「なぁ、巫寿ちゃん。突然やねんけど"利他的行動"って分かる?」

「利他的行動……ですか?」

「知らんか。神職の心得のひとつでな、自分を犠牲にして他人のために動くことを言うんやけどな、神職に求められる資質のひとつやね」


なるほど。他者を救い導くためならば自分を犠牲にしてでも動けるような人間であれ、と言う事だろう。

でもなぜ志らくさんは急にそんな事を?


やがて出番の時間になった。


「これからすることは利他的行動や。つまり、巫寿ちゃんが、私を助けるための行動ちゅうことや」

「えっと……?」


首を捻っていると「ほな幸運を祈る、腰の」と志らくさんがまるで瀕死の子猫でも見るような目で私を見下ろし肩を叩いた。

話の繋がりがよく分からない。

手に持っていたお面を顔に付けると、ほれ行け!と背中を押されて転がるように社頭へ出た。おっとっと、とたたらを踏むも何とか踏ん張って顔を上げる。

目の前に広がっていた地獄絵図にポカンと口を開く。

てっきり鬼に追いかけ回されているだけなのかと思っていたけれど、そこに広がっていた光景は想像以上だった。

逆さ吊りにされた子供たちに肩に担がれた子供たち、鬼二人に手足をガッシリ掴まれてぶんぶんと振り回される子供たちの姿に目を瞬かせる。

安全には配慮されているようで随所に気遣いが見えるけれど、子供たちはきっとそれどころじゃないはずだ。

後ろの方で見ている大人達は「私らの時もあんな感じやったなぁ」なんて笑いながらそれを眺めて、助ける気はさらさらない。


そりゃ泣き叫ぶよね、と心の中で同情していたその時、


「ふくのかみさまやーーッ!」


子供たちの一人が私を指さしてそう叫んだ。