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夏休みになると現役生を交えた大勢の生徒が予備校へ来ていた。
今まで暗黙のルールのように一席ずつ開けて座っていた席は、そのルールを破らざる終えないかの如く隙間なく埋め尽くされていた。中には、席を取ることができず、仕方なく自習室を使って勉強する子もいた。
開校と同時に来ていた私は意気揚々とお気に入りの1番端の席で受講をしていた。両方を人で挟まれることがないので、勉強がしやすいのだ。夏になった頃には一通り全ての受講を終え、2周目に入っていた。最初に問題を解き、分からなかったところだけを再生して再受講する。
12時を告げるチャイムが流れると、受講室に漂っていた緊張感が途切れ、ほんわかとした空気が流れる。私は予めコンビニで買っておいたサンドウィッチとカフェオレを手に取り、受講室を出ると休憩室に足を運んだ。
3つの椅子に囲まれた丸いテーブルが数セット乱雑に並べられており、その中の一つを使用する。勉強に集中するためにオフにしていたスマホの電源を入れる。画面が現れると同時にオフにしていた間に届いた通知が一気に流れる。
その中に、高校時代のグループに送られてきたメッセージがあった。
どうやら県外に出ていた同級生が帰郷したようで、遊んでくれる人を募集する旨のメッセージを送っていた。
久々に帰ってきて懐かしい気持ちになったのはわかるが、キャンパスライフを楽しんでいる人だけじゃないことに気を遣って欲しい限りだ。私はメッセージに応答することなく再びスマホの電源を落とした。
「かーれん、横に座っていい?」
スマホをポケットにしまおうとすると横から声をかけられる。見ると誠の姿があった。彼は私の返事を待たずして空いてる席に座る。休憩室の電子レンジで温めた弁当を置き、両手を合わせて「いただきます」と言う。
「まだ承諾してないんだけど?」
「気にしない、気にしない」
「はぁ〜、それで何の用?」
「特にこれといって用はないよ。久々に2人でいるのもアリかと思ってね」
「ついこの間、2人で話したでしょ?」
「それはチューターと生徒の関係、これは高校時代の俺たちの関係さ」
「……好きにすれば」
私としては気の乗らない限りだが、それを言っても誠は聞いてくれないだろう。とっととランチを食べて自分の席に戻ろう。私は目の前に置かれたサンドウィッチの袋を開ける。
「そういえば高校時代のクラスチャットにメッセージ飛んで来てたの知ってる?」
「さっき見た。本当に嫌になっちゃうよね。人が頑張ってるっていうのに、あんな大学生を見せつけるかのような文章送って。身内だけでやれっての」
「はははっ。確かに香恋の言うとおりかもしれないね。俺もあれはないなって思った」
自分を棚にあげてよく言ったものだ。私の志望校に受かったやつが目の前にいる状況が1番ないなと思ってしまう。おこがましいため声に出すことはしないが。
「誠はどうなのよ。夏休みは大学の友達とどっか行ったりしないの?」
「俺は特に何もないな。夏休みはただただバイトしてお金を貯めようかと思って」
「そっ。何か欲しいものでもあるの?」
「うーん、内緒。合格したら教えてあげる」
「うわ……面倒くせぇ」
「はははっ。香恋は合格したら何かしたいことある?」
「そんなこと知らないわよ。今はただただ受かるために勉強するだけ」
「真面目だね。そうだ。今のうちにこれあげておくよ」
誠はそう言うと自分のバッグから一冊の参考書を取り出した。現役時代に彼が使っていた参考書だ。表面が綺麗なため新しく買ったのだと思われる。
「こんなんにお金使っていいの?」
「こんなんだからだよ。俺だって香恋には合格して欲しいと思っているんだ。チューターとして、同じクラスだったものとしてね」
「ふーん、ありがとう」
「というわけで、俺は先に戻るね。この後、難関大の入試問題の解説をしないといけないから一度解いておこうと思って」
「はいはい。とっとと行きな」
あしらうように手を前後に振る。誠は私にハニカムとゴミ箱に弁当容器を入れて、休憩室を後にする。取り残された私は彼がプレゼントしてくれた参考書を見ていた。高校時代に彼が使っていたため逆張りして使わなかった参考書。
これで勉強すれば、私も誠と一緒になれるだろうか。
こう言うところがあるから、私は彼を嫌いになろうと思っても、嫌いになれない。
サンドウィッチを食べ終え、同じゴミ箱に入れると私もまた参考書を胸に抱えて休憩室を去った。
夏休みになると現役生を交えた大勢の生徒が予備校へ来ていた。
今まで暗黙のルールのように一席ずつ開けて座っていた席は、そのルールを破らざる終えないかの如く隙間なく埋め尽くされていた。中には、席を取ることができず、仕方なく自習室を使って勉強する子もいた。
開校と同時に来ていた私は意気揚々とお気に入りの1番端の席で受講をしていた。両方を人で挟まれることがないので、勉強がしやすいのだ。夏になった頃には一通り全ての受講を終え、2周目に入っていた。最初に問題を解き、分からなかったところだけを再生して再受講する。
12時を告げるチャイムが流れると、受講室に漂っていた緊張感が途切れ、ほんわかとした空気が流れる。私は予めコンビニで買っておいたサンドウィッチとカフェオレを手に取り、受講室を出ると休憩室に足を運んだ。
3つの椅子に囲まれた丸いテーブルが数セット乱雑に並べられており、その中の一つを使用する。勉強に集中するためにオフにしていたスマホの電源を入れる。画面が現れると同時にオフにしていた間に届いた通知が一気に流れる。
その中に、高校時代のグループに送られてきたメッセージがあった。
どうやら県外に出ていた同級生が帰郷したようで、遊んでくれる人を募集する旨のメッセージを送っていた。
久々に帰ってきて懐かしい気持ちになったのはわかるが、キャンパスライフを楽しんでいる人だけじゃないことに気を遣って欲しい限りだ。私はメッセージに応答することなく再びスマホの電源を落とした。
「かーれん、横に座っていい?」
スマホをポケットにしまおうとすると横から声をかけられる。見ると誠の姿があった。彼は私の返事を待たずして空いてる席に座る。休憩室の電子レンジで温めた弁当を置き、両手を合わせて「いただきます」と言う。
「まだ承諾してないんだけど?」
「気にしない、気にしない」
「はぁ〜、それで何の用?」
「特にこれといって用はないよ。久々に2人でいるのもアリかと思ってね」
「ついこの間、2人で話したでしょ?」
「それはチューターと生徒の関係、これは高校時代の俺たちの関係さ」
「……好きにすれば」
私としては気の乗らない限りだが、それを言っても誠は聞いてくれないだろう。とっととランチを食べて自分の席に戻ろう。私は目の前に置かれたサンドウィッチの袋を開ける。
「そういえば高校時代のクラスチャットにメッセージ飛んで来てたの知ってる?」
「さっき見た。本当に嫌になっちゃうよね。人が頑張ってるっていうのに、あんな大学生を見せつけるかのような文章送って。身内だけでやれっての」
「はははっ。確かに香恋の言うとおりかもしれないね。俺もあれはないなって思った」
自分を棚にあげてよく言ったものだ。私の志望校に受かったやつが目の前にいる状況が1番ないなと思ってしまう。おこがましいため声に出すことはしないが。
「誠はどうなのよ。夏休みは大学の友達とどっか行ったりしないの?」
「俺は特に何もないな。夏休みはただただバイトしてお金を貯めようかと思って」
「そっ。何か欲しいものでもあるの?」
「うーん、内緒。合格したら教えてあげる」
「うわ……面倒くせぇ」
「はははっ。香恋は合格したら何かしたいことある?」
「そんなこと知らないわよ。今はただただ受かるために勉強するだけ」
「真面目だね。そうだ。今のうちにこれあげておくよ」
誠はそう言うと自分のバッグから一冊の参考書を取り出した。現役時代に彼が使っていた参考書だ。表面が綺麗なため新しく買ったのだと思われる。
「こんなんにお金使っていいの?」
「こんなんだからだよ。俺だって香恋には合格して欲しいと思っているんだ。チューターとして、同じクラスだったものとしてね」
「ふーん、ありがとう」
「というわけで、俺は先に戻るね。この後、難関大の入試問題の解説をしないといけないから一度解いておこうと思って」
「はいはい。とっとと行きな」
あしらうように手を前後に振る。誠は私にハニカムとゴミ箱に弁当容器を入れて、休憩室を後にする。取り残された私は彼がプレゼントしてくれた参考書を見ていた。高校時代に彼が使っていたため逆張りして使わなかった参考書。
これで勉強すれば、私も誠と一緒になれるだろうか。
こう言うところがあるから、私は彼を嫌いになろうと思っても、嫌いになれない。
サンドウィッチを食べ終え、同じゴミ箱に入れると私もまた参考書を胸に抱えて休憩室を去った。