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 入場前は東の空にあった太陽は、今では西の地平線と交わりつつある。
 まだ17時前だと言うのに、暗くなり始めていく空を見て、冬なのだなと改めて思わされた。ハーッと息を吐くとあぶれた水分が白くなって頭上を駆け上る。

 その様子をしみじみと眺めながら門へと足を運んでいった。
 私の周りにいる生徒たちの様子は多種多様だ。はじめに来た時と同様、何食わぬ顔で音楽を聴いている生徒。同じ高校の生徒と仲良く話しながら答え合わせをする生徒。結果が良かったのか浮かれた表情をする生徒。結果が悪かったのか今にも泣きそうな表情をする生徒。

 私は彼らの様子を冷静に眺めながら、流れに沿うように歩いていく。
 つくづく思うが、大学というのはとてつもないほど広い。門に入ったとしても自分の指定された席まで行くのに数十分もかかる。

 流れる人の雑音に耳を傾けていると最初に入ってきた門が見えた。
 前には何十、何百の生徒がいる。まるで祭りの後のようだった。受験というのも一種の祭りのようなものか。

 門を抜けて歩いてすぐ、見知った顔を発見した。
 誠だ。彼は私が門から入った時と同じように、その場所に佇んでいた。もしかすると、私が教室で受験している間、ずっとここで待っていたのかもしれない。そんな錯覚を覚える。

 私が見つけたのとほぼ同時に、誠もまた私へと顔を向ける。
 彼は胸のあたりで小さく手を振った。私は彼の元へと淡々と歩いていく。
 少しずつ2人の距離が近づく。依然として誠は佇んでいたので、主に私が距離を近づけている。やがて一定の距離まで詰めると私は誠と対峙した。

「どうだった?」

 誠は優しい笑みで聞いてくる。
 その笑みは結果が良かろうが悪かろうが受け入れてくれる包容力があった。
 だから私は誠の笑みに向けて力強く腕を前へと出した。結果が悪かったなんてことがないように人差し指と中指を立て、ピースして見せる。

「力の限り尽くした。後悔はない」

 私の動作を見て、誠は笑みを崩さぬまま笑い始める。

「お疲れ様。なら、心配はいらないかな。これから焼肉食べに行く?」

 誠の誘いに私は無言でうなずいた。
 結果はどうあれ、これにて私の受験は終わったのだ。