(あん)(ざい)裕は保育園からの幼馴染だ。
 近くの大学に合格し、教師を目指すことを志していた裕は、いつも明るくて真面目な性格。同級生にも近所の人にも好かれる人柄だった。
 そんな彼が、高校を卒業したその日の夜、突然いなくなった。
 家族がそれに気付いたのは、卒業祝いで宴会した翌朝のこと。部屋にはずっと着ていた制服が皺ひとつなく綺麗にされた状態でハンガーにかけられており、通帳や印鑑を含む最低限の荷物だけを持って出て行ったらしい。スマホは電源が切られており、その日のうちに解約されていた。
 晶子おばさんが私の家に真っ青な顔で駆け込んできて事情を聞くと、私も外に飛び出し、心当たりのある場所をすべて探しまわった。
 放課後に立ち寄ったコンビニ。
 試合に負けると必ず反省会をした公園のベンチ。
 雨の日に傘をさして待っていてくれた駅の改札。
 どこを探しても見つからない。誰に聞いても居場所がわからない。
 桜の咲く春になっても、何度季節が巡っても。
 裕がまた私たちの前に現れることはなかった。