「久しぶり、由梨。見ないうちに洗練されたね」
「綾子こそ、都会の女性って感じよ」
 わたしは助手席に乗り込む。ふわりとした芳香剤の香りがした。
「由梨はずっと地元にいるんだね」
「うん。この土地がわたしの肌に合ってるの」
 ミニバンは快調に商店街を走る。わたしたちは変わったのに、周りは何も変わっていない。時間が止まったような街のままだ。
「そういえば、覚えてる?綾子がバスに乗り遅れて、バスに乗りそこなった時、わたしが運転手に、綾子を乗せてやんなさいよって噛みついたの。運転手は頭の堅いおっさんで、運行表の通り、バスを走らせなければならないからって、バスを止めようとしなかったの。だから、わたし、頭に来て、少しくらい止まったって運行表に支障は出ないでしょうって言ったんだ。だけど、それでも無視されて、だから、わたし、ハンドルを思いきり掴んでやったの」
 そういえば、わたしがバス停の前で、バスの背中を見送っていた時に、バスが唐突に停車したことは覚えていた。
 結局、わたしはバスに乗ることができて、遅刻せずに済んだのだ。
「あんとき、わたしは言わなかったけど、止めたのはわたし。感謝しなさい」
 わたしは改めて、由梨の横顔を一瞥する。わたしにとってかけがえのない友人。そんな友人に隠し事をしている自分に嫌気が差す。
「あのさ...わたし、由梨に秘密にしていたことがあるんだ...」
「え、何?それ、楽しそう」
「あのさ...」
「あ、ほら、校門が見えてきたよ」
 由梨が上擦った声を出した。その瞬間、わたしは言いたいことを言いそびれてしまった。