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 学級委員は『体育祭の競技決め』や『文化祭での出し物決め』などイベント毎に定期的に仕事が発生する。委員会も毎月開かれるため、私は誠といることが多かった。男子の中でならダントツだろう。

「なあなあ、クラスで俺たちが付き合っているって噂が流れているらしいぜ」

 ある日の授業後。文化祭の出し物が決まり、スケジュールを2人で立てていると誠が不意にそんなことを口走った。噂が流れているとは言っても、私のところには届いていない。だから私は本人から聞かされて少しばかり胸が高鳴った。

「へー、それで?」
「いや……柊はどう思ってるのかなと思って。俺と恋人って嫌だったりする?」
「どう思うも私はそんなこと知らなかったんだけど」
「まじ?」

 私はジーっと誠を見る。彼は気まずいようなのか視線を私から窓側へとずらした。逃げるとはとんだ意気地なしだ。

「別に私は何とも思わないよ。誠と恋人って言われても嫌だとは思わない。誠は?」
「俺もまったく嫌だとは思わない。むしろ良いとすら思う」

 誠は調子づいたように言葉を足した。意図的なのか、天然なのかは分からないが、ドキドキさせるような物言いだった。胸の高鳴りが先ほどよりも強くなっているのが分かる。なるべく平静を装ってノートにスケジュールを書き込む。

「だからさ、俺たち付き合わないか」

 不意をついた誠の言葉に思わず手が止まる。彼の顔ではなく、ノートに顔を向けていて良かったと思った。きっと頬が赤くなっているに違いない。冷房の効いた教室のはずなのに体が熱くなっている。

 なるべく彼と顔を合わせないようにノートを持ち上げて顔を隠す。誠は顔を左に寄せて私を見ようとするが、腕を右に寄せることで防いでいく。今度は右に寄せて私を見ようとするから、腕を左に寄せて防いだ。そのやりとりが何だかおかしくて気づけば胸の鼓動は治っていた。

「ばか。そう言うのはちゃんとしたシチュエーションでやりなよ。まあ、良いけど」

 ノートを下げて彼の顔を見つめる。私の突然の行動に今度は誠が頬を染めた。
 私は「してやったり」と得意げな表情で誠を見つめた。拙くてぎこちない告白だったけど、陽気な彼とはまた違った様子が見れたのは良かった。

 こうして、私たちは噂ではなく本当の恋人となった。