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 私の強い決意はすぐに打ち破られることとなった。

「悠凪くん、ちょっと来てもらっていいかな?」

 予備校に入った私は初日に校長と軽い面談をした。面談を終えたところで、彼から担当するチューターを紹介してもらうこととなったのだが。

「げっ……」

 苗字からイヤな予感がしたが、私の予想どおり校長に呼ばれたのは誠だった。卒業式の日に会ったとき同様、燦々とした笑顔を向けて私のところへとやってくる。

「柊くんの目指す大学、それも同じ学部に通う学生がいてね。彼に担当してもらった方が色々と教えてもらえていいだろうと思ってね。悠凪くん、挨拶を」
「この度、柊さんの担当をさせていただくことになりました悠凪 誠です。よろしく」
「そんなかしこまった言葉遣いしなくていいから」
「へへへっ」

 誠は照れるように頭を掻く。校長は私たち2人のやりとりを見ながら私の個人情報が書かれた資料を手に取る。

「もしかして、2人とも同じ高校だったかな?」
「はい。香恋とは2、3年の時に同じクラスだったんです」
「なるほど。なら心配なさそうだね。悠凪くん、講義の仕方や受験に向けてのスケジュールについて説明をお願いしてもいいかな?」
「了解でーす」

 校長は「これからよろしくね」と一言置いて足早に立ち去っていった。たくさんの生徒を抱えているためか非常に忙しそうだ。

「まさか香恋がこの予備校に来るとはね」
「両親に塾から予備校に変えたらって提案を受けたの。私も場所を変えたいと思って否定しなかったから流れに任せて予備校に移ったの」
「確かに、香恋の場合は指導形式よりも講義形式の方が合うもんね。授業中も先生の話を聞かず、黙々と自習している感じだったし」
「うん。それにしても、まさか誠がチューターとは。給料がいいから選んだでしょ」
「バレた? でもまあ、勉強嫌いじゃないから性に合ってるんだよね。それに香恋の担当を任されたのがすごく嬉しい。よしっ。俺が絶対に香恋を合格に導いてやるからな」
「オンデマンド授業だから、あんたに出番はないわよ。せいぜい躓いたところを聞くくらい」

 私としては誠が担当と聞かされて嬉しさと悲しさは五分五分ってところだ。
 校長の言ったとおり、自分の目指す大学の学部生、それもまだ入学して間もないというのであれば、彼を再現すれば合格する可能性は高くなる。

 ただ、相手が交流の深い親友であるのが傷だ。
 誠のことだ。きっと楽しいキャンパスライフを私に聞かせてくれるだろう。私は彼の話を聞きながら厳しい受験戦争をしなければいけない。それは苦痛以外の何者でもない。

 でも、今更引き返すことはできない。
 デメリットしかないわけではないのだ。自分なりに誠がいるメリットを上手く活かせるように接すれば良いだけの話。

「じゃあ早速、今後のスケジュールについて話そうか」
「はい、よろしくお願いします」
「そんなかしこまった言葉遣いしなくていいのに。これじゃあ、さっきと逆だよ」

 こうして私の第2の受験勉強がスタートした。