「すいませんナースさん、すんっごい美少女らしい美少女を見かけませんでしたか?」

「はい?」

「ああ、どうか気を悪くしないでください。貴女も大変美しい……ですが、私は貴女よりも美しい美少女を探しています!」

「とりあえず、ぶん殴っていいのかしら」

「なんでェ?!」

 大袈裟に驚く亮を見て、ショートカットの看護師は内心でため息一つ。
 以前から亮の噂を耳にしていたけれど、実際に実物を見るのも声を聞くのも今回が初めて。
 ましてや、今日本棟を訪ねるのは書類を提出するため。職場に戻っている最中に亮に話しかけられたのが災難だった。
 今すぐ彼と別れて仕事に戻りたいのは山々なんだけど、だからと言って「はいさよなら」と一蹴するわけにもいかない。

 渋々彼の人探しに付き合うことになった看護師は、相手の外見を尋ねると、亮は勝ち誇った顔でこう答える。

「それが……インパクトが強すぎて全く覚えてません! キラーン☆」

――あ、アホだこの子。
 失礼な感想が一瞬彼女の脳裏をかすめたが、それでも問答を続ける。

「じゃあ、その相手に何か、これといった特徴はない?」

「あ、そうか! つまり、私が探し求めている人物は……腹話術師なんですネ!」

「……一体、どういう思考経路でそうなったの」

「だって、相手は二つの声を使い分けて会話をしたんだぞ。これをやるには非常に高度な技術が求められる。
 かつて私が腹話術を鍛えようとして、逆に腹筋の方を鍛えてしまったからネ! ハハハ、どうです? 触ってみませんか?」

 突如の誘いに、看護師は手振りで「遠慮しておく」と断った。亮はすかさずに「初触りは無料ですよ」とアピールしたが、彼女は「結構です」と語気を強めてキッパリと断る。

――噂通りの変な患者ね。
 亮と少し言葉を交わしただけで、頭が痛くなるというのが何よりの証拠だ。
 それに、彼の発言から考えると、当時現場にもう一人がいたの方が自然のはずなのに、それを指摘するのも面倒臭くなって敢えて省略した。

「もっと何かこう、相手に関するヒントはない? 例えばこう、会話で何か気になることを言ったとか」

「あ、『お嬢様』という単語を聞いた! これ、何か重大なヒントになる的ななにかじゃナイ!?」

 少し俯いて『お嬢様』を繰り返し呟く看護師。
 こんな辺鄙な病院にまで入院してくる物好きなお嬢様は、一人だけ心当たりがある様子だ。

「もしかしたら、キミが探している相手は『ガラス姫』なのかもしれないね」

「ガラス姫……! 響きからして、何やらお上品なお嬢様のよくぁぁーん! 運命の相手はそのガラス姫で間違いない! 私がそう判断した!」

 「間違っても後で問い詰めないでよ」と看護師は小さく肩をすくめる。

――でも、この子ならもしかしするとワンチャン……。
 もう一度目前の亮に一瞥をして、期待を込めてこくりと頷く。

「立場上、他の病人の情報をそう簡単他人に教えられません。プライバシーの侵害になりますからね」

「ええー、そんなああ!」

 とほほ、と項垂れる彼の姿を見て、看護師は優しげな微笑に転じさせた。それはまるで、肩の荷が少し下りたかのような笑みだった。

「でも……。うん、キミになら大丈夫そうね」

「……」