これは誰だ?

 リリアナは怒気に塗れ、覇気を纏った少女にそう思った。
 今までにないその迫力に、ただただリリアナは茫然と眺めてしまったのだ。

 部屋を出ていく姿を眺めていたが、はっと我に返る。
 このまま出ていかれたら、そのまま騎士団に突撃していきかねない。
 それは不味い。やる気を出してくれたこと自体は喜ばしいのだが、裏どりもなく進めば逃げられるのが落ちなのだ。
 リリアナは急いで追いかけようと、部屋を出ようとすると廊下から謎の悲鳴が響き渡った。

「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 リリアナはドアをゆっくりと開け様子を見る。するとそこには廊下に横たわるトモがいたのだった。
 その姿は踏まれたカエルの様に間抜けで服も一部焦げていた。

「怪我も治っていないのに突っ走るのはやめてくださいと申し上げたはずですよ。マイスター?」

 どうやらクーリガーが無理やり止めたらしい。
 トモをまた寝室に運びリリアナはもう一度寝なおすことにする。
 トモの回復が終わり次第忙しくなりそうだ。
 リリアナはそう確信していた。

 結局トモが完全回復するまでには二日を要した。
 その間にリリアナは聖女とやり取りし騎士団の拠点を洗っていた。
 やはり、騎士団本部に今回の問題は集中しているらしい。
 騎士団本部は街の中にある湖畔の中州に作られている。
 出入り口には巨大な橋がかけられており、そこもまた観光の名所となっているようだ。
 審判の橋――随分と物騒な名前で呼ばれている。

 回復に努めている間もトモはいつ飛び出していくかわからないそんな雰囲気であった。
 アリシア、ティル両名が監視を撒いて帰ってきてからも、その怒気は変わらず記憶と違う様子に二人は終始混乱していた。
 保護した少年、名はウォルトは親がいないストリートチルドレンという事が分かり、教会で保護している。
 ウォルトが見舞いに来た時だけ、トモの表情は和らいでいたのだった。

 そして、トモが快癒する。
 そしてすぐに会議が始まった。
 面子は聖女フアナとトモ、そしてリリアナ、アリシア、ティルだ。

 フアナは先日と違い意気軒昂とした様子のトモに驚きを隠せずにいた。
 リリアナからは事前に触れない様に言い含められていたが、随分と様子が違ったことでどうしたものかと考える羽目になってしまったのだ。
 口火を切ったのはトモだった。

「空中からの魔力砲撃で橋を落として突入するわ」

「ちょっとまて! 魔術による砲撃と飛行魔法は使えないって話じゃなかったのか? というかできたとしても無謀が過ぎるだろ!」

 トモの発言にリリアナは即座に反応した。

「乱数解析は終わってるから、できるよ。クーリガーができるようになったのに戦闘データ集めるために黙ってた」

 どうやらクーリガーが黙っていただけらしい。
 しかしできるようになったからといって、そんなものは作戦でもなんでもないのだ。
 自爆特攻をさせるつもりはリリアナにはなかった。
 しかしトモは確信をもって告げる。

「あいつらは叩き潰すって決めたの。 おそらく中にいるであろう被害者を助け出すには特攻しかないし、注意を向けるためにも派手に行くしかない」

 どうやらトモは囮になるつもりのようだ。
 その間に助け出す算段を整えろという宣言だった。

 リリアナはトモの剣幕にクーリガーの助けを求めたが、彼は沈黙を貫いている。
 どうやら止まらないようだ。

 それは会議というにはあまりに一方的な宣言だった。
 しかし、現状の最強戦力がこれでいくと聞かなければ不承不承でも了承するしかないという事でもあった。

 そして、作戦は翌日決行という運びとなる。
 事前にアリシア、ティルの二人は中州への抜け道を見つけていた。あとはリリアナと潜入するのみ。
 そしてフアナは、橋の前で注目を浴び、騎士団の増援を遅延させる役目となった。
 ほぼ単身で切り込むトモに不安はない。ただ、か弱い命を弄ぶ悪党への怒りのみが彼女を支配していた。
 その主にクーリガーは全幅の信頼を寄せている。
 弱き物の為に戦う。そんな陳腐な言葉を容易くやってのける。だからこそトモは魔法少女足りえるのだと、胸が躍っていた。