(ゆう)が死んだ。
 誰にも知られずひっそりと、公園のベンチで眠るように死んだらしい。
 実家の母から連絡をもらい慌てて新幹線に飛び乗ったのは、冷たい風が頬に刺さる真冬のある日のこと。
 朝から二時間かけて地元に戻ったところで、故人が生き返ることはないとわかっている。それでも帰ったらまた、あの頃と変わらない笑顔で待っていてくれるんじゃないかと微かな希望を持ってしまう。
 病院に到着し、案内された病室には、五年ぶりに再会した幼馴染がベッドに横たわっていた。
「……()(おり)ちゃん、来てくれたのね」
 近くの椅子に座っていた、裕の育ての親である(あき)()おばさんが、私に気付いてハンカチで目元を拭う。後ろから来た母が晶子おばさんに軽く会釈をすると、私の肩に手を添えられ、重い足取りでベッドに近付く。
 五年ぶりに見た彼の顔は以前よりも大人びていて、この世に未練なんてないと言いたげな清々しい顔をして眠っていた。そっと触れた手は真っ白で、氷のように冷たかった。
「……冗談辞めてよ、何かのドッキリ?」
「美織ちゃん、ちがうの。裕は本当に……」
「死んだなんて嘘でしょ? そうやって皆の心配を煽って楽しんでいるんでしょう? ……だとしたら悪趣味だよ、ろくに連絡もしないでさ」
 問いかけても返ってこない。わかっている。でも――わかっていても、ひとつ言葉が零れたら、止められなかった。
「五年間も何してたの? どこほっつき歩いていたの?」
「美織、落ち着いて!」
「さっさと起きなさいよ! ねぇ!」
 今にも殴りかかりそうな私を抑えようと、母が後ろから押さえつける。私はお構いなしに眠っている裕に向かって怒鳴った。
「急にいなくなって、どれだけ心配したかわかってんの!?」
 高校卒業と同時に消えやがって。
 実の家族にも連絡一つも寄越さないで。
 いろんな人を巻きこんでおいて。
 ――私だけに、意味深なメッセージを残しておいて。
「アンタの都合で、勝手に死ぬな!」