「あのときはびっくりしたねえ。まさか、大林先生が見張っていたなんて...」
 電話口で由梨が大きな声で話す。
「本当ね。間が悪いってあのことね」
「わたしたち、桑の実を獲ってると思われたなんて、心外だったなあ...」
 わたしたちは高校を卒業しても、携帯電話で連絡を取り合っていた。わたしが東京の高校から転校して初めてできた友達が由梨だった。
 由梨は初対面から壁を作ることがなかった。東京の高校にいた頃には見られなかったタイプの生徒だった。
「東京ってどんなところ?やっぱり怖い人だとか多いの?」
 由梨は自分が勝手に作り上げたイメージを持っている。東京が怖いところというのは、由梨に限らず、校内の誰もが持っている共通事項のようだ。
「怖い人はいないよ。確かに人は無関心かもしれない。でも、生活するにはいいところだよ」
 わたしたちは部活はテニス部だった。なぜテニス部かって?顧問が大林先生だったからだ。
 由梨もわたしもテニスは初心者だし、さほど興味があったわけではない。ただ、由梨は大林先生が気になり、テニス部に入ることを決めてしまった。それに引っ張られる形で、わたしも入部してしまった。
 大林先生はクラスでも人気があった。特に女子生徒からは体育教師らしからぬ、細面の顔から、王子さまと呼ばれた。
 ある日、由梨は部活の帰り道でわたしに、こう言った。