「なんか、わたし、急に不安になってきた」
 タイムカプセルを埋めてから程なくして、由梨が言った。
 休み時間で、いつものように由梨はわたしの机の傍らまで来ていた。
「不安?進路のこと?」
「まあ、進路といえばそう言えるな」
「由梨は勉強が嫌いだから進学はしないんでしょう?」
「その進路じゃなくてさ...」
 由梨は未来に宛てた手紙に大林先生と結婚してかわいい子どもと三人で生活しているといった内容の手紙を書いたらしい。
 由梨はその頃から絵に描いたような幸せな家庭を求めていた。幼い頃に両親が離婚。母方に引き取られた。だから、父親が居ない分、頼り甲斐のある大林先生を将来の夫にしたかったのかもしれない。
 だが、大林先生は最後までなびかなかった。
「それで、綾子に一世一代の頼みがあるの」
「なに?」
「タイムカプセルに埋めた手紙を書き直した手紙と交換したいの」

 そして、わたしたちは小ぬか雨の降る中、スコップ片手に泥んこになりながら、土を掘り返した。
 そして、桑の実をとろうとしていると思われ、大林先生にこっぴどく叱られた。
 そのことをわたしは大林先生に話すと、大林先生は腹を抱えて笑った。
「そうだったんだよなあ。わたしは話を聞いてたまげたよ。タイムカプセルを掘り返して、手紙を交換するなんて、前代未聞だからな。それで、なんで交換しようとしたんだっけ?」
 大林先生はわたしの部屋に週末にやって来て、食事をして、そのまま泊まっていく。
 大林先生はあの当時のことは覚えていないらしい。