旧音楽室の中を、覗きたくてたまらなかった。
窓に掛けられた白いカーテンが揺れて、柔らかな光のベールからメロディがあふれ出す。それは沙耶が今まで聞いたことのある全ての音の中で、一番美しい響きをしていた。もしも天国があるのなら、こんな音楽が流れているのかもしれないと思うほど。
部屋の中からは、十本の指が織りなす、ピアノの音が響いていた。
触れたい。その音に、近づきたい。
旧音楽室の外からカーテン越しに、沙耶は手を伸ばす。カーテンを押しのければ、この音の主に会える。けれど、触れる直前に空中で手を止めた。
――私には、その資格がない。
それでも、カーテンの隙間から零れる音は沙耶の鼓膜を今も震わせ続けていた。歌うようなリズムが、ニュアンスのあるメロディラインが、踊るような強弱が、とても美しかった。
それが、先輩の奏でる音との出会いだった。