「忘れたんですか?ほら、由梨は国語があまり得意じゃなかったから、手紙の誤字脱字が多くて、それが気になって手紙を交換しようとしたんです」
 わたしはキッチンで豚の生姜焼きを作っていた。
 大林先生はまるで、自分の部屋にいるみたいにジャージ姿のまま、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
「ああ、そうだったかあ。よく、あいつに協力したな。結局、三島もとばっちりを受けたわけだし...」
 今思えば、わたしもあの当時はバカなことをした。でも、あの当時はそうしなければいけない気がして、その気がわたしの背中を押した。
 友情とか親切心といった当たり障りのない感情からではなく、単に好奇心とも違う。言うなれば、些細な罪悪感。
 わたしはその当時、隠していたことがあった。それは、由梨からの手紙の内容を聞いた時に、その罪悪感が頭をもたげたのだ。隠していたこと、それは、わたしも由梨と同じことを手紙に書いたことだ。
 つまり、わたしと由梨は同じ先生を好きになっていた。部活は由梨に引っ張られる形で入ったが、由梨のように先生の傍らにいたかったという不憫な動機はなかった。
 以前、ほんの少しの間、交際していたカレシから言われたことがある。
「三島さんは自分を正当化しようとする。自分は悪くない。悪いのは自分を巻き込んだ他人のせいだって考えてる」
 由梨には罪悪感があった。だが、現在はまったくない。むしろ、わたしは大林先生を手に入れたことが誇らしかった。以前の彼はわたしという人間をわかっていたのだ。
「今朝、こんな手紙が届いたの」
 わたしは料理を手早く卓上に並べると、一通の封書を大林先生に見せた。
「県立Y高校五十五期生、タイムカプセルお披露目会 お知らせ」