由梨は偉そうに指南した。確かに言われてみれば、そうだ。単に願望を書けばいいではないか。難しく考えることはなかった。
 わたしはそのとき、意地悪な発想が浮かんだ。
 きっと、由梨は大林先生のことを手紙に書いたに違いない。ならば、わたしも大林先生について書こうと考えた。
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 わたしは大林先生と三年前に再会した。わたしが表参道の地下鉄の駅へ向かうため、地下鉄の入り口に入ろうとしたとき、長身の男性が急ぎ足で登ってきたのだ。わたしも急いでいたこともあり、互いが出会い頭に衝突してしまった。
 わたしは大林先生に突き飛ばされる形で尻餅をついて倒れた。
 大林先生は顔を真っ赤にして、大丈夫ですか?と訊き、わたしに手を差し伸べた。互いに顔を見合わせた瞬間、あっと声をあげた。
 わたしたちは、そのままバーへ直行した。
「三島、あの頃と変わんねえな。だから、顔見て、ピンと来たよ」
 大林先生はカウンター席に着くなり言った。
「そういう先生だって全然、お変わりがありませんよ」
「お、嬉しいね。わたしはもう三十六のおっさんだけどね」
「おっさんにはまだ早すぎます。で、大林先生は今は何を?まだ先生してるんですか?」
「ああ。一応、東京の高校に赴任になってな。山梨のY高校には去年までいたよ」
 わたしは由梨のことを思い出し、訊いた。
「ああ、有沢か。結局、三島が転校してから半年後に部を辞めたよ。もともと、テニスの才能はなかったしな」
 わたしたちはカクテルを注文した。大林先生はわたしのカクテルグラスに自分のカクテルグラスの縁をあて、なんだか不思議だと言った。