「桜雪、これからも隣にいてくれよ」
「もちろん」

***

四月三日、儚明 桜雪(むみょう さゆき)
高校生三度目の春を迎えた。

いつも通り教室に行き、新しいクラスを見て
新しいクラスに下を向いて一人で行く。

友達なんて一人もいなくて、
何も楽しくなくて、つまらなくて
ただただ、何も無い日々を過ごしてく。

***

三年生になって、五ヶ月がすぎた九月。
何も無い日々を過ごしていた時、
私のクラスにあるひとりの転校生が来た。

「えぇ、九月だが、今日から三年五組の仲間になる人がいるから紹介する」
先生が「入ってこい」と手で転校生を呼ぶ。
それを見たのか入ってきたのは、
黒の中に少し金のメッシュが入った髪色で
顔はとても整っているとてもかっこいい人だった。

桃花 春佑(ももば しゅんすけ)です。
よろしくお願いします」

春佑、と名乗る人は見た目とはんして
丁寧な挨拶をし、綺麗なお辞儀をした。

「桃花は儚明の右隣に座ってくれ」

そう言われると「はい」といい、
私の右隣に座る。

この時は何も思っていなかった。

***

昼休み。
私の右隣には目をキラキラと輝かせた
女子が何人もいる。
私はお昼を食べようとしたけれど、
人が沢山いたため、中庭に移動しようと思って
自分の席を立つ。
その時。
少し桃花さんに見られた気がしたが
きっと気のせいだと思い私は教室を後にした。

***

中庭にあるベンチに座って私はお昼を食べようと
お弁当の蓋を開ける。
食べようと思って「いただきます」と言った時だった。

「美味そうな弁当もってんな、桜雪」

背後から男の人の声がして、
振り返ってみたらそこには桃花さんが立っていた。
びっくりした拍子に私は箸を落としそうになった。

「も、桃花さん…お弁当を褒めていただきありがとうございます」
「何そんなかたいんだよ、ためでいいし春佑って呼んで。あんま桃花って呼ばれるの慣れてねぇから」
「いや、そうゆう訳には…」

見た目も相当悪そうなヤンキーだし
何より転校してきたばかりの異性を急に呼び捨てなんて無理がある。

「俺がそうしろっつってんの。命令な」
「は、はい…」

私は圧に負けて「はい」と返事をしてしまった。

「いっぺん読んでみ」
「しゅ、春佑……さん」
「なんでさんつけるんだよ。ためでいいっつったじゃん」
「いや、でも…」
「桜雪は嫌が口癖なわけ?これは命令。わかったか?」
「はい…」

またしても圧に負け、春佑と呼ばざるおえなくなってしまった。

「ところで、なんでさっき俺と目が合ったのに
助けてくれなかったんだよ」
「えっ?」

私はてっきりたまたま、もしくは間違いだと思っていたが、実際には本当に目が合っていたらしい。

「いや、目が本当にあってると思ってなくて。
ただの間違いかなーって…」
「そうか、ならしかたねぇな」

助けを求めていた春佑を助けてあげられなかったけど
許してくれた春佑は案外良い奴なのかもしれない、
そう思った。

「チャイム鳴ったから、そろそろ行こうぜ」
「うん!」

私は少しいい気持ちで中にはを後にした。

***

春佑が転校してから十二月十九日ともう三ヶ月が経とうとしていた。
あれから春佑はどうのようにあの女子たちから逃げているのか分からないが、お昼休みには必ずと言っていいほど中庭に遊びに来る。
毎回何も食べないが、私のお弁当を食べている姿を見ている。
そのうちにだんだん親しくなってきた。

「そういえば、お前部活入ってんの?」
「入ってないよ。友達、いないし。上手く喋れないし…」
「なんで友達いないんだよ」
「それは…」

私は高校一年生の頃、仲のいい友達__宮野 結芽(みやの ゆめ)ができた。
それからずっと一緒に過ごしていて、
友達関係は至って有効な関係を築けていた。

私はそう思っていた。

結芽には、秋川 凌(あきかわ りょう)という好きな男子がいた。
私は結芽のことを心から応援していた。
けれど凌は私に告白をしてきた。

私は断った。結芽が好きな人と付き合えるわけが無いし
何より、私は彼のことを好きでもなかったから。

でも、それを見た結芽の友達が結芽に私が秋川さんを結芽から奪おうとしている、という
根も葉もないことを言われ、結芽は友達が多く
私のことをはぶらせようと根回ししたらしく
私の周りから友達はいなくなってしまった。
何ヶ月がたった頃、私の疑いは晴れたようだったけど
私たちの関係は元に戻ることは無かった。

「ごめんね、こんな重い話…」
「謝るな。お前は何も悪くねぇだろ。」

こんな時まで春佑は優しいな、と思う。

「でも俺とは喋れてるのに、喋るの苦手なのか?」
「今度はいじめられたらどうしよう、とか色々思っちゃって喋れないの。けど春佑はそんなことする人じゃないって分かるから…」

春佑はとても心配性なのかたまたま何かにあたって
血が出てきてしまったから絆創膏を貼っていたら
「何があった!?」とすごく心配してくれた。
春佑はとても優しくてかっこいい。
その時に私は気がついた。

私は春佑に惚れていたことに。

何に対しても優しくて、心配してくれて、
かっこいいところにきっと惚れた。

「友達いない私にも、はなしかけてくれるし。
いつも感謝してるんだよ」
「そんなことねぇよ。そんなんだったらこんなガラ悪い転校してきた俺と話してくれる桜雪の方がずっと優しいよ」

友達がいない私にとって"優しい"という言葉は
すごく嬉しかった。

「ありがとう。そんなこと言ってくれる友達
いないから嬉しいよ!」

友達がいないことを自分で言うのは辛いけど
いないのは事実だから、笑いながら誤魔化す。
けれど、春佑は何か考えこんで、沈黙が続いた。

「来週の日曜日、空いてるか?」
「え?」

私は思ってもいなかったことに動揺してしまった。
けれどすぐに返事をしようとスマホを取りだして
確認する。

「今のところ何も予定は無いけど…なにかあった?」
「出かけるぞ、一緒に」
「……えっ!?」
「そんなデケェ声出すんじゃねぇよ。これ俺のLINE。追加しとけよ」
「わ、わかった…」

春佑はその後去っていってしまった。

***

【春佑side】

「今度はいじめられたらどうしよう、とか色々思っちゃって喋れないの。けど春佑はそんなことする人じゃないって分かるから…」

桜雪は友達を失った話をしてくれた。
辛そうな顔をしていたが、それを悟られないように
しているのか、無理やり笑っていた。
絶対に辛かったと思う。
大切な友達に勘違いで見捨てられ、
孤独の中、ずっとこの高校生活をすごしてきたのだから。
そんな中でも強く生きてきた桜雪が
とてもたくましいけどどこか脆いように感じた。
俺は桜雪を守りたい、桜雪のそばにずっといたい。
そう思うようになっていた。
そしてある時気がついた。

桜雪が好きなんだと。

桜雪はきっと友達と遊びに行ったことがほとんどない。
だから、俺が連れて行ってあげたい、そう思った。

「来週の日曜日、空いてるか?」
「え?」

来週の日曜日はクリスマスだ。
きっと桜雪は忘れているだろうけど。
桜雪は前に「友達とイルミネーションを見に行きたかった」
と言っていたからちょうどいいと思い誘った。

「今のところ何も予定は無いけど…なにかあった?」

予定がなかったことにひと安心し、俺は桜雪に伝えた。

「出かけるぞ、一緒に」
「……えっ!?」

桜雪の目は元々大きいがもっと大きくなっていた。

「そんなデケェ声出すんじゃねぇよ。これ俺のLINE。追加しとけよ」
「わ、わかった…」

俺は桜雪にIDを書いた紙を渡してその場を去った。
来週は桜雪が最高に楽しめる一日にしよう。
そう思った。

***

今日は十二月二十五日。
春佑と出かける約束をしていて、
この前LINEで、夏沢駅に十時に集合と言われたので
待っている最中。

「おまたせ」

春佑がやってきた。
春佑は学校じゃないのでもちろん制服じゃなく
いつもと違う雰囲気にちょっとドキッとしてしまう。

「じゃあ行くか。俺にちゃんと着いてこいよ」
「うん」

その後、電車に揺られて三十分ほどたったあと。

「うわぁぁぁぁ!水族館だ!」
「お前、クラゲ好きだろ?だから一緒に来ようと思って」
「ありがとう!」

私は小さい頃、お母さんとお父さんから
クラゲのキーホルダーを貰った。
そのキーホルダーはとっても可愛くて
私はそこからクラゲが大好きになっていた。

水族館に入るとたくさんの生き物がいた。
サメに魚の集団、ペンギンやカニなど。
そして、私大好きなクラゲが沢山いた。

「綺麗だね…クラゲは好きだけどこんなに種類があると思ってなかったな〜」
「ここはクラゲが有名な水族館なんだってよ」
「そうなんだ…」

きっと私に沢山クラゲを見せるために
沢山調べてくれたんだろう。

「一応、イルカショーもあるけど行くか?」
「うん!」
「もうすぐ始まるっぽいから行くぞ」

私はイルカショーを見て、
そのあと他の魚達も見てお土産コーナーに来た。

「すごい!沢山クラゲのグッズがある!」
「そうだな」

アクリルキーホルダーにしおり、ぬいぐるみなど
定番のものからあまり見ないものもあり
私は何を買おうか迷ってしまった。
クラゲがこんなにあるならもっとお金を見てくるべきだった。
水族館のグッズはお世辞でもやすいものではなく、
三千円しか持ってきていなかった私は
ぬいぐるみとアクリルキーホルダーが
欲しかったが、どっちも買ってしまうと
三千円を超えてしまうため、アクリルキーホルダーを
諦めて、ぬいぐるみだけを買うことにした。

「おまたせ。遅くなってごめんね!」
「いや全然大丈夫だ。桜雪は何買ったんだ?」
「クラゲのぬいぐるみ!本当はアクリルキーホルダーも欲しかったけど手持ちが足りなくて」
「…そうか。ちょっと待っててくれ」

春佑は私にそういうとまたお土産コーナーに戻っていった。
何か欲しいものができたのかと思い
外で待っていると…

「はい、これ。」
「私にくれるの?」
「あぁ」
「うわぁぁぁぁ!」

袋の中には私が欲しかったアクリルキーホルダーが
入っていた。

「俺が場所伝えなかったから、金あんまり持ってきてなかったんだろ」
「いや、あの…私の準備不足だったし!」
「でも俺にも責任がある。それは受けとってくれ」
「春佑…ありがとう」

こうゆうとこだ。
こうゆうことをするから私は好きになってしまったんだ。
この時間が過ぎていかなければいいのに。
この優しさを私だけにして欲しいな、
なんて思ってしまう自分がいる。

「もう欲しいものとかないか?」
「うん!」
「じゃあ行くぞ」

そうして、私たちはまた電車に乗った。

***

「綺麗……」
「だろ?」

私たちは水族館を出たあと電車に乗り、
私はてっきり帰るのかと思っていたら、
違うところで降りて、知らないところに
春佑は連れてきてくれた。
現在時刻はもう五時半だった。
あたりはもう暗くなっていた。

「着いたぞ」

春佑が連れてきた場所は、
イルミネーションがあるところだった。

「綺麗……」
「だろ?前に桜雪がイルミネーション見に行きたいって言ってたから」
「そんなこと覚えててくれたんだ…ありがとう!」

それからは一緒にイルミネーションを見て回った。
どれも素敵なイルミネーションで
私はとても楽しかった。
でも楽しかった時間はあっという間に過ぎていく。
時間は六時半。もう一時間も見ていたのだ。
私たちはまた電車に乗り、夏沢駅に戻ってきた。

「今日はありがとう!」
「喜んでくれてよかったよ」

あぁ、帰りたくないな。
そんなことを思ってしまう。
けれど時間はどんどんすぎていく。

「それじゃあ、帰ろっか」

本当は帰りたくなかった。
けれど、一緒にいる理由なんて春佑にとってはなかった。
付き合っている訳でもない。
私が一方的に片思いをしているだけだから。
だから、そんな思いを押し殺して、声を発した。

「ちょっと待ってくれ」

急に春佑が待てと言ってきた。
なんだろう、とみていると…

「これ。桜雪に渡したくて」
「え?」

また何かくれた春佑に私は驚きを隠せなかった。
小さな小袋を開けると…

「ネックレスだ…」

そこには金を基調とした真ん中に雪の結晶があり
そのまわりに少し桜の花びらがあるデザインの物。

「こんな良さそうなもの…貰えないよ」
「今日はクリスマスだろ?桜雪は忘れてるかもしんねぇけど」

確かに。今思えば今日はクリスマスだ。
なぜ急に誘ってきてくれたのだろう、とは思っていた。

「それは俺からのクリスマスプレゼント」
「で、でも私何も用意してなくて…」

だからこんなもの貰えないと言おうとした時。
じゃあ、と春佑がしゃべり出した。

「俺の欲しいもの教えたらくれるか?」

それは意外な質問だった。

「も、もちろんだよ!」
「じゃあ、俺は桜雪が欲しい」
「………えっ?」
「だから、桜雪が欲しい」

私はてっきり食べ物とか飾るものとか
普通の友達が欲しがるようなのをねだられると思っていた。
けど春佑の回答は予想の斜め四十五度上をいくものだった。

「俺と、付き合ってください」

まだ何を言われたかわかっていなかった私に
これでわかるか?と言わんばかりの顔で
春佑はいった。

「えっ、あの、えっとー、そのー」
「あーもう。まだわかんねぇのか?」

私は信じられなかった。
だって好きな人に告白されるとも思っていなかった。
ましてや片思いだと思っていたのに…

「桜雪が好きです。俺と付き合ってください。」
「……こんな私でいいですか?」
「あぁ。桜雪がいい。」
「私も春佑が…す、好きです…春佑の彼女になりたいです」
「ありがとう。桜雪」
「これ、夢じゃないよね」
「夢じゃない。現実だよ」
「私、春佑の彼女?」
「あぁ。これからもよろしくな、桜雪」
「うん!」
「あぁー、やっと俺のものになった」

そう言いながら春佑は私の背中に腕を回した。
私の心臓は今にも飛び出そうな程、どくどくと音を立ていた。

「桜雪、大好きだよ」
「っ……私も大好きだよ」

私は真正面から言われて恥ずかしくなったけど
春佑に応えないと!と思い一生懸命返事をした。
そうすると春佑はかすかに笑って、
私の唇に自分を唇を重ね合わせた。
これは私の最高のファーストキスとなった。

***

私と春佑が付き合ってからは冬休みに入ってしまい
会えなかった。けど、欠かさず毎日LINEをしていた。
そうして冬休みが開けた一月十日。
担任の先生から話があった。

「もう受験が近づいてきている。大半が受験生だと思う。だから受験生だということを忘れずに気を引き締めて勉強に励むように」

受験…。
私は大学に行く予定だが、春佑がどうなのかは
聞いたことがないから分からない。

せっかく恋人同士になったから
同じ大学に行きたいと思うけど…

***

お昼には中庭のベンチで一緒に食べている。
今がチャンス、と思い春佑に聞いてみる事にした。

「ねぇ、春佑。春佑は大学って行く…?」
「一応今のところは行く予定だ」
「どこ受けるの?」
季天田(きてんだ)
「え!?そ、そっか…」
「実はな、俺の父親、IT企業の社長なんだよ」
「え!?そうなんだ…知らなかった」
「だから、IT関係の事が学べるところに入んなきゃ行けねぇんだよ」
「春佑も大変だね…」
「桜雪は?一緒に季天田受けるか?」
「いや無理だよ…!わ、私は冬桜(とうおう)大学受けようかなって…」
「そうか」

季天田大学は偏差値70の超難関校だ。
それに対して、私が行こうとしている冬桜大学は偏差値50のごく普通の大学だ。
笑われるかと思ったけれど、春佑は決して笑わず、
逆に同じ大学に行けずにがっかりしているふうにも見えた。
同じところに行きたかったけれど私学力では今から勉強したところでどうしよもなかった。
だから、諦めるしか無かった。

お昼を食べたあとはそのまま教室に戻り、
午後の授業を受けて、春佑と一緒に帰った。
今まで、大学で離れるなんて考えていなかったから
とても悲しかった。
卒業式は三月二日。
あと二ヶ月も残っていなかったのだ。
そんなことを考えているとあっという間に家に着いてしまった。

「毎日ありがとう。帰り道気をつけてね」
「おう。じゃあな」

後ろを向きながら春佑は右手で私に手を振る。
春佑の背中がどんどん離れていく。
こんなふうに離れていくのかと思うと
とても胸が苦しくなってしまった。

***

それからは、あまり考えないようにしていた。
春佑とは目指している大学は違うけれど
一緒に勉強したり、教えて貰ったりしていた。
幸せはずっとは続かない。
そんなこと思いたくなかったが、思いざるおえなかった。

***

二月一日。
受験まであと六日、というとこまで迫っていた。
今は午前授業で家に帰っては勉強漬けの毎日。
春佑と今までの用意会えなくなる悲しみと
勉強漬けの毎日でストレスが溜まり、
私は疲れ切っていた。
その時、一件の通知が来た。
春佑からだ。

『今、外出てこれるか?』

そのメッセージに驚き、自分の部屋の窓から外を見ると、春佑が壁によりかかって立っていた。
私は急いでパーカーを羽織り、外に出た

「春佑っ!どうしてここにいるの?」
「俺はまだだけど桜雪はもうすぐ受験だから無理してんなねえかなって」
「春佑…」
「気分転換に散歩でもいかねぇか?」
「うん!行く」

「どうだ、勉強の方は。捗ってるか?」
「うーん…まあまあかな…」
「あんま無理しすぎんなよ。受験の日に体壊したらたまったもんじゃねぇからな」
「うん。気をつけるよ」

私たちは二人でゆっくり歩いて話をしていたけれど
もう家に戻ってきてしまった。

「もう家着いちゃった…」
「だな」
「今日は誘ってくれてありがとう!とってもいい気分転換になったよ」
「なら良かった」

春佑はとてもにっこり笑った。
そして、思い出したかのような顔をして
ポケットに手を突っ込んでいる。

「桜雪」
「は、はい!」

急に名前を呼ばれた私はびっくりしてしまった。

「これ。俺からのお守り」

そう言って渡してくれたのはお守りと書いてある手作りのお守りだった。

「春佑が作ってくれたの?」
「ああ。手芸は得意だからな」
「春佑が…手芸…」
「なんだよ。悪いか?」
「いや、そう言うことじゃなくて。一生懸命作ってくれてる春佑の姿が思い浮かんで…」

見た目は少し悪いかもしれない。
けれど私の彼氏はとっても優しかった。

***

二月七日。
とうとう受験日が来てしまった。
私はやることをやった。
あとは全力で頑張るだけ。
私は右手に春佑の作ってくれたお守りを握りしめて
受験会場に向かった。


席に座って、受験が始まるまで待っていた。
その時の私の手にはまだお守りが握られている。
私はできる。
そう思ってお守りを握りしめた時、少しお守りが
分厚いことに気が付いた。
そして、そっとお守りを開けてみると
中には一枚の髪が折りたたまれていた。


桜雪へ
桜雪はすげぇ頑張ってて偉いと思う。
自分がやってきたことを思い出せ。
絶対大丈夫。
応援してる。
春佑より


短い文章だったけどそこにはたくさんの思いが込められている事が分かった。
私はもう一度気合いを入れ直して受験を受けた。

***

時刻は午後三時三十分を示している。
やっと受験が終わった。
帰ろうと思って会場を出るとそこには
春佑がたっていた。

「春佑!どうしたの?」
「疲れてる桜雪を迎えにきた」
「ありがとう。春佑」

それからは世間話をして帰った。

「結局、家ま来てもらっちゃった…」
「なんで嫌そうなんだよ」
「いや、めっちゃ嬉しいよ!?でもなんだか毎回送って貰うと申し訳なくて…今日だって用がないのにわざわざ来てくれたんでしょ?」
「俺がしたくてしてる事だからそんな気にすんな」
「……うん。わかった。春佑も受験頑張ってね」
「おう。じゃあな」

そう言って春佑は帰っていった。

***

二月十三日、今日は春佑の受験当日。
今日は生憎の天気だけど頑張って欲しい。
そう思いながら、私は季天田大学の受験会場の外で
春佑を待っていた。

「桜雪!」
「春佑!おつかれ様!」
「ありがとう。でもなんでここにいるんだ?」
「春佑も私の時来てくれたから、行こうと思って。特に予定ないし!」
「そうか…」

春佑はにっこりと笑った。

「じゃあ行くか」

そう言って春佑は左手を私に差し出した。

「手。はぐれるといけねぇから」
「っ!」

私は春佑の驚きの行動で心臓が飛び出そうなほど動いていたけどそれがバレないように手を繋いだ。

***

「今日は春佑の家まで私が送る!」
「いやいい」
「なんでよー」

私は今日は春佑が主役だから、と思い、家まで送ると言ったけれど、来なくていいの一点張り。

「わかった。でも今日は家まで来なくて大丈夫」
「いやでも…」
「大丈夫!今日は早く帰ってゆっくり休んで!」
「わ、わかった。気をつけて帰れよ」
「うん!」

ダメだと言われたので家まで送れなかったが、
今日は送らなくていい、と言って、春佑もそれをわかってくれた。
そして私たちは駅で別れた。

***

今日は受験の合格発表だ。
たまたま春佑と同じ日に合格発表がある。
私はWEBで探して、発表が出るのを待つ。

時計の針が十二時を指した。
ページが更新されて、個人番号がずらっと並べられた。
そこには私の番号もあった。

「あった…良かった…」

あったことをまず両親に伝えてから、
LINEで春佑に報告をすると、直ぐに既読マークがついた。

『おめでと、桜雪。俺も受かった』
『ありがとう!!春佑もおめでとう!』

そう言ってその日は幸せで終わった。

***

受験が終えて、ひと段落したがもうすぐ卒業式。
春佑とお別れが来てしまう。
そう思いながらも卒業式の練習をした。

***

三月二日。卒業式当日になった。
髪の毛はお母さんに両サイド編み込みで
毛先を軽く巻いてもらった。
そして学校に向かおうと家を出た。
家の前の壁には、春佑が立っていた。

「おはよう、桜雪」
「お、おはよう!」
「急に来てごめん。今日が一緒に学校に行けるラストチャンスだと思って来ちまった…」
「全然大丈夫!むしろ待たせてごめん!」
「いや、待ってない」

学校までの道のりは長いはずなのにやけに短く感じた。
寂しかったが、今は全力で今を楽しもう
そう思った。

そして学校につき卒業式が始まった。
けれど、嬉しいはずの卒業式もあまり嬉しくなかった。
やはり、春佑と離れるのが寂しいと思ってしまう。
でも着々と進んでゆき、もうすぐ私の名前が呼ばれる。
晴れ舞台なんだから、笑顔でいなきゃ。そう思って私は頑張って笑顔を作って卒業証書をもらった。

***

卒業式が終わったあと。
みんなは友達と写真を撮ったりしているけれど
私は友達がいないから、写真を撮れなかった。
春佑は多くの女子に囲まれていた。
卒業当日までひとりぼっちか、そんなことを思っていた時。

「桜雪」

聞き覚えのある声が降ってきて、俯いていた顔を上げるとそこには結芽が立っていた。

「今更だけど、一年の時はごめん…謝りたかったけどタイミング分からなくて、謝れなくて…私の勘違いで嫌な思いさせてごめん…!」
「結芽…」

結芽が謝ってくるとは思ってなかったから
正直とてもびっくりした。

「頭を上げて。私は結芽を恨んだりしてない。まぁ許してないけどね。謝ってくれただけで嬉しいよ。ありがとう!」
「桜雪…ほんと優しいね」
「そう?」
「もう一回、友達になってくれる?」
「もちろん!」
「一緒に写真撮ろ!」
「いいね!結芽撮ってくれる?」
「おけ!」