそう思う。



 「小僧……我のようにただ魔力の高い人間はそれなりに居る……だが、小僧、お前のような能力を持った者は私は見たことがない……」

 そうトリアが俺に向かって言った。



 「……少なくとも俺があんた以上にそれ以前に並べる凶悪な存在にはなることはないよ」

 苦笑まじりにそう言う。



 「……確かに、小僧、お前が表立ち、凶悪な存在を打ち倒すような存在にはなることはないかもしれない……だが、そんなお前がなりえない英雄……そんな強者たちが守れぬもの、それを守れるものそんな存在があるとすれば……その存在の可能性を秘めている者が現れたとなれば、中々面白い話だと思わないか」

 トリアは楽しそうに笑い……



 「さて、クリア様、私の目的も今日のところで考えれば十分な成果がありました……帰りましょう」

 実に楽しそうな笑顔でトリアはクリアを連れ、その場を立ち去る。



 

 「謝罪……感謝、ありがとう」

 クロハが俺に頭を下げる。



 「感謝するべきは俺じゃなく、俺は何もできなかったんだが……」

 「まぁ……一つ言いいたいのは、何か理由あったかは知らないが、あんな危険な奴相手に一人で飛び込む真似はするな」

 そう彼女に告げる。



 「忠告……受ける、一応……」

 そう……少しだけ反省した声で言う。



 「いったい……何しにここにいたんだ?」

 そう、レインがクロハに尋ねる。



 「散歩……連れてきた」

 そう指差す先に犬やネコのような動物が5、6匹首輪に取り付けられた紐を柱にくくりつけられていた。



 「今日……もう帰る」

 「再度、感謝……ありがとう」

 そう言って、クロハが柱から紐を解き、再びこちらを向いてお辞儀をする……が、



 「ワウワウッ!!」

 (ペット)たちは一斉に吠え出すと、一斉に走り出し……主は引きずられるようにどこかへ消えた。



 「ペットを飼っているのか、ペットに飼われているのか……」

 そんな俺の問いに……



 「飼われてますねぇ」

 リヴァーが冷静に答える。





 そして休日が終わる。

 まだ……夢は続くのだろうか。



 命の危険すらあるこの場所で……



 それでも、俺は……










 学園……とある教室内。

 

 「……おや、これは随分と恐ろしい顔ぶれだな……」

 呼び出された、アストリア……



 「ルンライト=ブレイブ……勇者の血筋を持つ英雄様に……」

 美しい金髪の女性をトリアは眺め、目線をずらす。



 「スコール=アクア……全て科目に置きトップクラスの成績……選ばれるべきして選ばれた生徒会長様に……」

 青髪の冷酷そうな男……



 「ナイツ=マッドガイア……実力もありながら、主への忠誠心と誇り高き志を持つ騎士様か」

 少し体格の良い茶髪の男……



 「この学園の現トップ3と言われる方々が私ごときに何ようだ?」

 そんなすごいメンツを前に臆する事もなくトリアは逆に食ってかかるように切り出す。



 「……ミストを逃がしたそうだな」

 そうスコールがトリアに言う。



 「……そんなつまらない話のために私を呼んだのか?」

 そうトリアはスコールの言葉に臆する事無く返す。



 「私に殺人鬼を捕らえる命があるわけでもない、貴様にその責任を問われる筋合いはないが」

 スコールの冷たい視線を、薄笑みの冷徹な目でにらみ返す。



 「ミストによる被害は、知っているだろう……アストリア、少しは事態を真剣に考えろっ」

 そうナイツとアストリアが読んだ男が言う。



 「ナイツ……そいつはお互い様というところだろう」

 そう薄笑みの冷徹な目をそのままナイツとおいう男に移す。



 「あの殺人鬼がみすみすその姿を、貴様等の前に現すとは思えぬが、貴様等がその事態とやらを真剣に考えているのならすでに事件は終結と思うがな」

 そうトリアがナイツに言葉を返す。



 「やめろ……」

 今まで黙っていた金髪の女性……その言葉一つで一瞬でその場に緊張が走る。



 「お前たちの会話には品がない……言葉で罵り合うだけなら弱者でもできる……それとも貴様等はその程度か?」

 その場に居る全員が彼女の言葉で口を閉ざす。





 そんな沈黙を破るようにコンコンとその部屋のドアが叩かれる。



 誰一人と返事をしなかったが……その叩いた主はドアを開けその顔を現す。





 灰色の髪の生徒……

 そこに居る誰もがその身の程知らずの男が誰かを知らない。



 「初めまして……1学年A組、ハイト=クロックタイム、やがて、この学園のトップに立つ男の名前です、以後お見知りおきを」

 ハイトと名乗った男は得意げにその場に居合わせる強者を眺め不敵に笑う。



 「去れ、お前ごときの相手をしてる暇は無い」

 そうスコールが返す。



 「それ……いいバッジですねぇ、少し借りていいです?」

 徐に、スコールが制服の襟元につけている生徒会のバッジを指差す……



 「二度言わせるな、去れ……貴様ごときが触れられる代物じゃ……」



 その場にいる者が感じた……一瞬意識が飛んだ感覚……



 「……ない」

 そうスコールが台詞を言い終える。





 「いやーーーカッコいいっすねぇ」

 ちゃらちゃらと金色に輝くバッジをお手玉のように遊ぶハイト。



 「!?」

 スコールが自分の首元に手を置く……

 あるべきバッジが無い。



 「貴様っ……」

 その屈辱に殺意の満ちた目をハイトに送る。



 「冗談ですよ……でも、理解したでしょ、僕の実力……1学年にもあなたたちと同じ領域に居る人間が居る事を」

 そうハイトが言う。



 「笑わせるな……」

 冷たく笑いトリアがハイトに告げる。



 「少し特殊な能力を持っている……ようだが貴様はその能力に過ぎん」

 そう謎めいたトリアの言葉に



 「……何を言っている……」

 そうハイトがトリアに返す。



 「……お前があっての能力では無いと言っている、能力があっての貴様、むしろ……その能力に貴様という存在は必要がない」

 トリアがそう返す。



 「……ふん、今回の交流戦……僕は勝利しお前らに兆戦する……その寝首を狩る」

 そのハイトの言葉にトリアがくくくと笑い



 「無駄だ……お前は1学年……そこですら勝利を掴み取れん、断言してやろう、貴様はレスという男の前に無様に散る」

 そうトリアが言う。



 「レス……?誰だ……そいつ」

 そうハイトは返すが……



 「くだらん……アストリア、あんな男に一目置いているのか……」

 スコールがそう口を挟む。



 「……ふむ、スコール……奴の可能性を見極められぬのか……貴様の底も見えたな」



 「くくくっ、今年の交流戦、少しは楽しめそうだな」

 そうトリアが一人笑った。







 ・・・











 5日目……変わらずアクア家の与えられたベッドで目を覚ます事に安堵する。

 自分の知るRPGゲームのように、一晩眠ればHPとMPが満タンというような、簡単な仕組みでは無さそうだし、自分のステータスがどんなものかは解らない。



 もしかすると、それに似たようなものがリヴァーには見えるのかも知れないが……



 学園に着き、俺は席に座ると……

 一人の男が俺に近寄ってくる。



 俺の前の席の椅子を自分の席の椅子のように、

 以前のように背もたれを前に跨り、俺と向かい合う。



 「おっす、レス……交流戦、いよいよ明日だな」

 そうヴァニは昔からのダチに話しかけるように言う。



 「……あぁ、そういえば、もう明日なのか……」

 以前の会話を思い返す。



 「そろそろ、いい返事を聞かせてくれよ」

 そうヴァニが笑顔で言う。





 「……えっと、レスくん、君にお客さんみたい」

 正直会話するのが初めてだと思う同クラスの女子生徒



 そう言われた先に、立っている灰色の髪の男。



 「ふーん、あんたが噂の転入生……レスくん?」

 全く見覚えの無い男……



 「……いい加減だなぁ、あの女……この僕とこんな男を比較するとか」

 そう……薄笑みを浮かべ目の前の男が言う。



 「なんだ、てめぇ」

 すぐさま、クラスの問題児はその男に凄む。



 「……レスくん、君をこの場で殺してあげよっか♪」

 灰色の髪の男はナイフを取り出すと俺にその刃先を向ける。



 「てめぇ……ぶっとば……」

 ヴァニが拳を振りかざし、その男を殴り飛ばそうとするが……



 「……すぞっ!!」

 意識が一瞬飛んだ気がした……

 拳を振りかざしたヴァニが対象にした男は、その横を何時の間にかすり抜け……

 俺の頬にそのナイフを突きつけている。



 「……なっ?」

 ヴァニが驚いている。

 当然、ヴァニだけではない……俺もそれを見ていた者も同様だった。



 「僕は支配者だ……貴様等では僕の足元にも及ばない……3学年の連中も僕のこの能力の前に楯突く事なんて不可能だっ」

 目の前の男はゲラゲラと笑う。

 ゲラゲラと笑っていた顔が真顔になる……



 「この僕がコイツに負ける?笑わせるな……今回は見逃してやるが……明日の交流戦、A組とのダブルス戦……参加しろ、そこで、てめぇを完膚なきまでにぶっ潰す」

 そう男が言葉を放つと再び一瞬意識が飛ぶ感じがした。



 気がつくと、頬に突きつけられたナイフが消え……

 目の前から男の姿が消えていた。



 教室の出入り口を見ると……男が立ち去るところだった。





 「……決まったな、明日のA組とのダブルス戦……レスと俺であの野郎をぶっ飛ばすぜ」

 そうヴァニが言う。



 「……そう簡単に決めるなよ」

 そう言ったものの……あんな危険な奴の相手を他の誰かにさせるか?

 俺がもし、あいつとの対戦から逃げた場合……何をしでかすかわからない。



 「……まぁ……それでダブルス戦ってのはなんだ?」

 いろいろと考えたあげく、疑問はそこに行き着く。



 「クラス対抗の2対2での対決……対抗戦初日の種目だ」





 予鈴が鳴り、担任の女教師が入ってくる。



 「よし、それじゃ……明日の交流戦……まずはダブルス戦に置ける各、クラスごとのチーム分けをするぞっ、一つ言っておく、たかが交流戦と高をくくるなぁ、負ければとんでもない罰ゲームつきだからなぁ」

 教師はその罰ゲームの内容は説明しない。

 誰もが……対してその言葉の意味を理解せず気にもしないようだったが……

 なんだか……少し気になった。



 チーム分けの話は進む。



 A組には、もちろんヴァニが一人目で選ばれる。

 B組には、クロハが選ばれる。

 C組に、レインが選ばれた。

 そういえば、レインの能力……まだ見たことが無かった。



 そして……それぞれのパートナー。

 A組、B組、C組の二人目……



 「3人とも、レス……お前をご指名だ」

 教師がそう告げる……



 「はぁ?」

 そんな間抜けな声をあげる……



 「……ま、まて……1人が3回出場とか有りなのか?」

 さすがにそれは想定外過ぎる展開だ。



 「……反則にはあたらないな……なんせ、同じ人間が3回出場するなど普通に考えれば不利なだけだ」

 そう教師が返す。



 「だったら……止めろよ」

 そう……返すが……



 「……とんでもない罰ゲーム……受けたくないだろ?てめぇの本気を見せてみろ……転入生」

 その教師の目……虚ろな目……最初からだっただろうか……

 その言葉とは裏腹……何も期待などしていない……そうとも取れる。



 「そんじゃ、解散……明日に備えろ」

 そう言って教師は、教室の外に出る。





 「待てよっ!!」

 廊下に出た教師を追いかけそう声をかける。



 「いや、お前だよ、先生!!」

 一瞬足を止めたが再び歩き出した教師を慌てて止める。



 「……教師に向かい、お前だの、タメ口とはぶっ飛ばされる覚悟はあるのか?」

 少しだけ顔を後ろに向け睨むように教師が言う。



 「……悪い……じゃなくてスイマセン」

 そう修正する。



 「……罰ゲームってのは……何なんですか?」

 そう尋ねる。





 「……聞いてどうする?」

 少しだけ見える顔……寂しそうに笑ったように見える。



 「……そりゃ、知る権利ありますよね?」

 その俺の言葉に……



 「……屋上、少し付き合え」

 教師はそう言い……辿り付いた階段をどんどん登って行く。

 黙って、俺はその後ろをついていった。



 屋上に辿り着く。



 「悪い……1本いいか……」

 タバコ……?のようなものを口にすると火をつける。

 実に美味そうにそれを吸っている。



 何よりタバコが絵になる人だと少し関心さえしてしまう。



 「……解散だ」

 そして、徐に教師が言う。



 「はぁ……あんた何言って」

 ここに連れてきてその台詞……



 「フレア=インストラクトだ」

 教師は、またも唐突に名乗る。



 「……そう何度も、目上に対し相応しくない二人称を使うな」

 そうフレアと名乗った教師が言う。



 「……負ければ晴れて、このクラスは解散だ」

 そして、続けてフレアは言った。





 「……はぁ?ただの交流戦だろ?」



 「口実だろうな……私を追い出す、私をよく思わない奴がこの学園には居ると言う訳だ……はぐれ者の寄せ集めのクラスを受け持たされ、あげくそのクラスが功績をあげられなければ、クラスごと解散という訳だ」

 ……理解が追いつかない。



 「……あんたはいったい誰に怨まれてるんだよ……」

 すでに敬語を使う事すら忘れていた。



 「……解散といえど、優秀な生徒はそれぞれ……3クラスの何処かに振り分けられるだろうが」

 そんな事を聞いているわけじゃない……



 「……今のクラスがバラバラになっちまうんだろ?」

 たかだか……5日間……

 それでも俺は……あいつらと。



 どこまで……できるかはわからない……

 何ができるか……わからない……



 それでも……



 「守るさ……このクラスは……」

 口だけかもしれない……それでも……



 「……そのついで……フレア《せんせい》の事も守るよ」



 「……変な奴だよ、お前は……」

 そう言いフレアは少し寂しそうに笑う。



 「もう少し年を取って……もう少しイケメンだったら、間違いなく惚れてるよ」

 そう少しだけフレアは笑顔になる。



 「……絶望的に希望薄だな……」

 俺の嫌味を込めた言葉に……



 「違いないっ」

 何が面白かったのか、フレアはゲラゲラと笑い出す。





 この夢にはきっと意味があるのだろう……

 俺が今……ここに居る……



 それに意味があるというのなら……

 必死で探せ、必死にそれを成せ……



 意味の無い現世を知っている。

 だからこそ……意味を与えられる事のその喜びを……





 俺にそれを守る力があるというのなら……

 掴んだ手を放すな……

 この腕が引きちぎれても……



 放すな……



 欲張りと言われても構わない……

 掴んだもの……



 全部、全部、手放すな…… 












 「……しかし、何で俺なんかをパートナーに……」

 アクア家に帰宅すると、俺は部屋を訪れて来た、レインとリヴァーに尋ねる。

 3名とも……俺なんかより強くて相性の良いパートナーは居るだろう。



 「……なぜはぐれ者なんて呼ばれているのか、初めから誰かと足並みを揃えられる人たちなら、あのクラスに振り分けられているはずはないのです」

 リヴァーが言う。



 「……不器用な乱暴者、言葉で意思を伝えるのが苦手な無鉄砲の正義の少女、兄と比較され自分を受け入れられないお嬢様……あのクラスの人間は皆……何かを抱え互いを寄せ付けない、そんな存在」

 ……思い出す。

 確かに……納得してしまう何かがあるかもしれない。





 「……レス様、貴方ならもしかしたらあのクラスをまとめあげる、そんな事も成してしまうのかもしれませんね」

 そうリヴァーが告げる。



 その後、他愛の無い会話を少し続け……2人は部屋を退室する。

 ベッドに倒れこみ考え事をする。





 「……転入して一週間も立たない男にクラスの命運を託すとか……正気かよ」

 そう愚痴をこぼす。

 俺のこの力で……護るだけのこの力で……

 あいつらを支えてやれるのだろうか……



 「A組……ハイト=クロックタイムとか言ったか……」

 急に現れ喧嘩を売られた男。

 後に名前を聞いた。

 これまで、目立った行動は無かったようだが……

 彼を知る者間では、この学園最強に成りうるとさえ言われているようだ。



 教室の光景を思い出す。

 一瞬意識が飛ぶような感覚……

 気がつくと突きつけられていたナイフ……



 一つの仮説……もしそれが正しければ……

 そんな能力が許されると言うのなら……

 奴が学園最強と呼ばれる日が来るのも実際に起こりうるかもしれない。



 そんな能力にどう立ち向かう?

 防御特化の能力……どう立ち向かえばいい……



 ……ダブルス戦……俺は俺の出来る事を考えろ……

 お前が目立つ必要は無い……

 俺はサポートし、あいつらを勝たせればいい……



 俺にそれができるのだろうか……







 ・・・





 交流戦初日……

 この学園にこんな場所があったのかと……



 大きなドームに状の室内。

 ドーナツ状の廊下を抜けると再び室外に出る。



 そして広がる大きなリング。



 バトル漫画やアニメで見る分にはテンションが上がるが、実際に自分があがる事になると思うと少しだけ気が重い。

 簡単な開催式のようなものが行われ、2学年、3学年と思われる生徒がその様子を見に2階、3階の観戦席に一人、また一人と席に座っていく。



 開催の挨拶が終わると、1学年も試合の無いものは割り当てられた席に座るため観戦席へと移る、自分もそれに習おうとするが……





 「おい、レス……何処行く」

 そうヴァニに止められる。



 「記念すべきA組との第一試合は……俺たちだぜ!」

 そうヴァニはリングに留まり、俺もそこに残るよう指示する。

 ずらずらとリングを降りる生徒の中……A組も二人が残る。



 「ハイト=クロックタイム……」

 ぼそりとその名を呟く。





 「交流戦……僕がこの学園のトップに立つための最初の舞台だ、壮大に引き立て役になってくれよ?」

 ハイトが蔑むような目で薄笑いを浮かべながら俺とヴァニに向かい言う。



 「なぁ……ヴァニ、何か対策はあるのか?」

 そう俺がヴァニに尋ねる。

 ……あの能力、あれを目の前にして引かず俺とA組ハイトとの対戦を自ら望んだ。



 「あぁ……対策?殴ってブッ飛ばす、そんだけだろ……」

 そうヴァニが返す。

 

 「……だよな」

 期待はしていなかった……が。

 多分……攻守というところでは、間違いなくこちらに分がある。

 対処しなくてはならないのは……ハイトの能力……





 「……言っておく、僕の支配の能力……対策ができるなんて思うな?」

 そうハイトが俺の思考を読むかのように言う。

 

 向こうのパートナーを見てみる……

 見た目での判断するのは申し訳無いが……なぜあの男がパートナーなのか。

 さほど、高い魔力を感じられない。

 少なくとも彼以上の魔力の脅威を感じたものは他にいた。



 そんな中彼をパートナーに選ぶ。

 考える……導き出す……



 例え、奴の能力が一番最悪の推測が当たっていたとすれば……

 その出すぎた能力は、パートナーを選べないと言うのなら……

 綻びがそこにあると言うのなら……

 付け入る隙は……きっとそこにあるのだろう。





 「それでは、さっそく第一回戦、さっそくはじめちゃうよーー」

 うさ耳をつけた女子生徒……マイクを右手にリングの中央で叫ぶ。



 「司会はわたくし、2学年A組……ラビ=ホストがつとめさせて頂きます」

 ウサ耳の女子生徒が元気よく進行する。



 「ウサ耳先輩、ちょっとマイク貸してよ」

 そうハイトが司会のラビと名乗った女生徒に告げる。



 「だめ、だめーー、これはあたしの仕事道具、貸してあげられないよーーー」

 そうラビが言う。



 「そんじゃ、ちゃっちゃかはじめ………」

 意識の飛ぶような感じ……ここに居る全員がその感覚を受けたであろう……



 「……るよ?……あれ?」

 マイクを通していたはずの声……目の前の男に奪いとられている。





 「あ、あーーー、1学年A組ハイト=クロックタイムです……明日にはこの学園のトップに登りつめます……今、僕の動きが見えた人、この中に居ますか?居ないですよね?……ねぇ、トップ3と呼ばれる先輩方と言えど……誰にも僕の力にはついてこれない……すでにこの学園は僕の支配下だ」

 壮大に学園全体のヘイトを買う。

 それだけの自信……己の能力を自分自身で評価しているのだろう。



 ポンとマイクをラビに投げて返す。



 「にゃあっ!?」

 慌ててマイクを受け取る。

 兎なのにその鳴き声は駄目だろと……謎に心の中で突っ込む。



 「さぁ……僕の力を理解できぬまま……この僕にひれ伏し、この僕がこの学園を支配するための最初の礎となれ」

 そうハイトが俺とヴァニへ言う。





 「それじゃ、改め、第1試合はじめーーーーっ!」

 開始の合図と共に、ヴァニは魔力全快で右腕に手甲をまとう。



 「おいっ……てめぇはすみで僕の魔力を増幅していろ」

 そうハイトは自分のパートナーに告げる。



 「……やっぱり、サポート能力か、魔力の増幅させる能力……」

 あいつが一方的動くような能力で……やはり自分以外の仲間もそれは不可能だということだ。



 とりあえず防御結界を全体的に俺とヴァニの周囲に展開する。



 意識が飛ぶような感覚……



 「……ぐぁっ」

 勢いよく飛びかかったはずのヴァニがハイトの前に立ち膝をついている。

 いつの間にか手にしている棒……パートナーの魔力で攻撃力を増幅されているようだ。



 誰も、その棒でヴァニが攻撃される光景を見ていないが……

 明らかに一撃を喰らった様子でヴァニが悔しそうにハイトを見上げている。

 俺の結界である程度ダメージは防げているが、サポートで攻撃力が上がっていて、

 どんな攻撃か読めなかったため、自分とヴァニに雑に防御結界をはっただけだ。

 

 ……再び意識が飛ぶような感覚……俺は慌てて魔力をまとうと右手を振り上げる。

 そこで……意識が途切れ……



 再び意識が戻る……振り上げた右手とは逆……左の頬に衝撃が走る。

 衝撃で2、3歩後ろに下がり、がくりとよろめきヴァニ同様に膝をつく……





 「……時間凍結能力、5秒から10秒というところか……」

 俺がそうハイトへ尋ねる。



 「……だが、時間凍結その能力化の中で動けるのは己自信……時間凍結中でも魔力能力だけは生きている……だからサポートの恩恵も受けられる」

 だから、俺の防御能力も少なくとも機能している……

 だが、止まった時の中……あいつは俺の防御の薄い場所を見つけ攻撃を入れてくる。

 

 時間凍結……それ以外に……攻守のステータスは恐らく並以下……

 それを補うため、ステータスサポートのあるあのパートナーを選んでいるのだろう。



 

 ・・・





 観戦席……金髪の女性……青い髪の男……騎士の格好に身を包む茶髪の男……

 学園のトップ3と呼ばれる者たち……

 

 ルンライト=ブレイブ……通称ライト

 生徒会長も務める、レインの兄……スコール=アクア

 白銀の鎧を身にまとうナイツ=マッドガイア



 そして、そこに並ぶように……アストリア=フォースがその様子を眺めている。



 「……時を止める能力か……トリア、さすがにお前の推しのあの男ではどうにもならないのではないか?」

 そうスコールが言う。

 一瞬、一瞬でハイトという男が姿をけし、見下ろすリング上でレスとヴァニが弄ばれるようにその手に持つ棒でいたぶられる様子が見える。

 だが、レスの防御魔法も有り、今も2人は倒れる事無く戦闘が継続している。



 「昨日……あの1学年のガキに言った通りだ」

 トリアがそう返す。



 「……どういう意味だ?」

 そうスコールが返す。



 「……あいつはその持った能力を使って勝つだけを考えている」

 そう当然の事を当然に言う。



 「……レス、あいつは自分の能力をどう使えば……その能力に対抗できるのかを考えられる人間だと……そう私は奴をかっている」

 そうトリアがスコールに告げる。



 「会って間もない奴に……少し買い被りすぎていると思うが……」

 そうスコールが返す。



 「黙って見ていろ、そろそろ面白いものが見られそうだぞ」

 そうトリアがにやりと笑う。





 つまらなそうに目を閉じていたライトは目を開き、ワイン色の瞳でじっとレスの姿を追った。









 ・・・







 「くそぉーーーーっ」

 諦めずに魔力全快でハイトに殴りかかるヴァニだが……その直前にまた意識が飛ぶような感覚と共に、意識を取り戻すと同時に一撃を喰らう。



 「すまない……レス、お前が防いでくれてなかったら……すでに俺は場外負けか、立ち上がる体力も残ってねぇかもしれない」

 そう隣あったヴァニが俺に言う。



 「5秒から10秒……動きを止める……」

 俺はぶつぶつとそう言葉に出し、現状を整理する。



 「恐らく、次の能力の発動までに空く時間……それも5秒くらいの感覚……」

 ……考える。



 「狙えるのは……一瞬……その隙をどうやってつく……」

 考えろ……

 奴がこの場に持ち込んだ綻び……



 奴のパートナーを見る。

 

 「サポートは受けられる……防御魔法は……残っている……」

 ぶつぶつと言葉にする。



 「……俺……にできること……俺だから……できること……」

 そうぶつぶつと繰り返す。





 「……チャンスは一度だ」

 そうヴァニに告げる。



 「なに……何か思いついたのか?俺はどうしたらいいっ!!」

 ボロボロになりながらも、そうヴァニが俺に尋ねる。

 お互いさまだろうが……



 「お前は……今まで通り、いや……今まで以上の一撃であいつをブッ飛ばすつもりで突っ込め」

 その言葉にさすがに?を浮かべるヴァニ。



 「……信じろ、あいつに突っ込んだ10秒後、俺がお前を今回の交流戦初日の記念すべき英雄にしてやるっ」

 そうヴァニへと注げる。





 「なに……ぶつくさ言っている……さすがに飽きた、そろそろ終わりにするぞ」

 ハイトもこちらに追い討ちをかけるべくパートナーに全魔力を自分に送らせる。





 「よくわかんねーーけどっ、てめぇを信じるぜ相棒ッ!!」

 今までにない魔力を……渾身の魔力をこの一撃に託す。

 

 会場の空気が変わる……

 それでも……やはり……

 ヴァニ以外の者……ハイトもその勝利を疑わない。



 意識が飛ぶ感覚……

 時間凍結……

 10秒間……世界はハイトという男の者に落ちる。





 ・・・

 

 時が止まった灰色の世界……

 僕の世界だ……僕はこの世界を支配している……誰も僕に抗うことなどできない…



 10秒間……僕は文字通り世界を支配する。

 今までよりも本気……どうした、転入生……最後は防御魔法が雑だな……

 渾身の一撃を込め突進するヴァニ……目の前でその拳を突き出し停止している。

 今までよりも、防御魔法がかかっていないがら空きの身体に最後の一撃を……

 入れれば終わる……そして、この学園を支配する僕の物語が始まるのだ……





 「あ……れ……?」

 停止する世界……そんな彼だけの世界で……ハイトが間抜けな声をあげた。



 棒を持った逆の手を目の前にかざす……

 透明な壁が進路を塞いでいる。

 

 目の前のヴァニと自分の間を遮断するように……一枚の透明な壁……

 それでもその頑丈な結界は……ハイトに10秒で破壊することは不可能……右に身体をずらそうとするが……



 「えっ……?」

 右にも透明な頑丈な結界……



 「まさか……」

 左にも頑丈な結界がはられている……



 ヤバイ……数秒後には僕の支配能力は解けてしまう……

 目の前に迫っているヴァニの拳……

 ひとまず逃げなくては……本能がそう告げ、後退する……



 「えっ……」

 どんと見えない壁に背中がくっついた。

 

 「……そんな」

 灰色の世界が色を取り戻していく……





 ・・・





 意識を取り戻す瞬間……即座に結界を解除する。

 

 ヴァニの全力の拳……俺の防御結界にさえぎられる事無く、

 その一撃がハイトの右の頬を捉えた。





 リングの外……観戦席の城壁に突き刺さるようにそのハイトの身体は吹き飛んでいった。





 「……こ、降参します」

 ハイトの場外を見た、彼のパートナーは両手をあげそう宣言する。







 「しゃーーーーーーーーっ!!!」

 右手を天にかざし、ヴァニが勝利の雄叫びを上げる。





 「……勝者っ、ヴァーニング&レス選手!!」

 そうラビが自分の仕事を思い出したかのように叫ぶ。





 ワーーーーーという歓声がひろがる。

 何が起きたのかはほとんどの者が理解していない。



 ほとんどの生徒からは、よくわからないが……あのヴァニの渾身の一撃がハイトに届いた。

 そう映っている。



 会場がヴァニを称える歓声で包まれていた。





 ・・・







 「………」

 トップ3と言えど、ハイトの能力の中……その様子を見ることなど不可能。

 正直……スコールも少し驚ろくようにその結果を見下ろしている。



 「……トリア」

 普段見せない……ライトの少し驚いた表情。



 「……あの男、レスと言ったな?」

 そう意味深にレスの名をトリアに確認した。





 「あぁ……表に立たぬ英雄だ、最高に魅力的だろ?」

 そうトリアがライトに得意げに言った。









 金髪の女性……通称ライトと呼ばれる、勇者という血筋を持つ女性。

 ハイト=クロックタイム……



 もし、自分が相手をしても負ける事はないとは思ってはいた。

 時間を止めると言っても規制がある……



 自分の魔力と能力を持ってすれば……その隙に勝負をつけることは容易である。

 だが……1学年に置いては、間違いなく最強クラスの能力、脅威になりうる能力であることは間違いなかった。



 「異世界からの召喚者……レス……か」

 ライトがそう呟く。



 「……くだらない、どいつもこいつも奴を必要以上に買い被りすぎだ」

 スコールもレスを見てそう呟いた。







 ・・・





 A組のとの交流戦の後……控え室に案内される。

 連戦となる俺は次のB組との対戦に備え一つの部屋に案内される。



 黒い長い髪の少女……

 この世界にも種族的な分別があるとするのなら……

 もっとも俺が現世で過ごして来た民族に近い存在だろう。



 「再、レス共闘、感謝」

 そうクロハが俺に言う。



 「あら……クロハ、誰、その男?」

 二人組の女性……俺より先にこの控え室に居たのは気がついていたが……

 B組となる次の対戦相手だろうか……



 「双子……?」

 茶髪の、ショートカットの女性とロングの女性。

 髪型は違うがその容姿と体格はほぼ同じだ。



 「ナギ=ハーモニー、ナタ=ハーモニー、ハーモニー家、シラヌイ家と少し因縁がある……」

 そうクロハが説明する。



 「シラヌイ家がハーモニー家より優れていたのは過去の話……今は私たちの家系があなたより上」

 どっちがナギでどっちがナタかは知らないが、ショートカットの方の女性が言う。

 勝手な偏見だが、こういう時は髪が長いのは姉で短いほうが妹だ……。

 まぁ、どっちにしろどっちがナギでどっちがナタかはわからない……。





 「そっちが、ナギ、姉……そっちが、ナタで妹」

 まるで心を読んだかのようにクロハが説明をしてくれる。



 髪の長い方が姉でナギ。

 髪が短い方が妹でナタ。

 俺の無駄な能力は健在のようだ。



 「その男がどんな能力者か知らないけど、私たちのコンビネーションの前ではお前の刀技など通用しない」

 髪の長い姉のナギが言う。



 外で行われていた試合が終わったようだ。

 再びリングの上に呼ばれる。



 「さて……交流戦も第3試合、B組対特別クラスの試合を始めます!」

 ラビがそう叫ぶ。



 当然だが先ほどの双子が対面している。

 さて……どんな特殊能力を持っているのか……



 「試合開始っ!!」

 ラビの掛け声と共に、俺以外の3名の腕が即座に動く。



 「……小鳥丸(コガラスマル)……抜刀」

 取り出した柄だけの武器を取り出し、殺人鬼と対面したとき同様に漆黒の刀が現れる。



 対する双子の姉妹。

 姉の右手に薙刀……妹の左手に薙刀が握られている。



 「長物……か、やっかいだな……剣術3倍段ってね」

 そんな俺の独り言。



 「……剣術3倍段?」

 クロハが可愛らしく小首を傾げ不思議そうに尋ねてくる。



 「……あぁ、俺の元居た世界で言われていた仮説のようなものを現した言葉で……本当かはわからないけど、剣で槍に勝つには3倍の技術が必要だっていう意味だったかな」

 実際、実験動画みたいなもので、有段者が素人に負ける動画を見たことがあった気もする……

 



 「……レス、大変……二人居る……6倍?9倍?」

 クロハが意外と冷静に状況を突っ込む。

 ……素人の目線……俺なんかが分析できるようなものではないだろうが、

 1学年に置いて、恐らくクロハの技術的な面では恐らくトップクラスだと思う。



 もちろん、この魔力を能力として形にする世界で技術が高いだけで、最強を名乗ることは難しい。

 ……俺は彼女に何をしてあげられるのだろうか……

 盾になるだけ……それで彼女の役に立つのだろうか……



 「さっさと終わらせるよ、ナタっ」

 そうナギが叫ぶ。



 「了解……ナギ」

 ナタも答える。

 

 普通に交互に繰り出された一撃を、クロハは軽やかにバックステップでそれを回避する。



 何気なく繰り出される攻撃を回避し続けるが……それが双子の狙いだった事に今更気がつく。



 「闘気っ!」

 ナギがそう言葉にすると赤い気を周囲にまとう。



 「練気っ!」

 ナタがそう言葉にすると青い気を周囲にまとう。



 「……何が起こる……」

 何となくよくないことだけは理解する。

 

 「「闘練煉獄」」

 二人に挟まれるような形になった俺とクロハ……

 双子はそう口を揃え技名のようなものを口にする。



 「……なっ」

 慌てて、二人を守れるだけの結界を張り巡らせる。



 二人の位置が交互に入れ替わるように見える。



 が……俺たちの間を高速で入れ替わるように薙刀での攻撃を繰り返しおこなっている。

 



 「合体……技だと?双子が成せる技という訳か……」

 俺の結界に守られる中でクロハは身体を斜に構え……

 存在しない刀の鞘にその刀身を収める。



 「……なるほど」

 まずはその標準を片方にしぼったようだ。



 「刀技……光芒(こうぼう)

 クロハの黒い刀風が一直線に飛んでいく。



 「くっ……」

 丁度、入れ替わり現れたナタが、その身を捩り、その一撃をかわすが……

 その気が乱れたように二人から出る気がおさまった。



 「刀技……」

 クロハが地に刀を突き刺す。

 何を……する気だ?



 「……地ずり黒月」

 刀を振り上げるように引き抜くと……

 地を這うような黒い巨大な刀風がナギとナタに襲い掛かる。



 ナギとナタは大きく飛び上がるように右と左に別々の方向へと逃れる。



 「闘っ!!」



 「練っ!!」

 再び、二人が赤と青のオーラをまとう。



 「「闘練煉獄……改」」

 そう双子が言うと、二人の身体が残像のように曖昧に映る。

 そして、その身体が二つに分裂するように、俺たちを4方に囲う様に構える。



 「なぁ……くそ、何だよその最初から使え的な技っ」

 俺はそう双子に愚痴る。



 「レス……正論」

 クロハもそう突っ込むが……絶対的なピンチだ。



 俺の結界であの双子の連撃をいつまで防げるか……



 俺は再びクロハの前に立つと二人を全体的に防げる結界を張り巡らせる。



 4名とも本物なんじゃないかと思うように4方から来る攻撃。



 「……レス、大丈夫?」

 そう心配そうにクロハが俺に尋ねる。



 「……牛若と弁慶ってね……俺はお前の技に惚れ、俺はそんなお前を守る存在」

 そう意味も無く例える。



 「うしわかとべんけい……?」

 結界の中……そうクロハが小首を傾げ不思議そうに尋ねる。



 「……俺の世界にある昔話……まぁ、一応それ以外にも実在していた歴史上の人物として……色々とその歴史が脚色されて語られているような気もするけどな」

 ……4方から来る攻撃。



 「……薙刀をつえに……立ち往生してでもお前を守るって話だ」

 ……そうクロハに告げる。



 「ナギとナタを杖に? 立ち往生?」

 クロハの頭の中で色々と情報が混雑しているようだ。



 「……クロハ、俺たちも合体技でいくぜっ」

 そう俺がクロハに告げる。



 「……合体技?貴様等にもそんなものが……」

 4方から位置を切り替えるように入れ替わるナギとナタのどちらかが俺のその言葉に反応する。



 「……秘技、八艘飛び……」

 そう俺が言葉にする。



 「……はっけい…とび?」

 そんな技など知らんというようにクロハは首を傾げる。



 「牛若丸こと……義経に語られる伝説……本来はただ船を飛び移るってだけの話なんだけどな……何故か色々と派生して、一部ではすっげぇ大技として語られている」

 そう……俺は説明する。



 「……それで……」

 わたしはどうすれば……?困った様子でクロハが見る。



 「……お前はその身軽な身体で全力で跳べ、そして……全力で敵を斬ることを考えればいい……船あしばは俺が作る」

 そう俺が告げるが不思議そうにクロハが聞いている。



 「……奴らが4方と言うのなら……俺たちは8方だ……」

 そう俺は笑ってみせる。



 「……わかった」

 恐らく完全に理解していないが、そうクロハは答え。

 再び斜に構えると……敵を一点に絞る。



 ズンと重力が増すような感覚……黒いオーラがクロハが周囲にまとう。

 

 「……修羅気迫……」

 そうクロハが呟く。



 「……数分間……攻撃魔力を急激に引き上げる……1日1回が限界」

 そうクロハが説明する。



 「……まったく、クロハの剣技は本当に……すげぇな」

 素直に美しくかっこいいと思った。



 「刀技……牙閃(がせん)

 俺の防御結界から外に出て……突き出した刀を手に一瞬でナギの前に現れる。

 ナギは上空に飛びそれを回避する……



 「刀技……牙閃がせん」

 再びその技を上空のナギに向け放つ。

 が……それをうまくナギは回避した。



 上空で無防備になるナギと……クロハ。



 「今だ……ナタ、クロハをっ!!」

 今なら俺の防御結界も無い……叩くなら今だと叫ぶ。



 が……上空のクロハはフフと笑った。



 「……レス、あんたはやっぱり凄い」

 そうクロハが呟く。



 「秘技……八艘飛び……」

 迷うことなくその技名をクロハは言葉にする。



 「なっ?」

 ナギは目を見開く。



 上空でクロハがくるりと向きを変え、ナギの方を向く。

 そして、上空であるはずの無い壁に足をつけるように……

 文字通り足場を蹴り、ナギの居る方に向かい跳ぶ。



 「防御結界を足場に……あの男の仕業かっ!!」

 そう……目線で俺の方を見るが……



 クロハの一撃をその身で受ける。

 そして……再び、クロハはくるりと向きを変えると、

 ナギの居る方へ向き直り、再び見えない壁を蹴り上げ、

 ナギの身体を斬りつける。



 それを数秒の間に8回繰り返した。

 最後はナギの身体をリングに叩きつけるように真下に叩きつける。



 もちろん、クロハも命を奪うまでいかないよう加減をしているだろうが……

 この世界で刃物による攻撃は……誰しも最低限の魔力で身を守られているようで、斬撃は衝撃的な属性に変換されその身にダメージを蓄積しているようだ。



 地に落下したナギは気を失うように倒れている。





 「う、うあああああああっ!!」

 自棄に突撃してくるナタ……



 コンビとしての力を失った双子の片方にはもう恐れるものは無い。



 クロハの刀技が軽く彼女を打ち負かした。





 「勝者……クロハ&レス選手!!」

 そうラビの声が響く。

 

 ワーーーーという歓声。

 クロハに注がれる声。

 これでいい……



 クロハと言えばその歓声の先が自分だと気づいているのか……

 そもそもが興味無さそうに無表情であったが……

 俺と目が合うと、そこでやっと嬉しそうに笑った。



 それでいい……。

 そう誰かに呟く。



 俺は影から彼女たちを……英雄として支えるそんな存在になれればいい。



 それが俺に……出来る事。












 2戦……を終えた。

 疲れていないと言えば嘘になる。



 支給の水を受け取り、俺は……控え室に向かう。

 控え室の入り口から少し離れた場所……



 そこに人の気配を感じる。





 「……レイン?……それと……」

 兄、スコールの姿。





 理由はわからない……スコールがレインにその手を上げた。

 寸前でその手を止める。



 「また……貴様か」

 俺の作り出した結界にその手の行き先を遮られた男が怒りの目を向ける。



 「手癖の悪い兄の素行が目に余るもので……」

 そう男に向かい言う。



 「自らの恥を晒す前にこの交流戦を辞退するように言い聞かせていただけだ」

 そうスコールは返す。



 「……なら、その拳は必要ないだろ」

 その言葉に……



 「事情も知らぬどこぞの男が、我が家計に口を出すな」

 そう俺を睨みつける。



 「……なら、よほど納得できるだろう内容の事情とやら、聞かせてくれよ」

 ……そう嫌味を言った矢先、目の前から男が消える。



 「……あぶねっ」

 咄嗟に手にしていたペットボトルの水を上に投げ捨てると、

 両手に巻きつけるように防御結界をはり、スコールの一撃を止める。



 「……口を慎め」

 スコールが拳を俺の防御結界に叩き付けたまま睨みつけ、

 上空に投げたペットボトルは飲み口から水がこぼれるように落下する……



 「っ!?」

 俺はスコールから身体を遠ざけると、

 自分の頭上に結界をはる。



 ペットボトルからこぼれた水が複数の水の針に姿を変え、一斉に俺に振り注ぐ。

 

 この男の能力?



 「ぐっ……」



 「レスっ!!」

 俺の鈍い声の後、レインが心配そうに声をあげる。

 その頭上からの攻撃を防ぐ事に意識を取られ、スコールからの一撃をまともに受ける。



 「……せいぜい、その実力に見合った程度にいきがれ、下手に勘違いしていた分……弱く見える」

 そうスコールが俺を見下すように見ながら言う。



 「……先の2戦、それなりの貴様の活躍があったことは確かだろう、だがそれができたのも、それに担えるパートナーが居たからだ……さて、次の試合でも、そこの出来損ないを手駒にお前は抗えるのか?」

 レインが下を向く。



 「前を向け……お前はお前だろ、レイン……、お前という存在を決めるのは、俺でもお前の兄でもない……レイン、お前は優しすぎるよ、くだらない、誰かの理想と自分を重ね合わせる必要はない、リヴァーやクリアと一緒に居る時のお前は楽しくないか?」

 「そうじゃないのなら……そんなくだらない理想と比較する必要ないだろ……そんな兄の思いに答えて、そんなお前を変える必要なんてないだろ……会って数日の俺が言える台詞でも無いが、いつまでも俺たちの好きなお前で居てくれ……そんな俺たちの願いより、その幻想は必要か?」

 レインは顔をあげて、俺の方を向き……首を横にふる。



 繰り出されたスコールの一撃を防ぐ。



 「二度言わせるなっ……実力に見合った程度でいきがれ」

 そうスコールが睨むように威圧する。



 「二度言わせるなっ……あんたが、兄としてそして力を持って産まれたのは、妹をたたくためじゃねー、妹を護るためのもんだ」

 そう睨み返す。



 「……そんなこと、貴様に決められる筋合いなどない」

 繰り出される攻撃を防ぐ。



 「……決める、決めないじゃねーよ、俺が言っているのは簡単な道徳のお話だろ?生徒を導く生徒会長様がそんなんでどうするんだって話だ」

 俺の繰り出した一撃をスコールが咄嗟に避ける。

 



 「あ……あの……」

 いつの間にか一人の女性が少し離れた場所に立っていた。



 ……沈黙の中、視線が女性に向かう。



 「試合……はじまっちゃいます」

 その後、誰も一言も発せず、スコールはその場を去り、



 俺とレインは会場を目指し歩き始めた。



 「……ありがとう」

 辿り着くまでの道で、ぼそりとレインが呟いた。





 恐らく、遅刻だろう。

 ステージにのぼり、C組の二人組と対峙する。



 「それじゃ、1年C組と1年特別クラスとの対決をはじめまるよっ!」

 ラビがそう叫ぶ。





 今更、改めて相手を見る。

 今回は事前情報がない。



 「いくよ……イチ」

 「あぁ、バインド」



 イチと呼ばれた男……

 魔力で具現化された武装を見る。

 弓……



 バインドと呼ばれた男……

 鞭のような武装……



 弓は恐らく、想像している通りの攻撃方法だろう。

 警戒するべきは鞭の方だろうか……



 「イチイバル=アーチャーとバインド=タイト」

 「弓矢による一撃と拘束を得意とするコンビ」

 レインが俺にそう教える。



 「……詳しいな」

 俺が関心したようにレインに言う。



 「事前にリヴァーに聞いただけよ」

 そう返してくる。



 イチと呼ばれた男が弓を構える。



 レインがペットボトルの水を取り出すと、のん気にそのキャップをはずす。



 そしてそれを徐に空中にペットボトルの中の水をぶちまける。



 先の戦い……スコールの技を思い出す。





 「形どれ……セイバー」

 そうレインが上空に飛んだ水滴に手をかざす。

 その水がレインの手のひらに集うように集まり、剣を形取る。



 飛んできた矢を作り出した剣で叩き落す。



 なるほど……水を自在に形作って武器を製造する能力……

 決して悪くない能力だと思うが……

 レインの兄であるスコールはそれ以上の能力を所持しているということか。



 飛んでくる矢を結界をはりレインの進路を作り出す。

 レインがイチと呼ばれる男との距離を一気に縮めるが……



 「!?」

 地面から複数のツタのようなものが伸びてくる。

 そのツタがレインの両手にからみつく……



 腕の自由を奪われ放した水の剣が、レインの手を離れると剣はただの水へと姿を戻し地面を塗らした。



 拘束され動けなくなったレインに複数の矢が飛んでくるがそれらを結界壁で防ぐ。



 互いに決定打にかけるわけか……



 俺は両手に防壁魔力を巻きつけると、レインに近づき、

 レインの両腕に巻きついているツタを引きちぎる。





 「この拘束魔法に触れた……?」

 バインドという男が少し驚いた様子で見ている。



 通常、素手では触れられない……はずということか。

 

 ポツ…ポツと雨が降り出した。



 少しだけ本降りになる……





 「形どれ……双剣……」

 レインの両手にワンハンドの剣が握れれる。

 天候を利用するか……

 天候が……味方している……



 少し卑怯かもしれないが……とは思う。



 「レイン、少しだけ時間を稼いでくれ……」

 俺がそう告げ……お互いに最低限の防壁だけ身体にまとわせその場で動きを止める。



 飛んでくる矢をレインは一人その双剣で斬り落とし、地から伸びるツタを自分を拘束する前に素早く切り払い、やり過ごしていたが……



 「くっ……」

 次に伸びてきたツタがレインの右手をからめ、素早く左の剣でそれを切り落とそうとするが、素早く伸びてきた次のツタがレインの左手を捕らえた。



 すでに俺の身体もバインドのツタに絡み付いている。





 「さて……ゲームオーバーだな」

 イチという男がそう告げ、弓を構える。



 「……十分か……」

 俺はそう呟き……



 「レイン……後の製造は任せるぞ……」

 その俺の言葉にイチが疑問に思う。



 俺とレインは雨にうたれ続けている……

 が、自分とバインドの上空にだけ雨雲がないかのように……



 イチが上空を見上げた時にはすでに俺は魔力を解いた。



 上空にはった結界の箱型につなぎ合せにし貯蔵した雨水を一気に開放する……



 降り注ぐ水……





 「形どれ……アローレイン」

 レインがそう告げると、上空から降り落ちる大量の水は一つ、また一つと地に降り注ぐ矢に姿を変えていく。



 大量の水の矢が地へと降り注ぎ、イチとバインドを貫いた。







 「勝者、レイン&レス選手!」





 初日のダブルス戦……まさかの特別クラスの3連勝……

 それでめでたく終了……という訳にはいきそうになかった……



 晴れて3年生への交流戦の挑戦権を得る。

 

 そんな特別クラスへの対戦を名乗り出たのは……





 「……逃げるなよ」

 この学園の生徒会長が俺にそう告げる。



 3回戦おこなわれる……シングル戦。

 防御特化の俺が誰かのサポートする訳も無く勝てる訳がないだろうが……

 そう心の中で呟くが……



 例え俺が負けたとしても……最初の2回戦を勝てればいい……

 生徒会を相手に先の2戦を勝てというのも無茶かもしれないが……



 クロハとヴァニを見る……

 この二人なら……もしかすると……



 いずれにしても……試合は明日……



 雨はまだ降り続けている。



 帰り道……俺の少し前を歩くレイン。



 その途中……足を止める。





 「……レス、明日の試合勝てると思うか」

 そうレインが俺へと尋ねる。



 「……無理だろ、能力の強さも経験も違いすぎる」

 俺はそう返す。

 

 「……わたしは最低だ」

 そうレインが言う……



 「……どうした?」

 俺が少し心配したように返す。



 「……レインも俺が負けると……思ってるのか?」

 その事を後ろめたく思っているのだろうか……



 「……勝つ、勝てないという話ではない……」

 そう降り注ぐ雨の中……レインは俺に背を向けたまま……



 「……昔は……優しかったのだ」

 レインが唐突にそう告げる。



 「……昔は、わたしのことを助けてくれた……数日前から今日まで……レス、お前がわたしにしてくれたよう、兄様はわたしを助けてくれた」

 そうレインが言う。



 「……憧れだった……強い兄様が何よりも憧れだった……そんな兄様がいつもわたしの正義の味方みたいに助けにきてくれることが、何よりも私の誇りであった」

 そうレインが言う。



 「……そんな兄様に甘え続けた結果だ……そんな兄様をわたしは家の家宝を勝手に持ち出し、レスお前を召還し、そんな自慢の兄様を落としいれようとしている……」

 そうレインが言う。



 「……その何が悪い……お前がお前で居る……お前らしくいるため俺が手をかしている……それのどこが悪い」

 その俺の言葉に……



 「だからだっ!!」

 力強くレインが否定した。



 「……レス、わたしはお前を勝手に召還し……お前に勝手に頼り……兄様と対立するこの現状を作って置いて……わたしはっ…わたしはなっ!」

 振り向いたレインの顔は……降り注ぐ雨のしずくが頬をつたっているのか……瞳から流れる涙が頬をつたっているのか……わからないくらいにぐしゃぐしゃで……



 「それでも……わたしは兄様に、負けてほしくない……そう願ってしまう」

 悲しそうに……申し訳なさそうに……レインが俺に告げた。



 激しく振る雨……俺は空を見上げ……



 「鬱陶しい雨だなぁ……」

 俺は関係ない感想を挟む……



 「……雨が降らなければ人は生きていけない……でもこうして振り続ける雨は鬱陶しい……少しだけさ、逆に安心したよ」

 俺がそうレインに言う。





 「……これまでの仕打ちに……本気で憎悪だけの感情をむき出しにお前が兄に復讐したい……そういう事なんじゃないってわかって……」

 そう俺が言う。



 「……普通だろ、兄妹(けいまい)なんだ……そんなお前の自慢の正義の味方(あに)に悪役が必要だっていうなら……なってやるさ」

 俺は言う。



 「……それが、俺のわがままでもある」

 皆…皆救ってやる。



 「どんな雨だって豪雨だって……いつかは降り止む……お前はただ、その時笑える顔を忘れずにいろ……大好きな兄様が帰る場所を忘れずにいろ」

 俺はそうレインへ告げる。



 雨が降り続ける。

 そんな俺の言葉がすぐには訪れないと否定するように……



 俺とレインは……ただ、黙って見詰め合った。










  
 「わたしを追い出す口実なんて何でもいいんだよ……」

 交流戦で3勝を取った。
 その結果……3年……それも表向きには最強と言われる生徒会との対戦。
 そんな、明らかに結果の見えている戦いで……
 俺は、教師《フレア》に、この試合の結果はクラスの解散に繋がらないのだろうと尋ねたが……

 「……わたしを追い出す理由、クラスを解散させる理由……そんなものはどうとでもでっちあげられる」
 そうフレアが俺に言った。


 翌日の3年生徒会との交流戦……
 この現状を作り上げたのも、それを望む誰かなのだろうか……


 交流戦……参加は昨日のダブル戦に参加した6名に限られる。
 だが、俺の特別クラスは3戦を全て俺が出場している。
 結果、出場できるのは……

 俺と、ヴァニとクロハとレインの4名。

 初戦がヴァニ。

 次戦にクロハ。

 決戦にレス。

 そう選択された。


 生徒会……脅威なのは生徒会長であるスコール。
 他力本願ではあるが……初戦と次戦で2勝を取ってもらう。
 それが……今回出せる最良な作戦だ。


 昨日に続いて、俺とヴァニ、クロハの3名はリングに整列している。

 対峙するように並んでいるのは3学年生徒会長 スコール=アクア
 眼鏡をかけたポニーテールの黒髪女子……2学年副会長 ツキヨ=アリアケ
 クロハ二人分の体格の男…3学年書記(?) ストーン=ハガー


 先鋒戦……
 ヴァニとストーンがリング上に残る。

 勝手なイメージだが……とても、書記というような繊細な役職者とは思えない男。
 そこそこの力自慢のヴァニさえも一回り小さく見える。

 「それじゃ、生徒会VS1学年特別クラスの先鋒戦をはじめるよぉー!」
 引き続きラビ=ホストが司会進行をつとめている。

 「試合開始ぃーーーッ」
 その合図と共に先に動いたのはヴァニ……ストーンの元に恐れることなく直進し、その移動の際に魔力武装を開放し腕に手甲を装着する。

 ストーンはその場から一歩も動かず……何一つ抵抗することなくヴァニの一撃が 左の頬を捉える。
 ストーンは一歩も動くことなく……

 「うん、実にいいパンチだ……昨日見ていたとおり、実に気持ちの良い一撃だ」
 そうヴァニに告げる。
 「どうだ……1年、見たところお前も俺と同じで、相手の攻撃を避けたり、相手の行動を読んだり難しいことは苦手そうだ、そこで一つ提案だがな、攻撃方法はどんなものでもかまわねぇ、交代でお互いに自分の持つ一撃を受け、どちらが立ち続けていられるか……根競べといかねーか?」
 そう、にやりと笑った。

 「あぁ……別にそれでいいぜ」
 ヴァニは安易にそれを受け入れる。
 
 「だったら、先輩、あんたの番だ……そのつもりで俺の一撃を黙って受けたんだろ」
 そうヴァニがストーンに返す。

 「あぁ……だったらっ」
 ヴァニと同じように右手を振り上げ、ヴァニの顔面目掛け振り下げた。

 1歩後ろに下がり、踏みとどまる。
 が……少し足に来ているのが外からでもわかる。

 まるで、RPGのように、お互いに交互にただの攻撃コマンドを互いに繰り返すように、攻撃を受け耐えては、相手に攻撃をすることを繰り返す。
 数十回にも及ぶその繰り返し……

 同じようにRPGで例えるなら、攻撃力とHPと防御力の計算になる。
 攻撃力に置いては、魔力の武装具がある分、ヴァニが有利だろう。

 HPと防御力に置くとストーンに分があるのだろう。

 見るからに先に限界を迎えるのはヴァニの方だ。
 明らかに相手の一撃を受けるたびに、踏みとどまってることがやっとで……
 気を抜けば崩れ落ちそうだった。
 そして、体力の消耗に比例するように……ヴァニの攻撃の制度も落ちている。

 そして……何よりも……あのストーンという男はその能力を開放していない。
 その能力値が、あの体力と防御力に振られていたとして……
 あの素手以外に攻撃手段を持っているとしたら……

 ……そんな悪い予感は……


 「そんじゃ、そろそろ……本気でいくぜ」
 ストーンがそう言うと……石の棍棒が握られている。

 棍棒を振り上げ、ヴァニの元に振り下ろされる。

 思わず数名が目を反らしてしまうような光景。


 地面が崩れ……そのリングにあいた穴にヴァニが埋め込まれるように姿を消す。

 引き上げられた棍棒から……地に沈み倒れるヴァニの姿が見える。

 終わったと誰もが思った。

 ラビが試合終了の合図を言葉にしようとするが……


 「……待てよ」
 ゆっくりとヴァニが立ち上がる。

 「……頼られたんだ……そんなもんで殴られたくらいでその期待に裏切りたくねーんだよ」
 そうヴァニが誰かに告げる。

 「ぐっ……っ」
 ヴァニの放った一撃にストーンの身体がはじめて揺らいだ。

 再び石の棍棒が振り下ろされ……再びヴァニの身体は地に倒れる。

 ……頼られたんだ。

 ……その期待に……

 ストーンが勝負あったと背を向ける。

 カウントを取っていた……ラビの口が止まる。


 「立ち上がりました……ヴァニ選手、再び立ち上がりましたっ」
 そのラビの言葉に……ストーンが振り向き……少しだけ恐怖する。

 この男の限界はとう超えている。
 HPは0、とっくに戦闘不能状態のはずだ……

 試合前に……レスが俺に言ったんだ。
 俺たちが笑って皆で卒業する……そのためにもこの勝負勝ってくれって……
 そう頼まれたんだ。

 その意味は余りわかんなかったけどな……
 俺が唯一認めた男なんだ……
 こんな棍棒で殴られるよりもずっと重たい一撃だった……

 「……そんな、すげぇ奴に、この俺は頼られて……この場に立っているんだよっ」
 歯を食いしばりその場にヴァニが立ち上がる。

 今までで一番となるであろう……懇親の一撃。
 ストーンは思わず自ら決めたそのルールを破り、棍棒を振りかざした。

 ほぼ同時にその一撃がお互いの身体にヒットする……。

 2人の身体がその場に崩れ落ちる。


 ラビのカウントが開始される。

 「……6……5……4……」

 2人とも倒れたまま……カウントが続き……

 「……3……2ぃ……た、立ちががりました……」

 一部の生徒たちから歓声があがっている……

 立ち上がった勝者は、手甲をまとった腕を天空にかがけ……
 立ったまま気を失った。

 「勝者、1年特別クラス ヴァニ選手!!」
 ラビがそう宣言する。
 

 能力者の修復魔法であっという間に、リングが修復される。
 次鋒戦……クロハがそのリングに上がる。

 2学年にして……副会長を務める。
 別に戦闘能力の高さで生徒会役員を務めるわけではないのだろうが……

 それでも、凛とした態度。
 クロハに引きを取らない能力の高さが見受けられる。

 だが……個のクロハの実力の高さは、この世界をたいして知らぬ俺が言うのもなんだが、恐らく2学年3学年を入れても上位に食い込めるほどであるだろう。

 ここで、クロハが勝利してくれれば、俺は会長……レインの兄、スコールとの戦いはほぼ、勝敗に意味はなくなる。
 他力本願ではあるが……このクラスを持続するためにも……彼女の勝利を願うしかない。


 「次鋒戦……クロハ選手VSツキヨ選手、試合開始ッ!!」
 
 「小鳥丸《こがらすまる》……抜刀……」
 クロハの持つ刃のない柄から漆黒の刃が現れる。

 「咲けッ 初桜《はつさくら》」
 ツキヨが桃色の刀を懐から抜刀する……


 クロハの顔が少しだけ……曇る。
 正直……聞いたことがない。

 シラヌイ家、ハーモニー家……
 それなりに名のある家計だ。

 同じ刀を所有する……アリアケ家?
 いったい……
 副会長にまで登り詰めるだけの実力を所有する家計があったのだろうか……

 「刀技……光芒《こうぼう》」
 黒い刀風がツキヨに向かい飛ぶ。

 「……散れっ、徒桜《あだざくら》ッ」
 ツキヨが桃色の刀を天に翳すと、桃色の輝きが刀身から零れるように落ちると……鋭い刀風に姿を変えクロハに向かい飛ぶ。

 「!?」
 クロハは思わず驚く。
 相殺された……?


 「刀技……牙閃《がせん》」
 漆黒の刀を突き出しながら、地を蹴りツキヨ目掛け地から離れた足を再び地面につけることなツキヨ目掛け突進する。

 「……舞散れっ、残桜《ざんおう》ッ」
 ツキヨが立っていた場所を黒い影が残るように……
 残像を残し、恐れることなくクロハに向かいうつように突進する。

 均衡している……
 と言ってよいかはわからない。
 
 凛とした余裕の態度を崩さないツキヨに変わり……
 クロハには、知らぬ流儀の目の前の女に戸惑いを隠せていない。


 「……地ずり黒月」
 漆黒の刀を地に刺す……それを引き抜くと、
 同時に漆黒の黒の刀風がツキヨに向かい飛ぶ。


 「飛び散れッ……飛花《ひか》」
 ツキヨが素早く桃色の刀で地を数回撫でる……
 数多の桃色の刀風が集合するとクロハが放った黒月に匹敵する刀風を作り出す。
 攻撃が相殺される……。

 まるで……遊んでいる……?
 そんな余裕すら感じられる……。

 その不安を読み取るように、凛とした態度を崩さず、ツキヨが小さく笑う。

 「消す……余裕……覚悟」
 クロハが、淡々と単語を口にする。

 ズンと重力が増すような感覚……黒いオーラがクロハが周囲にまとう。
 「……修羅気迫……」
 
 1日1回が限界……数分その力を何十倍にも引き上げる。

 この一瞬で勝負を決める。


 「刀技……牙閃《がせん》」
 一瞬……ツキヨが構えるより前にその一撃がツキヨを捕らえる。

 「……ちっ」
 凛としていたツキヨの顔が歪み、その場に立ちひざをつく……

 「……さすが……というところか」
 ツキヨが額に汗を浮かべそう呟く。

 「……地ずり黒月」
 先ほどとは比べ物にならない漆黒の刀風がツキヨ目掛け飛んでいく。

 「……散れっ、徒桜《あだざくら》ッ」
 そんなツキヨの反撃も漆黒の刀風はかき消し、ツキヨの身体を捕らえる。

 ツキヨは刀を横に構え……刀身の裏を左手で支えその一撃を何とか防ぐ。


 「終わり……決める……刀技……牙閃《がせん》」
 そうクロハが構えるが……

 「……1年ごときが……修羅を極めたくらいで、この生徒会、副会長を出し抜けると思うなっ」
 そうツキヨが不適に笑った。

 「……百鬼夜行《ひゃっきやこう》」
 まるで、闇に包まれたかのように周囲が闇飲まれる。
 地面からツキヨを彩った黒い影が何体も姿を形造る。


 「……咲き誇れッ!桜花爛漫《おうからんまん》」
 闇の中にきれいに満開の桜の木が数十本出現する……

 「………」
 いったい……何が?そうクロハの脳裏に過ぎるが……
 させてはならない……今の修羅に入った自分の牙閃《がせん》なら……

 一気にそのツキヨ本体へ突進する。

 「散り吹雪け……血桜《ちざくら》ッ」
 くるりと桃色の刀をその場で回転させた。

 黒い影が真似するように手にした刀を回転させる。


 満開の桜の木から全ての花びらが散り落ちる……
 そして、いっせいに回転した刀の風になびくように、桜の花びらが一斉に鋭い刃のようにクロハの身体を埋め尽くすようにクロハの背後に吹き抜けていく。
 周りの闇も同時に晴れ……影も桜の木も幻影のように消える。

 まるで、クロハの身体が最後に残った桜の木だと言う様に……
 一枚、一枚鋭い刃に変わった花びらに切り刻まれたクロハの身体から、
 桜が散るように、身体の傷から血が散る桜のように噴出した。

 「……ごめん……なさい」
 クロハは誰かに謝ると……その場に倒れる。

 ラビのカウントが……10から0を数え終わる。


 「勝者……生徒会、ツキヨ選手っ」
 凛とした態度で……当然の結果だと言う様に、涼しい顔でステージを退場しようとするが、リングを降りる階段に差し掛かったところで……

 「……くっ」
 その場に一度ひざをつく。

 「……さすがに本気でいかないと、負けていたか……」
 額に汗をかき、わき腹あたりを押さえながらツキヨは言うと、
 再び何事も無かったかのように立ち上がりステージを降りた。


 1勝1敗……
 後が無くなった……

 こんな俺のわがままに……
 本気で頑張ってくれた2人……


 ……先に待つのは学園最強と呼ばれた男だ。


 リングに向かわなくては……

 勝てる……勝てないじゃない……

 俺が俺の責任に皆を巻き込んだ責任だ。


 「なぁ……レイン、悪役は、正義の味方に勝ってもいいのか?」
 リングに向かう前……隣に居るレインにそう尋ねた。

 「……どういう意味だ?」
 そう不思議そうにレインが聞き返す。

 「……そんな、絶望した顔をするなよ」
 そうレインではない誰かに語りかける。

 「……皆で笑って卒業しようぜ……」
 俺は、少し離れた場所にいた先生《フレア》に言うと、ステージに向かい歩きだした。

 悪いけど……簡単に負けてやる訳にはいかなくなったぜ……生徒会長。
 俺はそう心の中で呟き、ステージの上に立った。










転生世界で能力を創造しろと言われたので防御特化にしてみた。そんな俺にできることは、その防御結界能力で仲間を英雄にすることしかなかったけど、そんな彼女たちには俺はそんな彼女たちの英雄のようだ。

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